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毒父を信じた親友が全てを壊された。私は鬼になって二人と縁を切り、自分の幸せだけを掴み取る  作者: 品川太朗


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第1話:忌むべき再会


私の名前はサエ。二十二歳、しがない大学生だ。


幸運にも希望していた会社から内定をもらい、後は卒業式を待つだけ。

 退屈といえば退屈だが、穏やかで平和な日々を送っていた。


――あんなことが起きるまでは。


その日、講義を終えて大学の正門を出たところで、私は思いがけない人物から声を掛けられた。


「おい……サエ。サエだろ? 俺だよ、父さんだよ」


心臓が早鐘を打ち、全身の血が凍りつくような感覚。


恐る恐る振り返った私の視界には、間違いなくあの男が――私の人生を滅茶苦茶にしたクズ野郎が立っていた。


(なんで、こいつがここに……? どこから私の居場所がバレた?)


親戚か? 地元の友達か?

 いや、今はそんな犯人探しをしている場合じゃない。


こいつから逃げるために、名前を変えることすら考えたほどだったのに。


「……どうしたんだ? サエ、父さんだぞ? 覚えていないのか?」


男――ケンジは、親しげな笑みを浮かべて近づいてくる。


忘れるわけがないだろう。

 酒に溺れ、暴力を振るい、母さんを虐げ抜いて殺した男の顔を。


私が蛇蝎(だかつ)のごとく睨みつけていると、隣を歩いていた友人のヒマリが、不思議そうに私を覗き込んだ。


「ちょっと、どうしたのサエ? お父さんって、言ってるけど……」


「ヒマリ、気にしなくていいから。知らない人だし」


私は冷たく吐き捨て、ヒマリの手を引いて歩き出そうとする。

 だが、ケンジはそれを見逃さなかった。


「うっ……ううっ!」


突然、ケンジはその場に膝をつき、大げさに泣き崩れたのだ。

 大学の正門前。多くの学生が行き交う中で、土下座までしてみせる。


「すまなかった……! 父さんが悪かった、あの時はどうかしていたんだ!」


涙を流しながら地面に頭を擦り付けるその姿に、周囲の視線が集まる。

 ざわめきが広がる中、私は冷ややかな目で見下ろした。


(こんな所で騒ぎやがって……。相変わらず、自分のプライドよりも実利を取る男だ)


これは、こいつの常套手段だ。

 同情を引き、相手を悪者に仕立て上げ、主導権を握るためのパフォーマンス。


無視して駅に向かおうとすると、案の定、ヒマリが私の袖を掴んだ。


「ちょっとサエ、お父さんを放っておいていいの? あんなに謝ってるじゃない」


「……放っておいて」


「でも、何があったか知らないけど、ちゃんと話し合ってみれば? 親子なんでしょ?」


ヒマリの瞳は、純粋な善意で輝いていた。


彼女は温かい家庭で育った、疑うことを知らない心優しい少女だ。

 だからこそ、目の前の「改心した父親」という演出を信じ込んでしまっている。


――困った。


このままここに居座れば、ケンジに自宅を突き止められる危険性が高まる。

 かといって、ヒマリを説得している時間もない。


ケンジがチラリと上目遣いでこちらの様子を窺っているのが見えた。

 その目は、獲物を品定めする爬虫類のようだった。


「悪いけど、やり直す気はないから」


私はケンジに向かってきっぱりと言い放つ。


「話がそれだけなら帰るわね」


そう言って背を向けた瞬間、ケンジが「待ってくれ!」と叫びながら縋ろうとした。

 ヒマリが慌てて仲裁に入ろうとする。


「ちょっとサエ! 人様の家庭に口出ししたくないけど、お父さんもこんなに反省してるじゃない。それなのに一言で終わりって、冷たすぎない? ちゃんと話し合いなさいよ」


本当に、人様の家庭に口出ししないでほしい。

 喉まで出かかった言葉を飲み込む。


ヒマリは何も知らないのだ。こいつがどれほどの外道かを知らないからこそ、無邪気な正義感を振りかざせる。


これ以上、ここにいるのは危険だ。

 私はヒマリの腕を強引に掴んだ。


「ヒマリ、後で話すから。黙って付いてきて」


「え、ちょっ、サエ!?」


私は抵抗するヒマリを引きずり、逃げるようにその場を後にした。


背後から、ケンジの粘着質な視線が背中に突き刺さるのを感じる。

 あいつは諦めていない。


それどころか、私の隣にいた「ガードの緩そうな獲物」を見つけたことを喜んでいる気配さえした。


嫌な予感が、背筋を駆け上がっていった。

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