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転職乱用

ひゅういっと風を切り斬りヨルオルに向かう札の雨。

およそ40ほどの祓札が、死霊騎士の身体を襲おうと躍起になって飛んでいく。

「こんなもの……何が面白いと」

しかし体に触れるよりも早く、ヨルオルの剣が眼にも止まらぬ斬撃を放ち、札を撃ち落としていく。

普通の剣が、一度にこんな大量のものを全て撃ち落とすことなど到底無理。確実に撃ち漏らしが出る。

しかし、ヨルオルの剣には撃ち漏らしどころか間合いの内側に入れるものすらない。

神速の剣、というのはこういう者に与えられる称号だと実感した。速すぎる。最早人のそれを越えている。

これでしかも死霊として弱体化しているとか、化け物だろ。むしろ何でここで死んだんだよ。

剣が札を弾く、金属音が鳴り響く。

札が金属音鳴らしてるぜ、おっかしーいなーあ



スキルを一切使うことなく、一度に三枚、五枚と落としていく。

既に目視で二十枚撃破。

半分あたりと見た。折り返しほどか。

ならば残りの二十枚、今の半分で片付ける。

無駄な力を掛けず、それでいて重い剣を成す。

「甘い……」

間合いに目視四枚が入った。

その瞬間、右足に体重を掛け踏み込み。

どうっと音をたてて剣を縦に旋回させ、四枚を全て半ばから切り裂いた。

刹那、今度は五枚。

左前からの刺客は、上手に二枚下手に二枚。そして真ん中に一枚、のサイコロ式の形を保ち描いたまま襲いかかってきた。

フルスピードで間合いに入る、その直前。

「ふんっ」

鼻で笑いつつ、しょうもないその札を一枚一枚、撫でるようにそっと伝って斬っていく。

一枚、また一枚。さすれば、崩れ落ちるように札が割けて散っていく。

残った三枚を同時に斬って、次の札を待ち構える、刹那。

「韋駄天からっ……騎英!」

そう聞こえて。

微かに空気が振動するのを感じて。

追い風のような、後ろから響く何かを感じて剣を防御姿勢に置き換え、瞬時に身体を反転させると。

「流石!」

ギィィイイン。

少年が間合いの内で、刀を振るっているではないか。

何故、何故先ほどまで真逆の位置にいたお前が!?

何が起きた?

「何をした!?」

「なんにも、ただ転職しただけだけども?」

斬り結びながら会話する。ギリギリと軋む刀と剣、譲り気は更々ない。

しかし、何故我の気配察知まで潜り抜けることができたのだ?

ここまでの速さを出せたのか?

幾つも幾つも思案する。

しかし、それこそが仇となった。

「これだけじゃない。今のは序の口。ああ、それと。背中、気を付けたほうがいいと思う」

「何をいっ―――」

超視界、騎士として大いに必要なそのスキルで言われた背後を覗き見た、その時言葉は消えた。

我はいつから、"札を全て斬った"と思っていたのだろう。

残ったおよそ十の札が、既に間合いの内側に入っていた。

「しまっ――!!」

我らしくもなく声を荒げた。すでに迎撃できる位置ではない。まして、前方には斬り結ぶ少年。

しかし、案ずるな。

我はそう、優勢干渉領域の内部にいるのだ。

我の干渉権限は絶対。やつのような小物の魔術など、無効化される範疇に決まっている。

ならば、受けても問題はな――――

ドシュッ、

ドシュッドシュッ、

ドドドドドドッ

「かはぁっ!?」

十の札が、纏う鎧を無視して、優勢干渉権を無視して、我の背中を突き刺す。

背中が急激に熱くなり、燃えるようにその身を焼いて。

また急激に冷たくなり、冷ややかな何かを十の傷からついーっと流した。伝うそれは、冷たい。

喉から込み上げる、何か。

吐き出してみれば、急激に喉が痛み出す。

血であった。

死霊となっても赤い、その血である。

血、血だ……我の……自分の……血……!?

同時に、別のものも込み上がってきた。

物質ではなく、何かの感情だ。

恨み?怒り?

いや……これは、



「焦り」、だと?

何故、何故だ……!

白の道を口から出でた赤で染めながら、我は騎士の誇りをぶれさせて。

「何故!貴様のようなものの干渉権が!!」

領域で、なおかつ神の祝福を受けた、選ばれし者の我に!!

神がお救い下さった我に!!

「我に勝るのだぁっ!?」

何故、焦りは抱かれるのだぁっ!?


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