再降臨
ヨルオルの無防備な左半身目掛け、最後に強く地を踏み締め溜めの姿勢へ移行。
前のめりの状態から、刀を引き絞って前へと向ける。
灯される蒼の燐光。仄かにキイイインと響くスキルチャージの反響音。
ここまでの動作をコンマとゼロ2秒で経過、次のゼロ3でその床を歪めるほど強く踏み込み、最大出力で跳躍。
ただその体一点を目掛け、リューゼ・グラエは跳んでいく。
「さーよーうーな、らッ!!」
最後の1音と同時に、俺の剣が弾丸のように発射された。
まるで何もかも貫き、何もかもに負けはしないようなその蒼。
届け、届け、届け!
三人で繋いだこの一瞬の機会、逃しはしないし外せない!
すべては真実のため、辿り着くため!
さあ、俺のすべてを見せてみろ、俺。
加速、さらに加速した刀が、勢い強く神速を描いた。
「なっ!?」
反応しようが無駄だった。飛び込んでいく蒼が着弾し、肉を切り裂く。その体を神速が駆け巡り貫き通す。
一時無言と無音が奏で合い、そして。
蒼の光がヨルオルを包み込み、一息おいてから衝撃が周囲を襲う。
衝撃によるドーーーーンという重低音は、何かの合奏にも聞こえる。
衝撃にウェルは耐えきれず、ついぞ離脱。というか飛ばされた。
が、エルルさんが辛うじてキャッチ。セーフセーフ。
そして、一呼吸の間に衝撃は和らぎ。
再び無音が訪れる。
「ほら、やはり強いではないか」
しばしの沈黙。それを打ち破ったのは、他でもないヨルオルだ。
「この連続強制召還をもってして倒せぬ、というか最早反撃され左脇腹から背中へと剣が貫いているこの我。中々に面白いだろう……?」
そう、彼の背中からは、左半身から突き刺さった剣先がはみ出している。
繰り返す。《剣先が背中からはみ出している》。
「何故……何故……?」
「?」
「何故……死なない……?」
普通に考えれば死ぬ。
けれどヨルオルは、倒れるどころか意識明瞭であり、なにより『血が一滴も出ていない』。
「ああ、教えていなかったな。我はそれでは死なない。というか、それでは『消えない』。そう。それでは『消えない』。これで、分かっただろう?」
簡単な遠回しだ。つまり、消えないということは。
「死霊……やはり……!」
「正解だ」
その可能性は十分にあった。しかし、そもそもの話、死霊にここまで明確な体を造ることは出来るのかという基本的な観点から、無かったこととして忘れようとした。
まさか、本当に死霊だと。
「ならば……何故肉体がここまで!」
淡々と答え続けるヨルオル。今回もまた、少しも考える素振りも見せず。
「我は特殊なのだ。神に選ばれた霊とでも言うべきか……死後この地をさ迷い続け100年。我は光を見たのだ。そう……極光だ。天啓と思った。我の抱いた無念を、ついぞ神はお受け取りになられたと。ああ感涙した。歓喜した!」
刀を刺されたまま、俺に肉薄されたまま、ヨルオルは人が変わったように天を仰ぎ、目をかっ開き涙を浮かべる。
こいつ、もしかして狂信者か……?いや、絶対そうだろ。
ここから爆弾発言が出てきそうで怖いが、真実に近づけると直感がそういうので、遮りはしない。
続きに耳を傾ける。
「そしてその最中、我は目にした。遠くに映る、少女の姿を。無邪気に走り、通っていく少女を。きっとあれは女神だ。あれこそが救いの女神様。その姿をちらと拝むことが出来るとは。美しい……美しい姿であられた……顔こそ拝めなかったが、そこまでは傲慢だ……姿を拝見した、それだけで十分すぎるのだ!」
涙が溢れるヨルオル。最早騎士の誇りとかまさに埃とでも言うように飛んでってるだろ。
少女で女神とか言われたらどこぞのゆうくいんとかいうのを連想するけど、あの人絶対無邪気じゃないだろうしこんなののために下界降りてこなそうだし、多分違うんだろう。じゃあ誰なんだよ。
あとでサクラに聞くか。
あとさ、なんで俺の出会う人たちってみんな変なやつしかいないんだろう。俺何かした?
が、俺の思考はそっちのけで話はまだ続く。
「少年。死霊の体とは、時に変化する場合が幾つかある。まず一つ、思念強度比例。2つ、説明はしないが、『共鳴』現象。そして三つ目。神の手によって救われた場合、生前よりもさらに強く、自らの思念を叶えるための形となって降臨する。そう。我は生前の頃より遥かに強い。そうだ少年よ、確か君はこう言っていたな……『嘘も戦いのうち』と。……その言葉、そっくりそのまま返還しよう」
「何?」
嫌な予感がする。非常に。
離脱のルートを確定させておくべきかもしれない。
「私の本気……こんなものではないぞ?」
「ま、そうだろうな……」
やはり。最後、半ば受けることをやめていたような気がしたのだ。間違ってはいなかった。
「そうだ、嘘とは神に喜ばれるようなものではない。しかし、この嘘もまた必要な過程!成し得なかったものを成すための、必要な過程だ!神はお許しになるであろう!」
まずい。いよいよまずい気がする。
刀をいつでもからだから引き抜けるよう、タイミングを見計らい待たなければ。
いつだ、いつ……
「だからこそ、だからこそだ少年。我は負けられない。神に頂いたこのからだは……滅ぼさせることは出来ない!!」
ヨルオルの右腕が動いた。
今だ!
全力で刀を引き抜き、全速でバックステップを刻み距離を取る。
直後だ。
もといた場所、ヨルオルを中心とした二メートルほどに一斉に、紫の無数の雷撃が落ちたのは。
「なん……あっぶ!」
「ちっ……!」
あと一瞬でも遅ければ今ごろパーマで黒焦げばたんきゅーだったはず。危なかった。
「中々。こらなら我の本気にも、多少は太刀打ちできるだろう。本気だ、少年。そちらにも、『転職』とやらを出してもらおうか。手札はすべて、出そうではないか」
両腕を開きながらそう語りかけてくる。
「ああ、いい。ならばお前からだ」
「いいだろう」
そういって、おもむろに右手の剣を高く掲げたヨルオル。
すると、刹那。その刀に、先ほどの雷が落ちてきた。
衝撃がこちらまでピリピリと伝わり、頬が冷たい。
紫が瞼を離さない。
しかし、振り切って見れば、ヨルオルの刀は紫の燐光を宿して。ビリ、ビリと紫電がちらつく刀身で。
いわゆるサンダーソードとやらに姿を変えていた。
「雷憑剣」
そして、それだけでは終わらない。
深く息を吸われ、詠唱される。
「ファクトリア……エリア」
瞬間。
空間に歪みが。
まるで何かの足音のように、歪みが波長を描く。
ずぅん、ずぅん。
一度、一度ごと強まる其は、三度目でついに。
鐘の音、叫び、そして衝撃波を掛け合わせ、不協和音のロングトーンを吐き出した。
平行して、空間の景色を変えていく。
待て、ウェルたちは!?
「ウェル!?」
振り向いて叫ぶ。が。そこにあったのは、塗り変わっていく空間の姿。
遅かった。二人は取り残されたというわけか。
まあ、二人がやられる危険性が減ったのならいいが。
聖堂のようだった天井から、真っ黒の虚無。どこまでも続く黒色へ。
いくら見渡しても、270度虚無。
地面には、細長く続く白い道か何か。
いや、これは……決闘のリングか?
騎士、魔法使いの決闘はこんな細長いリングでやるとかどうとかってラノベで読んだ気がする。
頭痛がしてよく思い出せないが、きっとそんな気がする。
現にこの白帯の先に、ヨルオルが剣を空に向け立っているのだから。
「ファクトリア。形成魔術の1つ。そのエリア……つまり優勢干渉領域を形成した。といっても、意味はわからないかもしれないが。とにかく見たまえ、完全な無駄を無くした、これこそ真の決闘の場!君と我の決着をつける場所として、申し分ないだろう!」
優勢なんとかなんとかってのはよくわからないけど、決着の場として不服なし、不足なし!
「勿論だ。で、何だっけ……優勢?そんなもん覆さなくてなんになる?俺が勝つぞ」
転職だ。相手が死霊だとわかっているのなら、使うものは決まっている。
それに、今の俺なら走るときだって使用可能だ。
戦闘中に新しく職を見つけて使う、試してみる価値はある。死ぬかもしれないが。
「いや、我の領域だ。我以外は負ける」
「いや、俺がひっくり返す」
「ふん……いい度胸だ。倒しがいがある……では、行くぞ!」
「こっちこそ!」
虚無のなかのデュエルの白い道。
その上で、また始まった。
転職の乱用。その原初の戦いが。




