其は、消えた少女
其は、消えた少女だった。
「メルナ……メルナって、あの……!?」
ヨヅキの心を通わせた幼馴染みであり、二年前に失踪したという少女が、彼女というのか。
「どうして……まさか、ずっとここに……」
エルルさんの涙が含まれた問いかけに、メルナは少し困ったように笑いながら答えた。
「そう。ずーっと、誰かが来るのを待ってたの。ずっと、ここでね」
「ぐっ……!」
瞬間、エルルさんが走りだし、メルナに抱きつこうとその体に手を伸ばした、が。
その手は、虚空を空振った。
「え……?」
空振りの反動でそのままバランスを崩し、その巨体がメルナ目掛けて倒れこみ……
メルナを透き通り、体が地面に衝突した。
沈黙、そして悲痛な現実が空間を走り抜ける。
「そんな、そんなぁ……そんなぁ……!!」
途端、感情の波がエルルさんを襲い、涙を流し出した。
拳を床に打ち付け、溢れる涙を止めようともしない。
俺たちは黙り、それを見ることしか出来ない。
サクラは唇を噛み締め、ウェルは俯く。
そしてリアシュルテはというと、顔には出さずともその肩が小刻みに震えている。
メルナはまた困った顔をして、しかし笑いながら、こう
答えた。
「ごめんね、エルルさん。私……死んじゃったの……」
その時、部屋の右側にある大窓から、夕焼けの光が射し込む。光は真っ直ぐに伸び、メルナを照らし出す。そして同時に、メルナの姿を薄く透過させる。
彼女はもうこの世にはいない、ただそれだけを無情に語る光だった。
エルルさんから更に多くの涙が流れ、それ以外の音がこの世から消えた気がした。
「さっきまでみんなが戦ってた死霊さんたちは、私が生み出したの。でも、やりたくてやったんじゃないの。私がもう一度だけ、ヨヅキに会いたいって強く思ったら、あの人たちが出てきたの。でも、みんなもうやられちゃったね……」
そして、明かされた重要問題。まったくの予想外。
「そんな……それは……だって……!」
エルルさんは言葉にすら出来ず、意味を成さぬ単語が出てくるばかり。
それはそうだ。死霊は自分の生み出したもの、と言われれば結果的に、数々のリーデの民を拐ったのがメルナの死霊だということを明らかにし、同時にメルナの死因が死霊とは関係がないことを意味する。
「まったく関係ないリーデの人たちを拐ったって言われてたけど、それは少しだけ違うの。その人たちを故意に拐いたかったんじゃなくて、連れ去ってでも、もう一度みんなに会いたかっただけなの……」
「じゃあ、その人たちは今何処に!?」
メルナは俺の問いかけに、ゆっくり優しくこう答えた。
「大丈夫。みんなに痛いことはしてないよ。それに、きっと今はみんな寝てる」
思わず胸を撫で下ろすエルルさん。
「お母さんとお父さんも、ただもう一度だけ会いたかっただけなの。それ、見ちゃったんだよね……ごめんね……」
「いや、いいんだ……いいんだよ……」
しかし、重要なところが聞けていない。
そう。そもそもの話だ。誰も切り出さない、切り出さなければいけない、これこそが"真実"。
リアシュルテの言う"真実"こそ、
「なぁ……ど、どうしてお前は……死んだんだ……?」
エルルさんが意を決し、震える声で微かに問いかけた、それなのではないか。




