Re:影
こんにちわ
一話投稿からだいぶ経ってしまってまじなんだこのやろうと自分でも思っております。
まだまだつたない部分も多いですが、コメントなど気軽にお願いします
誤字脱字がありましたら是非報告してください
嫌な夢を見た。
とびっきりに嫌な夢だ。
私は布団から飛び起き、辺りを見回す。
全身真っ白で全裸、顔によくわからないタトゥーをいれた、目も鼻も口もない変な奴に延々と話しかけられる夢。
私の着ていたパジャマは汗で体にへばりつき、髪の毛なんて重力に対してとんでもなく反抗期だ。ちょっとしたキューティクルの欠片もみあたらない。
とんでもなく不愉快。
本日は最高に最低な気分からのスタートだ。
私は少しでも気分をリセットしようと伸びをし、カーテンを開けて部屋に朝の清々しい太陽光を浴びせた。
「シャワー……」
誰が聞いているわけではないが、つぶやいた言葉は部屋の中に吸い込まれていくようだった。
変な夢のせいで普段より少し早く起きてしまったため、今日はゆっくりシャワーに入れそう。携帯の画面とにらめっこしながらそんなことを考えているのだった。
シャワーから出てくる温かいお湯で指先から順に体を濡らし、それに包まれる安心感で心を落ち着かせていた。
朝風呂はやっぱり気持ちいい。汗をかいたあとだと特に。
私は顔と髪を洗い終え、絶賛ボディウォッシュ中である。
どこから洗うか?教えません。
そういえば朝お風呂に入ると入らないでは、入った方が断然いいらしい。集中力が上がるとかなんとか。
実際のところどうなのかは私がこれから検証しようではないか。
よし、今日の目標ができた。
と、いうのも、私は今の生活に満足していない。不満足度80%くらい。
残りの20%は今のように一日の目標を無理やり立ててそれを達成する。というようなことをしているのだが、それも満足というには荷が重すぎるような気がする。
だからといって趣味があるわけではない。作ろうとしたことはあるのだ。ゲーム、読書、スポーツ。
どれもやはりピンと来るものはなかった。
まだ18年しか生きていないのだがこれからの私は華のある人生を送ることはできないのではないか、と心配になることも少なくはなかった。
しかしこんな私でも憧れているものはある。
それは恋。
言ってしまえばそれの最終的な道の先には種族の繁栄という目標があり、ただの男女間のまぐわりがそこにはある。
そう動物的に考えることは実に簡単で単純だ。
しかし人間というものはそこまで単純な生き物ではなかった。
それは甘酸っぱい、学生の通る道であり、思いを告げるのもよし、片想いでいるもよしといったまさに青春の代名詞なのである。
にも関わらず、私はそれをしたことがない。告白なら何度かされたことがあるのだが、それもよくわからなかったため、申し訳ないが砕かせてもらった。
溺れるような恋をしてみたいと思ったことは一度や二度ではない。
なにも学生に限った話ではないのだが、私だって思春期だ。
私は進学するつもりだが、大学生になってしまうとそれはもう“大人の恋”に分類されてしまうのではないだろうか。
そんなことばかりを考えていると、学校に行くのがいっそう憂鬱になる。
私は自分の顔に手ですくった水を勢い良く叩きつけ、気分をリセットさせた。
シャワーから上がり時計を見てみると、いつもなら私がまだシャワーに入り始める時間だった。少し安心した私は念入りに体についた水滴を拭き取り、通っている高校の制服に腕を通した。
マイナスイオンの出るタイプのドライヤーの温風は私の髪の毛をこれでもかというほどになびかせている。もちろん手でおさえてはいるが。
マイナスイオンという名前は聞こえがいいが、私はマイナスという部分が気に入らない。髪の毛にいい成分だというならばなぜマイナスなのか。プラスイオンでもいいのではないか?
だが私はマイナスイオンというものを負の電子を帯びた微粒子ということを知っているし、プラスイオンがよくない物質だということも私は知っている。
どうしてプラスの癖に悪いんだ。化学者からいわせてみればいろいろな事情があるのだろうが、化学的な知識があまりない私たちからするとプラスがマイナスでマイナスがプラスだ。
これくらいならまだいいのだが、浅い知識というのは恐ろしいものだ。
水銀や亜鉛などを体内に入れると危険だということくらいは誰にだって、それほどの知識を持っていない私にだって至極当然の事である。
しかし具体的にどう体によくないのか説明しろと言われると、説明のしようがなく、憶測で話すことしかできない。
だからそれが生活に何か支障をきたすほどの無知であるかというとそうではない。
“それは危険だ”という事実があれば私たちはそこまで追求しようとはしない。その事実が当たり前になり、そこから先を求めるのは化学者の仕事なのだから。
つまり彼ら化学者が謀反を起こし、嘘の情報を私たちに渡した場合、知識の浅い者たちは少なからず犠牲になることになる。
◇◇◇◇
今日の朝ごはんは昨日の晚ごはんののこりもので、ハンバーグだった。
いやいや、朝からデミグラスソースかけるのは流石に胃がもたれるんじゃないかなぁ。
口には出さなかったが、私がちょっとむっとしていたのをお母さんは見てはいなかったようだ。
とはいってもこれしかないため、私は仕方なくそれを口にした。
おいしかった。
◇◇◇◇
「いってきます」
歯磨きをし、コンディションもバッチリになった私は今日初の外出を遂げることに成功した。大げさだって?これくらいがちょうどいいの。
外はまだ肌寒く、吐いた息が白くなるほどであった。
春というにはまだ少し早いのかと感じさせられる。
いつものように玄関の母に手を振り、高校に足を運ぼうとした時だった。
一つの違和感が生じたのだ。
普段さほど気にしているわけでもないのだが、あって当たり前だったはずのもの。
だからこそ、なくなった時の違和感はとてつもないのである。
違和感の正体は実に単純、それでいて不可解なものだった。
私の苗字が書かれた表札がなくなっていたのだ。
それにただなくなっていたのではない。跡形もなくなっていた。まるでそこには元々何もなかったかのように。
いたずらかとも思ったが、誰も得がしないうえ、こんな綺麗に外せるはずがないため、その考えは破棄された。
「お母さん、うちの表札は……?」
突然動きを止めた私に少し動揺したお母さんに問いかける。
お母さんが小走りこちらへ向かい、それを目の当たりにした。
「……いたずらかしら」
やはり親子の考え方は似るものなのかと実感する一言だ。
「それはないんじゃないかな。普通こんなきれいにはがせないと思うの」
「……わかったわ。警察に電話しておくから、アンタは学校行きなさい。」
お母さんが妙に冷静なのが気にはなったのだが、とりあえずは従うことにした。
よくよく考えたら表札がなくなることくらい、郵便屋さんが困るというだけでそれほど生活に支障のあるものではなかったのかもしれない。
本当にそうかな。
それでもまだなにか引っかかることはあったが、それがなにかを私の脳では理解することができなかった。
きっかけがあればすぐにでも分かるような、だからといって簡単に見つかるきっかけでもないような、それくらい曖昧な引っかかりだった。
しかし今そんなことを考えたところでどうにかなるわけではない。
私は表札があったはずの場所をを少し見つめてから学校へ向かった。
◇◇◇◇
通学は徒歩で30分の通学路をいつも通りに歩く。住宅街を抜けてからは商店がぽつぽつあるくらいでほとんど何もないといっても過言ではないような道だった。私はそんなこの道を気に入っている。
表札のことについてはできるだけ考えないようにしていた。
すぐに警察が解決してくれるだろうと、甘い事を思っていたからだ。
学校が見えてきた。
なにもない道を越えた先にはちょっとした街があり、その街の入口付近にあるのが私の学校である。
学校の校門辺りで通学した生徒が立ち止まっているので何が起きているのかと思い目を細める。
校門前に生活指導の先生らしき人が立っているのが私の目に映り込んだ。どうやら抜き打ちで持ち物検査をしているらしい。
近づくにつれて学校の賑やかな声が聞こえてくる。
「小鳥遊ィッ!!!! 何だこの本は!! 没収だ!!」
「ぎゃァァァァッ! 俺の宝物がァァァァッ!! ……先生そんなこと言って実は隠れて見るつもりじゃn痛ってぇ!!」
男子生徒がいかがわしい本を没収されて悲痛な叫びをあげているのが少しおかしかった。
私は特に何かまずいものを持っているわけではないのだが、避けて通ろうとしている。
しかし校門はそれほど広いほうではないので、どう隠れていこうとも確実に先生のいる位置からは見えるのである。
だが、そうしてしまうのは学生の本能だろうか。
私が校門をこっそり通ると、良い意味でも悪い意味でも男女平等な先生の怒号が当然飛んできた。
────否。飛んでくるはずだったのだ。
「え?」
先生は私に見向きもせず、ほかの生徒の持ち物検査を続けている。
私、通っちゃいますよ。いいんですか?
少し先生を見つめてみたがなおもこちらに気づくような様子は見られない。
まぁ、ラッキーなこともあるものだ。そう思うことにした。
ちょっとした違和感を抱えつつも、私は校舎内に足を踏み入れた。
高校3年生の私はもう入試などのことは終了しており、後は卒業を待つだけのちょうど落ち着いてきた時期に入り始めている。
クラスの人達もほとんどの人が卒業後の進路が既に決まっていた。
この期間は最後の思い出作りみたいなものなのだろう。
みんないつもと変わらない表情をしているが、何を考えて今を過ごしているのか。
もしかしたらなにも考えていない人だっているかもしれない。
私はというものの、今日はあるが、入学当初に立てたAO入試合格という大きな目標を既に達成してしまったため、本格的にすることがなくなってしまい、退屈でつまらなくなってしまっていた。
私ももっと青春を謳歌したかったなぁ。
私は机で伏せながら思い出の記録を1ページずつめくっていた。
気がつくと、1時間目の授業が中盤に差し掛かっていた。
黒板には教科書の内容を崩して多方面から考えることについて途中まで書かれているのが見え、私の二つ前の席の生徒が教科書を朗読している。現代文の授業だ。
どうやら私は眠ってしまっていたようだ。
理由は明白、朝起きるのが早すぎたためなのだろう。
あの真っ白全裸のせいだ。次夢に出てきたらぶっとばしてやろうか。
……いや。
私はまたもや異変に気づく。
普段、この先生は居眠りなどしていたら軽く引くくらいに大きな声で起こすのだ。
ましてや1時間目から居眠りなど言語道断。
なぜ私は起こされなかったのだろう。
「次、春日、読んでくれ」
「はい」
そんなことを考えている余裕がなかった事を思い知らされるのに時間を有する必要はなかった。
今呼ばれたのは私の前の席の生徒なのだ。
やばい。この流れだと確実に次に読むのは私だ。
私は迅速かつ静寂を保ちながらリュックの中から現代文の教科書を取り出し、視線だけを絶対にバレない程度にこっそりとなりの机に向けた。
…………164ページか。
そして今朗読している部分を見つけ出す。
ここまでにかかった時間約2秒。
…………くらいだといいなぁ…
まだ見つけられていない時点で既に10秒は経過しているだろう。
そうこうしているうちに、前の席の生徒、春日さんの朗読が終わってしまった。
これはもう仕方がない。諦めて素直に謝ろう。
そう思っていた。
「では、次を───」
「先生、すみま」
「──吉井、読んでくれ」
「……せん……?」
え?
私の声は寝起きであまり大きくはなかったため、先生にはどうやら聞こえていないようだった。
それよりも、今呼ばれた生徒は私の後ろの席の生徒だ。
私はとばされたのである。
もしや居眠りしていた私に呆れて何も言わなかったのであろうか。
おそらくそれはないだろう。
私が授業で居眠りをするのはこれが初めてだからだ。
初めてだからいいというわけではないのだが。
ならばどうしてなのだろうか。
私がたどり着いた結論は単なる見間違えだった。
そうとわかれば私はすぐに次の行動に移った。
「先生。私読んでません」
私は挙手し、先生に見やすいように発言する。
「……ん? お、おぉ。もう一人いたのか。すまんすまん」
先生は教卓に置いてある座席表と私を交互に不思議そうに見ていた。
私は嫌な予感がしていた。
◇◇◇◇
授業が終わると、私はまず教卓へ向かった。
座席表を見るためだ。
たったほんの少しの距離が今の私にはとてつもない距離に思えた。
そうこうしてやっとの思いで教卓に辿りつくと、置いてある座席表を手に取る。
手が震えて、見るのが恐ろしかった。
深呼吸をし、自分の座席が書いてあるところを見ると、すぐにそれを置いて私は教室を出た。
それは私の想像以上の代物だったのだ。
本来クラス全員の席が表示されているはずの一覧表には、私の名前が書かれた席などなかった。
それだけではない。
私は自分の名前を思い出すことができなかったのだ。
頭の中が真っ白になった。
あれ?どうしたんだろう。
この事態を理解しようとしても頭がうまく回らない。
今日の目標はどうやら達成できそうにないらしい。もう集中力がどうと言っている場合ではなくなってしまったからだ。
最初に考えついたのがこれだった。
今、どこへ向かって歩いているのかわからない。
廊下の騒がしささえも今は聞こえなかった。
それだけ頭がいっぱいいっぱいになっていたのだ。
────否、頭がからっぽになっていたのだ。
「おっと」
視界が突然暗くなり、私は目が覚めた。
暗くなったのに目が覚めるというのはいささか不思議な話だが、その理由ははっきりしていた。私の体に衝撃が加わったのだ。
つまりぶつかった。足取りがおぼついていなかったのだろう。そしてぶつかった対象が無機質な音ではなく、私に伝わる言語を発しているということは、人。声的に男性にぶつかったということだ。
クリーム色のカーディガンを着た、爽やかそうな生徒だ。
ぶつかったというより、ぶつかる前に彼が私の肩を受け止めてくれたため結果的には彼氏に抱きつきに行った彼女に見えなくもないことになってしまったのだが。
「あ……」
「あんた大丈夫か? 顔色がすげぇ悪いぞ。あ、もしかして保健室行く途中だったとか?」
私は心配してもらったことにとても安堵していた。
私の存在を認識してくれたから、だ。
名前が思い出せないだけで私は今ここにいるんだ。存在しているんだ。
そう思えたからだ。
それがわかると私は体の力が抜け、その場に座り込んでしまった。
「お、おい? 大丈夫……じゃないっぽいな……よいしょっ」
彼は私に心配の言葉をかけてくれた。
そこまではいいのだが、言い終わるか言い終わらないかのうちに、私は彼に抱き抱えられていた。
「えっ、ちょ、大丈夫っ!」
「嫌かもしれないけど我慢してな、すぐ保健室着くからさ」
私を抱き抱えたまま小走りで保健室へ向かう彼を振りほどこうにも力が入らなかった。
まぁ今振りほどいたとしても私が落ちるだけだし。
いくら病人(それも彼の勘違いなのだが)とはいえ初対面の女子をお姫様抱っこで保健室へダッシュとか。
助けられている身で言うのもなんだがおんぶとかでもよかったんじゃないかな……
私は考えていた。
まだ確証は持てないが、今日の一連の出来事は朝の夢が関連しているのではないか、と。
もしも仮にそれが現実の出来事であったなら──白ずくめの変態の言っていたことの辻褄が合うのだ。
存在が消えてなくなったら、とアイツは言った。
生きがい、とアイツは言った。
プレゼント、とアイツは言った。
「……冗談じゃない」
「ん? なんか言ったか?」
心の中で言ったつもりがどうやら声に出ていたららしい。
ちょっと恥ずかしい。
私は顔を隠した。
「なんでもない」
「……なんでもないならいいんだ」
くそ、なにがプレゼントだ。
しかし私が保健室に連れていかれるのはある意味では好都合だったのかもしれない。確認したいことがあるのだ。
◇◇◇◇
「よし、着いたぞ」
思ったより早い到着だ。学校の中だからそこまで遠いわけでもないのだが、私の学年の棟は一番保健室には遠い位置にある。それ故の意外さである。
彼は私を抱き抱えたまま保健室に入室した。
「失礼します」
なんの苦でも無さそうにドアを開けたところをみると、彼はなかなか器用なのだろうか。
それはさておき、だ。
「あ、トウヤちゃんまた来たの〜?……あら、また人連れてるじゃない。あんたもお人好しね〜」
「ほっとけねーんですもん仕方ないでしょ」
すこしブラウンがかかった肩まで伸びた髪の毛に、深緑のタートルネック、その上から白衣を着用している。可愛いというよりは美人と言う言葉が似合う顔立ちをした先生と彼は旧知の仲のように話し始めた。
聞いていると彼はしょっちゅう病人を見かけては私のようにここに連れてくるらしい。
私だからとかそういうことではないらしい。
……本題に戻ろう。
私は彼に下ろしてもらい、先生が私に何かを聞く前に言った。
私の目的はこれだ。
「先生、生徒名簿を見せてください」
「ん……いいけど〜、何に使うのかしら〜?」
「ちょっと確認したいことがあるんです」
先生から名簿を受け取ると、私は3年4組、自分のクラスの欄を見た。
表札と座席表の時点でもう既にほぼ確信はもっていたのだが、もしかしたらなにかの間違いかもしれない、と心の隅では思っていたため、最後の確認、もとい最後の砦として見ておきたかった。
しかし最後の砦はあっけなく崩れ去ることになる。
そして私は予想が当たってしまったことに絶望した。
3年4組 生徒数34名。それは私を抜いたクラスの人数。
名前を検索しようにも思い出すこともできない。
そう。
私はこの日、名前を失ったのだ。