第十三話 ナタリーの慟哭
ナタリー・ド・ヴィッテルは主君であるユーリア、上司といって差し支えないユラン伯、同僚のお姫様であるユルシュルにカモミールティーを出した。
ナタリーの分のカモミールティーも淹れられており、主君であるユーリアはナタリーにも円卓を前に座るように促した。
「ユルシュル、ご苦労様。何かわかったことがあるようですね」
カモミールティーの爽やかな香りを漂わせながら、ユーリアは焼き物のマグカップに口をつけた。
「はい、コリンナ・フォン・ミッタージルという陛下付きの侍女から、ポーリーヌ嬢の亡くなる瞬間を見ていた者がいた、という話を聞きました」
ユルシュルの言葉を聞いて、ナタリーの身体はかっと熱くなった。遂に、従姉の死の真相がわかる。
「見ていた者は?」
ユラン伯が異母妹に訊いた。
「それが、口を塞がれたと」
「それが真実かどうか、わからぬのでは?」
ユーリアが言った。
確かに、そのコリンナという侍女が真実を言っているとは限らない。ナタリーはそう思った。
「――そうですね、ただ、コリンナ嬢によれば、ポーリーヌ嬢にエルヴィーラ嬢が毒入りのエールを渡したようです。この事実は、コリンナ嬢とベルク公、皇宮騎士団の陛下付きの一部しか知らないそうです」
「――ベルク公が知っている?」
ユーリアが驚いたように言った。
ナタリーはユーリアとベルンハルトが会話した日のことを思い出していた。
リンデンティーを淹れて、部屋の前に控えていたため、詳しい内容は聴けていないが、ベルンハルトは父のベルク公に捜査を詳しくして欲しい、と頼んでいたとのことだった。
だが、コリンナ嬢という侍女の言うことが真実であれば、ベルク公は息子に真実を覆い隠していたことになる。
「殿下、コリンナ嬢によれば、です。コリンナ嬢について私は気になったので、会話した後に後を着けました。――彼女は薔薇の宮殿の主と通じております」
「ユルシュル、危険であったのに、そこまでしてくれてありがとうございます。それで、どうだった?」
ユーリアが訊いた。
「殿下、シューレンブルク公夫人は、殿下に真実を明かすようにコリンナ嬢を遣わしたようでした。――私はシューレンブルク公夫人こそ、ポーリーヌ嬢の死を必要としていると考えておりましたので、少々混乱しております。これでは、シューレンブルク公夫人は潔白のようではありませんか」
ユルシュルは己を落ち着かせるように、カモミールティーを飲みこんだ。ナタリーにはそう見えた。
――あのユルシュル様が混乱なさるだなんて。
ナタリーは戸惑っていた。ナタリーもポーリーヌ殺害の黒幕はシューレンブルク公夫人グラティア側だと思っていた。
「エルヴィーラ嬢を観察しておりましたが、彼女にはシューレンブルク公夫人と繋がりはありません。ましてや、ケルンテン公にも」
「――ユルシュル、ナタリー」
ユーリアが静かに言った。その声は寒々としていた。そして、続けて言う。
「この件から手を引きなさい」
「殿下!」
ナタリーは思わず、強く言ってしまった。
――あの優しかったポーリーヌの死の真相を明かすまで、手を引けない。
「そなたたちを守れない、そう言っています」
ユーリアはこめかみを押さえていた。
「――わかりました、殿下」
ユルシュルが静かに頭を垂れた。それを見て、ナタリーはかっとなる。
「ユルシュル様も! 一体、どうしてしまったのですか!」
「ナタリー嬢、殿下でも難しいのでしょう」
ユルシュルの言葉を聞いて、ナタリーはユルシュルが何かを察していることを感じ取った。
ナタリーは黙った。黙っていると、自分の心臓のドクン、という音が大きく聴こえてくるようだった。
ナタリーの心臓は大きく音を立てて、早鐘のように打っていた。
――そうね、ポーリーヌの仇くらいならば取れる。
ナタリーの主君はそう言ってくれた。でも、それができないと言う。
――仇を取れない相手。
ナタリーは大きく目を見開き、声を上げそうになった。大きく、息を吸う。
――どうして。
まだ、ユーリアがブルグントに到着し、喪服ばかり着ていた頃、ユーリアは皇帝にこんなことを言っていた。
――お父様、ポーリーヌの死の真相を明らかにしてくださいますよね?
ユーリアの言葉を聞いて、皇帝は短く、ああ、と言っていた。
――やっと、殿下の願いを叶えてくださるように思えたのに。
ナタリーは両目から涙が零れ落ちていくのを感じた。
――どうして。
娘を重用しているように見えたのに。娘のささやかな願いも叶えてくれるように見えたのに。
どうして、娘を苦しめるようなことばかり。
「……うわああああ!」
ナタリーは声をあげて泣いた。涙が止めどなく流れた。




