1話 夢を追う者
To レイズ・グラスノー
レイヤの昇格おめでとう!
レイ君の努力が認められて、私も嬉しいです。
レイ君が頑張っている話を聞くと、私も頑張らないとっていつも思うから、私も励みになります。
こちらは、最後の試験でも良い成績が取れて、一安心と言ったところです。
来月の中旬には、聖騎士団の寮に入る予定だから、正式に決まったら住所教えるね。
卒業したら、少し時間ができると思います。
だから、久し振りに村に帰ろうと思ってるの。
忙しいと思うけど、良かったらレイ君も帰ってきてくれると嬉しいです。
私は合わせられると思うから、レイ君の都合がいい日があれば教えてください。
まだまだ寒い日が続くけど、身体に気をつけて、できれば怪我もないように気をつけてください。
From クリスチーナ・レングス
クリスからの手紙を読んで、思わず口角が上がってしまう。
にやついた顔で手帳を開き、自分のスケジュールを確認してみる。
実家に帰れそうな日もいくつか見繕えそうだ。
クリスに会えるのが今から楽しみで仕方がない。
「あれから五年か……」
故郷でクリスを見送ってから、もう五年という歳月が流れていた。
クリスはどんな風に変わっているだろうか。
俺の記憶の中のクリスは、銀髪で長い髪を首の後ろ辺りで結び、前髪が長く、少し目が隠れている感じの女の子だった。
地味だったが目鼻立ちが良く、将来は美人になると思ったものだ。
俺とクリスは同郷の幼馴染みだった。
小さな農村で家は隣同士。
小さい頃はいつも一緒に遊んでいた。
身も心も成長するにつれて、俺は彼女が好きになった。
俺もクリスもどちらかと言うと大人しい性格で、わりと気が合っていたんだと思う。
クリスと過ごす時間はとにかく楽しくて、漠然とそれがずっと続くと思っていた。
しかし、クリスは天才だった。
五歳で魔法を覚え、十二歳の頃には高位の魔法を自在に操っていた。
そんなクリスを世間が放っておくはずはなく、クリスが十五歳の時、国の首都にある有名な魔法学校からスカウトがきた。
『シアイン帝国立魔法大学校』
大陸の中でも特に優秀な者が通う、シアイン帝国自慢のエリート学校だった。
クリスもその両親も、最初は戸惑っていたが、結局クリスは一人で村を出て行ってしまった。
将来を考えれば、それが正しい選択だったと思う。
『今までありがとう。大きな学校に行くのは少し怖いけど、楽しみでもあるの。私なんかが、どこまでやれるかわからないけど、頑張ってくるね。レイ君も身体に気をつけて、風邪引かないようにね』
十五歳にしては大人びた別れの挨拶だったと思う。
今となっては、クリスはそのエリート学校の主席だ。
法王直属の精鋭部隊、聖騎士団への入団も決まってるらしい。
全く、随分と差がついたものだ。
俺には良い学校に入れるような金も才能もなかった。
それなら潔く、実家の畑を継いで農家でもやれば良かったのかもしれない。
ただ、俺はその選択肢をとらなかった。
故郷で農家なんてやっていたら、クリスはどんどん遠くなっていき、手の届かない存在になってしまうと思ったのだ。
だから俺は、冒険者を志した。
冒険者は、身体が健康であれば誰でもなれるような職業だった。
そもそも職業と呼んでいいのかすら怪しいかもしれない。
最下層の冒険者なんて、モラルもへったくれもなく、その辺のゴロツキと何ら変わらないような連中が蔓延っていた。
およそクリスが歩む道とは、対極に位置しているような道だと思う。
だが、冒険者には夢があった。
冒険者は魔族や魔獣と戦うことが多く危険な職業だ。
ただその分、報酬も高い。
収入は、それだけで分かりやすいステータスになる。
それに成果を挙げれば有名にだってなれるかもしれない。
国のヒーロー的存在になった冒険者だっているのだ。
自分が努力して成果を挙げ続ければ、いつかクリスの隣に立てる日がくるかもしれない。
そんな夢を、未だに見続けている。
(手紙の返事は夜戻ってから書こう)
朝のコーヒーを飲み干して、立ち上がる。
季節は冬だ。
身体の芯から冷えるような、とても寒い二月の下旬だった。
今日も希望を胸に家を出る。
街行く人々は寒さに身体を丸めていたが、俺の気持ちは晴れやかだった。
冒険者として一日の仕事を終え、今日も夜を迎えることができた。
今日の仕事は順調そのもので、とても有意義なものだった。
「今日の成果と、無事を祝って~乾杯!!」
三人のジョッキがぶつかり合う。
俺は仲間たちと、今日の祝杯を上げに行きつけの酒場にきていた。
俺は酒が好きだったし、気心の知れた仲間と酒を飲む時間はとても好きな時間だ。
「今日も助かったぜ~レイズ! 流石レイヤ5は違うな!」
「何言ってんだよ! 別に前までと何も変わらんだろ」
俺に絡んでくる大柄の男の名は、ジーク・ビークルといった。
ジークは年も冒険者歴も俺より上の先輩冒険者だ。
髭面で筋骨隆々とした身体つきをしていて、モヒカンぽい髪型が絶妙に山賊感を醸し出している。
いかつい見た目だが、既婚者で一児の父だ。
「レイズがいると、皆より前に出てくれるし、安心感あるよね!」
彼女はフレン。
氷属性魔法を操る魔法士で、仲間の中では紅一点の存在だった。
明るめの茶髪で、高めに結んだポニーテールは、彼女の性格の明るさを良く表している。
気恥ずかしくはあったが、二人に持ち上げられるのは悪い気はしなかった。
「ところでレイズ、これからの仕事はどうするんだ? 今まで通りってわけにはいかないだろ?」
冒険者は、個人の成果や強さによってそれぞれランク付けされている。
ランクはレイヤ1からレイヤ7まであって、数が大きくなるほど上位の冒険者ということになるのだ。
俺は先日レイヤ5に上がったばかりだった。
レイヤ5まで上がれば、一般的には高レイヤ冒険者に仲間入りをしたことになる。
収入にすれば、年収一千万リリアくらいは期待できるだろう。
「俺たちとしては、今まで通りでも良いんだが、お前がまだまだレイヤを上げたいって言うなら話は変わってくる。今ここにいない奴らだってそうだ」
「……」
ジークの言葉に、フレンは黙って俺のほうを見ていた。
さっきまで明るい雰囲気だったのに、急に神妙な空気になる。
俺は酒を口に運び、少し間を置いた。
俺がこれからさらにレイヤを上げるためには、より高難度な依頼をこなす必要がある。
レイヤは上がれば上がるほど、次に上がるのが難しくなっていくものだ。
これまでより危険なことをしなければならないのなら、皆を俺に付き合わせるべきではない。
冒険者は命のやり取りをする職業でもあるのだから。
「そうだよな。俺は……やっぱりレイヤを上げたい。今の自分じゃまだまだ足りないって思ってるからさ。それでも、皆とは付き合いも長いし、できればもっと一緒にやりたい。俺のことは自分で考えるから、皆と一緒の時はこれまで通りやらせてくれないか?」
「レイズもまだ上がったばかりだもんね。レイズが良いなら、私たちは勿論大丈夫だよ!」
「俺もオッケーだぜ! しかし、レイヤ5でもまだ足りないとは、向上心の塊みたいな奴だなお前は!」
ジークが大声で笑う。
神妙な空気は消え、また楽しい雰囲気に戻っていった。
「お姉ちゃん、ビールもう一杯!」
ジークが空になったジョッキを高々と掲げ、はしゃいでみせる。
酒場のお姉さんも元気よく返事を返してくれた。
俺がこの街で冒険者を始めたのは十七歳の時だ。
その頃は、先輩だったジークの背中がより大きく見えた。
追い越してしまった今は、少し寂しくも思える。
「私もレイヤ5目指そうかな……」
「えっ……?」
フレンは、上目遣いで俺を見ながら呟いた。
フレンはこういう所があざとい。
思わず目を逸らしてしまう。
「前から気になってたんだけど、レイズがそんなにレイヤにこだわる理由って何かあるの?」
「それは……あるけど秘密だ!」
「え~? それじゃあ、私がレイヤ5まで上がったら教えてよ!」
本当は、クリスという幼馴染みの女の子を追いかけてるなんて、そんなことフレンに言えるわけがない。
適当な相槌を打って誤魔化すので精一杯だった。
一時間くらい経っただろうか、俺たちは良い気分で店を出た。
冬の夜は寒さが厳しく、酒で暖まった身体もすぐに冷えてしまう。
「ひえ~、やっぱ寒いねー」
もう一軒行きたそうなジークを尻目に、俺とフレンは帰路につく。
明日だってあるのだ。
そんなに遅くまで、遊び歩くわけにもいかない。
その時、地面が揺れる程の強烈な爆発音が響いた。
何事かと、身体の筋肉が硬直する。
隣のフレンも盛大に驚き、尻もちをついた。
「何だアレ……?」
俺たちの後ろにいたジークが、呟くように言った。
漆黒の闇を星々が照らす冬の空。
東の空だけが赤く染まっている。




