第二十二章:窮地
マルアイアの街を落としたものの、
トルアノ連邦は結果的に二人の将軍を失うことになった。
マルアイア陥落の功はユウキ先輩が受けることになり
異例の大出世でユウキ先輩はトルアノ連邦の少将になった。
フィルバレス将軍、ロミーネ大将の残存兵をまとめた軍の指揮官役として
適任者がいなかった、というのが大きな理由だろう。
現状でこのまま進軍できるだけの戦力はなく、
参謀殿がいくらごねようと、もはや軍議は停戦一色の状態だった。
だが、マルアイアを落としたことでとうとう
神国を本気にさせてしまったようだ。
次々と恐ろしい知らせが舞い込んでくる。
「イシリナの街から南西に向けて敵軍の侵攻を確認しました!
敵将はレーナレーナ元帥・・・間違いなく神国中央騎士団です!」
「ランドルク山道から敵の騎馬隊一個大隊が迫っているとのこと!
軍旗は征龍騎士団、ラスティア将軍の部隊です!」
「エルフランから北西に向けて敵の大軍を確認!
ホルン砦と同じ部隊・・・新設の蒼龍騎士団です!」
三方から、それぞれ星騎士が率いる最強の騎士団が
マルアイア目指して進軍しているという。
兵数、騎士位の数共に圧倒的に不利な戦い。
地理的にもマルアイアは交易の都市で護るには適していない。
「どどどど、どうする!
こ、これはまずい、まずいぞ・・・。」
領王様は今頃になってあたふたしている。
神国とことを構える時点でこういうこともあることは想像に難くない。
特にマルアイアまできてしまうと、神都を守護する
レーナレーナ元帥の中央騎士団や、北方で魔族と戦っている
ラスティア将軍率いる征龍騎士団が遠征できる範囲まできてしまう。
これは起こるべくして起こった窮地なのだ。
「領王陛下。本来であれば陥落と同時に外交交渉を行うべきだったのですが
相手の行動が迅速。こうなってしまっては間に合いません。
マルアイアは捨て、ホルンまで引き返しましょう。
場合によってはライム砦も落ちるかもしれません。ホルンで補給ののち・・・。」
「ば、馬鹿な!せっかく落としたマルアイアを捨てるというのか!
この都市を押さえれば莫大な富が約束されるというのに!」
「恐れながら、マルアイアは交易都市で周囲に砦もなく、護るには適しておりません。
神都に近く、レーナレーナ元帥率いる中央騎士団は
ほぼ全ての戦力でこちらに向かってくるでしょう。
この都市を護るには外交しかなかったのです。
停戦交渉は引き続き行っていきますが、ここにいては命を落とします。
すぐさま撤退しましょう。」
マルアイアを落として浮かれていた所で、この有様だ。
一気に地獄にたたき落とされたような気分なのだろう。
領王も参謀殿も未練たらたらなのだが、ほとんど無視して軍議を進めた。
正直、一刻を争う事態だ。
ホルンに撤退するためには蒼龍騎士団の囲いを抜ける必要がある。
とはいえ、そこに時間をかけていると中央騎士団、征龍騎士団が後ろから迫ってくる。
可能であれば蒼龍騎士団に退路を断たれる前に、それができなくとも
中央騎士団に追いつかれずに突破できるだけの時間を確保しなくてはならない。
ユウキ先輩は少将となったため、残存兵をまとめて
撤退の手はずを各隊長に説明している。
ブリトニア、ボルトーナの両国は手早いもので
俺達の軍議の結果がでる前にもう撤退の準備を始めて
結果がでると同時に退却していった。
こうして俺達の逃走劇がはじまった。




