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龍王戦記ドラグーン  作者: たくみ
第三章
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しっかり者の気の緩み

 着々と朝食の準備が進められていく環境に肩身の狭い思いを感じながらも、お母さん命令に逆らうに値する合理的な理由を導くことの出来なかった火鳥タカヤとしては、母サヤカの見事な手際に尊敬の念を抱くしかなかった。

 そんな感じで手持ち無沙汰のままぼんやりとしていると、部屋の外から近付いてくる気配を察知してそちらに視線を向ける。


「ふあぁ……おぁよぅー……」


 気配の主、妹のマイはゆったりとした動きで姿を見せるとと、何とも締まらない挨拶を口にした。

 見れば寝たまま歩いているような有り様で、意識が覚醒する前に日頃の慣れだけで身支度をしたのか髪の毛が乱れ、上着のボタンが見事に掛け違っている。

 しかし残念ながらと言うべきか、タカヤとしてはある意味見慣れた光景となってしまっていた


「おはようマイ。朝食の用意は済んでるから、先に顔を洗ってくると良い」


「ふぁーい……くぅ」


 素直に応じて引き返し、洗面台へと向かうマイの足取りは危なっかしかったが、自分が着いていく訳には行かないと自制する。

 この家に来た当初、それをやって大騒ぎになり掛けた苦い記憶を心の奥底に再封印しながら、その背中に声を掛けた。


「朝に弱いのは相変わらずか。転ばないように気を付けるんだぞ、って聞いてないな」


「放っておきなさい。顔を洗うかタンスにつまずくかすれば目を覚ますわ」


 朝食の支度を終えたサヤカがいつの間にか傍らに立っていた。

 その言葉に同意しようとして、タカヤは首をかしげながら言葉を返す。


「流石にタンスは可哀想なんですが」


「無理矢理起こすと機嫌も悪くなるから仕方ないわよ。まぁいつものことだし、平気でしょ」


 打つ手なしという結論に関しては同意するしかなかったので、この話題はそのまま棚上げとなった。

 そしてしばしの時間が流れ、視界に入らない場所から喧騒が鳴り響いたのち、身支度を整えた後らしき妹が部屋の入り口から覗き込むように顔を出した。


「……お、おはようごさいます、母さん……兄さん」


 先程までとは違い容姿を整え終えたマイの顔は羞恥心のあまり顔を真っ赤にしており、見ている側が申し訳ない気分になってくる程である。

 しかし流石と言うべきか、サヤカはまるで動じた様子もなく呆れ返った表情で挨拶を返した。


「おはよう。今更寝起き姿を恥ずかしがっても仕方ないでしょ、マイ」


「だってぇ……」


 指摘はもっともだと感じているのだろう、抗議の声は歯切れの悪いところで止まってしまう。

 タカヤとしてはマイに朝から不機嫌な思いをさせるのは忍びないという思いに至り、助け船を出そうと口を挟んだ。


「おはようマイ。今日は転んだりしなかったから良かったじゃないか」


「そうじゃないの! いやそうなんだけど!」


 そして見事に失敗する。

 彼女にとってのプラス要素を指摘すれば機嫌も上向くだろうという思惑は外れ、ピントのずれた発言になってしまったことはタカヤにとって痛恨の極みである。

 付け加えるなら、タカヤ自身何が悪かったのかを全く理解できないまま押し切られる流れになっていることから、次なる一手に行動を移すだけの余裕が確保できないでいた。

 そんな状況を打開するのは、経験の差という要素が大きいようである。


「タカヤの目が気になって来たってことは、ようやく年頃の娘らしさが出てきたってことかしらね」


 言われた瞬間、マイの不貞腐れたような表情が吹き飛んだ。


「か、母さんっ!」


「はいはい、冷めない内に食べてしまいなさい。貴女は学校があるんでしょ?」


「むぅー……!」


 身を乗り出して抗議をしようとするマイを受け流しながら、サヤカは目の前に準備を終えている朝食を先に済ませるよう促す。

 翼竜騎士団との戦いに備えるタカヤに対して、ごく一般的な生活を送るマイにも学業という義務が存在していた。

 不満を拭いされないまま、それでも言われた内容はその通りであると認めるしかない故に、大人しく席に着く。

 話が終わって一区切りが付いたことをようやく実感したタカヤは、取り残され掛けた会話の中で疑問に思ったことをここぞとばかりに問い掛けた。


「母さん、トシゴロと言うのはどういう意味ですか?」


「兄さんはそこを突っつかないで下さい」


「ごめんなさい」


 どこか冷たいマイの一言に、間髪いれずタカヤの謝罪の声が返される。

 この場で一番位が低いのは自分のようだと、タカヤは実感として理解した瞬間だった。

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