第七章:矛盾した罪
ユウキ先輩に追いつき、寂れた廃屋の片隅で警備兵をやりすごしながら
彼女が追っていた傷の手当てをしていた。
「ユウキ先輩、一体何があったんですか!
こんな・・・こんな怪我までさせられて・・・。」
「カナート・・・私に・・・かまうな・・・。」
「駄目ですよ!俺はユウキ先輩が神王陛下に
勝利をたたえられるまでは、白騎士団の一員です。
団長がこんな姿になって、見捨てたとあっては騎士の名折れですよ。」
「カナート・・・まったく・・・君は・・・。」
俺のへりくつをユウキ先輩は笑って受け入れてくれた。
「私が・・・反逆罪というのは、本当なんだ・・。
神王の・・・神王陛下の命令に逆らってしまった。
だから・・・だから追われるのは仕方ないんだ。」
ユウキ先輩の口から聞かされた驚きの事実。
彼女が、神王陛下の命令に逆らった・・・?
だが、まて・・・何かがおかしい・・・。
「ちょっと待ってください、ユウキ先輩。
あの場は、ユウキ先輩の勝利をたたえるための場で、
命令をあの場でされるってこと事態、不自然じゃないですか。
それに、命令に逆らったって、冒涜罪ぐらいですよ、普通は。
それだけで反逆罪っておかしいですよ!」
何なんだこれは・・・何が正しくて何が間違っているんだ?
俺はわけわからなくなっていた。
「ふふ・・・カナート、君は物事をよく見ている。
やはり、君は優れた騎士になれるさ。
こんな所で私にかまっていてはいけない・・・。」
ユウキ先輩は俺の答えをはぐらかしている。
「ユウキ先輩、言ってください。
あの場で何があったのか。」
「・・・・すまない、カナート。
私の口からそれは言えない・・・。
言うべきではないんだ・・・彼女を裏切れない・・・。」
一体、何が・・・何のことをいっているんだ・・・。
「カナート!
ここにいたの!一体どうなってるの!?
あなたもユウキ先輩も、反逆罪で捕まえろって、みんな言ってて!」
セルフィアとマルミが、駆けつけてくる。
ここは三人でよく遊んだ場所だから、ここに隠れているって
すぐにわかったようだ。
この二人に見つかるのだから、ここも危ないな・・・。
それにしても、俺まで反逆罪かよ・・・。
「セルフィア、マルミ。
おまえ達までかかわるな。
俺はユウキ先輩をつれて、この国をでる。」
「な、何を!」
みんな驚きの顔でこちらを見る。
「だって、反逆罪とか、もうどうにもならないでしょ。
捕まったら死刑ですし。
自分が相応の罪を犯したのなら潔く捕まりますけど、
そうでない限り、俺は逃げ続けますよ。
もちろん、ユウキ先輩も連れてね。」
俺は、ユウキ先輩の肩を担いで立ち上がる。
「まったく、君は・・・強いな・・・。」
ユウキ先輩は少し気弱につぶやいた。
普段は精悍な顔つきのユウキ先輩がこうまで気弱になるなんて・・。
一体何があったっていうんだ・・・。
「わ、私もいくよ、カナート!」
セルフィアが、俺についてこようとする。
「セルフィア、君は帰れ。
ユウキ先輩は俺が付きそう。」
「そっ、そんな!わ、私もカナートと一緒に・・・。」
「聴くんだ、セルフィア。
俺達と一緒にいたら、おまえまで反逆罪になってしまう。
反逆罪っていうのは、国に敵対するってことだ。
この国に住んでる、おまえの家族やファルナ先輩と戦うってことだぞ?」
「か、カナート・・・でも・・・私・・・。」
「何をしている、さっさと行け!
マルミ、セルフィアを頼む。」
マルミはちょっと泣きそうな顔をしていたが、ぐっとこらえて答える。
「わ、わかった。セルフィアは私にまかせて。
カナートも・・・無茶しちゃだめだぞ・・・。」
「わかってる。さぁいけ、二人とも。」
俺は二人を促し、逆方向にユウキ先輩と歩き出す。
「うっ・・・ご、ごめんなさい・・・。
私、姉様を説得するから・・・。
ユウキ先輩を助けてもらえるように・・・。」
セルフィアはマルミにつれられ、泣きながら去っていく。
途中、マルミが振り返って話かけてきた。
「カナート・・・、また・・・あえるよね・・・?」
「あぁ、絶対だ・・・。」
「うん・・・絶対だよ・・・。」
そういってマルミはセルフィアをつれて帰っていった。
「さぁ、ユウキ先輩、俺たちも行きましょう。」
「か、カナート・・・君だけでも・・・逃げろ・・・。
私は怪我をしているし・・・足手まといになる・・・・」
ユウキ先輩は体に数カ所切り傷がある。
今は適当に止血して、何とかなっているが
普通なら絶対安静の所だろう。
「生憎、俺はセルフィア程、聞き分けはよくないんです。
ユウキ先輩は助けてみせます。」
「何故・・・何故そこまで、私を助けようとする?
君にそこまでの義理は・・・ないはずだ・・・。」
ユウキ先輩は俺につれられ、ふらふらと歩きながらそう言った。
「そうですね・・・ユウキ先輩が極悪人で、
殺されても当然の人なら、俺だってこんなことしません。
でも、そうじゃない。あなたは何も悪くない。
そして、あなたは死ぬべき人じゃない。
だから、です。あなたが、こんなことで殺されるなんて、
何か、俺にとっては矛盾してるんですよ。」
あの無邪気で、清廉なユウキ先輩が、あの一瞬で
反逆罪として処刑される。そんな矛盾があっていいわけがない。
「む、矛盾してるって・・・?」
「そう、だから、俺はその矛盾を正すだけ。
そのために、ユウキ先輩は助けて見せます。」
「ふふっ、君も・・・おもしろいことを・・・。」
ユウキ先輩は、本当におかしそうに笑っている。
その笑いには、どことなく安心した所も見られる。
ユウキ先輩も、一人で反逆罪に等されて、不安に違いないのだろう。
「さぁ、行きましょう。」
「・・・負けたよ、君に任せる。
だが、いざとなったら降伏しろ。
分家とは言え、君も、エスシオールの名を冠する者。
私に脅されたとでも言えば、罪は免れよう・・・。
「はいはい、そういうことにしておきます。
でも、俺が降伏する時は、ユウキ先輩が助かる時だけですから。」
「君って奴は・・・。」
ユウキ先輩はあきれたような、でも俺を頼るような、
そんな目で俺をみつめて、観念したように歩き出した。




