第二十三章:現世の楔
退却は思ったように進まなかった。
俺達がマルアイアを攻めている間に、裏では蒼龍騎士団が
再びライム砦をせめて陥落させていたそうだ。
一度無条件で手放し、再度攻める等理解できないことではある。
が、トルアノ連邦はライム砦を無条件で奪回できたからこそ
色気をだして、マルアイアまで遠征してしまったのだ。
あの撤退はむしろ、マルアイア攻略を誘っていたのではないかとすら思えてしまう。
ホルンまで撤退するためにはライム砦を通らざるを得ない。
蒼龍騎士団の囲いは想像以上に頑強に固められてしまったということだ。
さらに予想外だったのは、ラスティア将軍率いる征龍騎士団の早さ。
離れたノーティアからマルアイアまで迫っている時点で
ある程度予測しなければならなかったかもしれない。
征龍騎士団は小数精鋭で機動力重視の編成できているらしく
その進軍速度がずばぬけてはやく、あっという間に後続が追いつかれてしまった。
マルアイア攻略には参加しなかったクライアートが後詰めで対処しているが
最強の星騎士といわれるラスティア将軍の他にも
征龍騎士団が携える公騎士は強者揃いと聞く。
どこまで時間を稼げるかわからない。
そんな中、俺達はファルナ先輩の蒼龍騎士団を突破できずにいた。
「ユウキ、カナート君。
思ったよりがんばっているけど、もう諦めた方がいいんじゃないかしら。」
公騎士時代はユウキ先輩の方に分があった剣技も
星騎士となったファルナ先輩の前には通じなかった。
俺はただただ、見ているしかなく、それがどうしようもなくもどかしく・・・。
「う、後ろから敵です!
中央騎士団が・・・!」
後続の兵が蹴散らされ、大軍団がこちらに向かってくる。
神国中央騎士団。率いるのはレーナレーナ元帥。そして副官は・・・。
まぁわかっていたことなんだけど、最後の最後でこれはきついな。
「ファルナ、そちらのカナートという少年は
中央騎士団が引き受ける。」
レーナレーナ元帥がファルナ先輩に向かって告げた。
「そうですか、でもカナート君はこちらで処理した方がいいのでは?
お母様がいらっしゃっては何かと
手心を加えてしまうのではないかと思うのですが・・・。」
そう、中央騎士団の副官とは俺の母、ラナリア・エスシオールその人だった。
正直、中央騎士団とことを構えるまでいくとは思っていなかったから
トルアノ連邦に協力したんだけど、こんなことになるなんてな・・・。
「ご心配には及びません。」
そういって、ファルナ先輩に話しかけたのは
懐かしい、俺の母、ラナリア・エスシオールだった。
「カナートは・・・カナートは私の子供ではありませんから。」
それが、俺が現世で聞いた母の最後の言葉だった。
人が現世につながっている最後の楔ってのは、案外本人が思っているのと違うものなんだなぁと
俺は広大なハルセウス宮殿での叙任の中でぼんやりと考えていた。




