少女
「俺はこの二年、必死でお前を探したんだ……!カテネアたちだって泣いたりしなかった……!まだ、きっとまだ何処かで生きてるって!きっと……まだ……!まだぁ……!!」
ついに涙をこぼし始め、声を震わせ必死に叫ぶエルルさん。少しだけ、小さな子供に戻ったような、そんな感じに胸が痛む。
「なのにぃ……なのに……!!俺たちの二年間の努力は!!無駄だったって……!!そんなの……!!そんなのは酷い……酷いじゃないか!!」
本当に、ただの駄々をこねるエルルさんは、そこまで言うと肩を落とし、声をあげて泣き出した。
嗚咽にまみれた、汚く耳障りな泣き叫びが、どうしても耳にこだまして離れない。
それはメルナも同じだった。
「ごめんね……ほんとに、ごめんね……」
メルナが唇をわなわなと震わせ、今にも鼻をすすりそうに必死に声をひねり出す。
目はきらきらと雫を浮かべ、少しだけ震えている。
そのまま、こと震える足を嘆くエルルさんへと向けるメルナ。
エルルさんの正面まで行き、ゆっくりとしゃがみこむと、その小さな手を伸ばし、触れられないエルルさんの頭をよしよしと撫でるフリを見せた。
「頑張ってくれて、ありがとう……」
時々失敗して手が頭をすり抜けるのが見える。
エルルさんは途端に泣き止み、赤くなった目を丸めて動かなくなる。
「大丈夫……その努力は無駄じゃないよ。だって、今日まで努力してなかったら、私はエルルさんと会えなかった。エルルさんはきっと、ここに来ることもあのお兄さんたちに会うこともなかった。だから……何も一つも、無駄なんかじゃないよ」
その言葉を聞いて、エルルさんはまた目を雫でいっぱいにし、顔を歪めてしまう。しかし、すぐに腕で顔を擦り、振り払い、前を向いてメルナと目を合わせた。
「そうか……メルナがそう言うなら、うん。間違いないよな……そうだ、これは無駄なんかじゃなかった。今までの全ての行動の結果が、俺をここに連れてきてるんだから」
顔が明るんだエルルさん。つられてメルナの顔も笑顔になる。しかし、何かを思い出したように、メルナが急に顔を暗くする。
そして、重い口をゆっくりと開いて、
「私が、死んだ理由、なんだけど、ね……」
真実についてそう語りだした。
「私は覚えてるの。どうして死んじゃったか、いつ何処で、何が起きたのか。そして……誰が私を殺したのか」
「「「!?」」」
ここにいた全ての人間に走る衝撃と、成り代わるように襲ってくる沈黙。
彼女は、殺された……!?
「お前は……殺されたのか……!?」
そう言って沈黙を破るエルルさんの声に、メルナが応じる。
「そう。でも、全然恨んだりしてない。もしそうなら私はここにいないし、あの騎士さんたちも生まれてないはずだもの。もっと強くて、もっと優しい別の思いでいっぱいなの」
どういうことだ?
殺されたのに、恨んでない?それどころか優しい思い?
優しい思いがどうやってヨルオルたちを生み出した?
「共鳴……なるほどのう」
サクラがそう呟いた。
そうだ、それはたしか……
「死霊が生まれる方法……」
後で聞いたことだが、共鳴というのは、霊魂状態のまったく別の強い思想同士が衝突、その衝撃波を受けた魂が霊体として顕現する、という現象らしい。
城に蔓延っていた無念の思想、それらをまとめてやっと並べるほどの強さの思想を、彼女は持っていたのだ。
そのメルナに、エルルさんは問いかける。
「そう……そうか、そう……そうでも、なぁ。お前はそれでよくても、俺は聞かなくちゃいけない。真実を、知らなくちゃ」
そう言ったエルルさんに、メルナははぁっと深くため息をつき、やれやれといった顔をする。
しかし、
「言えない。私からは、言えないの。ごめんね……でも、言えない。私には、そうすることが許されないの……」
声に涙が戻ってくる。今にも泣き出しそうに、か細く言ったメルナは、こう続けた。
「だから……連れていってほしい。全部話してくれる、あの子のところに……私がまだ会えてない、あの子の……」
意思とは、常に衝撃に弱いものだ。
予想を上回る結果を目の当たりにした場合、まずは否定する。「嘘だ」「ありえない」と。
それは良い意味でも、悪い意味でも同じである。
最後まで、信じきろうとする。間違っていると知ってなお、おかしいと気づいたとしても、綺麗事のように言うのだ。
「違う」と。
「そんなのは間違いだ」と。
結局、否定するのだ。
そう。その時、その場にいた人間と異形、そして片方の神は「まさか」と思った。「まさか」「そんなはずはない」と。
あの「子」。あの子呼ばわりなんて、つまりは、そんな、まさか。
そのまさかが、
「ヨヅキの、ところ、に……」
本当になるなんて、思いはしなかった。




