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流転の國 vol.1 〜突如として世界を統べる大魔術師になった主人公と、忠実で最強な配下達の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第四十三話 マヤリィ様、再び倒れる

バイオのこと…

シャドーレのこと…

そして、皆を守ること…


桜色の都絡みの一件の後、マヤリィがやらなければならない仕事は予想以上に多くありました。

桜色の都絡みの一件を片付けるのは難しいことではないと思っていたが、予想以上に時間がかかったし気を遣うことも多かった。精神病兼虚弱体質のマヤリィはかなり消耗していた。

「さすがに、疲れたわ…」

「姫、また五日くらい休日にしましょうよ」

玉座の間には姫とジェイ。

どうやらシャドーレはルーリと仲良くなれたようだし、次は皆で女子会をやるらしい。

バイオはあの後も命じられた通りに訓練所に通い、ランジュに助けてもらいながら水系統魔術を習得する為の訓練に励んでいるという。

シェルによれば、リスがようやく戻ってきたが、何やら体調が優れず、ずっと自室にいるらしい。本人に代わって、シェルが挨拶に来たくらいだ。大丈夫かな。

そして、桜色の都からは使者がやって来た。

それは国境線の黒魔術師、マンスだった。ダークからの手紙を届けに来たという彼にはジェイが対応し、転移の宝玉を一つ与えて都へ帰した。その手紙はシャドーレ宛だった。

「シャドーレはもう読んだかしら」

「はい。手渡した時はとても困った顔をしていましたが」

「先にこちらから手紙を送らせるべきだったかしら」

シャドーレはもう二度と桜色の都に行かないと言っている。

姫は心配そうな顔で、

「閉鎖的な桜色の都といつまでも繋がっているより、シャドーレにはここで自由に生きて欲しい。…私の個人的な我儘で彼女をここに留めてしまったけれど、本当に良かったかしら」

「僕は良かったと思いますよ。桜色の都が閉鎖的な環境なのは間違いありませんし。…それに、姫とシャドーレの境遇はどこか似ている気がする。これは、あくまでも僕個人の見解ですが…」

「…そうね、確かに、私は元の世界でかなり閉鎖的な環境に……」

姫はそう言いながら考え込む。

が、何しろ疲れているので難しいことは考えたくない。後回しにしよう。そうしよう。

「…ジェイ、これから私はどうしたらいい?」

姫が聞く。さっきよりも顔色が悪くなっている。

「やはり、まずはお休みを作った方が良いと思います。…貴女の為にも」

ジェイが答える。

「そして…姫もここで自由に生きるべきかと。どうやら、この世界にも貴女の病を治す薬はないみたいですので」

「確かに、私に合う薬はなさそうね」

姫はそう言ってため息をつくと、

「ジェイ、ありがとう。いつも私の傍にいてくれて。…これからは、より一層貴方に頼ることになりそうだわ」

「姫、貴女の傍にいることが僕の一番の幸せです。どうか、これからも僕を頼って下さい。いつでも呼んで下さい。僕はいつだって…貴女のことを守りたい」

元の世界にいた時も今も、ジェイは姫のことを慕い、誰よりも大切に想っていた。日本にいた頃は助け出せなかったけれど、今度こそマヤリィを病の淵から救いたい。

「…また、僕の部屋に来ませんか?」

「ええ。これから行ってもいい?」

「勿論です。久しぶりに貴女とゆっくり過ごせたら嬉しい」

それを聞いて、姫は微笑む。疲れきって、少しやつれた顔でさえも美しい。

「…皆に念話を送りましょうね。そうしたら、すぐに貴方の部屋に行くわ」

「はいっ!」

ジェイが嬉しそうに返事をする。

そして、マヤリィが皆に休日を与える旨の念話を発動しようとした瞬間。

「ご主人様、こちらにいらっしゃいますか?」

部屋の外からミノリの声がした。


「…その声はミノリね?入っていいわよ」

念話の発動を直前で取りやめて、マヤリィが返事をする。何事だろうか。

「はっ。失礼致します」

ミノリとシャドーレが入ってくる。

「二人とも、いきなりどうしたんだ?」

ジェイが訝しげに二人を見る。

姫がお疲れの時に、厄介事でも持ってこられたら困る。

「実は、ご主人様にご報告申し上げたい件がございます。聞いて頂けますでしょうか」

ミノリが跪き、頭を下げる。

「…ミノリ。今、マヤリィ様は皆に念話を送ろうとされている。それに、とてもお疲れのご様子だし、緊急の案件でなければ後にしてもらえないか?」

姫の代わりにジェイが返事をする。

実際、ご主人様はとても顔色が悪い。

「それとも、どうしても今でなければいけない事情があるのか?」

姫を気遣うあまり、ミノリを責めるような口調になるジェイ。

「き、緊急ではございませんが……」

シャドーレが口篭る。

緊急でないなら、姫が少し回復してからにして欲しい。ジェイはそう思ったが、

「いいわよ、今聞くわ」

姫はいつになく畏まった様子の二人を見て、話すよう促す。

「はっ。有り難きお言葉にございます」

ミノリは姿勢を崩さず、

「ご主人様がお疲れの所、誠に申し訳ございません。実は…ご主人様にミノリとシャドーレの交際をお許し頂きたく、参上致しました」

「こ、交際っ…?」

姫よりもジェイの方が驚いている。

「ミノリは、ご主人様を心からお慕い申し上げております。されど、ミノリは恋をしてしまいました。ご主人様を一途に愛すると言いながら、恋をしてしまいました…」

ミノリは頬を染めて、マヤリィに気持ちを語る。

今の自分の心の全てをご主人様に語ろうとするが、

「ああ、そういうことだったのね…」

マヤリィは特に驚く様子もなく、ミノリとシャドーレを見る。主に見つめられ、ミノリは黙る。

「二人が惹かれ合っているのは知っていたわ。でも、まさかそこまで発展していたなんてね」

そう言って玉座から立ち上がる。

「言ったでしょう。皆には、この國で心穏やかに健やかに自由に過ごして欲しいのよ。…貴女達のこと、報告してくれてありがとう。流転の國の主として、喜んで二人の交際を許すわ」

ミノリにはまだ色々と言い訳とか感謝の言葉とか、伝えたいことが沢山あったが、それを聞くことなく、主は二人に許可を下す。

「はっ。有り難きお言葉にございます、ご主人様」

「感謝致します、マヤリィ様」

ミノリとシャドーレは頭を下げる。

二人の様子を見て、マヤリィは微笑む。

「嬉しい報告で良かったよ」

ジェイもようやく安心する。

「皆には後で直接報告しましょうね」

姫はそう言って再び玉座に座ろうとする。

が。

ふらり。

立ち上がった姿勢から、そのまま玉座の前に倒れるマヤリィ。

「姫!?」「ご主人様!?」 「マヤリィ様!?」

皆の呼びかけに応えることもなく、マヤリィは意識を失った。


「姫!!」

一番近くにいたジェイが真っ先に駆け寄り、マヤリィを仰向けに寝かせる。返事はない。

ジェイは咄嗟に、

《こちらジェイ。ルーリ、今すぐ玉座の間に来てくれ。緊急事態だ》

ルーリだけに念話を送る。

彼女はすぐに現れた。

「マヤリィ様!?…意識がない…!」

ミノリとシャドーレはなぜ突然ルーリが『転移』してきたのか分からず、混乱している。

「ジェイ、お前の部屋は片付いているか?」

ルーリは素早く優しくマヤリィを抱き上げ、ジェイに訊ねる。マヤリィをどこで介抱すべきか考えている。

(ジェイの所でなければ私の部屋…!)

前に一度倒れたマヤリィを看た経験から、ルーリはあの時と同じかもしれないと考えている。

「ああ。僕の部屋で大丈夫だ。すぐに運ぼう」

ジェイの言葉に、ルーリは力強く頷く。

「君達はここで待っていろ。ご主人様が送ろうとされていた念話は後で僕が皆に伝える」

二人は戸惑いながら頷く。

そして、ジェイは『転移』を発動し、マヤリィを抱き上げたルーリとともに自分の部屋へ移動する。

「…ジェイ、ご主人様をベッドに寝かせて差し上げる。それから…ジャケットを着て横になっているのは楽じゃないだろう」

ルーリは優しくジャケットを脱がせ、枕の位置に合わせて体勢を整え、毛布をかける。

「そうか…前に桜色の都へ行った後、倒れた姫を介抱したのは君だったんだな」

ジェイはルーリの素早い判断と手際の良さを見て確信する。

「ああ、そうだ。あの時は時々目を覚まされることはあったが、眠っていらっしゃる時間が長かった。時間をかけて、回復されたという感じだった」

「なんで助けを呼ばなかった?」

「皆に伝わったら大騒ぎになるだろう。それこそ、マヤリィ様の心配の種になる。…あと、白魔術はこの状態のマヤリィ様には効かないのではないかという気がした」

「そうか…それは僕も思う…」

ルーリの行動は正しかった。とジェイは思った。それと同時に、頼ってもらえなかったことが少し寂しい。

「…なんで僕の部屋に運ぼうと思ったの?」

先ほどよりも落ち着いた声でジェイが聞く。

「誰よりもお前がマヤリィ様のことを理解しているから。この前、玉座の間で話をした時にそれが分かったんだ」

ルーリはいつでも冷静。それでいて賢い。

「…ルーリ、今日はこのままここで一緒に姫を見守ってくれるかい?」

「最初からそのつもりだったよ。私に出来ることがあれば何だってする」

二人は顔を見合わせて頷く。

その時、苦しそうな声が聞こえる。

「姫…!」

「…あの時も、マヤリィ様は苦しそうにされていた…」

ルーリは思い出す。

「きっと、夢でうなされているんだ」

「夢?」

「過去の出来事を思い出してるのかも…」

ジェイもまた苦しそうな顔になる。

「ジェイ…」

ルーリは言いづらそうに、

「お前が知っているマヤリィ様の過去について、話してもらうことは出来ないか?」

真剣な眼差しでジェイを見る。

ジェイもルーリの目を見る。

碧い瞳が心配そうに潤んでいる。

「うん、分かった。君になら、姫も話すことを許してくれると思うよ」

そして、ジェイは語り始めた。

…元の世界にいた頃のマヤリィについて。

現代日本出身のジェイはマヤリィの同級生。

ですが、大人になってからは会うことも許されなかったと言います。


ルーリは、マヤリィの過去を知ることによって彼女を救う方法が見えてくるのではないかと思い、ジェイに訊ねるのでした。

ジェイは、閉鎖的な環境で抑圧され続けたマヤリィの全てを知っているわけではありませんが、ルーリに話すことで、いまだに元の世界に縛られている姫を救い出す糸口を見つけられるかもしれない、その一心で元の世界について話し始めます。

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