人は皆消すべきなんだ 1
「朝から何だよ」
ある貸家の玄関を開け、中から顔を覗かせる鉛色の髪色をした少年、あるいは青年と言える風貌の男、鴉丸スイレンはあくびを一つこぼしながら気だるげに言う。
「朝だからだよ! 何時だと思ってんの?」
プリプリと怒った様に吠えるその人物は、朝の日差しを帯びた長い黒髪を揺らしてそう言う。
彼女の名前は桃城レンカ。
鴉丸と同級生であり、鴉丸と同じように『月影』と呼ばれる異形を討つことを生業とする影の使い手である。
もっとも、立場は違う。彼女は『ネスト』と呼ばれる月影討伐機関に属しており、その機関の規則である一環として、ネストに属さない危険分子の影使いの監視などを行っている。
その早朝、この展開に至っているのは、その監視の他でもない。
「何時って……別に普通だろ」
鴉丸はそうぼやくが、遅刻常習犯でありそれが基本的なライフスタイルに組み込まれているナチュラルなものであることも事実。
結果として、その少女桃城レンカは律儀に教師に頼まれてもなく、親御さんに頼まれてもないのに遅刻予防運動の一環を行っているようになっている。
しかし、それは本命ではない。
「鴉丸が昨夜何をしていたか、聞かせて欲しい。どうせ夜遊びして熟睡も出来なかったからそうなってるんでしょ?」
「夜遊びなぁ……まあ、何時も通り月影を始末して、し損なってこうして我が家に帰って来てそのまま寝たわけなんだが」
「また単独でそんなことして。私たちはアンタの監視をしてるわけなんだから、頼ってくれれば力になるのに」
「どうせ『骸』の取引を防止して、ネストとしてとかどうだとか並べて自分らの手柄にすんだろ。ごめんだそんなこと」
寝ぐせが無数に跳ねる髪をボリボリとかいて、再びふわぁーと大口を開ける鴉丸。
その緊張感の無い仕草と態度に、桃城は眉を潜めて睨むようにして黙る。
「何だよ。学校にはちゃんと行くよ。だから先行ってろ」
「……いや、そうじゃなくて……」
「あぁ?」
桃城が唖然としたようにあんぐりと口を開けて、鴉丸の後ろを指差す。玄関の奥。
その指に気がついた鴉丸は、ふとその方向を振り返れば窓から照らしだされる朝の光を浴びて人影が歩み寄っていた。
「ふぁ~。あれ? スイレン? その娘だれ? お客さん?」
「テメェ……」
目元を擦りながら歩み寄るその小柄な影。短めに切りそろえた黒髪。イヌ科のようなネコ科の生物の耳の様な特徴的な寝癖をピンと伸ばす少女は、ワイシャツ一枚を纏ってオロオロとした足取りで玄関の方向に出向く。
「この娘……だれ?」
縮瞳させ、顎をガクガクとさせながら指差す桃城。
「……なんでココに居んだよ」
「夜そのまま付いてきた。寝首をかいて仕留めようと思ったんだけど、眠たくなってそのまま沈んじゃったの。寝言ひどかったよ? 悪夢でも見てた? 普段から寂しいのかな?」
寝起きで意識もハッキリともしていない様でありながらも、その少女は楽しげに饒舌に語る。
鴉丸の眉が潜められ、歯を食いしばり、臨戦体勢を取ろうとする。
「コイツ……」
「お? やるの? やっちゃうの? まあ待ってろ。表出てやるから、そう熱くなるんじゃねーよ早漏」
「……上等だ。やってみろ」
朝からバチバチと視線を合わし火花を立てる鴉丸とその少女。
その二人の間に割って入って桃城はストップ、と言い放ちその場は沈黙した。




