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出会い

緑翠王の恋…の続編です。



作中の登場人物や店名などは架空のもので実在の方やお店などと一切の関係はありません。

スピリチュアル的な部分に関しては、タロット鑑定士 福乃葉堂 翆春先生の協力を得ました。

翆春先生ありがとうございます。

最近寝てるんだか寝てないんだかよくわからない日々が続く。

気がつくと、朝になっている…寝たはずなのに頭が何だか冴えない。

実際…仕事が忙しくて疲れすぎて眠れない…というのもあるのだが、大きな原因はこのところ立て続けに見ている夢のせいかも…と思い始めている。

子供の頃からそんな兆候はあったのだが、ここ最近は何やら意味深な夢見が多い気がしてならない。

夢は自分の心理を映し出す…というが、このところの夢にはなんか決まったパターンがあってその影響もあるのかも…というのは自己分析。


仕事も終わり休憩室で、そんな事を考えていたら友人の真輝が上がってきた。


「お疲れさま…どうしたの?ぼう~っとして…」

「んーなんか自分の事だけどよくわからないの…最近寝てるんだか寝てないんだかよくわかんないのよ…」

「疲れすぎているんじゃないの?公私共に忙しそうだから…特に、プライベート…の方は気が張るんじゃない?」


ユニホームを着替えながら真輝は笑いを含んだ声でそう言った。

確かにね…公私共に忙しいですよ。はいはい…おっしゃる通り…確かにプライベートは気の張る用件続いております。


出戻りの娘の将来を心配した、両親や親戚がこのところ立て続けに再婚話を持ってくる。

休みの度に何だかんだと言われ実家に帰ると…いつの間にかセッティングされていた見合いの席に連れて行かれるパターンが続いている。

いや…もう結婚はいいから…って断るのだが、特に母にはそれが納得できないらしくあの手この手を使って呼び出しては見合いの席に連れて行かれる。

愛想笑いに噛み合わない会話…周りの期待に満ちた視線と、相手の嫌らしいほどまでの好奇の目が耐えられないくらい痛い。

笑顔の仮面を被って、その下ではこんにゃろめ!と何度も思わせれる事に私は随分疲れている?


「…多分それかもしれない…見合いする相手、どっから引っ張ってくるのか…こちらの事も考えて欲しいものだわよ。」

「あらあ…良いじゃない、この間のは玉の輿なんでしょ?将来固いわよね…そういうところにおさまったら…」


真輝は先日の見合い話を持ち出してきた。


「父親は、建設会社の社長…自身も会社経営してるんでしょ?品行方正…非の打ち所無しのイケメンさんだったっけ?

何が気に入らないのよ?結婚したら贅沢三昧大事にしてもらえるんじゃないの?」

「はぁ?……真輝…その話、一体どこから仕入れた?」

「あ……えーと…あんたのお母さん…かな?説得してくれって…ごめん!」

「悪い…帰るわ…」


真輝は気まずそうな顔をして謝ってくる…が…おもむろに席を立ち、出口に向かう。歩きながら自分の胸に渦巻いていたのは、母に対する強い怒りだった。

どうにかして自分の思うように物事を運びたい…子供の頃から何度もやられて来た事。

今回は私の友人まで使って自分の思うように物事を運びたいらしい…それを思うと何やら腹ただしくて仕方ない。

真輝は慌てたように後を追いかけて来た。


「ちょっと!一体どうした?」

「何でもない…真輝だけはわかってくれてると思っていたんだけどね…私の気持ちを。」


店の出入り口のドアを開けてむっつりとしたまま、歩き始めたその時…不意に横から声をかけられた。


「今、お帰りなんですね。」


声のする方を見るとさっき休憩室で話題になっていた、先日の見合い相手が立っていた。


「………」

「先日は何やらご気分を害してしまったようですみません、どうです?気分直しにお食事でもいかがでしょうか?

ちょっとお洒落な店を見つけたので、ご一緒出来たらと思いまして。」


にっこりと笑顔を作りそんな事を言ってきた。


「先日の件は…はっきりとお断りしたはずですが?」


横目でちらりと相手を一瞥して、自分の車に向かおうと歩き始めたら腕を掴んで来た。


「ちょっと!離してもらえません?」

「まだお返事頂いてませんが?」

「先日の件は、はっきりとお断りしたはずです!今回のお誘いも、お断りします!」

「…貴女のお母様はそうは仰ってなかったですが?」


はぁ?相手の言葉に思わず目が点になる。

確か念を押すように母には断ってくれと言った…はずなのだが?


「仮に…仮にそうだとしても、私は貴女の事が気に入りました。

改めてお付き合い申し込みたいのですが…私を知って頂く為にも是非お誘いしたいのですが?…」


こ…この人物の…この自信に満ちた目は一体なんだ?当然こちらは申し出を受けるであろう…という大前提の上にある視線。

長身のやせ型…顔はどっかのイケメン俳優に似てまずくない。

こんな男性にそんな事を言われたら、コロリ行っちゃうだろうなぁ…なんだけど、私はこの人の目が気に入らない。

なんと表現したらいいか…笑っているんだけど笑ってない、例えて言うならは虫類系の目…だろうか。

漫画で言うなら悪人の目…怯え懇願する者をみて笑うそんな視線。

先日の見合いの場所で、何となくこの人の本性を垣間見たような気がして私はドン引きした。


見合いの場所は美術館のカフェだった。

顔合わせの後、お約束の『お二人で歩いてきたら?』となり、館内を歩いていた時の事。

館内を見て回っていた子供にすれ違った。

急いでいたのか子供は走るようにやって来たのだが、何かに気を取られかこの人にぶつかってしまった。

余程急いでいたのだろう…謝りもせず立ち去ろうとしたところで、この人の足先に引っかかるように壁に突っ込んでしまった。

当然顔から出し抜けに突っ込むのだから無事ではない。

助け起こしてやり、鼻血の出た顔を拭いてやるやらしながらちらりと見た時…この人は、くすり…と笑っていたのだ。

それを見た瞬間…ムカッとした私は、見合いの事など怒りで忘れ様子を見に来た館内スタッフに子供を任せ立ち去ったのだ。

先日のあれは、自分の本意ではなかった…云々被せるように長い言い訳をしてくる。


「確かにあれは事故…でしょうね。でも、人の不幸を笑う人を自分の連れ合いにはしたくないです。」

「もしかして…ですが…貴女はあの時私が、子供の足を引っかけた…そう思われているのでしょうか?」

「そう思っても仕方のない状況ですよね。手を伸ばして止める事も出来たはずなのに、貴方は立ってそれを眺めていた…」

「それは心外です。一瞬の事で私も驚いたのですよ。」

「どちらにしても、私は貴方を信用出来ない、あの時私はそう判断しました。」

「ちょ…ちょっと待ってください…そんな一瞬の事で私の何がわかると言うんです。」

「貴方もお商売されているなら、第一印象がどれだけのウエイトを持つかご存知でしょう。」


イライラとした気持ちできっぱりそう言って睨み付けてると、 後ろから追いて話を聞いていた真輝が割り込むように声をかけてきた。


「取り込み中のところすみません…彼女とこれから約束があって、出かけることにしてるんですけど。

みのりぃ…そろそろ行かないと時間が来ちゃうよ。」


真輝は相手からむしり取るように腕を掴んで私の車の方へ移動する。車に乗るなり真輝はさっきの話を謝ってきた。


「もしかして…さっきの見合いの相手?」

「うん…そう。」

「なんなのあれ?さっきはごめん…お母さんにはこの件から引くって言う。」


ダッシュボードに頭をぶつけそうになる勢いで謝る真輝…


「いやいや…悪いのはこちらも同じ。嫌な思いさせちゃったね…ごめん…」

「子供がどうっていってたけど、何かあったの?」

「うーんちょっとね…また詳しく話をするから。」


そんなやり取りをしてる間…どなたかは車を叩いて何か言っている。

しつこくすがり付くように車を叩いていると隣の車の持ち主に、邪魔だ!と追い散らされるように怒鳴られ車から離れて行った。

ナイスおっちゃん!隣の車のおっちゃんに、にっこり笑うと手を上げて答えてくれた。

どうやら車を出すのを助けてくれたらしい。

ゆっくりと車を出す私の横で、真輝がバックミラー覗き込みながら…


「ところで…どこに行く?…ってか、しつこいなあ… イケメンでもあれは願い下げだね。」


バックミラーを見ると、後を追うように車を出して追いかけてくる。

つかず離れず後を追ってくる車。

交差点に入る手前辺りで頭の中に言葉が閃いた。


『信号を右へ…』


私は迷わずハンドルを右に切ると信号が赤になり追っていた車が止まった。


『あそこを左じゃ…大きな樹のある店に入れ…』

「…了解…」


頭の中に閃く言葉に応えるようにハンドルを切ると、店の前に大きな樹がある店にたどり着いた。


「こんなところにカフェがあったなんて…真輝さすがねぇ。」

「へ?みのりが知っていたんじゃないの?」


駐車場に着いてそんな事を言ったら真輝はとぼけた顔をして答える。


「へっ?さっきの声真輝じゃなかったの?」

「声?私は何にも言ってないけど?」

「はぁ?マジで?」

「うん。何にも言ってない。」


思わず顔を見合わせてしまった。目の前の看板を見ると、『cafe世界樹』とあった。

とりあえず中に入ろう…と、真輝に目配せして車を降りる。

後ろから一台車が走ってきた…本当にしつこい。


中は大きな観葉植物が沢山あり、その間を抜けて入るとカフェスペースとパワーストーンが並べてあるスペースがあった。


「いらっしゃいませ…」


何やら不思議な雰囲気を醸し出してる店の人とおぼしき人が声をかけて来る。

長身長髪…着ているものは、中国映画に出てくる道師が来ているようなゆったりとした衣類…仙人のような感じ。

あちら系の話によく出てくる若い仙人風。

店内は大きな観葉植物が置いてあり、その姿は背景にマッチしているので余計に不思議な雰囲気になっている。

ぼーっと見とれているのも束の間、後から来た車の人物…降りて追いかけて来た様子店に入って来た音が聞こえる。

この店…入り口から少しばかり観葉植物のアーチを潜るような感じになっていて、入り口から入る人の姿が直接見えない。

はっと現実に戻された私と真輝は、歩いて近づく音を聞きながら焦った顔をして席を探し始める。

さっきのあいつなら、また絡まれると思ったからだ。

出来るだけ見えない席を探すのだが…焦って思う席が見つからない。

静かにその様子を見ていたその若い仙人風の人が…


「ああ…こちらにどうぞ。」


とにっこりと笑いながら声をかけ、私達を奥のカウンセリングルームというところに案内して行った。


「すぐ参りますので、ここでお待ちください。」


その人はそう言うと部屋を出ていく。


「こ…この展開は…一体…」


真輝は状況に頭が追いつかないのか、きょろきょろしながら状況を把握しようと周りを見ている。

私は…と言うと、何気なく眺めていた壁に掛けられた一枚の写真に目が釘付けになった。

鏡のような水面に大きな満月が映り込んでいる写真。

この風景…どっかで見たことがある、あれはどこだったか…そう言えば最近見る夢に出てくる風景に似てる?

見ていると妙に懐かしく、切ない感情が上がって来たのかいつの間にか泣いていた。


「お姉さん…この風景知っているんだ。この写真ねぇパパが撮ったんだよ。」


トレーに水を乗せて女の子が入るなり私に向かってそんな事を言った。


「パパ…って、さっきの人?」


女の子はその問いには答えず水を置くとトレーを抱え出ようとしたのだが、不意に振り返りじっと私…いや…私の後ろを見るとにっこり笑い頷いて部屋を出て行った。


「えーっ…子持ちだったんだぁさっきの人…」


真輝は何やらがっくりとしたような顔をしてそんな事を言う。

私もがっくりしたわよ…しかし、この涙は…私の溢れてくる涙が止まらず、ハンカチでしきりに涙を拭う…

自分の全然知らない景色の筈なのに、なんだこのどうにもならない感情は。


「ちょっと…どうしたのよ泣いたりして。そんなにあの人嫌なんだ…」


真輝は私が泣いているのを、追いかけて来た見合い相手のせいだと思ったらしい。


「あ…?いや…何かね…この写真見てたら涙が止まらないのよ。」

「…写真?この池の写真?」

「そうなの…何かね…胸がいっぱいになって、懐かしいと言うかなんと言うか…」

「はぁ?」

「……でね…誰かに会いたくて仕方ないのよ。」

「会いたい?」


真輝はその言葉を不思議そうに聞いている。

それにしても、何やらいろんな感情が浮かんでくる…言葉に出来ないすごく複雑な感情が。


『………に、あいたい…』


頭の中に繰り返されるのは、『会いたい』その一言…そのうち嗚咽するような泣き方に変わって来た。

しばらくすると、先の店の人がやって来る。


「災難でしたね。こちらには入って来れないようにしてありますから…」


彼はにっこりと笑いながら席に着く。


「 突然にすみません…助かりました…しかし、何で?」


涙駄々漏れで言葉にならない私の代わりに、真輝が御礼を言った。


「あーそれは…ふふ…長年の感ですかね。入り口から見えない席ばかり探していたでしょう…何か色々事情がおありのようですね…

ああ…自己紹介がまだでしたね…私は、天野真幸(あまのまさき)と言います。

ここではカフェと心のカウンセリングを担当しております。」


彼…天野さんはそう言いながら名刺を渡してきた。

名刺を受け取りながら真輝は感嘆の声を上げていた、だが…私はそれどころではない!


「…ちょっと…丁度良いじゃない。この間から眠れないって言っていたの相談してみたら?」

「………え?……ぐすん…あ…う…うん……」


誰か止めてくれぇこの涙、言葉にならないと言うかほんと何でこうなるのか?

どうにもならない状況の私に代わり、真輝がここんところの話をしてくれている。


「………しかし、それどうにか出来ないの?」

「あ…?ど…どう…にか…して欲しいのは……こっ…こっちの…方…よ………」


天野さんと真輝の二人は苦笑いしながら私を見ている。

すーっと部屋の入り口からさっきの女の子がお茶を持って入って来た。

女の子はそれぞれの前にお茶を置いていく。

最後に私の前に置くと、トレーを置いて両手で私の背を擦りながら言った。


「パパ…お姉さんね、パパの写真見てずっと泣いてるの。」

「写真?」

「そう…あの写真。パパが撮ったあの写真。」


傍にいた二人は、私の涙駄々漏れの原因となった写真に目を向ける。

天野さんは壁から写真を外そうと席を立ち壁の前に立つ、真輝の視線はそちらに向いたまま…

小さな手が背中を擦る度に、込み上がっていたものが収まってくる。

女の子は私の耳元で小さな声で言った。


「探し物、もうすぐ見つかるよ。」


女の子はにこりと笑って小さな指を口元に当てる。


「水緒?この写真かな?」


天野さんが手にして持ってきたのは、池に映る月の写真。目が行くと…やっぱり…じんわり出てくる涙。


「パパ、駄目だよ…元に戻して!」


水緒…と呼ばれた女の子は、叱るような口調で言うと今度は私に向かい…さっきと 同じように耳元で話すのだが…何か違う。


「心一つになりし時そなたの願いは叶おう…あとしばしの時を待つが良い。」

「………?!」

「うふっ…」


さらりとそう言うと意味深な笑顔を残し、トレーを持って彼女は出て行った。

あれだけ収まらなかった感情の波も何事もなかったように収まってしまった。

その後結局、若い仙人…いや…天野さんにカウンセリングしてもらう事にした。

真輝はその間、カフェでゆっくりしてると言って部屋を出る。


「…かなりストレスを感じていらっしゃるんですね。」

「まあ仕事も今、忙しい時期なんで仕方ないんですけど、一番は再婚話かなぁ…あれが出始めてから落ち着かないんですよね。

特に実家の母が持って来た話の辺りから、誰かと約束をしてる夢を見たり探す夢を見たりが多くなりましたか。」

「差し出がましいようですけど、どんな方なんです?その方というのは…」

「ちょっと見はイケメン俳優なんですが、目がねは虫類系なんです。見合いの時にドン引きな出来事がありまして…」


その言葉に天野さんは吹き出すのをこらえるような顔をした。


「もしかして…今日、うちに来たのは…」

「単なる偶然です。仕事帰りにその人に絡まれまして…逃げていたらここに行き当たったという。」


それを聞くと天野さんは噛み殺すような笑いを口元に浮かべた。


「…多分…しばらくは貴女のところにいらっしゃらないと思いますよその方…」

「へ?」

「あれじゃあ…ねぇ…」

「何かあったんですか?」

「あったというか…」


天野さんは笑いを噛み殺したまま、意味深な言葉でするりとその問いを交わし次の質問をしてきた。


「それで、どんな方とお約束されてるんです?夢の中で…」

「うーん…覚えているのは…黒い龍とかそんな姿をしたものですかね…」

「変わった方と約束を…お見合いのお相手に約束の方がいらっしゃるとか?」

「いやぁ…それはないですね。会う相手皆さん違う感じがしてるんです。人を探す夢が多くなったのも見合いが始まった辺りからなんです。」

「もう一つ…どんなところで、誰を探しているのかわかりますか?」


天野さんはじっと私を見つめながら聞いてくる。


「とても深くて綺麗な山の中で、人を探しているんです。誰だかわからないのですが、私にとってはとても大事な人…のようで…」


ちらりと見た見たのはあの写真。


「天野さんあれ…あそこに似た景色のところで探しているんですよ…あそこは一体どこなんですか?」


写真の場所に何かヒントがあるかもしれない…そう思って私は訊ねた。


「あ…ふふ…あそこには偶然入ったんですよね。

地元の方もあそこは神域になっているところだから限られた方しか入れないようで。

昔は禁足地になっていたところなんだそうです。

最初は写真撮るのも止められていたのですが、池のある場所に入った途端…同行した神職の方から所を明らかにしないなら撮っても良いとなぜか許可が下りまして…だから場所はお教え出来ません。」


行ったら何かわかるかもしれないと思っていただけに、その言葉は随分とガックリした。


「……そうなんですか…そこに行けば、何かわかると思ったんですけど……」


肩を落とすように言うと、天野さんはまあまあ…と言いながら言葉を続けた。


「実は同行した神職の方…神託がよく下りて来ると地元では知られた方でして、この時も何やら受け取られたそうなんです。

この地に深い繋がりのある方が現れるから、その方に写した写真を渡して欲しいと。

この写真が出来たとき、娘が視て同じ事を言うんです、娘に言わせるとパパお使いに呼ばれちゃったね…なんですよね。」

「さっきの女の子…?」

「はい。水緒といいます」

「不思議な感じのするお嬢さんですね…あっ、失礼な事をごめんなさい…」


天野さんはにっこりと笑いながら頷いた。


「あははは…わかりますか?」

「あ…なんとなく…なんですけど…」

「実は今朝、写真の受け取り手が今日来ると言い始めましてね…それが私のお客様にいるって。」

「あのーもしかしてお嬢さんって…霊感強いとか?」

「そう聞かれたらそうだ…と答えるしかないですね…」


それを聞いてなんか嬉しくなる私…だって小説や漫画の世界の出会いみたいで面白い。

さっき感じた不思議も納得出来る。

そんな気持ちが顔に出ていたのか、天野さんは面白そうに私の顔を見ている。


「なんか楽しそうですね…風間さん。」

「あー…すみません。なんか小説の登場人物みたいにリアルにこんな出会いがあるなんてと思ったらなんかワクワクしちゃって。このお店との出会いもなんか不思議な感じがありまして…この店初めてなんですけど、何かに誘導されるようにやって来たんですよね…」

「あははは…憧れの不思議遭遇…ってところですか?

よろしければ空いた時間お出でになりませんか?ほんの少しの時間でよろしいです。

うまくしたら不思議少女と遊べるかもしれないですよ。

よく眠れない…というのも落ち着かない…そんなストレスが引き金になっているかもしれません。

まずはそこを解消していくリラックス出来る所を外にも作ってみましょう。」


確かに息の抜ける場所は自宅くらいしかない…今日のあのようすだと、そこも何だか怪しくなって来た。

母の事…もしかしたら住んでるところも教えているかもしれない。

それを考えたら、何だか憂鬱になってため息が出てきた。


「引っ越しするかなぁ…」


思わずこぼしてしまった。


「おや…いきなりどうしたんですか?」

「いやぁ…さっき追いかけて来た人…しつこそうだから、多分住んでるところもやって来そうな感じがして…」

「ああ…確かにそうですね…」

「今のところ引っ越ししようかと…今、自宅しか落ち着く場所がないんですよね。

そこまで取られてしまうと思うと何だか…」

「なるほど…しかし、それはあくまでも今の貴女の想像でしょう。

物事がそう動いてから考えても良いのでは?金銭のかかることですし、そうはならないかもしれない…

それはそれで考えておいて様子を見てからでも遅くはないかと思うのですが。」


天野さんの仰ることも一理ある、引っ越しの件はちょっと物件探しながらでも様子をみよう。


「さてと…貴女に写真を渡さなければならないのですが…ちょっと待ってくださいね。」


そう言うと席を立ち、写真を入れる物を持って来るようドアを開け声をかける。

しばらくすると、水緒ちゃんが言われたものを持ってやって来る。


「パパ…ちょっとだけお姉さんと話していい?」

「じゃあ写真を包む間だけだぞ。」


天野さんはそれを受けとると、写真を丁寧に包み始める。

にっこり笑った水緒ちゃんが私の隣にやって来た。


「お姉さん…もう大丈夫?」


覗き込むようにして水緒ちゃんは私の顔を見る。


「ありがとう。もう大丈夫だよ。」


私はにっこりしてそれに応えた。

それを見てほっとした顔で水緒ちゃんは話し始める。


「あのね…泣いていたのは、お姉さんの後ろにいる人だったの。」

「私の後ろの?」

「うん。あの写真お姉さんも知ってる場所なの…」

「私も知ってる場所なの?」

「うん…」


水緒ちゃんは何か不思議な目をして私をじっと見るが、視線は私を通り越して後ろを見ているようなそんな感じ。


「あれがお姉さんの探してる人に繋ぐからね…もう一つね、本当のお姉さんに出会うよ。」

「探してる人に繋ぐ?本当の私に出会う?」


水緒ちゃんの言葉に私の頭の中は、疑問符でいっぱいになる。


「大丈夫だよ。そのうちわかる事だから…」


水緒ちゃんは笑いながらそんな事を言った。

その言葉が何を意味しているものなのか、私はその時わからなかったんだけどね…


「ありがとう…水緒ちゃん。なんか今はよくわかんないけど、何かはあるのだけでも覚えておく。」


その言葉が嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべていた。


「お姉さんは私の事が不思議?変な子って思わないの?パパに聞いたんでしょ?私の事。」

「なんでかな?何故かそうは思わないなぁ…霊感の話?」

「うん。」

「例え悪いけど漫画や小説の世界を体感してる感じで面白いが先かなぁ…そういう話好きだし…

そんな不思議な能力のある人に巡り会えるなんて、なんだか素敵に思えちゃう私は…そんな風に見る人もいるんだ。」

「大人の人はそっちの方が多いかなぁ…でもこれどうしようもないんだよね…パパ達だけでもわかってくれるからいいけど。」


不思議な世界を覗ける力は、子供としての水緒ちゃんにはちょっと残酷な事実を見せているのかもしれない。

水緒ちゃんの寂しそうな顔が、どんな扱いを受けたのかそれを物語る。

そんな反応が多い中、彼女にしてみれば私の反応は変わったものに見えたのかもしれない。


「じゃあ水緒ちゃん…友達になろうか?私に水緒ちゃんの知ってる世界を教えてくれる?なんか楽しそう…」


私はちょっと好奇心をくすぐられ、水緒ちゃんにそんな提案をしてみた。


「友達?いいの?お姉さん不思議漫画好きでしょ…」

「うん…あははは…好き。」

「やっぱりそうなんだ。」

「私は風間実紀…みのりって皆呼んでる。」

「私は天野水緒。みのりさんよろしく!あ…そうだ…この話はあのお姉さんには…秘密にしてね。」

「二人だけの秘密?」

「うん…内緒。うふふふ。」


にっこり笑うと嬉しそうに天野さんの傍に行く。

私も席を立ち、ドアのところに向かう。


「はい…これをどうぞ。」


天野さんに写真を手渡され、私は部屋を出ようとしてあるものに目が行ってしまった。

ドアのすぐ側に棚があったのだが…


「うはぁ…全巻あるんだ…お?小説もある…」


私が好きな中国の小説…仙人が秘密兵器で戦う小説…それの漫画化したのがその棚に並んでいた。

それだけではない、なんか面白そうな本がいっぱいある。

思わず足を止めそれに見入ってしまった。


「お好きですか?それ…私も好きなんですよね。」


後ろからかけられた天野さんの声に思わずそうだと答え、思わず語ってしまう始末。


「あれ…なかなか面白いですよね…宝貝(ぱおぺえ)もですけど…出てくるイケメン仙人が好きなんですよね。」

「イケメン仙人?もしかして三叉槍を持った、犬連れの変身マニアな仙人ですか?」

「変身マニアって…そうそうその仙人です。なんか好きなんですよね。」

「清源妙道真君は、私も好きなんですよ…ちょっと雰囲気出ないかと真似してみてるんです。」


天野さん…意外や意外なお人か?どうやら仙人風の衣装はコスプレなのか?目指すは清源妙道真君?

ひとしきり天野さんと仙人話に花を咲かせ、表のカフェに出ると真輝がパワーストーンのブレスレットを見ていた。

この間から一本欲しいと言っていたからきっと買ってるだろうなぁ。

傍に行って見たショーケースの石は、他の店で見るものより生き生きしている持つならこんな石がいいなぁ…


「終わった?ねえ見てぇかわいいでしょう。」


手首にピンク色の石を使ったブレスレット…真輝は得意そうにそれを見せる。

ハート型の石を使ったブレスレットはキラキラと光を放っていた。


「恋愛運向上のローズクオーツ…いいでしょう。これで魅力向上…イケメンやって来い!って感じよね」

「なかなか素敵じゃない…私も何か買おうかな…」


真輝のそんな事を言いながら笑う顔はいつもより柔らかい…それならイケメン捕まえることが出来るかもよ。

私は…ふと見たショーケースの中に、茶色い石の彫り物のペンダントヘッドが目に入った。


「これ…狛犬みたい。なんだこの顔…困り顔の狛犬?面白い…あははは。」


彫り物の顔がなんか面白くて笑ってしまう。


「ストーカー避けになるんじゃないの?狛犬だからいいんじゃないの。」


真輝がそんな事を言い始めた。

ストーカー避けね…そういう意味合いもありだけど、この顔見てたらペット飼ってる気分で持っててもいいなぁと思う。

うちのアパートはペット禁止だし…名前つけて可愛がるのも有りかもしれない。

そんな事を思いながらそれを見ていた私にショーケースの前に立つ女の人が言った。


「それは茶の強い天眼石で彫った物よ。天眼石は持ち主を災難から守る石なんですよ。」

「へえぇ…災難ねぇ。じゃあ今の状況から守ってくれるかな?」


石の説明を聞いて、思わずそう呟いた。


「その子みのりさんのところに行きたがってる…」


後ろからやって来た水緒ちゃんが、私の傍に来て石を見ながらそんな事を呟いた。


「水緒…駄目だよ、お客様なんだから。」

「ママ…」


水緒ちゃんはママと呼んだその人の傍に行くと何か耳元で話した。


「あらま…」


ウインクしてくる水緒ちゃんに笑って応える。


「あらまぁ…ふふ…じゃあ自己紹介しておかなきゃね。私は天野環、水緒の母です。環と呼んでください…よろしく」

「風間実紀と言います。今日は助かりました。」


その顔を見て、環さんはそう言いながら握手をしてくる。


「ふふ…あれは真幸さんのやったことですから。

さっきちょっとお友達に話聞いたけど、大変だったわね。後から来た人ね…すぐ帰られたのよ。」


真輝のおしゃべりが、きっと一部始終話しているんだろうな…そんな事を思いながら横目で見ると真輝は目をそらす。


「いやぁ…えへへ。笑っちゃ悪いんだけど、可笑しかったわ……」


環さんの言葉を取るように、真輝が苦笑いしながら話すには…


「店内に入ってしばらく二人を探していたんだって。

そのうちカフェで待つことにしたのか、席に座ろうと椅子を引いたんだけど、目測謝ったのか座れずに尻餅二回そんな事があったんだって。

なんかえらく派手にすっ転んでいたそうよ…ここまでは環さんの話…

私がカウンセリングルームから出て来たら、めざとく見つけて傍に寄ってきたのよ。

やばーいとか思っていたら、何かに躓くように前のめりになったのね。

転ばないように体を支えようと思わず握った観葉植物に、蜂が止まっていたらしくて…それを掴んだものだからさあ大変…

掴まれた蜂にひどく刺されたらしくかなり騒いで出て行ったのよ…人の不幸を笑っちゃなんだけどね…いい薬になったんじゃないの?」


真輝は笑いを噛み殺しながらそんな事をいう。

その話を聞いて、天野さんが笑いを噛み殺していた意味がなんだかわかった。

多分…尻餅二回の場面を目撃したのだろう。


「蜂かぁ…痛そうだなぁ…」

「アシナガバチだったみたい…」

「マジで?そりゃ痛いわ。いい薬になればいいけど…しつこそうだったもんなぁ…」

「じゃあお守りがわりにこれでも買う?」


ショーケースの狛犬を指差しながら真輝が呟いた、そうだ…これどうしよう…


「手にとって見られますか?」


環さんはそう言いながらショーケースを開けて問題の石を取り出した。

手の上にのせられたそれから何となく伝わって来るものがある。


「この子達行きたがってる。みのりさんの事守るって言ってるよ。」


持ってると何か不思議な感覚も伝わってくる。

水緒ちゃんはあの不思議な視線で石を見ながらそんな事を言った。


「水緒ちゃん…?」


なんとなくなのだがこの子の言葉には変に納得してしまう。

環さんに渡して会計を済ませ、包装されるのを待っていた。

ちらりと見てると袋に入る前の石に、水緒ちゃんが何か石に語りかけている。


「すっかりお邪魔してしまいました。」


石を受け取り、店を出ようと出入り口のところまで行くのに三人が見送ってくれる。

水緒ちゃんは手を繋いで出入り口までついて来た。

見送る三人に手を振り私達は車に乗った。

駐車場から車を出していると、水緒ちゃんが手を振りながら追いかけて来る。

窓を開け片手を出して振ると『また来てねー。』と声が聞こえて来た。


「すっかりなつかれたのね…みのりって昔からそうよね、初対面でも小さい子供や動物に好かれる。」

「ええ?そう?私は普通に接してるだけだけど。」

「私には無理ね…初対面の子供は。それにあの子何か普通の子と違う感じがして…」

「えー?そうなの?真輝はどう感じたの。」


水緒ちゃんをバックミラーで見ながら真輝がそんな事を言った。


「何か得体のしれない感じ?子供なんだか大人なんだかわかんない感じ…それにあの子視えてるんじゃないの?

みのりと話をする時、後ろばかり見ていたもの…ちょっと不思議で変な子よね…」


真輝の言葉を聞きながら、水緒ちゃんが言っていた事を思い出していた。

大人は不思議で変な子って言葉を。


「そう?私には普通の子と変わらないと思うけど。」


そんな話をしていたら、真輝の車のある駐車場に着いた。


「今日はありがとう。助かったわ。」

「なんでもない事よ、気にしなさんな。まあ帰ってゆっくり休むといいよ、今夜は眠れるといいね。」

「うん…ありがとう。」

「明日からシフト休みだったでしょう、ゆっくりするといいよ。じゃあまた次は三日後だったっけ…」

「そうだね…真輝も気をつけて…」


窓越しに言葉を交わして私は自宅に帰ってきた。



部屋の一角…飾っていた絵を取り外し、もらった写真を掛ける。

観葉植物に囲まれた写真は、部屋の中に映った風景の気配を流し出しているようにも思えた。

部屋の空気が一変したような感じ。

シャワーを浴びて、軽く食事を取っていると、母から電話がかかってきた。


「あんたね…何を考えているの。」


電話を取るなりキンキンした声で母がまくし立てた。


「さっき先方の方から電話がかかってきたのよ!」


その言葉に私はぶちきれてしまった。


「先方?何言ってんの!あの件はお断りしてって言ったでしょ!」

「わがまま言うのもいい加減にしなさいよ!お相手のどこが気に入らないの!

母さんはね、あんたの事を思って言ってるんでしょ!お食事くらいお付き合いしなさいよ!ほんとに子供じゃないんだから!」


スマホを耳から離しても聞こえる母の声。スピーカー通話にしなくても聞こえる相手の声って…どんだけでかい声で喋っているのやら。


「はあ?私の事じゃなくて自分の事でしょう?どうせまた金持ちと縁付いたらいい目が見られると思ってんでしょ!

母さんはいつもそうよね!」

「親に向かってなんなのそれは!父さんと母さんはあんたの将来の事を思って言ってるのがわからないの!大体ねえ…………」


何か言うと十倍になって帰ってくる鬱陶しさ…


「………母さんだって何度も離婚したいと思ったわよ!あんた達が居たから我慢したんでしょ!あんた達の為に母さんは自分の人生を不意にしたようなものよ!

あんたは何なの…自分のわがままで勝手に離婚して!堪え性がないから婚家とも上手く行かないんでしょ!」


母は怒りのあまり言ってはならないことを口にしてしまう。


「母さん…父さんと離婚考えていたんだ…まあ、父さんの事を嫌悪してるのは日頃の態度からわかっていたけどね。

それを子供のせいにするんだね。」


怒りを通り越して変に冷静になる私…

静かに言った言葉に何かを感じたのか、母は言い繕うような事を言っている。

そんな母の言葉は私には響かない…


「仰りたい事はよくわかりました。改めて先方様にはお断りをお願いします。それからこのような事は金輪際不要ですから…自分のパートナーは自分で探しますので…わざわざご連絡いただきありがとうございました。」

「ちょっと!あんた何いってるの?………」


電話の向こうで叫んでいる母の言葉を無視して通話を切る。

自分の気持ちの中で母に対して一線を引いた。

母が父に対して思っている事など、どこかの時点で気がついていた。

なにかしら父に対して意地悪をするようにわざと嫌いな事をしたり、何かあると子供に八つ当たりしたり…

私は母のそんな態度に表立っての反発はしなかったが強い反発心は持っていた。

父はそんな私の感情を知っていながらも、母の事が大事と思っていたのか何かと母の肩を持つ。

母の知らないところで、私は何度も父に諌められた。


結婚しても子供を作らなかったのは、そんな母の姿を見ていたからかもしれない。

何かあると八つ当たりするように叱り飛ばされた子供の頃の記憶は、自分にもそんな血が半分流れていると思うからだろうか…もしかしたら自分も母と同じ事をしてしまう…そんな怖さが子供を作る事を拒んでいた。

元の旦那は子煩悩な質らしく、自分の甥や姪を随分可愛がっていた。

早く自分の子供が欲しいと常々から言っていたのだが、私がそれを拒んでいたのだ。

結局…そこの噛み合いが上手くいかずすれ違いになり、浮気相手に子供が出来た事がきっかけで夫婦の縁は途切れてしまった。

子供が出来たならその子供を幸せにしてあげて…と、私から離婚を切り出した。

すれ違いの生活に疲れていたこともある、でも結局のところ彼には自分を委ねる事が出来なかった自分のせいなのかもと思っていた。


母の一言に、なんだか裏切られたような心情が心の中に広がる。

親だからわかってくれる…そんな気持ちが少なからず心の底にあった、それがさっきの一言で全部否定されたような感じ。

他人なんて皆同じ…信用してもどこかで必ず裏切られる。

そうでないとその度に思い信じてみるけど…血の繋がった自分の母親ですらこの有り様。

自分の全てを預けることの出来る存在なんて、もしかしたらいないのかもしれない…

そんな事を思いながらあの写真を見た時、頭の中に閃くように言葉が浮かぶ。


『…ほんとうに…そうだ…と…おもうの?』

「貴女はそうじゃないと思うの?どんなに信じていても、誰も助けてはくれない…

どこかで考えているのは、相手を利用する事だけじゃないの?」


頭に閃く言葉にそう言うと、写真を見ながら私はいつの間にか寝落ちてしまった。


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