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影使いの街  作者: やぎざ
第一章 初まりの夜
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初まりの夜 2

大幅に歩を進めて、廊下を突っ切る男女の一組。

一人はブレザーを着た女子生徒。短いスカートから長い足を伸ばし、長く黒い髪を揺らし、その表情は眉を潜めたように眼前の空間を睨む。

もう片方は男。苦難が刻まれたが如く堀の深い顔つきの男も大幅な歩調でその女子生徒の後ろを追う。その女子生徒よりも、やや大柄で纏う雰囲気も違う。年齢の高い上級生のようだ。


「野犬……本当に居るのか?」

「信用できる伝手からの話だ。それに、一目見れば直に分かるはずだ。『使い手』ということくらいは」

「……」

 

 黒髪の少女は、ある部屋の前に立ちはだかり、スライド式の扉を、音を立てて勢い良く開ける。

 教室の中は騒然として硬直し、泳ぐ視線がその少女に釘付けになる。その美貌が故の静寂なのか、あるいはその顔が日常生活のそれとは全く想像も出来ないくらい険しい表情なのか。


 少女の視線が向く方向には鉛色の髪色をした少年が、退屈そうにクリームコッペを不味そうに齧ってはパックの乳製飲料で喉の奥に流し込んでいる。


 少女はその光景を目にしたら直ぐ様、廊下を歩んでいたかの如く鋭い歩幅で少年の付近まで歩み寄る。


 「鴉丸スイレンだな。好きだ。付き合ってもらう」

 「……ハァ!?」


 少女はその男、鴉丸スイレンの手首を固く掴むと、窓の鍵を上げアクリルガラスをスライドする。次の瞬間には四角形の枠組みの先の虚空に跳躍し、3階の高度からコンクリート敷の校庭まで落下。少女の後ろを付いてきていた大柄の男は、感嘆の声を漏らしてから後を追う様に飛び出した。


 少女は校舎裏で少年に壁を背負わせ、詰め寄る。近づけた顔、揺れる髪からはふんわりとした香りが鴉丸の鼻腔に触れる。


 「さっきのは嘘だ。期待させて悪かったな。お前に幾つか聞きたいことがある」

 「……んだよ。とっとと済ませろ」


 なんだか気恥ずかしそうに言い放つその少女に少年は言い放ち威圧を飛ばす。射すくめられたのか、目を一度かっ開き硬直した。


 「どけッ……」


 後ろから付いてきた大柄の上級生。その男の拳が彗星の如く鴉丸の腹部に突き刺さる。

 体をくの字に曲げた鴉丸に、繋目無く乱打が繰り出され数秒間それが続き、宙空に跳ね飛ばされた対象に鋭いソバットが突き刺さる。無防備の胴部のそれに、踵が水平方向に捉えられ次の瞬間には鴉丸はノーバウンドで十数メートル吹き飛んだ。


 「鬼道ムサシだ。一つ、お前は昨夜『銀咲の月影』と対峙した。イエスか、ノーか」


 膝を立てて上体を起こす鴉丸はゆっくりと頭を上げるが、口をとざしたまま細めた眼光だけが鬼道の姿を捉える。


 「2つ、お前は『それ』の情報を何処から入手した?」


 鴉丸の顎下を狙い、垂直方向にハイキックが繰り出される。

 命中。跳ね上げられた鴉丸は身体をきりもみ回転させ、次第に自然落下運動へと移行する。


 「3つ、お前はなぜ『ネスト』に登録をされてもいないのに、『それ』を使える?」


 鴉丸の落下に合わせ、勢い良く振りぬいた裏拳が鴉丸の中心を捉える。肉の弾丸となって飛ぶそれに、真空の弧を描いた衝撃波が、尾を引くように螺旋を描いた。

 その弾は、鴉丸は、校舎の壁に一閃。


 轟音と砂埃を上げたその一帯が晴れた時、鬼道は目を疑う。

 大の字になって瓦礫にめり込んでいるはずのその体は無く、人の体を描く凹凸がそこにあるだけだった。


 「すまない、桃城レンカ」

 「……仕方ないな。力を犯罪組織に加担するため使う度し難い奴らもこの街にはウヨウヨ居る。あの男は、どうなんだろうな」


 周囲を見渡したが長髪の少女にも、鬼道の視界にも映っては居ない。

 気配も何もなく、ただ虚ろで静寂の戦後に場違いなほど4月の昼の風が吹き抜ける。

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