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二年前のその日

「ねーえ!早くいこっ!」

「う、うん……」

やや乗り気じゃないけれど、メルナが行くのならどこにでもついていく。

まるで犬のように、僕はメルナの後を追う。けど、

「やっぱり帰ろうよ……だってほらぁ……怖いよこの森……」

すぐにへたりこんでしまい、その場から動けなくなった。

振り向いてずかずか引き返してくるメルナ。その顔は両頬をめいっぱいに膨らませ、ぷんすかと目を吊っている。

「もう、ただの森でしょ?……それに、花がいいって言ったのはヨヅキじゃない!自分で言ったならちゃんとしてよね!もう!」

そう、『花が良いんじゃないかな』って言っちゃったのは僕だ。エルルさんの誕生日が近く、今年こそは何か形に残るものをあげようと言っていたのも僕。

『花は花でも、どうせなら永遠に咲くドライフラワーがいいんじゃない!?ならここで一番綺麗な花をさがしに行かなきゃ!』

なんて、メルナがそんなことを言わなきゃ、今ごろ街の隅っこの花をちょびちょび摘んでただけだったのに……

「エルルさんを喜ばせたいんでしょ?なら、四の五の言わずにほら!早く!」

「う、う……うん……」

僕の腕をえいえいと引っ張るメルナ。

ろくに反論もできなそうだから、僕はされるがままに立ち上がった。

それを見届けたメルナは「よし!」とニッコリ笑って、また進軍を開始した。

「目指すは……幻のお花畑~!」

「そんなのないよ……」

「あーるーの!」

「それじゃあ幻にならないじゃん……」

「う」

いつしか怖さなんてなくなって、笑いすら浮かび上がっていた。

今なら、幻のお花畑も見つかるんじゃないかな。



メルナが鼻唄をうたいつつ、ねこじゃらしみたいな草をぶんぶん振り回し上機嫌で道を行く。

もうかなり歩いたから、それなりに深いところまで来てるはず。

と。

「ヨヅキ!ヨヅキ!来て!早く!」

メルナが早口でまくしたてて僕を呼んだ。

「どうしたの?」

「ついてきて!見つけたの!」

「何を?」

「ひみつ!」

突然右手の草むらに突き進むメルナ。道から外れているけど、いいのだろうか。

背丈と同じくらいの草を掻き分けて掻き分けて、木々の合間に突入する。

木々の隙間から見えるものは……

「青色……?」

真っ青な色が、木々の間から漏れ出ている。

これは、空?

答えは、直後にわかった。

突然草むらが終わり、そこにあったのは、

「うわぁぁぁぁあああ……!!」

辺り一面、花また花の花畑。

そして、層のようになっている、花でおおわれた峡谷。

その最上部に、僕たちはいた。

谷はまるで超巨大な階段で、円を描く形が一段下がる度に小さくなり、逆ピラミッドみたくなっている。

その最下層には、

「あれ……お城!?」

「そうみたいだね」

もう廃墟となったであろう城が聳えていた。

ここからなら城下町まで見渡せるほど、遠く下に位置している。

「ここなら、お花が選び放題!ほら、ほんとにあったじゃん、幻のお花畑!」

「うん。ほんとに、あるんだ……」

喜びはしゃいで駆け出すメルナ。まっさきに行ったのは、やっぱり崖の縁だった。

「たかーーい!」

危ないから気をつけて……と、言おうとした。


その時、首筋に痛みが走った。

ただチクリとした、それだけ。

そのはずだった。

直後、

「いっ!!!?」

その何倍もの強さで激痛が走った。

どっと押し寄せるように心臓にぶつかってきた痛み。

僕は必死に胸を押さえつけ、痛みを堪えようとした。けれど、それだけじゃなかった。

「ん"……!!」

脳に直接落ちてきた、落雷のような強すぎる痛みが直撃し、思考がゼロになった。

再び刹那に来る雷の痛み。それが、僕の脳に言葉を植え付けた。


「殺せ」


虚ろな頭が成す術もなく、むしろ迎え入れるように享受する。

落雷がもう一度。

「殺せ」

もう一度。

「殺せ」

責任感がやってきて、殺さなければいけないと諭す。

矛盾してるはずなのに、受け入れることが正しいんだ。

そうだ。そうだ。殺すんだ。

僕が、メルナを殺せば、いい、んだ。

もう一度。

「殺す」

もう一度。

「殺す!」

メルナを睨みつける僕。もうそれは、僕の意思じゃない。

殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せばいい。

殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ



殺したいんだ。殺さなければいけないんだ。


「ねぇヨヅキ!このお花、どう―――――」


言い終わる前に吹き抜ける、何かが通った一陣の風。

手に握られていた白い小さな花が、無惨にもバラバラと落ちていく。


遠き下の真下で、グシャッという音が聞こえた。


花びらが二枚、地についた頃だった。


崖から落とされた少女は息絶えて、

「な……嘘……ぼ、僕……!!」

正気を取り戻した少年が、突き出したその両手を震わせて、狂気の叫びをあげた。

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