第一羽 無敵の鬼
初めまして。読んでいただきありがとうございます。
本作はペンギンたちが文明を築いた世界での戦争を描いた物語です。
学業の関係で不定期更新になりますが、基本的に毎週日曜日の20時に投稿していきます。
崩れた壁や鉄骨は、いつからか人類が生きていた最後の痕跡となった。それさえも理解できるものは、すでに雪の屍とともに凍りついてしまった。
黒が波紋のように広がったあの日から、世界はまるで夕凪のように沈んだ。それを人類が扱うにははやすぎた。空を曇らせ、大地を変え、生き物さえも選別した。生き残ったのは、適応したものたちだけ…
ペンギン。
人類はそう呼んでいた。彼らは極寒の地を耐え抜き、人類の兵器をも奇跡的に退けた。
やがて彼らは、黒を扱う術を手にし、国家を築き、
再び世界を分かち始めた。
そして今、再び築き上げた均衡が内側から崩れようとする…
猛烈な吹雪の音が、通り抜けるように廊下に広がる。だが軍施設には異様な静けさがとりまいていた。足音は全く消えてこないが、静けさのおかげか鬼の気配が目に見えて分かった。
迫るのは、1羽のペンギン。
いや、違う。
あれは“鬼”だ。
「くっ…くるぞ!」
「わっ…分かってる…目を合わせるな」
兵士たちはそよ風のように小さく囁き、突風に押されたがごとく壁際に寄った。だが当の本人は気にする様子を全く見せない。何も感じていないように。背おっている銃が鈍く光る。
扉の前でその足は止まった。-第零師団-と書かれた金属板は、既に錆び始めている。兵士たちは冷たい気配が消えると安堵した。
部屋の中はほとんど空っぽ。他には誰もいない。ここにはたった一羽しか籍を置いていない。
大金艮帝国陸軍第零師団不死大将
柏木・禹廻神
神でさえ彼を恐れるだろう。まさに邪神。
「無敵の鬼」…いつからかそう呼ばれるようになった。
食事の時間になると決まって、外にはトレーが置かれる。しかし部屋の中には決して入れない。禹廻神は、何も言わずそれをとり、口に運ぶ。作業。彼の行動には、全く無駄がない。ほとんど食べ終えた頃に、閉ざされた扉が開いた。
「おっ、あいかわらず食うのが早いな」
入ってきたのは、灰堂・光留。この基地で唯一、禹廻神の部屋に入る存在であった。
「はい」
短い返事は風によってほとんどかき消された。灰堂は部屋を見渡すと、ため息をついた。
「…変わらないなお前は」
1つしかない椅子に重い腰をおろす。部屋中に風の叫びが響く中、灰堂が口を開く。
「なあ…」
どこに向いていたか分からなかった目線が灰堂に向く。
「お前はどう思う?」
「何がですか…」
「お前は気づいてるだろ」
灰堂の声は、わずかに震えていた。
「戦争に行くことは怖いか?」
禹廻神は考えたことのない話題に困惑する。だが答えは即答だった。
「分かりません」
「そうか…」
再び風の叫びが部屋を独占する。
そのとき、小さな振動が禹廻神に伝わった。
「始まった」
爆発音。自然と風が弱まる。だが禹廻神は全く動じない。その目はもう戦場にいるかのようだった。
灰堂はその様子を見て、低く言った。
「戦うな」
禹廻神にとって予想外の言葉だったが、大切なのは…
「それは命令ですか?」
「違う」
灰堂少し食い気味に言った。
「では戦いには、行きません」
それは誰の意思かは分からない。命令でなければ従う必要がないと考える禹廻神にとって、それは初めての選択であった。
その頃、別の場所では会議が開かれていた。長い机が窮屈に見えるほど緊張した空気が漂っていた。そこには各国の代表が自信満々に並んでいる。
平次箱協定
ペンギンズ地方、幸、毒沼地方
三辺同盟
大金艮帝国、大海底連邦、ブラックテリト
拮抗した同盟がありながら、互いに目線は交わらない。それだけでこの場の関係が分かる。世界は、すでに二つに割れていた。
「ここで争う理由は全くない」
ペンギンズ地方の代表が冷静に言い放つ。幸や毒沼地方の代表たちも自然と頷く。
「それでお前たちの過去の行いが、消えると思っているのか!?」
過去の敗北を引きずるような低い声だった。大海底連邦率いる、三辺同盟も譲らない。会場全体がざわめくなか、背後には黒い影があった。
禹廻神。誰も彼を見ようとしない…いや、見ることができない。
そんななか一羽のみ、鬼に目を向けていた。
「あれが例外…か、鬼とはうまく言うな」
ブラックテリトの使者が小さく囁く。
会議の後、禹廻神は静かに廊下を歩む。
「なぜここにいる?」
背後から声がした。全身黒ずくめ…ブラックテリトのスパイだった。
「意味が分からないです」
はやく終わらせたいのか、めんどくさそうにふるまう。
「お前は戦はないのか?」
「はい」
簡潔に答える
「恐ろしいのか?」
「違います」
「じゃあなぜだ」
答え方に少し困ったが、それはすぐに終わる。
「行くなと言われたので…」
スパイの顔が歪んでいく
「なんだそれ?鬼は他人の言葉で止まるのか?」
心の中でスパイは嘲笑したが、顔には出さなかった。
爆発音はどんどん大きくなっていく。
それはどんどん迫るように聞こえてくる。
禹廻神は動かない。
命令ではない。
従う必要はない。
ただ、止められているだけ。
「命令は…ない」
三辺同盟の大金艮帝国、大海底連邦、そしてブラックテリト。
平次箱協定のペンギンズ地方、幸、毒沼地方。
戦争は、すでに始まっていた。
続く…
ここまで読んでいただきありがとうございました。
よければ感想・評価いただけると嬉しいです。
次話ではいよいよ戦場の様子が描かれます。




