9 事故だった
シャルちゃんはすくすくと育っています。でも、シャルちゃんの1歳の誕生日とあたしの4歳の誕生日がひとまとめに1回で済まされるたはなんだか釈然としなかったんだよ、だって美味しいものは何回でも食べたいじゃないですか。
案の定今年も、シャルちゃんの2歳とあたしの5歳の誕生日はひとまとめでした。子供が二人になったから、教育費がかかるものね。(まだ学校行ってないけど)な、泣かないもん、そんな事くらいじゃ。お祝いして貰ったんだから良いんだ。あたしもちゃんと原っぱでお花を集めてきて花束にしてシャルちゃんにあげたのよ。
妹がこんなに可愛いものだなんて、想像もしていなかったわ。ねーさ、ねーさ(まだ、お姉さまって言えないのよ)って、纏わりついてくるのは、少しうるさいって気もするんだけど、許しちゃう。
プラチナブロンドっていうのかしら、金色というより白いさらさらの髪、目もくりっと大きくって、きっとかあさまの血統なのね。将来は間違いなく美少女。悪い虫が付きそうだったら、あたしが断固退治してあげるからねぇ。
あたしも少し前にとうさまに街に連れて行ってもらった時に、初めて鏡で自分の姿を見たの。いつもかあさまに揃えるだけ切ってもらっている金色の髪、普段は紐で縛ってるんだけど解いて見たら背中で広がって、まるで少女マンガの主人公みたいな。
なにより、驚いたのは目。右の瞳の色が青で左の瞳の色が緑。色が違うのよ。オッドアイ、虹彩異色症っていうのらしいけど、これは印象に残っちゃうわ。鏡の中で見た自分の顔、忘れられないもの。お家には鏡なんて高級品なかったし、かあさまもとうさまもイリアさんも教えてくれなかったしね。きっと、他の人と違うんだとわかったら気にすると思ったんだろうなあ。
あたしの誕生日のプレゼントで一番嬉しかったのは、街に連れていって貰った事ね。街の中を歩きながらとうさまを質問攻めにしちゃったよ。いろんなお店にも連れて行ってもらったし、お金の事も教えてもらった。
鉄貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨。もとの世界に例えるなら鉄貨が十円、銅貨が百円、小銀貨が千円、銀貨が1万円、小金貨十万、金貨百万位の価値みたい。鏡はなんと小さいのでも銀貨5枚ですって。いや、女の子なら絶対欲しいよね、おこづかい貯めたらいつかは買えるかしら。
魔石のお店でコンロの魔石を買って帰ったよ。うちだと一月弱で切れるみたい。一つ小銀貨5枚だって、光熱費だからねぇ。必要経費だから仕方ないけど、高いのね。
とうさまのお給料?は月に小金貨一枚らしい。ちなみに学校って所に行くには授業料が毎月銀貨5枚かかるんだとか。う、うちじゃ無理じゃない、そんなに高いんじゃ。ちょっとがっかりです。
あたしの作った魔石って売れるのかなあ、それを学資にして学校に行くとか。奨学金とかも在ったら嬉しいなあ。
とうさまと手を繋いで、村へと歩いて帰りましたよ。やっぱ遠い、疲れた。とうさまが毎日帰ってこないのも無理はないわ、とうさまえらいと、改めて思いましたね。
シャルちゃんが居るので、探険はあまり出来なくなった。だって後を追ってついてくるんだもの。だからシャルちゃんがお昼寝した隙を見計らって、すかさず出かけるのよ。帰って来たあたしを見つけると、ねーさ、いなかた、さびしいとかってふくれるけどね。あたしにも少しくらい自由を下さいな。
ある日、ケイト先生がたまたま用事で近くに来たって、家に来てくれた。かあさま、イリアさん達大人が楽しそうにお話している傍で、シャルちゃんがお昼寝モードに入った隙に、あたしはエスケープ。なかなか行く機会の無かった泉へと行って来たの。シャルちゃんを連れて行く訳にはいかないからね。
お家に帰ってみると、なんだか気配がおかしい気がした。どうしたんだろうと、慌てて家の中へ。リビングで屈み込んでいるケイト先生、その後ろで真っ青な顔して立っているイリアさん。視線を下へと向けると、横たわったかあさまの口から真っ赤な血があふれていた。その横にはシャルちゃんが血の気の失せた真っ白な顔で、二人とも身動き一つしていない。意識がないんだ。
「かあさまっ、シャルちゃん」そう叫んで駆け寄るあたしをイリアさんが抱き止める。
「メアリーちゃん、落ち着いて聞いて頂戴ね」ケイト先生があたしの方を見ながら説明してくれた。
山の方から大きな猪のような魔動物が村に迷い込んできて、道路を走り回って暴れた。かあさまシャルを抱き上げて逃げたけど結局逃げ遅れてしまい、200キロも有りそうな魔動物に押し飛ばされて建物に激突してしまった。シャルは地面に落ちてしまった後、魔動物に踏みつけられてしまった。村の人達には為すすべもなく見ている事しか出来なかった。村から魔動物が出て行ったので、二人をここまで運んできた。ケイト先生が治療をしている。
先生が治療してくれているんだ、とほっとしたけれど、まだ心配そうな先生の様子を見ると、不安がつのって来る。
「ふたりとも、あまり良くないの?」
少しの間、先生はあたしを見つめてから、かあさまとシャルちゃんの方へと視線を落として、辛そうに言った。
「ごめんなさい、私の力足りなくて・・・」
えっ、そ、それって、どういう事?
あたしは先生の言葉に体の力が抜けて、座り込んでしまった