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神殺しのダイス・マキア ~最弱ギャンブラー、命をチップに傲慢な理を物理で粉砕する~  作者: kiro


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虚無の重圧と、極東の狂乱(オールイン・クインテット)



南米の赤き荒野が、音もなく消滅していく。


原初の虚無・アペイロン。顔のない巨影がゆっくりと腕を振るうだけで、大気も、岩盤も、キャンバスの絵の具を刃物で削り落とすように「白紙ゼロ」へと還されていく。


「……ハァッ!!」


迫り来る無の波濤へ、赤い髪を逆立てた紅刃が躍り出た。


大剣に刻まれた神殺しの理——サイコロの【6の目】が赤熱し、空間の余白すら焼き尽くす白金プラチナの炎が爆発する。


「ぐ、うぅぅぅぅッ!! 重てぇ……ッ!」


アペイロンの放つ絶対的な虚無と紅刃の炎が激突し、南米の空間が悲鳴を上げて軋む。だが、神と人との絶対値の差に、紅刃の膝が震え、白金の炎がジリジリと押し戻されていく。


その横を、三つの影が疾風のようにすり抜けた。


「——紅刃殿だけに、すばる様の露払いはさせません。極東一刀流、絶技ッ!!」


雅の漆黒の刃が、無の波濤の側面を斬り裂いて圧力を逃す。


続いて翠蓮が、黄金に輝く『武神の闘気』を極限まで練り上げ、折れかけた槍の刺突で淘汰の余波を物理的に弾き返した。


「ふふっ。こんな死地で特等席(すばる君の隣)を譲るほど、お姉さんはお人好しじゃありませんよ!」


「ちょっと翠蓮さん! 抜け駆けは許さないわよ! アイギス、最大展開ッ!!」


セリアが白銀の盾を大地に突き立て、俺たちを包み込む防壁を張る。


(……無茶しやがって。だが)


炭化した腕を引きずる俺の目に、彼女たちの武具の表面でキラキラと輝く『蒼い粒子』が映った。


南米の風に舞う、レヴィの遺したダイヤモンドダスト。


氷王がその命と引き換えに展開した『神殺しの理』の残滓が、六王に満たない彼女たちの魂を保護し、その一撃を一時的に神の領域へと引き上げていたのだ。


死してなお極東の特等席を護り抜く、不器用な王の遺産。


彼女たちの背中を見て、俺の炭化した右腕の激痛が麻痺したように消え去っていく。


『——無駄な足掻きだ。如何なる感情も、熱も、等しく白紙へと還るのが星の摂理』


アペイロンの星の海のような光背が冷たく瞬き、巨影が両手を天に掲げた。


頭上の空が完全に陥没し、巨大なブラックホールのような漆黒の穴が顕現する。あれが落ちてくれば、レヴィの加護があろうと南米大陸ごとすべてが無に還る。


俺は砕けた岩盤に膝をつき、左手のポケットに残された二枚のチップを強く握りしめた。


第2の執行神から奪った、空間を切り取る【青のチップ】。


第3の執行神から奪った、相手の権能を消去する【赤のチップ】。


「……おい、お前ら!! 三秒だけだ。俺が神様の懐に潜り込む、三秒間だけの『道』を作れ!!」


俺の号令に、極東の女たちの瞳に狂気と歓喜が走った。


「——承知いたしました! 私の魂ごと、燃え尽きるまで!!」


雅が全身の血を噴き出しながら刀を振るい、頭上から迫る漆黒の穴の一角に亀裂を入れる。


「行くわよ、紅刃ちゃん、セリアちゃん!!」


「言われなくても! アタシの炎に、全部ベットしなァッ!!」


翠蓮の闘気とセリアの魔力、そしてレヴィの蒼い氷の残滓が、紅刃の大剣へと一極集中で注ぎ込まれる。


「……オラァァァァァァッ!!!」


紅刃の咆哮と共に放たれた極太の炎の柱が、アペイロンの絶対的な無の防壁を強引に焼き切り、ほんの三秒間だけの、極細のトンネルをこじ開けた。


「……上出来だ、俺の最高の家族ヒロインども!!」


俺は大地を蹴り、そのトンネルへと飛び込んだ。


周囲の空間が削り取られ、左頬の肉が風圧で抉れるが、止まらない。アペイロンの巨大な顔のない頭部が眼前に迫る。


『——愚かな。我の内に触れれば、貴様の存在など一瞬で塵となる』


「こちとらルール無用のイカサマ師だ」


俺はアペイロンの眼前に到達した瞬間、左手に握りしめていた【青のチップ】と【赤のチップ】を、二枚同時に顔面へ向けて弾き飛ばした。


カチンッ……!!


『空間の断絶』と『権能の消去』。


星を削り取る二つの理が、万象を無へ還す「絶対の虚無」の表面で激突した。


瞬間、星の摂理に致命的な『矛盾パラドックス』が生じる。


「無」を「消去」しようとする赤の権能。

「空白」を「断絶」しようとする青の権能。


相反する神の理を同時に叩き込まれたアペイロンの虚無が、己自身の概念と喰い合い、激しく乱れ始めた。


『な、に……!? 我が理が、相反し……!?』


絶対的な冷徹さを保っていたアペイロンの声が、初めて大きく歪む。


「……テメェの配った理が絡み合って、見事に盤面テーブルが破綻しやがったな」


二つのチップが引き起こした概念の暴走により、アペイロンの絶対的な防壁が、ガラスのようにパリンッと音を立てて剥がれ落ちた。


「……これで、テメェもただのマトだ!!」


俺は、崩壊しかけている炭化した右腕の奥底に、俺の魂の『最後の一滴』を絞り込んだ。


「レヴィが命を懸けて繋いだこのテーブル……。テメェの理ごと、スッカラカンに破産させてやる!!」


俺の右拳から、寿命そのものを燃やし尽くした一筋の『漆黒の炎』が限界突破で吹き上がる。


「おおおおおおおオオオォォォッ!!!」


無防備になったアペイロンの巨大な中枢へ向けて。極東の最悪のイカサマ師が放った命の全賭け(オールイン)が、星を砕く勢いで真っ直ぐに叩き込まれた。


ズガァァァァァァァァァァァァァンッ……!!!


南米の空に、神話の終わりを告げるような、途方もない閃光と轟音が弾け飛ぶのだった。

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