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或女神の過去

そして、俺たちの現状を掴む。

人混みの上、宙に浮いた状態で四人見下ろしている。

サクラはまだ座りこんでしまっている。

ウェルは一言も発せず、腕を組んで険しい顔をするのみ。

俺は現在のリアシュルテを見る。

やはり自嘲気味な笑みを浮かべている。

「さあ、やれ。疫病を払え。獣を滅せよ。我々に自由を与えよ。女神であろう?女神として召してやったというのに、女神の天命くらいはきちんと全うせよ!!」

過去のリアシュルテを殴ってたジジイが手を止め、そんなことを吐く。

そしてまた殴るのを続ける。

「……っ……つっ……ぬっ……」

結構痛いはずなのに、堪えるような過去リアシュルテ。

略して過去シュルテ。

見た目もロリだから余計見てて辛い。

その表情、怒り以外のものが全く感じられない。

純粋な怒り。

けれど、睨むようなことはしない。

そんなことをすればもっと殴られる、と知っているような顔だ。

やっぱり怒りを支配してただけある。

「またかよ……」

「いい加減女神なら私たちをどうにかしてよ」

「もう……僕らは死ぬまで怯えてなきゃいけないのか……」

「何で、あんなガキに世話焼かなきゃいけないんだよ……」

「あのクソガキ、本当に女神なのか?」

「あんなガキのせいでもっと俺らの生活は苦しくなってんだぞ……」

外野がザワザワと呟く。

みんな過去シュルテに不満らしい。

無能だもんね。

「この街はな、もともと炭坑の街だったらしい。けど鉱脈が尽きて炭坑は閉鎖。街も廃れていった」

説明を加えるリアシュルテ。

「おまけに、国が戦争を起こした。そのせいでこういった力ある人間の多い街からは大量の人が召集され、無駄に死んでいった。もっと街は衰退した。そして数年後には国が敗戦し、滅んだ。この街は別国に入り、ますます駄目になっていった」

不幸が重なり過ぎてて一体なんのエッフェル塔だ、と思ったらエッフェル塔は重なってないことに気付いた。

その時、リアシュルテが指をパチッと鳴らした。

暗転する視界。

しかしすぐ、明るさが戻ってくる。

目に写るのは、先程と同じ教会みたいなところ。

やはり人だかりが出来ている。

けれど、さっきよりも皆、やつれて見える。

そしてその中心に、やはりいた。

教皇。

白髪が濃くなるが、毛が薄くなっている。

彼もまた、やつれている。

その様子が、時を経たことが理解できる。

しかし、教皇の殴るということは変わらない。

殴る。殴られているのもまた、リアシュルテ。

ロリが一変、育ち盛りの女子ってほどまで成長している。

いや、痩せてるし汚いからそれとは程遠いけど。

てか、この過去シュルテのほうがいいんですけど。

この体で止まっててほしかった。

と、殴られている過去シュルテについて変なことを考えていたとき。

プツ。

「……?」

「な……!」

「きたきた……!」

ウェルは早かった。

けど、俺は遅かった。

俺が音の方向を向いたとき、教皇の首はもう真っ二つに裂けてしまっていた。

するすると落ちていき、ボトッと音を立てその首が地面につく。

「ひ……!」

「え……」

「へぇっ……」

人々各々、息をのむ。

直後。残った体、首から血が噴水のように吹き出す。

倒れこむ体。

「いやああああああっ!!」

誰かがようやく叫びをあげた。

俺はまず過去シュルテを見た。

しゃがみこんだまま動かず、ジジイの首を見つめている。

そして右目が、赤黒いあの目をしていた。

黒い炎の燃える目が、怒りだけを体現している。

怒りの魔術が発動したのだ。

「人殺し!人殺し!女神が人を殺した!」

「首……首が……首がァ!!」

「こいつ……女神なんかじゃない!悪魔だ!」

人々口々に過去シュルテを指さして叫ぶ。

聞き取れたのはほんの一部にすぎない。

「悪魔……そうだ悪魔だ!俺たちを苦しませたのもコイツなんだ!」

「悪魔め、死ね!死んで償え!教皇様よりも苦しんで死ね!」

「死ね!死んでしまえ!死ね!」

人々の言葉は、次第に違うものへと変わっていく。

決めつけるように、擦り付けるように。

形が狂いだしていく。

そう。

誰かがこう言った。

「殺せ」

また変わっていくのだ。

「そうだ殺せ!今、ここで!殺せ!」

「俺たちで殺すんだ!」

「誰か!鎌か鍬、兎に角尖ったもの持ってこい!」

「殺せ殺せ殺せ殺せ!」

「仇討ちだ!殺すんだ!」

こんなのが数分続いた。

「悪魔なんか、俺たちが殺ってやる」

何人かの男が鍬やら鎌やらを持って過去シュルテに歩み寄っていく。

「いけ!殺せ!」

「教皇様の仇だ!殺れ!」

「ぐちゃぐちゃにしろ!」

「内臓を抉るんだ!」

教皇の死体の隣で動かなかった過去シュルテ。

男たちが死体の二歩前ほどに来たその時。

ふいに無言で立ち上がった。

顔は俯いていてよく見えない。

「死ね」

微かな声。

この声の主は……

「死ね死ね死ね死ね死ね死ねお前ら全員死んでしまえっ!!!」

過去シュルテ。

キッ、と持ち上がった顔。

怒りという怒りを描いたような顔だ。

死ね連呼で言い放った途端、過去シュルテから黒々とした禍々オーラが放たれ出す。

殺気というやつか。

「何だよこいつ……」

「狂ったのか……?」

「気持ち悪い……さっさと殺れ!」

「そうだ!殺れよ早く!」

気圧されつつあった男たちは、煽られつつ歩みを再開する。

しかし。

ブワアッ、と過去シュルテの殺気が増幅する。

波のようにその黒々オーラが大きくなった。

右目の炎もますます激しくなる。

「うっ……!」

男らが殺気でまた止まる。

この殺気には周りの群衆もどよめき、後ずさった。

過去シュルテを囲む円が少しばかり広くなった。

「なんの……っ!」

男の1人が、右足を一歩踏み入れる。

瞬間、また増幅するオーラ。

そして、過去シュルテの足元から何か赤いものが床を伝って拡がっていく。

血溜まりのようなものだ。

割と早いペースで拡がっていく。

「何……これ!?」

「うわあっ……血か……!?」

群衆がさらに後ずさる。

後ろのほうでも叫びが上がっているから、もう隅々まで行き渡ったのだろうか。

と、何かヤバい雰囲気を感じ取ったのか、男らがついに過去シュルテに襲いかかった!

「うおおおおっ!」

いけ!ダンディ!

振り上げられる鎌と鍬。

やっぱり、何かぶれた剣筋……いや鍬筋やな。

まあ、過去シュルテには通じないだろうな。

どうせ瞬間移動とかで避けたあとこの血溜まりか何かでやらかすん……

男らが全員、胸から血を噴いて倒れた。

いやそのまんまやるんかいっ!

いやさっきからグロすぎるんですが!?

「ぎゃああああああっ!!」

またまた上がる叫び声。

「逃げろ!」

そして今度は、一斉に出口のある後ろ手へと走り出す群衆。

しかし、押し合いでまったく進まない。

「嫌だ!死にたくない!」

「嫌!通して!まだ嫌なの!お願い!」

「おい俺が先だ!邪魔だ!退け!」

「まだ死にたくないんだよ!あああああああ!」

言い合いになり、ついには殴り合いを始める馬鹿もいた。

そんなことで進む訳がない。

そう。もう終わりってことらしい。

過去シュルテが男らの死体を踏みつけて群衆に歩み寄る。

「こっちに来る!来るな!あっちだ!あっちにいけ!」

「嫌だ!来ないで!お願い!」

「くそ!悪魔が!やめろ!来るな!」

必死の叫び。

けれど、もう無駄。

「じゃあ、死ね」

過去シュルテが言い放つ。

その顔、笑っていた。

と、瞬間。

血溜まりが赤く光りだす。

しかし、それも一瞬。

光が失せる。

直後。

「え……」

声を出してしまった。

過去シュルテを囲む円……いや、もう円とはほど遠い……過去シュルテから一番近い側の人々が。

燃えた。

それは円形状に拡がっていく。

また一人、二人と燃えていく。

「いやああああああ!!」

「はやく!はやく!行け!」

「嫌だあああああああ!!」

その声の主もまた燃えた。

一人燃えていくたびに声は消えていく。

どんどんと燃え、倒れる人々……だった燃えかす。

そして、最後の声が消える。

出口から出た人も居たが、そとで叫び声が聞こえたことから、その人々も燃えたらしいと理解した。

燃えたかすに佇む過去シュルテ。

「あはっ……あはははっ……!あははははははっ!!」

両手を広げ、高らかな嗤いをあげる過去シュルテ。

もう、止めることは出来ない。


辺りを焼く炎は、人だった塊を灰へと変えていく。

普通はこんな威力の炎で人は灰にはならない。

というか滅多にどんな火力だろうと人は灰にはならんでしょ。

うん。灰にはならんだろ。

ところがほれ。なってるんですわ。

もうあたり一面灰まみれ。

骨もないしなーんにも残らない。

しかもかなりの高スピードで。

とか言ってたらおい、全部灰になっちゃったぞおい。

と、その灰を産み出した元凶の床の赤いのが振動する。

と思えば、過去シュルテを中心に集まってくる。

というか、戻ってくるのが正しいか。

という感じで、赤い血的なやつが過去シュルテの足元に吸われていく。

仮にこれ全部血だとしたら、過去シュルテ今絶対貧血で死にかけてる量のはずだよ?

けど何かこれ本当に血っぽいのよね。

聞いてみよう。

「なあリアシュルテ、これって……」

「血」

即答。

「けど、物理的に離しただけであって実際その本質は体内とリンクしてるらしいから貧血とかにはならないらしい」

スゴい。聞きたいこと全部言ってくれるじゃん。

何を言ってるのかあんまりわからなかったけども。

あと誰情報なんってのが気になるけど、黙っとこう。

丁度、最後の一端が近寄ってきたところであった。

そういえばこっから何を見せられるの?

もう特にイベントなさそうなんですが?

視線を送るが、誰もこっちを見てくれない。

ひどいよお……と思い、寂しく一人過去シュルテの足元に最後の血が収まるのを見た……その時。

「随分、派手にやっちゃいましたね」

聞いたことのある声が。

声のほう、後ろ手を過去シュルテと同時に振り向く。

……誰?

「誰?」

お、シンクロ。

でもなあ、何か見たことある。

この感じ。

どっかで、最近。

この声とこの顔、結構印象的な出逢いとかしてた気が……。

「私?私ですか。まあそれ以外ありえませんし……ええ。私はゆうくいん。始まりの神、始祖神です」

あああああ!

あんたか!

サクラがめっちゃ怯えてた!

というか俺突き落としたのこいつだし!

けど、その時は幼女だったのに今は何かおしとやかなお嬢様みたいな黒髪ロングなのですが。

顔は変わってない。

どっちがデフォルトなんだ……

どっちも化け代?

ありえる。

などとどうでもいいことを考えていたその時。

「意味わかんない……死ね」

えええええ!?

過去シュルテが始祖神に突っ込んでった。

「あはははっ……威勢よくて結構です……!」

しかし、次の瞬間。

過去シュルテは始祖神に抱き上げられ、肩に担がれていた。

気絶している。

……。

何があった?

ここで、場面が暗転した。

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