奇妙な時計1
それは、奇妙な時計だった。透明な球体の中に閉じこめられた文字盤と針、その球体をどういうふうに動かしても、文字盤と針は、必ず自身の方向を向く、どこの製造者のものでもなく、ただ、それを造るのに技術の粋が集められていることだけがわかった。
それは、どうやって動いているのか、それは、どのようにして動いているのか、それを考えるだけで、一日が過ぎていった。それは、子供の頃のキラキラとした宝物だった。
”奇妙な時計”それは、忘れていた宝物だった。忘れ去られた宝物のはずだった。
その時までは
*
それは、奇妙な時計だった。子供の時も不思議だったが、大人になってしまった彼女が見て見てもそれは、不思議な時計だった。
そして、変わらず時を刻み続けるそれをバッグの中にしまい込んだ。
そうして、それは唐突にやって来た。まさにタイミング良く、自分の都合の良いように、それは唐突にやって来た。
やる事は簡単、ほんの少しそこに手を伸ばして、それをやれば良い。止められた時間の中でそれをやれば良いのだ。
*
それは、奇妙な女だった。
某有名企業の制服を身につけ、同僚と談笑しているが、明らかにその女は異質だった。なにが、というわけではない。それは、どんな風景にも溶け込めない、そういう女だった。
誘うように”奇妙な時計”が、光を反射する。そうして、彼女は、日常になった決まり切った行動を誘われるままに行うだけだ。いや、そのはずだった。彼女しか動けないその世界でそいつが言葉を発するまでは
「世界には唐突に”陥穽”が、生じる事がある。それは、非常に唐突で、気まぐれに、それは訪れる。それに、気づくか、気づかないか、それが問題だ」
”それは奇妙な男だった”
それは慈しむような、哀れむような、複雑な表情を浮かべて、言葉を続けた。
「そう、世界はこんなにも穴だらけだ」




