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リバイバル・マジック〜女神はなぜ死者を愛でるのか。人ならざる身体に男は惑い抗う  作者: IT
3章 Road to hope

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40話 Revival Magic

 フレンにもう一度会える。

 フレンともう一度話すことができる。

 その言葉はとても優しく、甘美な言葉だった。


 フレンの笑顔や泣き顔。

 怒った顔や不機嫌そうな顔。

 そして優しい顔。

 フレンと出会ってから五年間、俺が見てきた表情の一つ一つが脳裏に浮かんでくる。


 フレンにもう一度会いたい。

 そして、謝りたい。

 『辛い思いばかりさせてごめん』『守れなくてごめん』と。

 

 俺がフレンに許されることはないかもしれない。

 それだけの思いを、俺はフレンにさせてしまったのだ。

 それでも俺は、それがフレンにとっての救いになるのなら、この悪魔のような女に魂を売ってでも。


「……がう」


「え?」


「違う……」


 俺は握りこぶしを作り、強く握った。

 爪が肉に深く食い込み、血が滲む。

 鋭い痛みが、甘くとろけるような誘惑から、俺の意識を引き戻す。


 そう、違う。

 違うのだ。


 “死”は、冷たく残酷で、どうしようもなく理不尽な事実だ。

 それを捻じ曲げ利用するアメリアに、フレンの身体を、魂を、弄ばれてなるものか。

 それは決して救いなどではない。


「フレンは……フレンの死は、フレンだけのものだ。俺も、お前も、土足で踏み入って良い領域じゃない。お前の魔法なんかで、フレンを穢すな!」


「……穢す、ですか」


 アメリアは小さく、鼻で笑った。

 そしてアメリアの顔から表情が消え、今まで常に穏やかに見えたその瞳の奥に、激しい感情が灯ったように見える。

 俺を見下ろすアメリアの、肩が震えた。

 

「……フレンさんという方は、レイズさんにとって大切な方ではなかったということですね」


「何だと……!」


 俺にとって、これ以上ない侮辱の言葉だ。

 怒りがマグマのように湧き上がり、俺はアメリアを強い殺意を込めて睨みつける。


「だってそうでしょう? フレンさんは、身体を引き裂かれ、内臓を抉られ、血を流しながらあなたの手を握っていたんです。そんな彼女の死に、あなたは“納得”しているということですよね? 今なら手が届くかもしれないのに、手を伸ばそうともしない。つまり、“いらない”ということでしょう?」


「お前ぇえ!!」


 俺の強い衝動に反応し、右手が動きアメリアの胸ぐらを鷲掴みにした。

 腕や肩、脇腹に激しい痛みが走る。

 筋繊維が悲鳴を上げ、音を立てて切れていくような、そんな感覚だった。

 あまりの激痛に一瞬視界が白濁するが、怒りが、憎しみが、俺の意識を強引に引き戻す。

 アメリアは一瞬表情を歪ませ、少しつんのめるような姿勢になった。


「お前に……お前に何が分かる!?」


「……フレンさんの気持ちなら、あなたよりは分かると思います」


「ふざけるなぁぁああ!!」


「きゃっ……!」


 俺は、怒りに任せて腕を振り、腕力だけでアメリアを投げ飛ばした。

 アメリアは体勢を崩し、地面に転がる。

 そして俺の上半身には、激しい鈍痛が響き、身体の内側が薄紫に発光するのが見えた。

 忌々しい光だ。

 この光が、また俺の身体を蝕んでいく。 

 額や背中からは汗が噴き出し、荒い息が漏れる。

 大丈夫。

 意識ははっきりしている。

 しかし、立ち上がることはできない。

 地面に這いつくばりながら、俺はアメリアを睨んだ。


 アメリアは、俯きながらゆっくりと、身体を起こした。

 歯を食い縛りながらこぶしを握り、身体はさっきよりも激しく震えている。

 初めて露わになるアメリアの感情。

 しかし、アメリアはそれを解き放つのではなく、自分の胸元を掴み、深くゆっくりと息を吐く。

 そして俺に向けられた目は、いつも以上に穏やかで、気持ち悪いほどに優しい目だった。


「……すみません。私は別に、あなたと喧嘩がしたいわけじゃなかったんです。ただ、私の……私の千年が全て否定されたような気がして……少し、取り乱してしまいました。ごめんなさい」


 アメリアは、少し声を震わせながら言った。

 その言葉が、こいつの本心かどうかは、俺にとってはどうでも良いことだ。

 アメリアの千年など、知ったことではない。

 そんなもの、知りたくもないし、理解しようとも思わない。

 そんなことよりも、あと少し身体を動かし手を伸ばせば、アメリアの首に俺の手が届く。

 そこまでいけば、槍を持てなくともアメリアを殺すことができるのだ。

 そうすれば、俺はフレンをアメリアの手から守ることができる。

 俺は自分の正義を信じて、激痛に耐えながら必死で大地を掴み、アメリアの元へと進む。


「あなたの苦悩や葛藤も理解できます。きっと、それが普通なのでしょう。ユリの時とは違う。私は少し、軽く考えてしまっていたのかもしれません」


 アメリアはすっと立ち上がり、フレンの元へと向かう。

 それを防ごうとしても、俺の身体は思うようには動かない。


「少し予定とは違いましたが……フレンさんのことは蘇生します。レイズさんがレイズさんであるために、私だけでは力不足でしょうから……これもまた、必要なことです。マック君、ユリをお願いします」


「わ、分かったっす!」


 マックはユリちゃんを連れて馬車の陰に隠れていく。

 そしてアメリアは、小さな革袋をフレンの身体に向けて傾けた。

 サラサラとした灰色の砂が、フレンの身体全体に振りかけられる。

 

「やめろ!! アメリア!! フレンに、フレンに触れるなぁぁああ!!」


 俺の叫びは虚しく響き、アメリアは魔法の詠唱を始めた。


「“エクスポート・リフレッシュ・オペレート”……」


 幾重にも薄紫の発動光が瞬き、次第にフレンの身体すらも薄紫に光り出す。

 振りかけられていた灰色の砂は、発光を繰り返しながら、フレンの身体の直上へと浮かび上がっていった。

 

 そして、その幻想的とも言える光景は、瞬時に凄惨なものへと変わる。

 フレンの身体のいたるところから血が噴き出し、まるで穴の開いた水風船のように、その身体は萎んでいった。

 痙攣しながら黒ずんでいく身体。

 降り注ぐ血の雨。

 噴き出す血飛沫は、フレンの存在そのものを一瞬の火花に変え、燃やしていくようにすら見える。

 その光景は、とても直視できるものではなかった。


「……おえ……おえぇぇぇええ!」

 

 俺は吐いた。

 何も出なくなるまで、ひたすらに吐き続ける。

 アメリアの詠唱は続いていたが、何を言っているかは分からない。

 そして、最後に発した言葉。

 それだけが頭の中に響き、木霊した。

 

「“リバイバル”……」


 激しく発光する薄紫の光は、そちらを見ていなくても眩しいほどに、強い光を放つ。

 俺は恐る恐る、目線を上げた。

 いつの間にか流れていた涙が、頬を伝い地面へと落ちていく。

 微かな水音がした後に、一糸纏わぬ姿で宙に浮くフレンが見えた。

 そして、元々フレンだったものは、最早それが何だったのかすら分からぬ、ただの黒ずんだ肉塊と化している。


(こんなものが蘇生……? 俺も、こうやって……造……られ……た?)


 それは、蘇生と呼ぶにはあまりにも残酷で、猟奇的に見えた。

 全身の力が抜け、俺は再び地面に伏せる。

 そして、アメリアは静かに振り向き、言った。


「ひとまずは、成功と言って良いでしょう」


 その時、俺の中で何かが音を立てて崩れていくような気がした。

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