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3.はいはい、ハーレムハーレム……って、いい加減にしやがれっ!!

 ……すみません。取り乱しました(AA略

 バカ共がウザくって……っつーか、胃が痛い……



 天気は晴れ。ギシギシと揺れる馬車。王都を旅立って三十日、のんびりしたペースで旅を続けてきた。途中で通過した街は一つ、村が九つ。本来、この距離なら二週間もあれば通り過ぎている。

 早く魔王を倒す為に先を急ぐべきなのだろうが、勇者様は今のままではレベルが足りないという。

 レベル30で近衛騎士の誰より強くても、確かにこれでは魔王に勝てないだろうな。魔王のレベルがどれくらいあるのかは知らないが。

 故に、途中で現れるザコを狩りながら進んでいたわけだが、少々納得したくない状況にあるんだわ。

 それは、馬車の行く手を遮るように魔物が現れても、その悉くをシュヴァルツが一撃で倒してしまい、勇者様達の出番がないのである。勇者様の出番は、魔物の集団が分散・連携して襲いかかってきた時だけなので、その回数も七回しかなかった。

 尤も、勇者様達は馬車に引き篭っているようなものなので、シュヴァルツが小物を数多く退治しているのを知らないという事情もあったりするし、そもそもザコ如きに勇者様方が出てくることがないのだ。何故なら、勇者様達のレベルでは経験値が入らないという事情(お約束 )がある。

 おかげで代わりに退治しているシュヴァルツのレベルが上がること上がること。

 レベルアップの時は、なぜか頭の中にファンファーレが鳴るので、シュヴァルツ達はそれが煩わしいのか、頭を上下左右に振るから見ていてすぐに分かるんだ。俺は頭は振らないがな。

 勇者様達には内緒なんだけど、王都を出発した時点でのシュヴァルツのレベルは24だったのが、わずか三十日で37にまで上がっている。つまり、すでに勇者様を抜いていたのだ!! このチート馬め!

 因みに、俺とセシー・イープまでもがレベルアップしている。俺が4から19に、セシーとイープが3から18に。

 どうやらシュヴァルツとパーティーを組んでいるという扱いになっているようだ。

 だから魔物を倒すたびに、お金とアイテムが俺の魔法袋と荷馬車に蓄えられて行くし、経験値も入ってくる。俺とセシーとイープは戦っていないし、魔物を倒してもいないんだけどな~。


 そう、経験値が入ってくるんだよ、今だに。なぜか。おかげで体力が付いて疲れにくくなってきている。セシーとイープも出発した頃に比べて脚が早くなってきているんで助かってはいるがな。

 普通なら、レベルが上がると必要な経験値が多くなるか、同じ魔物から受ける経験値が減るかするものなんだが、どちらもさして変わらない状態が続いているような感じがする。

 具体的にいうと、レベル14の時点でスライムを二十匹倒してレベルアップした後、次のレベルへは二十一匹倒すと上がれた。さらにその次は二十二匹、という具合だ。必要経験値は10%も増えないといったところか。魔物からの経験値はどれだけレベルが上がっても減らないようだ。普通ならレベル差が大きいと、得られる経験値は1になるものらしいんだけどね。

 そのおかげで異常な程レベルの上がりが早い。

 それに対して勇者様達は、1か2しか上がってないらしい。三十匹以上のゴブリンの集団を七回も殲滅しているんだけどな。

 つまり、勇者様達はその経験値に関する恩恵を受けてはいないということだ。

 俺はその理由について、焚き火を前に不寝番をしながら考えている。俺の近くではシュヴァルツ達が草原で寝ていた。

 因みに勇者様達の馬車は、俺から三十メートルほど離れた場所でずっと小刻みに揺れている。

 そう。冒頭の『馬車が揺れている』状態であり、満天の空に星々の瞬きが美しく見える程に空は『晴れ』渡っているのだ。

 ついでに言えば、勇者様達が夜遅くまで馬車をギシギシさせているので朝が遅く、出発もそれに伴って繰り下がり、移動距離が稼げないという悪循環に陥っている。つまり『のんびりしたペース』である。

 彼らのレベルがちょっとしか上がっていないのは、そのせいもあるだろう。

 ふっ、ザマァwwww。




 そうそう、この間、道中のキャンプポイントで旅の一団と昼食休憩が一緒になった時、5・6歳くらいの女の子が隣にいた母親に、

「ねえお母さん、あの馬車、お馬さんつないでなくってうごいてないのに、どうしてゆれてるの?」

 と聞いているのを耳にした。

 俺はギクリとしてその親子を見ると、母親の責めるような視線と目が合ってしまった。

 何というか、夜中に目が覚めて水を飲みに行ったら、両親が夜の営みに夢中になっているのを目の当たりにした時のような、もの凄く居た堪れない気持ちになる。

 母親が俺の方を指差してきた。

「あのお兄ちゃんが揺れてる馬車に乗ってた人だから、聞いてごらん」

 くっ……なんというキラーパス。純粋な子供にどう説明すれば……こうなったら、勇者様に丸投げしてやるぜ!!

 女の子が俺の所にやって来た。

「ねえ、おにいちゃん」

「ん? 何かな?」

「あのゆれてる馬車って、おにいちゃんの?」

「俺のものじゃないけど、あの馬車に乗ってるよ」

「じゃあ、どうしてお馬さんもいないのにゆれてるの?」

「それはね、あの馬車には勇者様が乗っているんだよ」

「ゆうしゃさま?」

「そう。勇者様が悪いやつをやっつけに行くところなんだ」

「すごおおい!」

「それでね、一番強い悪者が魔王なんだ」

「ゆうしゃさまがやっつける?」

「今は無理だねぇ」

「そうなの?」

「魔王はとってもとっても強いからねぇ。だから、勇者様は、魔王をやっつけるための技を練習しているんだ」

「すごおおおい!」

「わかったかな?

 だから、今は勇者様の邪魔にならないように、馬車には近づいたらダメだよ」

「うん! わかった!」

 女の子は大きく頷くと、母親の元へと走って行った。

 ちなみに、馬車の周囲には防音の魔法(サイレント)をかけてあるので、大きな問題にはなっていない。小細工は完璧だぜ。尤も、周囲の大人たちにはバレバレだったが……


 そんなR18な問題はさて置き、さっきの経験値の事について考察を進めるとしよう。

 俺とシュヴァルツ・セシー・イープがパーティー扱いになっている件は、王都を出た時からのようだ。

 ほとんど同じレベル数の上昇になっている事から推察できる。

 じゃあ、上昇に必要な経験値数がわずかしか増えてないらしい事と、魔物を倒して得る経験値数が下がらないのは何故なのか?

 …………わからん。

 シュヴァルツに何か特別な力があるのだろうか?

 ああ、ちなみに俺達のレベルが判るのは、町や村の入り口にセンサーのような水晶があり、門番が人や家畜やペットのレベル計測を行っているからなんだ。傭兵レベル12とか商人レベル8とか鍛冶レベル21とか。

 これによって、何か問題が起きた時にレベルの高い人を頼る、或いは当てにできるのだ。無論、そういった依頼を断る事もできはするけどね。まあ、その辺はそれぞれで。

 だから、俺達の馬車が通る時は勇者レベル32とか表示されるから、その街や村に勇者が来たと一発で判ってしまう。

 すると、若い娘さんやそこの有力者なんかが宿に押し寄せるという事も毎度の事だったりする。

 そんで、勇者の部屋からはうっふんあっはんな声が夜通し聞こえてくるんだよ。リア充死ね。

 まあ、宿屋に泊まる時は、俺は別の安い宿にしているから問題ないけどな。

 半年後の修羅場が楽しみだ。フヒヒ。


 おっと、また話がそれた。

 俺達のレベルアップが異常に早い、その理由は誰かがそういう加護や祝福なりスキルを持っているからじゃないかと思うんだけど、確める方法がわからない。

 テンプレだと、冒険者ギルドで登録すれば冒険者カードに現れるんじゃないかと思いがちだが、そのギルドそのものが無いんだわ、魔術師とか探索者なんかを含めてな。

 よって、ステータスを確認する方法が今の所判らない。教会で聞いてみても、逆にそれは何かと聞かれる始末。こういうのって、旅の間に判るものなのかな?

 う~~~む。結局、考察は進まなかったか。頭悪くてスマンな。たぶん情報も足りない。

 おっと、そろそろ朝食で食べるパンの仕込みでもしておくか。本格的なものは無理でも、簡易的なものならできるからな。

 荷馬車から材料を取り出し、パン生地を捏ねていく。発酵させるのに時間がかかるから、夜中からの作業になるんだよなぁ。捏ねるのが終われば、しばらく寝かせておくだけだ。夜が明け次第、焼けばいい。そして、次のための酵母を仕込んでおく。

 ちなみに勇者パーティーの女の人が全員でパン生地作りに挑戦した事があったが、現在は特一級禁則事項(黒歴史 )になっている。

 一口で綺麗なお花畑が見えて、五年前に亡くなったお婆ちゃんが河の向こう岸で手を振っていたよ。あれは河を渡るなという風に見えたから引き返したんだけど、今考えると渡らなくて良かった~。魔王討伐の前に死にたくはないよな。




 朝食をとった勇者様一行と俺達は、隣の国を目指している。

 勇者様達は相変わらず移動中でもイチャイチャパコパコしているらしいが、俺は賢者モードで手綱を握っていた。と、その時、シュヴァルツが急に速度を落とし、後ろにいてもハッキリと判るぐらいの強烈な威圧を前方にかけた。それからすぐに、やたらと地面を踏みつけるような歩き方で進んで行く。

 セシーとイープも同様の歩き方になり、二十メートルほどで止まった。

 馬車の周囲の地面を見ると、金色のゼリーが広がっている。そしていくつもの水晶のような珠が転がってた。

 俺はそれを拾って表面に着いている金色のゼリーを払い落とし、ただの布袋に回収していたのだが、最後に一個だけ手から滑り落ちてしまう。金色のゼリーがないせいか、それはあっさり割れた。

 すると、頭の中で何度もファンファーレが鳴り響く。問題なのはそれが百回以上続いた事だ。あまりにもうるさくって、しかも一時間半くらい延々と続いたものだから、俺達みんなが頭を振っていた。

 この水晶のようなものは、魔物の核なのかもしれない。それならと、拾ったばかりの水晶珠を全て地面に叩きつけた。

 すると、さらに七十回くらい、つまり一時間くらいレベルアップが続いた。シュヴァルツ達からの責める気配が立ちこめる。

 考えなさすぎて正直スマンかった。

 急にステータスが上がったものだから、何もしていないのにダメージを負った状態になっている。HPが100/100の状態から100/3000という具合に、上限だけが上がっているのだ。それが相対的にダメージを負った格好になっているわけ。

 俺自身、とっくに初級の回復魔法を覚えていたんだが、皆を回復させるにはMPが足りなさすぎて、シュヴァルツに少しかける程度で精一杯だった。HPが100から170になった程度だろう。

 こりゃあしばらくは、HPとMPが自然回復するまでゆっくりしなきゃなぁ。

 移動速度を通常時の二割以下に落とし、休める場所を探す。

 十分も経たないうちに旅の休憩所っぽい広場が見えてきたので、そこに馬車を停めた。俺達の他に旅の集団は居ないので、とっても気が楽だ。

 早速、馬車周辺に音を遮る魔法(サイレント)を上掛けする。この魔法は、俺がレベル6に上がった時に習得したものだ。魔法なんて使えないと思ってたから嬉しかったんだけど、正直な話、勇者のために授かったような気がしてならない。

 今となってはありがたく使わせてもらってるけどな。

 もしかしなくても、一番多く使っている魔法だ。何せ、昼となく夜となく使い続けているんだから。

 最初の頃は結構すぐに疲れたけど、レベルが上がったからか、それともスキルが上がったからなのか、最近では一日中使い続けても疲れを感じる事はない。

 おかげで他の魔法も余裕で使えるのだよ。ふっふっふっふっ……

 旅に出る前には持ってなかった魔法のスキル。それが、サイレントを皮切りに、火・水・風・土系統の魔法が徐々に使えるようになっていったのだ。

 尤も、レベル14程度ではすべて初級レベルでしかなかったけどな!

 ちなみにスキルは、頭の中で思い浮かべただけでそれぞれのやり方や呪文が自動的に発揮される。無詠唱がデフォなんで助かるよな〜。

 そんで、とんでもなくレベルが上がった今はというと、炎・氷・雷・光・闇・空間・時間までが使えるようになっているではないか?!

 しかも、初級・下級・中級は全て網羅しているらしい。上級は炎・空間がそれぞれ一つずつある。

 これはもしかすると、超王道で日本全国的に有名なRPG大作のようなものなのか?!

 ネットゲームでの職業別スキル的なものじゃなく?!

 レベルでは、勇者様達よりも俺やシュヴァルツ達の方が遥かに優ってるという困った状態になっているし……


 ?

 あれ?

 何でこんなに魔法とかレベルとかがわかるようになってんだ?

 ……あ、スキルに鑑定があるじゃないか。一体何時の間に……

 俺自身を鑑定してみるか。

「鑑定」


 ジョン 14歳 男

 職業 : 御者Lv198 従者Lv186 魔術師Lv195 治癒師Lv172 薬師Lv175

      料理人Lv198 鍛治師Lv148 服飾師Lv153 木工師Lv174 細工師Lv143

 Lv:202  HP:256026  MP:131671  ST:219451

 STR:102411  VIT:87780  INT:58520

 AGI:65835   DEX:87780  LUK:351122

 魔法 : 火系統上級 水系統上級 風系統上級 土系統上級

      炎系統上級 氷系統中級 雷系統中級 石系統中級

      光系統中級 闇系統中級 空間系統上級 時間系統中級

 祝福 : 経験値チート レベルアップチート ステータスチート

 経験値チート:レベルが上がっても、魔物からの取得経験値は変わらない パーティーメンバーにも適用

 レベルアップチート:レベルアップ時の必要経験値が前のレベル時の+5% レベル10毎に-0.1% パーティーメンバーにも適用

 ステータスチート:レベルアップ時のステータス上昇値が通常の平民の三倍以上 パーティーメンバーにも適用


 お、俺かーーーーーッ!

 なんという祝福チート!!

 これならレベルアップの異常な早さにも納得だよ!

 おまけに、なんちゅーレベル! まさかの200越えとは!

 しかも職業欄がマジですげえっ! 主な生産職ほぼコンプリートやん!

 これなら鑑定持ってても不思議じゃないな。ということは、その鑑定もレベルが高いって事だから、いろいろ役立ちそうだ。

 やったねシュヴァルツ! 明日はホームランだ! ← 大事な大事なフラグ!

 ついでに先程の魔物の核のかけらを鑑定してみると、はぐれゴールドスライムとあった。こいつって確か幻の魔物として有名で、見かけたとしてもほとんどの確率で逃げられてしまうほどに素早いのだとか。

 そんな魔物を三十匹以上もいっぺんに倒す事ができるなんて、幸運以外のなにものでもない。はぐれゴールドスライムに遭遇する前の俺のLUKって、一体どれくらいあったのだろうか? 気になるところだ。

 オマケに使える魔法がとんでもないラインナップ。どこの魔術師か魔導師かってくらいだ。こんだけ使えれば、宮廷魔術師も夢じゃ無い。今回の仕事が終わったら、親父に相談してみよう。




 二日後、国境まであと五日という所で、セシーとイープ、勇者様のハーレムの女の子達が妊娠しているのを鑑定で見つけてしまったwwwwww

 自分のステータスやスキルなんかを見ていたら、シュヴァルツ達のも気になり始め、ついつい全員の鑑定をしてしまったんだ。んで、俺やシュヴァルツには無かった【状態】が気になったので良く見ると、妊娠している事が見て取れたわけ。

 しかも妊娠一日という事まで判ったので、一昨夜の行為(パコパコ)大当たり(ホームラン)となったわけだ。フラグを立ててしまってスマン。……フヒヒ。勇者ザマァwwwwwww

 ともかく、妊娠の事を勇者様に教える。

「なん……だと……」

 勇者様が愕然となった。っつーか、パースが乱れた。勇者パーティーの女の子達は頬を染めてはにかんでいる。

「あと二ヶ月もすれば悪阻が始まり、旅を続けるには辛い事となるでしょう。

 今のうちならば王都に帰還し、改めて魔王退治に向かった方が時間的にも問題が少ないかと思われます。

 何より、お腹の子供に負担がかかって流産するよりは、この方が安全かと……」

 勇者様の隣に座っていた神官・マリアンヌ様がしな垂れ掛かり、腕をとって胸に抱える。

「勇者様、神官である私はどうすれば良いのでしょう?」

「えっと……そのー……」

「貴女は勇者様の一番の奴隷だからねぇー。しかも神官という立場じゃあ、妊娠がばれたら神官職の解任・神殿追放もあり得るでしょうし」

 勇者様の反対側から格闘家・マオフェン様が心配そうに言った。尤も、マリアンヌ様に見えない側の口の端がニヤリという表現ピッタリにつり上がってるのが、俺からは丸見えだったりする。

 こえ~~~。マリアンヌ様が深く落ち込んでるよ。

「マオフェン、あまり脅かしちゃダメよ。勇者様の子供ならむしろ歓迎されるんじゃなくて?」

 流石、亀の甲より年の……あわわ……弓士のエロフ、否々、エルフだエルフ。エルフのオーフェルス様。見事にマリアンヌ様を元気付けた。………………こわ〜〜〜〜。一瞬の殺気がもうね、うん。

 さて、王都に戻るとなれば、また同じ日数かかるわけだが……う〜〜ん、あれ? 転移魔法がある。簡易説明は……今まで行った街や村へ行ける、と。……ルー◯か、◯ーラなのか。まずは本当に行けるか実験が必要だな〜。

 そう考えているうちに、勇者様達は今後の行動について話し合いを始めている。子供の為にも王都に戻って欲しい勇者様と、産むのはどこでもできるからもうしばらく一緒に居たい女性陣。意見は真っ向から対立か。ま、しばらく放置だな。




 妊娠発覚から三日、俺達は二つの村を通り過ぎ、久しぶりに大きな街へと着いた。夕暮れ時まであと二時間も無いだろう。故に、今日は宿で泊まることになった。無論、勇者様達は高級宿、俺は別の厩付きで馬車を止められる安宿だ。

 流石にシュヴァルツはデカすぎて厩に入れなかったので、宿の主に許可をもらってシュヴァルツが入れる大きさの石造りの建物を土魔法で形成した。二階建てくらいの大きさがあるので、馬車も入る。

 宿主がこれを見て、馬車用にするからそのままにしておいて欲しいと言ってきたので了承すると、宿代と食事代が無料になった。

 水と飼い葉や野菜・果物を食べさせ、ブラシをかける。セシーやイープは背中が俺の頭より少し高いくらいなのでなんとかなるが、シュヴァルツは腹の下が俺の目の高さにあるくらいデカい。ぶら下がっているブツもデカい。

 そこで、シュヴァルツの側に一メートルの高さの台を土魔法で形成し、ブラシ掛けをした。コイツら、旅に出てからの一ヶ月で、ふた回りほど体がでかくなっているんだよ。レベルアップの影響だろう。

 宿の食事は美味かったのでほっこり。




 食事が終わって俺は一人、街の外にいる。いつもの自主訓練をしようとしたが、基本ステータスの上がり具合を考えると、軽い慣らしから始めるのが良さそうだ。

 慣らしでいい具合に周囲の樹が二十本余りへし折れたり粉砕して広場ができたので、今日の残り時間は転移魔法の実験をする。転移魔法を鑑定してみるとその内容は、今まで行ったことのある街や村の入り口付近を思い浮かべると、その座標の光景が頭に浮かぶ。そして『転移』と念じることで、自動的にMPを消費し、本人と、その手に触れている物や人が移動する仕組みらしい。地面は対象外な。

 ほんじゃ、ここの前の村を思い浮かべて……よし、誰もいないな。では、転移。


「おー。マジで着いた」

 前に訪れた村の入り口を確認できたので、街に戻る。転移。

「んー、便利過ぎだなぁ」

 これなら女性陣を早々に王都へ送還できるか。じゃあ、王都へ向けて、転移。

「おー。確かに王都だ」

 もうすぐ閉門の時間とあって、急ぐ人々の流れが速い。俺はその流れから離れた場所にいるので、巻き込まれることなく再び街へと戻る。そして、安宿へ戻って寝た。




 日が登る頃に目覚めたので、厩に行ってシュヴァルツ達に水と食事を置いてくる。

 宿の食堂では、朝食を取る者がちらほら。宿の主に、後一泊することを告げ、勇者様達が泊まっている高級宿へと行く。

 食堂で勇者様を見つけた。

「おはようございます、勇者様」

「おはよう。ジョンもこっちだっけ?」

「いいえ。少し、今後のことで重要なお話があるんですが?」

「話?」

「ここではチョット……」

 さすがに転移魔法について他の人に知られるわけにはいかないだろう。

「大丈夫だよ。ここで話してくれよ」

「否、大丈夫じゃ無いですから。できれば勇者様のお部屋が……」

「否々待てよ。むしろそっちの方がマズイって!」

 なるほど。ということは。

「夕べもお楽しみでしたね」

「うわあああっ?!」

 ワタワタと遮ってくる勇者様。こういうところはまだお子様か。

「ですが、本当に内密なんですよ。他に知られたらマズイんです」

「もういいから! とっとと話せ!」

「ダメですって。内密なんですから」

「いいから! ここでいいから!」

「……いいや、ダメです」

 不貞腐れた顔になった。

「なんでだよ」

「信用できませんから」

「ちょ、おま……」

「毎日毎日夜の見張りを途中で抜けて馬車でイチャイチャしている上に、朝は日が昇ってだいぶ経ってから起き出してくる。準備になんやかんや掛かって出発するのはいつも昼前。移動時間も空が赤くなり始めたら野営の準備をするからせいぜい五時間ちょっと。普通なら王都からこの街まで十五日もあれば着くんですよ。何で三十日もかかるんですか。今までの貴方達の行動のどこをどう信用しろと?」

 突然弾劾された勇者様はうつむき、拳を握り締める。周囲にいた客達はこちらを盗み見しながら、ヒソヒソと話す。大抵の人が眉をしかめていた。

「さ、行こう」

 俺は勇者様の腕を掴み、彼らの部屋へと移動する。だいぶ扱いがぞんざいになってる自覚はある。俺自身、かなり鬱憤が溜まってたらしいな、こんな人前で暴露するなんて、自分でも大人気(おとなげ)ないと思う。

 勇者様を連れて部屋に入る。流石に高級宿のロイヤルスイート。キングサイズのベッドにドレッサー、ソファーのセット、クローゼットまである。バス・トイレ付きか。十二メートル四方はあるな。

 エルフの弓士はすでに起きていて、髪を()いている。後の二人は未だにベッドの中だ。

 俺を見て顔を(しか)めたが、勇者様が手を上げてそれを制した。互いに向き合いながらソファーに座る。

「早速本題に入ります」

 勇者様が頷く。弓士が勇者様の隣に座った。

「俺は転移魔法が使えます」

「なっ……」

「なんですってっ?!」

 大声で叫んだよ、エルフの弓士が。そして俺に掴みかかってきた。

「何で貴方が使えるのよ?! エルフですら使えるのはホンの一握りしかいないのよ?!

 それを御者に過ぎない貴方が何でっ?!」

「ちょっ……あんま……揺らさないで……」

 俺を高速で揺さぶるエルフ。普段は冷静沈着なんだがこんなことで動揺するとは、勇者のお供としてどうよう? こんな状態でオヤジギャグとは、俺もまだまだ余裕があるな(自画自賛)

 俺を解放したエルフは肩で息をしている。少しは落ち着いてきたようだが、俺を睨みつけるのはやめない。

「勇者様、お三方が妊娠している為、馬車の速度を上げるのは感心しません。かと言って、これ以上旅程を遅らせるわけにもいかないでしょう。また、ここから王都に戻っては再びこの街へ来るのに二ヶ月を要します。

 ですから、俺がお三方を王都へ送り届けようと思いますがどうですか?」

「チョット! 何勝手なことを言ってんのよっ?!」

 勇者様が発言する前に、格闘家が立ちはだかる。いつの間にやら起きていたのか。

「勝手、ですか? 魔王退治の旅がこれだけ遅れているというのに?」

「それは、貴方の馬車操作が悪いんじゃ無いの?」

 えー? 俺が悪いの? さっき勇者様に話したことを繰り返さなきゃいけないか。

「勇者様、俺が悪いんでしょうか?」

 勇者様を見るが、彼は俯いているだけだ。

「勇者様?」

 エルフが勇者様の方へ向き直る。

「……ここはジョンの言う通りだろう。お腹の子供のこともある。

 皆は王都で待っていて欲しい」

「そんな……」

「うそ……」

 唖然とする二人。まるで、この世の終わりのようだ。ま、俺には関係ねぇ。

「では勇者様、明日の朝に街の外で王都へ連れて行きます。荷物などをまとめさせて下さい。俺が女性の私物を触るのは嫌がられると思いますから」

「わかった」

 少しは自覚したかな? 俺の泊まっている安宿の場所を伝え、朝食後から荷物をまとめてもらうことを確認して、高級宿を出る。これから修羅場だろうから、始めるのは午後かもしれないな。



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