let's go to the Dojo
目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。
水平な地面で果てしなく続く地平線。辺りには何もない。
僕は思う。
「天国?」
これも夢かもしれない。そう思い、試しに頬をつねってみた。
「え、痛くない……」
ここは夢なのか。にしては意識が驚くほどはっきりしている。
天国に来てしまったのだろうか。この空間を見て天国と考える人も何人かはいるだろう。
ここで新たな可能性を思いつく。
死んだんじゃないのか?
では、あの部屋での出来事は何だったんだ?
僕が死んだ明らかに死ぬ瞬間があったのは反逆者に遭遇したときだ。
あれで生き残ったとすればあの部屋で殺されたのだろうか。
「守は死んでないよ」
聞き覚えのある声が後ろから何もない空間に微かに響いた。
「刹那さん……」
そう、刹那さんだった。
彼女はゆっくりとこっちに向かった。
「久しぶりだな」
彼女の表情はやるせない表情だった。
「あの時助けてくれてありがとうございます」
察した僕はそう伝えると、刹那さんは少し安心したように見えたが、すぐに表情を険しくする。
「私はお前を一目見た時からこの力に相応しいと思っていた。最低な奴だよ、助けたい気持ちももちろんあったが継承した事を後悔してない」
「どうして僕が相応しいって」
「守なら何か成し遂げてくれると思ってたからだ」
しばらく二人は黙る。お互い何と言ったらいいのか分からなかったからだ。
先に口を開いたのは刹那だった。
「私は人を殺した。一人じゃない百人以上だ」
「どういうことですか?」
いきなりだった。刹那さんが大量殺人?そんなはずはないと僕は否定した。
「殺したって 何か事情があったんですよね?」
だけれど刹那さんの答えは望ましい回答ではなかった
「いや、私が100悪い。言い訳なんてできないほどにな」
刹那さんは、首を横に振った。
僕は再度黙り込んだ。ただ事情が知りたかったが僕はその事について聞かないようにした。
「そういうことなんだ。どの道私は強制継承だった。」
刹那さんは、申し訳なさそうに目を伏せた。
「継承した守は、少なくとも三年間、苦しい思いをする。けど、無理なら逃げていい。自由に生きてほしい」
その言葉を聞いて、僕は首を横に振った。
「無理です。僕は刹那さんの代わりとして頑張るって、心に決めたんで」
色々驚いたが刹那さんがたとえ人を殺したとしても色んな人に嫌われていようが僕にとっては最高の尊敬できる人物にかわりはない。何か出来ることをしたい。僕はその一心だ。
刹那さんは僕の返事を聞いた時驚いたように目を見開いた。
しばらくして、彼女は穏やかな表情を浮かべる。
「……ありがとう」
その一言が、胸に深く響いた。
「最初はどんなことをするんですか? 今のうちに聞いておきたくて。」
僕は話題を変えた暗い話をしてもキリがないと思ったからだ。
「能力のことなら、最初は訓練期間ってのがあって、おそらくあいつに指導してもらえるだろう」
あいつとは誰なのだろうか。まあいつか分かることなのだろう
「そういえば僕どうやったらこ空間から」
沢山の情報があって忘れていたが一番聞きたい事を忘れていた。この空間は一体なんなのか。
「それな、私もわからんけど多分もうそろそろ夢から覚めるよ」
「フッ」僕は微かに笑った。知ってそうな雰囲気だったのに何もしれないなんて。
笑っていると急に眠気が襲ってきた、その瞬間――。
目の前が真っ白に染まりそして、僕は目を覚ました。
部屋は昨日知らないと思った部屋だった。
目を覚ました僕は、ふと机の上に置かれた手紙に気づく。
昨日は色々なことがありすぎて、こんなものがあることにも気づかなかったらしい。
ベットから起き上がり手紙を手に取り、読み進める。そこには謝罪の言葉が綴られていた。
途中までしか書かれていなかったが、どうやら僕を本当に継承者にしたかったようだ。
そして、手紙の空欄が続いたが最後にはこんな一文が添えられていた。
『私がいつも身につけているお守りをあげます』
手紙の下に目を向けると、そこにはヘアゴムが置かれていた。
髪を結ぶほど長くもないので、僕はそれを腕に巻きつける。
その時、扉をノックする音が響いた。
コンコンコン。
「おはようございます。」
翔太さんが扉を開け、部屋に入ってきた。
「朝ごはんができたんで、食べましょう」
「はい」
僕は翔太さんの後についていきながら、何気ない会話を交わした。
「今日はいい天気ですね」
「確かにそうですね」
昨日と今日で分かったことだが、この屋敷はやはり広い。部屋もいくつもあり、隅々まできれいに掃除されている。階段を下りている際、窓からの光があたり気持ちが良かった。
屋敷の外壁には、時折いたずらで落書きがされるらしい。それでも、翔太さんがきちんと手入れをしているおかげか、屋敷は清潔に保たれていた。
それに、この屋敷の使用人は翔太さん一人だけらしい。以前はもう一人いたそうだが、今はもういないという。
これだけ広い屋敷を一人で管理するのは大変だろう。
テーブルに着くと、すでに食事が用意されていた。
「いただきます」
朝食にぴったりの、栄養バランスが考えられた食事だった。どれもおいしく、自然と箸が進む。
「これ、おいしいですね」
「ありがとうございます」
翔太さんは料理までできるのか。何でもこなせるその姿に、僕は感心した。
食事が一段落したところで、僕は気になっていたことを尋ねる。
「これから僕は、どうしたらいいんですか?」
「刹那さんの事件の後だから、今は結構ごたついてるんだ。でも、おそらく大丈夫だと思うよ。落ち着けば、赫多さんを鍛えるために、ほかの能力者から指導を受けることになるはずだ」
「ほかの能力者から……」
これからどんな人たちと関わることになるのだろう。
期待と不安が入り混じる中、僕は翔太さんの言葉を待った。
そして、まだよく分かっていない反逆者についても尋ねることにした。
「反逆者って、具体的にはどんな人たちなんですか?」
「基本的には、闇の獄が率いる使徒たちのことを指すんだ。ただ、例外もいるけどね」
「例外?」
聞き慣れない言葉に、僕は首を傾げた。
「赫多君には、心臓がないんだ。その代わりに、『源』と呼ばれるエネルギー源がある」
「心臓がない……?」
思わず、自分の胸に手を当てる。
確かに、あの時の傷は跡形もなく消えていた。けれど、まさか心臓までないとは思わなかった。
「そして、源から得られるエネルギーを一般の人が摂取すると、能力に覚醒することがあるんだ」
「一般の人でも、能力者になれるってことですか?」
「そういうこと。だから、闇の獄の使徒以外にも、能力を持った反逆者が存在するんだよ」
なるほど。反逆者と呼ばれる人たちが、全員同じ存在というわけではないらしい。
翔太さんは時計を確認すると、席を立った。
「そろそろ行きますか」
「もう行くんですか?」
「うん。今日から訓練期間に入ることになるからね」
いよいよ、僕も能力者としての一歩を踏み出すことになるらしい。
これから三ヶ月間、どんな訓練が待っているのだろう。期待と不安を抱きながら、僕も席を立った。
「ところで、僕はどこで、誰と訓練するんですか?」
「極悪な犯罪者を取り締まる刑務所の近くにある道場だよ」
「刑務所の近く……?」
思いもよらない場所に、僕は思わず聞き返した。
その刑務所は、世間でも比較的有名な場所だった。
一度入ったら二度と出られない。そんな噂が広まるほど、厳重に管理された刑務所だ。
僕も何度かテレビで見たことがある。
そんな場所の近くに道場があるらしい。
いったい、どんなところなのだろうか。
移動すること三時間。県をまたぎ、ようやく目的地に到着した。
道中では、例の刑務所も目に入った。テレビで見たことはあったが、実物は想像していた以上に大きく、思わず驚いてしまう。
その隣には広大な土地が広がっており敷地内にはいくつもの建物が並んでいた。
そしてその中に道場があまりに近いのと広い敷地に僕再度驚かされた。
「あの、さっきはすみませんでした」
僕が謝ると、その場にいた全員が深々と頭を下げた。
……え?
何が起きているのか分からず、戸惑っていると、背後から声をかけられた。
「よう、お前が赫多守だな。俺は獄門鋼。今日からよろしくな」
振り返ると、そこには大柄な男性が立っていた。
体格がよく、身長も高い。立っているだけなのに、圧倒的な威厳が伝わってくる。
この人が、
「じゃあ、始めようか」
獄門さんは不敵な笑みを浮かべた。
「修行だ」




