幕間・宮條の作曲作業
正午。羽瀬と新井がレッスン場で自習を行っている間、俺はオフィスのPCで作曲用のソフトを使っていた。
マウスを使って音符のバーを次々と設置していく。作業効率はあまり宜しくないものの、俺にとってはこの手法で慣れてしまっていた。
両耳には一応、事務所支給のヘッドホンを着けている。だが……。
「ふむ、こんな風に作曲してるのか」
「す、すごごごごごニャー」
左からは顎に手を添える杉並社長、右からは音符やトラックの多さに混乱する猫田。
彼らに見られながら、ヘッドホン越しに声が聞こえながらの作業は、更に効率が下がってしまう。俺はやがて動揺してきて、ヘッドホンを外し、
「集中できない、横から見るな……」
そう指摘。しかし、それでも懲りない二人は、まじまじとその画面を見つめている。因みに、猫田の件は既に杉並社長に話しており、顔合わせもしていた。
「今回は、どんな曲を作ってくれるんだ?」
「タイトル! タイトル教えてにゃ!」
「騒がしい……。社長に頼まれた通り、クールかつユニットらしさ溢れる曲にする。それ以外は秘密だ」
「エー!!」
実際にない耳やしっぽを下げるように、分かりやすく気分を下げる。しかし、諦めなかった。
「やだー! 教えて教えてにゃー! タイトルタイトルー!!」
「――黙れ!!」
思わず、デスク上の装飾である3色の球体の中から、黄色いものを投げる。
「ニャア――――!!」
床に向かって転がるそれに対し、猫田の本能が暴走した。
小さなボールに接近し、手でバタバタと動かして遊ぶという、何とも幼稚な行為。その際、彼の瞳孔が細くなっている錯覚が見えた。
「……アイツ、まさか本物の生まれ変わりか……?」
「実際そうかもしれないな、ハハハ」
冗談交じりで言っていた杉並社長。しかし真面目にそう呟いた俺は、本気で疑っていた。
「ところで、一ついいか、宮條」
「? 何です」
目上の人に対し、敬語に切り替える。
「……芸術やプライドは、時に対立するものだ」
「…………」
「だからこそ、猫田君とは仲良くやってくれよ」
杉並社長は真剣な眼差しで、忠告するように言う。まるで良くない事の前兆のように。しかし直後、頬を緩めた表情を見せると、俺の肩をポンと叩いて立ち去っていった。
「対立、仲良くか……。どうせ猫田とは、たった一度きりの縁だけどな」
しかし今の彼に、その言葉は通用しなかった。今の独り言は決して社長にも、ゴロゴロ床に転がっている猫田にも、聞こえてはいけない俺の本心だった。




