表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/67

第十三話 ナタリーの慟哭

 ナタリー・ド・ヴィッテルは主君であるユーリア、上司といって差し支えないユラン伯、同僚のお姫様であるユルシュルにカモミールティーを出した。

 ナタリーの分のカモミールティーも淹れられており、主君であるユーリアはナタリーにも円卓を前に座るように促した。


「ユルシュル、ご苦労様。何かわかったことがあるようですね」


 カモミールティーの爽やかな香りを漂わせながら、ユーリアは焼き物のマグカップに口をつけた。


「はい、コリンナ・フォン・ミッタージルという陛下付きの侍女から、ポーリーヌ嬢の亡くなる瞬間を見ていた者がいた、という話を聞きました」


 ユルシュルの言葉を聞いて、ナタリーの身体はかっと熱くなった。遂に、従姉の死の真相がわかる。


「見ていた者は?」


 ユラン伯が異母妹に訊いた。


「それが、口を塞がれたと」

「それが真実かどうか、わからぬのでは?」


 ユーリアが言った。

 確かに、そのコリンナという侍女が真実を言っているとは限らない。ナタリーはそう思った。


「――そうですね、ただ、コリンナ嬢によれば、ポーリーヌ嬢にエルヴィーラ嬢が毒入りのエールを渡したようです。この事実は、コリンナ嬢とベルク公、皇宮騎士団の陛下付きの一部しか知らないそうです」

「――ベルク公が知っている?」


 ユーリアが驚いたように言った。


 ナタリーはユーリアとベルンハルトが会話した日のことを思い出していた。

 リンデンティーを淹れて、部屋の前に控えていたため、詳しい内容は聴けていないが、ベルンハルトは父のベルク公に捜査を詳しくして欲しい、と頼んでいたとのことだった。


 だが、コリンナ嬢という侍女の言うことが真実であれば、ベルク公は息子に真実を覆い隠していたことになる。


「殿下、コリンナ嬢によれば、です。コリンナ嬢について私は気になったので、会話した後に後を着けました。――彼女は薔薇の宮殿の主と通じております」

「ユルシュル、危険であったのに、そこまでしてくれてありがとうございます。それで、どうだった?」


 ユーリアが訊いた。


「殿下、シューレンブルク公夫人は、殿下に真実を明かすようにコリンナ嬢を遣わしたようでした。――私はシューレンブルク公夫人こそ、ポーリーヌ嬢の死を必要としていると考えておりましたので、少々混乱しております。これでは、シューレンブルク公夫人は潔白のようではありませんか」


 ユルシュルは己を落ち着かせるように、カモミールティーを飲みこんだ。ナタリーにはそう見えた。


 ――あのユルシュル様が混乱なさるだなんて。


 ナタリーは戸惑っていた。ナタリーもポーリーヌ殺害の黒幕はシューレンブルク公夫人グラティア側だと思っていた。


「エルヴィーラ嬢を観察しておりましたが、彼女にはシューレンブルク公夫人と繋がりはありません。ましてや、ケルンテン公にも」

「――ユルシュル、ナタリー」


 ユーリアが静かに言った。その声は寒々としていた。そして、続けて言う。


「この件から手を引きなさい」

「殿下!」


 ナタリーは思わず、強く言ってしまった。


 ――あの優しかったポーリーヌの死の真相を明かすまで、手を引けない。


「そなたたちを守れない、そう言っています」


 ユーリアはこめかみを押さえていた。


「――わかりました、殿下」


 ユルシュルが静かに頭を垂れた。それを見て、ナタリーはかっとなる。


「ユルシュル様も! 一体、どうしてしまったのですか!」

「ナタリー嬢、殿下でも難しいのでしょう」


 ユルシュルの言葉を聞いて、ナタリーはユルシュルが何かを察していることを感じ取った。


 ナタリーは黙った。黙っていると、自分の心臓のドクン、という音が大きく聴こえてくるようだった。

 ナタリーの心臓は大きく音を立てて、早鐘のように打っていた。


 ――そうね、ポーリーヌの仇くらいならば取れる。


 ナタリーの主君はそう言ってくれた。でも、それができないと言う。


 ――仇を取れない相手。


 ナタリーは大きく目を見開き、声を上げそうになった。大きく、息を吸う。


 ――どうして。


 まだ、ユーリアがブルグントに到着し、喪服ばかり着ていた頃、ユーリアは皇帝にこんなことを言っていた。


 ――お父様、ポーリーヌの死の真相を明らかにしてくださいますよね?


 ユーリアの言葉を聞いて、皇帝は短く、ああ、と言っていた。


 ――やっと、殿下の願いを叶えてくださるように思えたのに。


 ナタリーは両目から涙が零れ落ちていくのを感じた。


 ――どうして。


 娘を重用しているように見えたのに。娘のささやかな願いも叶えてくれるように見えたのに。

 どうして、娘を苦しめるようなことばかり。


「……うわああああ!」


 ナタリーは声をあげて泣いた。涙が止めどなく流れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ