turning point
――速報です。
「イノベ市のアラブ町で、100名以上の被害が出ました。政府は、原因は能力者同士の衝突によるものと発表。さらに、能力者の一人である一ノ瀬刹那に対し、『継承の刑』を科すことを決定しました」
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母が死んだ。
余命宣告から十一ヶ月。苦しい闘病生活の末だった。
悲しい。けれど、母もようやく楽になれたのだと思う。そう考えている方が、今はずっと楽だった。
「守、何か困ることがあれば俺たちを頼れよ」
おじさんや親戚の人達は声をかけてくれた。
人はこんなにも優しいのに、神様は優しくないのだろうか。
そんな考えを振り払うように、僕は首を横に振った。
最近はどうも辛いことが続いていたため、外の空気を吸おうと気晴らしで外に出る。
「よっ」
聞き覚えのある声。家の外には、僕の知る人物がいた。
「こんにちは、刹那さん」
彼女は一ノ瀬刹那さん。能力者だ。
刹那さんとは最近知り合ったばかりだが、すぐに気が合い、今ではよく話す仲になっている。
「最近仕事はどうですか?」
刹那さんは、政府に認められていない又は敵対する連中を反逆者と呼び彼女は日々その事に勤しんでいた。
刹那さんは遠征に出ることが多い。最近は会えていなかったし、忙しかったのだろう。
よく見ると、いつもより疲れた顔をしているように見える。
「最近は忙しかったからな。疲れまくりだよ。明日にはまた別の街に遠征だ。ほんとにこき使いやがって、まったく」
「ストレス溜まりまくってますね」
刹那さんはうんうんと首を縦に振った。
そういえばここに来たということは何か話でもあるのだろうか。基本的にはお互い事情もありたまたま会ったときだけしか話さない。わざわざ僕の家まで来たんだ。何かだいじな話でもあるのだろう。
「ところで、相談事があって今日来たんだけど」
相談事か。今まで刹那さんには愚痴や世間話をするが相談事は初めてだったので妙に緊張をしてしまった。
「話したいことですか?」
何やら重い相談なのだろうか。刹那さんは真剣な表情で話し始めた。
「実は、継……」
「おい!」
突然玄関から怒鳴り声が響き、一瞬で空気が変わった。
振り向くと、そこには叔父さんが立っており
叔父さんは刹那さんを睨めつけている。
「守は今、精神的に辛いんだ。お前のような奴は近づくんじゃない」
何を言っているんだと思ったが、すぐに察した。
――ああ、嫌悪か。
刹那さんは、多くの人から嫌われてる。
その理由は、刹那さんの前の代による犯罪。そして、刹那さん自身も時折、問題のある行動を取ることがあり、彼女を快く思わない人間は少なくなかった。
世間的に嫌われるのは無理もない。しかし僕は信じている。
根拠があったわけではない。それでも、僕は刹那さんには何か事情があるのだと思っている。
「すまんね」
刹那さんはそう言い残し、この場を去っていった。
嫌な気分だったが、叔父さんを悪く言うつもりはなかった。叔父さんは僕のことを思って行動してくれたのだろう。
それに、刹那さんに対する嫌悪は根強い。いくら説明したところで、理解してもらえないことは分かっていた。
それから母に関してのすべてが終わった。家には僕一人。2階の自分の部屋でゴロゴロとしていた。
ヴーヴー スマホがバイブによって振動した。誰からだと思いスマホを見ると刹那さんだった。
「どうしました?」
何やら車の音が聞こえるので外にいると踏んだ。
「この前の話したい事話したいから今からそっち行ってもいいか?」
刹那さんは直接会って話をさせてほしいとのこと。
部屋にある壁掛け時計で現在時刻を確認し、僕は「いいですよ」と言って刹那さんが来るのを待つことにした。
カチ カチ
時計を見るともうすぐ夜の十時になろうとしている。
しばらく来客がいなかったせいか何か品出しをしなければと思い出し来客用の食べ物か飲み物はないかと僕はリビングへ向かった。
階段を下りている途中妙に涼しかった。エアコンでも扇風機でもない。
少し怖くなりつつ恐る恐る階段を降りると、玄関の鍵が開けっぱなしだと気づいた。
嫌な予感がして怖くなった僕は急いで家から出ていこうと走り出す。
突然、何かが僕の腹を貫いた。
「がっ……!」
あまりの痛みに、僕はその場に崩れ落ちた。
何が起きたんだ……?
床には血が流れていた。誰だと思い
恐る恐る振り向くと、そこには面をつけた二人の人影があった。
反逆者……。
僕はすぐに助けを求めようとしたが、声が出ない。
それに歩くことさえ難しい状況。
助かりたい。その一心で、僕は這いつくばりながら玄関へ向かうが反逆者の一人に足を踏まれ、動きを封じられた。
僕は力が尽きたかのように床に顔がついた。肌に血がつく感触が気持ち悪かった。
ああ、僕は死ぬんだなと覚悟をしたその時だった。
突然、反逆者の二人が倒れた。
「守!」
刹那さんだ……。刹那さんが来てくれたんだ。
刹那さんは僕の姿を見るなり、明らかに動揺していた。
「そんな……」
僕の身体からは大量の血が流れ、次第に意識が朦朧としてきている。
「大丈夫だからな」
刹那さんは僕を抱きかかえると、そのまま宙へ浮かび上がった。
おそらく、向かっている方角からして病院なのだろう。
屋根の上を飛びながら刹那さんは急いで病院に向かっていた。
「!?」
刹那さんが突然、何かに気づいたように足を止めた。
また反逆者か?……。
その予想は当たっていた。
「どけよ、闇の使徒ども」
刹那さんが鋭い声で告げる。
意識が朦朧とする中見たところ20くらいの数だった。
「我々の目的はその少年だ。ここをどくわけにはいかない」
「お前たち、やれ!」
反逆者たちは一斉にこちらへ向かってきたが
刹那さんが銃のポーズのように手をそいつらに向け「マグナム」と言った瞬間、銃で撃たれたかのように反逆者たちは一斉に死に、その場を制圧した。
とてつもなく強い刹那さんに僕は驚いた。こんなに強いなんて思ってもいなかった。
刹那さんは僕を見ている。
手遅れだ。赫多守はもう助からない。
刹那さんの目は、そう告げているようだった。
「守、死ぬな。お前だけは死んではダメだ」
お前だけは――。
こんなにも嬉しい言葉を、今まで聞いたことがなかったので、なんだか今なら後悔もなく死ねそうだ。
そんなことを考えながら、僕はゆっくりと意識を手放した。
何か雑音が聞こえる。
ニュースの音か……?
ゆっくりと目を開ける。
ここは病院?
ではなかった……どこだ、ここは?
見知らぬ部屋。誰かの部屋なのだろうか。
今風の部屋ではなく昔の時代によくある感じの部屋。
いや、そもそも、なぜ生きているんだ?
あの時、僕は死んだはずじゃ……。
腹に目を向けると、貫かれた痕跡などどこにもなかった。
夢だったのだろうか。確かめるために、試しにお腹をつまんでみる。
「……夢じゃない」
ガチャッ。
部屋の扉が開き、一人の男性が入ってきた。
二十代くらいだろうか。背が高く、優しそうな雰囲気をまとった青年だ。
「目が覚めて良かった」と青年は言った。僕は今だにこの状況を掴めていなかった。
「ここはどこですか?」
僕はよく記憶が失ったとき使われる定番なセリフを言った
すると青年は自己紹介も含めて話し始めた。
「私は和嶋翔太です。血の能力者の使用人です。」
血の能力者、つまりここは刹那さんの家ということなのだろうか。あの状況から助かるなんて夢にも思っていなかったが僕は生きていることに安堵した。
「少し勘違いしていそうなので説明します。赫多守様は代185代目の血の能力の継承者に選ばれました。」
「継承者って……」
それなら、納得がいかないわけでもない。あの怪我が治る方法として考えられるのは、能力者になることくらいだからだ。
つまり、僕は能力者になった……?。
「刹那さんは?」
ふと、彼女のことが頭をよぎった。
「継承すれば命を落とすんだ。だから、刹那さんは……」
まさかそんな事が、、、
僕はひどく落ち込んだ。
なんで、こんなことになったんだ……。
僕の為に、刹那さんは死んだのか?
そう思うだけで、胸が押し潰されそうになった。
「決して君のせいじゃないよ。だから、落ち込まないで」
そんな事が出来るわけがない。人殺しと同じような事をしたんだ。
立て続けに「それに、君には責任がある」と言った。
「責任?」
「理不尽だろうが、継承した以上、三年間は能力者として頑張ってもらわないといけないんだ」
確かに、理不尽だ。
何の説明もないまま、いきなり無茶なことを押しつけてくる。明らかに理不尽な話だった。
どうすれば良いのだろうか。頭が真っ白になりぼーっとし始めた。そしてあることに気づいた。
刹那さんは命を懸けて僕を救ってくれたんだと。
僕がこのまま何もせず生きていって良いのだろうか。僕はすぐに答えを出す。刹那さんの救いを無駄にしてはいけないと。
「僕はもう、戻れないんですよね?」
青年は少しためらうような表情を浮かべながら、「うん」と答えた。
「なら、分かりました」
僕にはもう、何も残っていない。家族も、友達も。
だったら、残された道は一つしかない。
死ぬまで、本気で能力者として全うすることだ。
今後僕のように反逆者による被害は出してはいけない。
僕は刹那さんの命は無駄ではなかったことを証明しようと心にきめた。




