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 タラソは命を助けてもらったが、お礼は金銭を渡して片付けるつもりだった。しかしみすぼらしい服装だが、その一挙一動が高位の貴族のものと思われる少女に興味が湧き城内に案内する気になった。

 顔こそ黒いが継ぎ接ぎだらけの服装さえファッションではないかと勘違いさせる品性があった。



 私はいつものように荷車に乗って鼻歌を口ずさむ。歌い終わるとアダンが馬車から身を乗り出して拍手する。鼻歌に拍手されるのって恥ずかしい。

 野菜を積んだ荷車に乗って鼻歌を口ずさむ私をお城の人は珍しそうに見ている。私はこれまで似たような目で見られて育ったから平気だ。


 荷車の野菜は袋に入れてあるから外部からは見えないが雰囲気で野菜類だとわかってしまう。(くわ)も一緒に積んでいるからね。


 荷車は倉庫に入れ、私とヨハンはそれぞれ別々の部屋に案内された。

ヨハンと住んでいた馬小屋を改装した一棟よりも広い。


 執事のセドリックは私達が傷つかないような言い回しで、『旅の疲れが取れるお風呂を準備しています』と、私とヨハンにお風呂に入るように言ってくれた。お風呂は、大風呂と部屋の風呂があるので好きな方に入れる。


 ヨハンは大風呂を選択した。部屋の風呂を選択するとメイドが体を洗ってくれますよ言われ『自分で洗います』ということになり大風呂にした。ヨハンは私とさえ一緒には入らないから女の人に洗われるなど無理だ。


 私は髪を束ねていたが、腰まである長い髪を洗いたかったので部屋の風呂に入ることにした。


 朝早く起きて自作農園の野菜を全部荷車に積み、そのまま出かけたから着替えをしていない。芋掘りは楽しかったのだけど一度に全部掘ったから疲れるし、汗は出るし、お風呂に入ってから旅に出たかったのだけど、国王がすぐに出るように命令したから汚れたままだった。


セドリック様は気を使い私を風呂に案内した。きっと臭ったのだろう。


 忘れていたが、焦げ茶色の日焼け止めを塗ったままだった。少し恥ずかしい。後ろで束ねていた髪は土埃で白くなっていた。脱いだ服は継ぎ接ぎがある。よくこんな恰好でこの城に入れたものだと関心しつつ久しぶりの風呂を満喫する。


 浅めの湯船の先は頭を乗せるようになっていた。メイドが髪を洗うため束ねていた紐を解きお湯を掛ける『まあ~。綺麗な金髪ですね。これほど綺麗な髪は見たことありませんわ』と話した。規則正しい百姓生活と椿油を使っていたから髪も健康だった。


 目をつぶっていると顔も洗ってもらえた。自分で洗うのと違い丁寧に日焼け止めを落としてくれた。


 あれ!メイドさん手が止まってますよ。目を開けるとメイドは固まっていた。


 なぜかメイドさんの話し方がますます丁寧になった。


 風呂から上がると下着は用意してあった。体を洗ってくれたメイドが下着を着せてくれる。下着のまま脱衣所からでると、部屋で待機していたメイドが口を開けたまま目をまるくしていた。


 何を驚いているのだろう?髪かな?汚かったからね。


 メイドはいまだ直立したままだ。

「あの~服をいただけますか?」


「あ、あ、はい。申し訳ありません。私たちがお着替えをさせていただきます」


 用意されていた白いドレスに着替え、化粧をし、母の形見の髪飾りを付けてもらいセドリック様のところ行くと、

 セドリック様はしばらく黙ったまま私をじっと見ていた。


「こ、ここ、これはビックリしましたーーーーー!!」


 と驚きつつもにこやかに『アダン様は良い方に出会われた』と呟いた。


それから既に準備のできていたヨハンとともにタラソ様の待つ部屋に案内された。


 セドリック様がドアを開け、

「ミリア様をご案内しました」

 と部屋で待つ者たちに告げた。


 私の正面にはタラソ様とその横には夫人らしき女性とアダンがいた。貴族たちも縦列をなしていた。


「セドリック、その女性は誰だ!!それにミリア様はどこだ!?」

「正面にいらっしゃる方ですよ」

「なにーーーーー!!」


 また驚いている。私の顔変かなあ?確かに芋ねえちゃんだけどね。


 アダンは固まったまま私をじっと見ているし、縦列している家臣達も目を見開いている。


私ここから逃げたいわ。


 タラソ様がやっと話し出した。

「失礼しました。このたびは私たちを助けていただきありがとうございました。改めてご紹介します。ここにいるのは妻のアデーレと息子のアダンです」


 私はドレスの両端をもち上げ貴族の挨拶をした。


「ところで、あなたの正式名をまだ聞いていませんでした。教えていただけますか?」


 タラソ様が柔らかい顔で尋ねてきた。


「はい、私はミリア・オッカネといいます。ですがもうオッカネではありませんからミリアでいいですよ」


「もしかしてオッカネ王国の方ですか?」


「はい、オッカネ王国国王は叔父です。シロイナ王国のドバン伯爵の長男ダムラに嫁いだのですが、いらないといわれてしまい、ヨハンの実家にお世話になるつもりでした」


「それはお気の毒です。では我国で過ごされませんか?」

「え!いいのですか?」

「ええ、ぜひともお願いしたい。それにアダンが先程からあなたばかりを見ている」

「ヨハンも一緒だったらいいですが」

「ヨハン殿のように強い方は是非ともお願いしたい」

「だったらお願いします」


「アダンよかったな。家柄も問題ない」

「父上……はい(もじもじしている)」


「ところで、タラソ様は何者ですか?」

「そうでしたね。申し遅れました。このギザジュウ王国の国王をしておりますタラソ・ギザジュウと申します」

「え、そうなのですか。入国審査官の態度で偉い方だとは思っていました。でもなぜ国王がわざわざ少数で出国されたのですか?」

「実はシロイナ王国との約定で私が少数の供と行くことが条件だったのです。罠かもしれないとも考えましたが国民が困窮していますからそのようなことは言っておれませんでした」


「よろしければ何の取引が教えていただけますか?」

「あなたには助けていただいたので話しましょう。じゃがいもの種芋と塩の取引です。塩はついでに売れ残りの在庫品を買わされたものです」


「この国にはじゃがいもの種芋がないのですか」

「いいえ、我国の主食はじゃがいもですが、そのじゃがいもが病気で生産が極端に減ったものですから健康なじゃがいもの種芋をシロイナ王国に求めたのです」


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