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神殺しのダイス・マキア ~最弱ギャンブラー、命をチップに傲慢な理を物理で粉砕する~  作者: kiro


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赤き砂漠の掃討と、侍の全賭け(レイズ・アップ)



「……んぅ……統ぁ……ぜんぶ、燃やしてやるからな……」


「はいはい。よく頑張ったな、特攻隊長」


アフリカ大陸へ向けて飛ぶ輸送機の機内。


新たな権能【6の目】を魂に刻み込んだ反動で、深い眠りに落ちている紅刃が、俺の膝を枕にしてスヤスヤと寝息を立てていた。彼女の傍らに置かれた大剣の刀身には、赤熱する六つのドットが静かに脈打っている。


「……すばる様。未婚の男女の密着は武士道に反します。さあ、私の膝へ……」


「あら雅ちゃん。私のような大人の柔らかい膝のほうが、すばる君も休まるに決まっていますよ?」


「ちょっと! 統の隣は、第一の盾である私の指定席なんだから!」


雅、翠蓮、セリアがジリジリと距離を詰めてくる。


俺は三人の殺気ラブコメを片手で制しつつ、ポケットの中で純白のチップ——【白き配当レイズ・アップ】を弄った。


(……この白チップによる魔力譲渡は、もう紅刃や『レヴィ』には通用しねえ)


すでに自らの魂に『6の権能』という神の理を刻み込んでいる完成されたプレイヤーたち。外部からの借り物のチップ(バフ)は、彼ら自身の強烈な理に弾かれてしまうのだ。


この手札を切れる相手は限られている。だが、俺の家族クランはどいつも最高にイカれた手札ばかりだ。


『——アフリカ大陸上空に到達。……【第3の執行者】の顕現を確認しました』


イヴの無機質な報告を合図に、極東のバケモノたちの表情から甘さが消え失せた。


「……行くぞ。テーブルの時間だ」



ハッチから灼熱のアフリカ・サバンナへ降り立った直後。


俺たちは、今までとは次元の違う『絶望』を肌で理解することになった。


「……オラァッ!!」


剣王レオンが踏み込み、クレイモアを叩きつける。


だが、黄金の砂と枯れた大樹が融合したような、山脈ほどの巨大な『多腕の異形』——第3の執行者は、その一撃を避けることすらしない。

無数の腕の一つが、ハエを払うように無造作に振るわれる。


「ガハッ……!?」


クレイモアの刀身の半分が音もなく『無へ還り』、余波を受けたレオンが血を吐いて赤茶けた大地をバウンドした。


「レオンッ! ……この野郎!!」


獣王ガルドが剛腕を振るって特攻するが、執行者の別の腕がスッと伸びる。ガルドの獣の直感が悲鳴を上げ、間一髪で身を捩るが、左肩の肉が空間ごと綺麗に抉り取られていた。


「チッ……凍てつけ、バケモノ!」


レヴィが己の絶対零度の権能を全開にして氷河を放つ。だが、執行者が歩みを進めるだけで、星の理ごと氷がガラスのように砕け散っていく。


「……クソッ、速すぎる! 防御も反撃も届かねえ!」


シベリアや北米の個体とは、根本的に出力が違う。


雅の斬撃も、セリアの盾の障壁も、紙屑のように無へ還されていく。俺も致命傷を避けるのが精一杯で、全身から夥しい血を流し、荒い息を吐いていた。


圧倒的な蹂躙。神の理を盗んだ咎人を狩るための純粋な天敵の前に、極東の狂人たちは為す術もなく追い詰められていた。


「……ハァ、ハァ……ッ」


俺がガルドを庇い、体勢を崩したその瞬間だった。


赤茶けた砂漠の奥。蜃気楼のように揺れる灰色の霧の中から、ドス黒い『死の呪い』が俺の背後(死角)へと殺到した。


「——隙を見せたな、極東の狂人!!」


霧を裂いて現れたのは、骸骨の軍馬に跨る【死王ゼイン】と、その横に立つ【幻王】だった。


執行者に怯え、霧に隠れて息を潜めていた奴らは、俺たち極東が執行者との死闘でボロボロになり、決定的な隙を見せる『この瞬間』だけを、ハイエナのように待っていたのだ。


「死ね!!」


死王が放った、必殺の呪槍。幻王が放つ、精神を破壊する幻霧。


回避不能のタイミング。二柱の王の最高火力が、満身創痍の俺の背中に突き刺さる——。

——はずだった。



ズォォォォォォォンッ……!!!


俺の背後に迫っていた死王の槍と幻王の霧が、俺に届く数メートル手前で、唐突に『消滅』した。


「……え?」

「な、に……?」


死王と幻王が、間の抜けた声を漏らす。


俺が振り返ると、第3の執行者の顔——巨大なブラックホールのような空洞が、ギョロリと『死王たちの方』を向いていた。


神殺しを優先して消去する星の律。


執行者にとって、瀕死の俺よりも、突如として背後で巨大な魔力を放出した『二柱の王』のほうが、遥かに目立つ「極上の標的」だったのだ。


「ま、待て! 我々は——」


死王が何かを叫ぼうとした。だが、執行者はその言葉すら聞く耳を持たない。


山脈のような巨大な腕が、無造作に、ただのゴミを払うように振り下ろされた。


「あ——」


抵抗すら許されなかった。


死王ゼインの上半身が。幻王の全身が。彼らが率いていた数万の不死の軍勢が。


一瞬の閃光の後、音もなく、一片の血肉も残さずに、空間ごと『無へ還った』。


「…………」


静寂。


そのあまりにも呆気ない、虫けらのような最期に、俺は背筋に氷をねじ込まれたような悪寒を覚えた。


「……見ただろ、お前ら」


俺は、死王たちが消滅した空白の空間から目を逸らし、再びこちらへ向き直ろうとしている執行者を睨みつけた。


「神様だろうが王様だろうが関係ねえ。アレの前じゃ、命の価値は全部『ゼロ』だ」


俺は血に染まった手で、ポケットから純白のチップ——【白き配当レイズ・アップ】を抜き出した。


レヴィには使えない。俺がこの重すぎる魔力チップを託せるのは、俺の背中を誰よりも長く守り続けてきた、あの不器用な剣士だけだ。


「……雅」


俺が呼ぶと、漆黒のスーツをボロボロにしながらも、彼女は刀を正眼に構えたまま静かに頷いた。


「はい、すばる様」


「このチップの重さ、テメェの細腕で受け止めきれるか?」


「愚問です。……私の魂も、剣も、とうの昔にすばる様のテーブルに置かれています」


俺は、死王すら一瞬で塵に変えた絶望的なバケモノを見据えながら、極東の侍の胸へ向けて、その白きチップを全力で弾き飛ばした。


カチンッ……!!


「……全額ベットだ、雅。テメェの刃で、あのバケモノの理ごと真っ二つに叩き斬れ!!」


白きチップが雅の胸に吸い込まれた瞬間。


彼女の全身から、俺の神殺しの魔力と、彼女自身の極限まで研ぎ澄まされた剣気が完全に融合した、途方もない『漆黒と白金のオーラ』が爆発的に吹き上がった。


「シィィィィィィィィィッ!!!」


雅の大きく澄んだ瞳が、神の領域の魔力を得て、恐ろしいほどの剣閃を放つ。


執行者の巨大な腕が、空間ごと無へ還そうと雅へ向かって振り下ろされる。


だが、神の力を上乗せされた極東の侍は、一歩も退かずに鯉口を鳴らした。


「——極東一刀流、絶技」


雅が抜刀した瞬間。


世界から音が消え、執行者の「無へ還す理」そのものが、物理的に『両断』されて左右に分かたれた。


「オッサン、レヴィ! 雅がこじ開けた道だ、死に物狂いでぶち込めェ!!」


死王と幻王というイレギュラーが一瞬で消え去った、純度100%の絶望の盤面。


赤き砂漠を舞台に、白チップで限界突破した雅の刃を起点とする、極東の狂人たちと第3の執行者の『血みどろの削り合い』が幕を開けるのだった。

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