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毒父を信じた親友が全てを壊された。私は鬼になって二人と縁を切り、自分の幸せだけを掴み取る  作者: 品川太朗


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第5話(最終話):それぞれの道へ


私の平手打ちは、ヒマリの錯乱を止めるには十分だったようだ。


腫れ上がった頬を押さえ、ヒマリは呆然と私を見上げている。その瞳には、恐怖と混乱、そして私への恨みが滲んでいた。


それでいい。

 恨まれてもいい。どうせ、これが最後なのだから。


私はヒマリの胸ぐらを掴み、自分の顔を近づけた。


「ヒマリ、あんたとは絶交よ」


「……え?」


「これが友達としての最後の忠告。今度はちゃんと聞きなさい。……絶対に、あいつから逃げ切るのよ」


私は、噛み砕くように言葉を続ける。


「あいつは前科もあるし、今回の件でしばらくは塀の中から出てこない。でも、一生じゃない。いつか必ず出てくる。そうしたら、あいつは必ず私とあんたを探すはず」


ヒマリの体が震えるのが伝わってくる。


恐怖を植え付けるためじゃない。現実を教えるためだ。あいつは執念深い。一度味を占めた獲物を、そう簡単には逃さない。


「もし見つかったら、あんたの就職先だろうが結婚先だろうが、あの調子で乗り込んで大騒ぎするわ。被害者面して、あんたの幸せを全部ぶち壊しに来る。……分かるでしょ? あいつはそういう生き物なの」


「そ、そんな……」


「だから、逃げるのよ。名前を変えて、住む場所を変えて、痕跡を消して。私だけじゃない、大学時代の友達とも全部縁を切りなさい。どこから情報が漏れるか分からないから」


私は胸ぐらを掴む手に力を込めた。

 視界が涙で滲む。


本当は、抱きしめて慰めてあげたかった。


でも、私がそばにいれば、ヒマリはまた「ケンジの娘の友人」として狙われる。私という餌がある限り、彼女も安全ではないのだ。


だから、私は鬼になる。


「いい? 絶対に逃げ切るのよ。……分かったわね?」


ヒマリは泣きじゃくりながら、小さく、けれど確かに頷いた。


「……うん、分かった……」


私はパッと手を離すと、背を向けた。

 これ以上ここにいたら、決心が鈍る。


「さようなら、ヒマリ」


背後でヒマリが何かを叫ぼうとした気配がしたが、私は一度も振り返らずに病室を出た。


廊下を歩きながら、止まらない涙を袖で乱暴に拭った。


あんなクズのために、私たちの青春も友情も、滅茶苦茶にされた。

 絶対に許さない。


けれど、私はもう立ち止まらない。私もヒマリも、あいつの人生の脇役になんてなってやらない。



――それから、数ヶ月が過ぎた。


ケンジには実刑判決が下った。

 過去の余罪や、今回の悪質極まりない犯行が考慮され、当分の間はシャバの空気を吸うことはないだろう。


もちろん、あいつが出所する頃には、私は法的な措置も含め、二度と関われないように鉄壁の準備を整えているつもりだ。


私は無事に大学を卒業し、希望していた会社で働き始めた。

 忙しくも充実した日々を送っている。


ヒマリとは、あれ以来一度も会っていない。

 連絡先もブロックし、共通の友人たちとも疎遠になった。


風の噂では、実家に帰り、療養していると聞いた。


傷が癒えるには長い時間がかかるだろう。一生消えない傷かもしれない。

 それでも、彼女がどこか遠くで、平穏に暮らしていることを願うことしか私にはできない。


オフィスの窓から見上げる空は、どこまでも高く、青かった。


「……せいせいするわ」


私は小さく呟き、大きく伸びをした。


孤独かもしれない。冷たい人間だと罵られるかもしれない。

 けれど、私は私の人生を守り抜いたのだ。


私はヒールの音を響かせ、前だけを見て歩き出した。


もう二度と、誰にも私の幸せを邪魔させたりはしない。


(完)

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