1-7.ソードマスター・美緒
カニールに美緒を連れ去られて、雅則より先にルセールと異世界に転移した
悠介はレトロな街並みに感動した。
「勢いで来てしまったけど。・・綺麗なところだ。アニメでもゲームの世界でも、
異世界といえば古い街並みが多い」
「ここは私たちの世界のエランデルという国だ」
「いいところに住んでいるな」
「悠介たちの世界のような自動車のような乗り物や電気もない。コーヒーのよう
な飲み物もな」
「なければ無いなりに過ごすことは出来る。・・それどころじゃない。美緒ちゃん
は何処だ」
「カニールと一緒じゃないの?」
ルセールが当然のようにこたえた。
「そのカニールは何処だ」
「彼らは住所不定だからね」
「探さないと・・」
悠介は街中に飛び出した。
◇
美緒はカニールに異世界のエランデル国に連れてこられた。
「レトロで綺麗な街」
美緒も異世界の街並みに感動していた。
「このような街並みのある風景を見にヨーロッパ旅行をしてみたかったのよね。
って、それどころじゃないわよね」
「姫。この国で一緒に暮らしてほしい」
「姫?」
美緒はカニールに姫と言われた。
「もうすぐエランデル国の王族を滅ぼします。そうしたら女王として迎えます」
「女王って、普通、こういう場合は、あなたが王様になるんじゃない?」
「私は姫と一緒に暮らせるなら、姫に仕える身でもかまいません」
ルセールは言葉遣いも丁寧に、美緒に片膝ついた。
「お姫さまから女王に?・・悪くない話だけど、ずっとこの世界に居ろという
ことよね」
「はい」
「やっぱり遠慮しておくわ」
街が騒然となった。
「大魔獣が城に向かっている」
カニールが
「あの魔獣は俺に従う。城を襲って王族を追い出す。そして姫が女王に・・」
と嬉しそうに言った。
「たぶん、上手くいかないと思う」
「え、なぜ?」
「彼がきっとここに来るから。そんな気がする」
美緒は雅則が自分を追いかけてこの世界に転移してくることを期待していた。
「彼とは誰だ。もしかして、俺の剣を蹴り落としたあいつか?」
それは悠介のことだった。
「他にも居るのよ。魔獣を倒した人が」
美緒は、雅則が現れた魔獣を倒した話を悠介から聞いていた。そのときは
「夢でも見ていたんじゃないの?」
と取り合わないでいたが、魔獣が本当に目の前に現れた時は驚いた。
「そんなやつが・・しかしあの魔獣は倒せない。あの魔獣は聖剣でないと
倒せないんだ」
「聖剣?」
「その聖剣を俺が城から奪ってきた」
カニールは奪ってきた聖剣を美緒に見せた。
「これでないと、あの魔獣は倒せない。だから奪った」
「何かアニメの世界のような展開ね。その聖剣を渡しなさい」
美緒はカニールに手を突き出した。
「この聖剣は俺でも使いこなせない。ソードマスターでないと。だから俺は
ソードマスターになろうと決めたんだ」
「なおさら持たせておくわけにはいかないわね。私に渡しなさい」
「意外に気が強いんだね。気が強い女は苦手でね。城を奪うまで大人しく
していて」
「あなたが城を手に入れても、私の性格は変わらないわよ」
カニールが美緒を捕まえようと手を出してきたとき、美緒はカニールの手を
とってひねると背負い投げで投げ飛ばした。
「護身術を習っておいてよかった」
美緒は聖剣を手にした。
「聖剣を返せ」
カニールが起き上がると
「え、なに?・・」
美緒が握った聖剣が光りだした。
「え、まさかソードマスター?」
「私が?・・確かに中学生時代から剣道は習っていたけど」
「とんでもない女を拾っちゃったな。聖剣を渡せ。今なら許してやる」
「あなたが許しても私は許さない」
美緒は聖剣をカニールに突きつけるように向けた。
カニールは持っている剣で美緒に襲い掛かった。美緒は身をかわすと
振り向いたカニールの剣を払い落とした。
「その程度でソードマスターになるって?」
「き、切るな! 俺を殺せば魔獣を制御出来なくなる」
それを言われると、美緒は何もできなかった。だが・・
「魔獣が消えたけど」
「そんなばかな・・」
カニールは
「せっかく魔獣を召喚出来たのに」
と言い残して逃げるようにどこかに行ってしまった。
「ちょ、ちょっと・・」
美緒は一人にされた。街には人は居るが、誰も知る人はいない。
「ここはどこ・・私は誰・・かはわかるけど・・」
美緒は街路に出てさまよった。
「私、どうしたらいいの?・・これ、もしかして夢?・・夢ならまだ覚めな
・・いでいいか」
途方に暮れようとしたとき
「美緒ちゃ~ん!」
遠くから美緒を呼ぶ声がした。近づいてくるのは悠介だった。
「悠介さん?」
「よかった。無事だった」
悠介が美緒を見つけて駆けてきて安心したような顔で言った。美緒も
「心細かったぁ」
悠介の胸に飛び込んだ。
「ええ!うれしいけど・・だ、抱いていいのか?」
「駄目」
「やっぱり」
「追いかけてきてくれたの? ありがとう」
美緒にまた抱きつかれて
「だから、抱いていいのか?」
「まだ駄目。・・雅則くんは?」
「こっちの世界にはまだ来ていないかも。ナナちゃんと一緒だと思うよ」
「あの野郎・・」
「え?」
美緒の顔が怒りの形相に変わった。
「抱いていいわ」
「マジ!・・カニールはどうした」
「私から逃げていったわ」
「は?・・わかるような気がする」
「どういうこと? って、それよりここは何処なの?」
「ルセールの住む世界らしい。つまり俺たちの世界からすれば異世界になる」
「え、まじ?! ほんとうに異世界に来たというの?」
悠介は美緒を連れてルセールのところに戻った。
「良かったねぇ、見つかって」
ルセールは他人事のように言った。
「ルセール。もともとあんたが魔獣を俺たちの世界に転移させたのが、事の始ま
りだからな。・・きっと」
「だって・・どこかに転移させなけりゃ、エランデルが危なかったんだもの」
「ルセールさん。元の世界に戻してくれうr?」
美緒がルセールに頼んだ。
「そうしたいんだけど、すぐには無理」
「え?」
「マジックライフが溜まらないと」
「そう・・ええ!」
「一人でも一往復すると、しばらくは転移出来ないのさ」
「そんなもん?・・じゃあ、それまでどうすれば・・」
「向こうでお世話になったから、今度は私が世話してあげるよ」
「よろしく。放り出されても困るからな」
悠介も素直にルセールの世話になることにした。
「ところで美緒さんの持っているのは、もしかして聖剣?」
ルセールに聞かれた。
「はい。カニールがお城から奪ったものらしいですけど」
「それを奪い返してくれたんだ」
「まあ、そうなりました」
その聖剣は美緒から離れようとしなかった。
「もしかして美緒さんはソードマスターで、マジシャンの可能性がある」
「マジシャン?」
「魔法を使える者を魔術師というが、マジシャンという言い方をする者もいる。
明日、ギルド協会に行ってこよう」
「なにギルド協会って」
「詳しい話は明日、案内しながらするよ」
「もしかしてルセールも雅と同じめんどうくさがりやか?」
◇
一方、お城のほうではナナがリーダーのイミールに報告していた。
「あの勇者が異世界に転移した魔獣も倒してくれました。それで彼と帰ってきた
んです」
「お手柄だったわね」
「向こうで勇者と仲良くなっちゃって。凄いんですよ向こうの世界って。お城
より高い建物がいっぱいあって、馬車より早くて乗り心地のいい乗り物もあって
・・ルセール様も戻っているはずです」
ナナとイミールはランスロットの許可をもらってルセールに会いに行った。
そこに美緒と悠介も居た。
「美緒さん、無事だったんですか?」
ナナが安心した顔をした。
「カニールというやつ、案外弱くて・・」
「よかった無事で。私も雅則さんを連れて戻ってくることが出来ました」
とナナがルセールに報告していた。
「やっぱり雅も来ていたか。で、彼は?」
悠介に聞かれて
「雅則さんはお城に現れた魔獣を倒して王宮に呼ばれて王と会っているはずです」
とナナが嬉しそうにこたえた。
「そう。・・向こうは王宮で、俺たちは城下街ね。・・この差は何なんだ。って、
紹介してくれる?」
悠介はナナとやってきた女性兵士が気になっていた。
すると女性兵士は
「私は衛兵隊魔法戦士隊のリーダー、イミールと言います」
と自己紹介した。
「やっぱり衛兵隊の女性の制服は、下はミニスカートなんだ」
と悠介はイミールの身なりを見て言った。
「やっぱり、そこに目が行くのね」
美緒はあきれるように言った。
「その剣は?」
イミールが美緒が持つ聖剣に気づいた。
「これはカニールが城から持ち出したものらしいんですけど、取り返しました」
美緒がこたえると
「え、あなたが?・・」
とイミールは驚いた貌をした。
「はい」
「もしかして、彼女も勇者のように強いんですか?」
イミールがルセールに聞くと、悠介が
「気の強いのは間違いない」
とこたえた。
「それ、褒めてないから」
美緒がタイミングよく突っ込む。
「返してもらえますか?」
「はい。どうぞ」
美緒は聖剣をイミールに渡した。だが聖剣はイミールの手から消えた。
「え?・・もしかしてあなたはソードマスター?」
イミールに聞かれて美緒は戸惑った。何を言われているのか、まだ理解出来
なかった。
「聖剣を出してみて」
イミールに言われて、どうやって? と思いながら念じると、聖剣が美緒の
手に現れた。
「何なのこれ・・」
と驚く美緒にイミールが
「聖剣は自分がソードマスターと認めた者に使われようとします。異世界から
来たソードマスターに敬服します」
と言った。
「マジ・・でも、ソードマスターってなに?」




