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流転の國 vol.1 〜突如として世界を統べる大魔術師になった主人公と、忠実で最強な配下達の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第四十二話 両想い

思いがけず届いたダークからの手紙。

しかし、シャドーレは既に彼のことなど忘れていた…。

【シャドーレへ。元気にしているか?お前のいない桜色の都はとても寂しい。休日に俺がそちらへ伺うことをマヤリィ様はお許し下さったが、お前は今どのように過ごしているのだろうか?俺に会う時間はあるだろうか?連絡をくれれば、俺はすぐにでも流転の國に行ってシャドーレに会いたい。会う時間がないのなら、手紙だけでもいいから送って欲しい。お前が恋しくて仕方ないんだ。連絡を待っているよ。 ダークより】


「これはまた、熱い恋文が届いたもんだねぇ」

「読んでいて恥ずかしくなりますな」

「シャドーレ、お返事はどうするの…?」

ここはシャドーレの部屋。

ルーリ、ネクロ、そしてミノリを呼んで皆で女子会をやっている。

シャドーレはもう完全にダークのことなど忘れていたのだが、こんな手紙が届いて対処に困ってしまい、皆に相談しているところ。

まさかシャドーレ宛の恋文が皆に読まれているとは、ダークは思いもしないだろう。

(今頃こんな手紙を寄越してきやがったか…。シャドーレはこの男と一緒にいても幸せにはなれない気がする。ようやく桜色の都から解放されたっていうのに…!)

この間シャドーレから身の上話を聞いたルーリは、心穏やかではない。

(このまま遠距離恋愛を続けても、ご主人様から許可が下りなければ結婚どころの話ではありませんな。シャドーレ殿は都に戻るつもりはないようだし…)

ネクロはシャドーレの未来を心配している。

「返事を書いた方がいいかしら…」

「別れの手紙か…面倒だな」

「ジェイ殿に頼んで直接断ってきてもらうというのはいかがですかな?」

「それはありだな。シャドーレはもう会いたくないんだろう?」

「ええ。私はもう終わったつもりでいたのだけれど…。先に手紙を書くべきだったわね」

ルーリとネクロが色々と断り方を考えては発言する。だが、ミノリだけ大人しい。

髪を綺麗に整え、私服姿のシャドーレを見た時、胸がドキドキした。

今も皆が真面目に話しているというのに、彼女のことが気になって仕方ない。

(あの日のこと、彼女はもう忘れちゃったのかしら…。大変な時だっていうのに第5会議室でミノリを抱きしめてくれたこと…。背が高くて、腕も脚も長くて、言葉遣いも立ち居振る舞いも優雅で、美しいシャドーレ。ミノリはあれ以来、シャドーレに会いたくて仕方なくて、ようやく今日久しぶりにゆっくり過ごせるというのに、まだまともに話せてすらいない)

マヤリィがシャドーレを皆に紹介した時、ミノリは第4でバイオを見張っていた為、その会議に出席することは出来なかった。だから、今日は本当に久々に彼女の顔を見る。

(あの天使め…。それに『クロス』の隊長…。なんで皆ミノリの邪魔をするの!?)

ミノリは不謹慎だと思いつつ、シャドーレがダークと別れることを望んでいた。あと、バイオの見張りは二度とやりたくない。

「せっかく来てくれたのに、いきなりこんな話でごめんなさい」

手紙を握りしめて謝るシャドーレに、

「いや、むしろ相談してくれて嬉しいよ!」

ルーリが力を込めて言う。

「シャドーレ殿が黙って悩まれているという方が我々は心配ですぞ」

ネクロも珍しく熱くなる。

「シャドーレ…」

ミノリはその先を言うことが出来ない。

彼女の姿が眩しい。

「っていうか、ミノリ。今日元気ないよな」

ルーリが今度はミノリの心配をする。

「ミノリ殿も何か悩み事があるのですかな」

「私ばかりごめんね、ミノリ。何かあるのなら聞くわよ」

「っ…」

シャドーレの優しい言葉に、ミノリは思わず頬を染める。

彼女の姿が眩しい。

「ああ、成程ね。…ミノリ、私には分かったよ、お前の悩み事の正体が」

「っ!?ルーリっ!!」

ルーリにはすぐバレる。

「私はお前のことを応援するよ」

そう言って優しく微笑むルーリ。

真っ赤になるミノリ。

「あっ…。ミノリ殿、そういうことでございますか」

ネクロにもバレる。

「なっ…!ネクロまで…!」

ミノリが同性愛者であることは周知の事実なので、このくらいは誰でも予想がつく。

「本当にどうしたの?ミノリ…私にも分かるように話してくれると嬉しいわ」

シャドーレは首を傾げながら訊ねる。

その優しい声を聞くと、ミノリは意を決して想いを告げる。

「あ、あの…シャドーレ…!」

「……?」

「ミノリは……本気で貴女に恋してるの!!」

「っ!?」

今度はシャドーレが頬を染める番だった。

「ミノリ…!」

シャドーレは突然ミノリを抱きしめる。

「私も…貴女が大好きよ…」

シャドーレはずっとミノリのことを意識していた。

たぶん、初めて会った日から。

シャドーレの前に突如として現れた、()つ國の妖精。美しい黒髪と黒い瞳をした可愛らしい女性。恐ろしくも素晴らしい力を持った書物の魔術師。

第5会議室で思わず抱きしめてしまったほど、ミノリに惹かれていた。

でも、自分には異性の恋人がいる。

それなのに…ミノリが可愛くて可愛くて…。

「…実は、私もずっとミノリのことを想っていたのよ。本当は今日、貴女を呼ぶのが怖かったの。まだダーク隊長と完全に切れていないことが知られてしまうと思って…」

シャドーレが言う。

「でも、信じて。今の私は隊長を愛していない。私が本当に好きなのは…貴女なの」

ミノリよりもトーンの高い、シャドーレの優雅な声が耳元で聞こえる。

「じゃ、じゃあ…ミノリ達、実は両想いだったのかしら…」

「そうよ…!もっと早く伝えれば良かった…」

シャドーレは改めて自分から別れの手紙を出さなかったことを悔やんだ。

「シャドーレ、ミノリはもう貴女を離さないわ。ミノリはこう見えて執念深い女なの」

どこからどう見ても執念深い女だが。

「嬉しいわ、ミノリ。貴女がそんなに私を想ってくれていたなんて…!」

シャドーレはそんなこと気にしない。

「ミノリ…!」

「シャドーレ…!」

二人はこの場でキスをする。

「…私達は消えるべきですかな」

隣のルーリにしか聞こえない小さな声でネクロが言う。

「『転移』するか?…いや、逆に不自然か…」

「困りましたな…。どうすれば良いのやら」

ルーリも珍しく困っていた。ここから先に進んじゃったら、私らは間違いなくお邪魔だよな。どうするんだ?

「二人に対抗して、私がネクロを食べるとか…?」

「対抗する必要はありませんぞ、ルーリ殿。どさくさに紛れて『魅惑』を発動しないで下され」

「つれないなぁ、ネクロ」

二人が葛藤(?)している間も、ミノリとシャドーレは熱いキスを交わしていた。


「可愛いミノリ…貴女が私のことをそんなに想ってくれていたなんて、本当に嬉しいわ」

ミノリは長身のシャドーレの腕の中。

「ミノリも嬉しい!貴女が流転の國の仲間になると聞いた時、夢ではないかと思った」

「夢ではなかったわね…!私達、これからずっと一緒にいられるのね」

シャドーレはミノリを強く抱きしめた。

「…ねぇ、今夜、ミノリの部屋に来ない?」

「ぜひ行きたいわ。どんなに可愛らしいお部屋なのかしら」

「今日この後ご命令がなければ、このまま一緒に帰ろうよ。…っ!?ご、ご主人様…」

忘れていたわけではない。決してない。

「ご主人様……」

ミノリは確かにご主人様を愛しているのに、シャドーレに恋をしてしまった。

どうしようもなく。

そこで初めて、今まで自分がどれだけご主人様への愛の言葉を数々の場面で爆発させてきたかということに気付かされる。

ミノリはどうしたらいいの…?

「シャドーレと付き合うのなら、ご主人様へのご報告は不可欠だよな」

ミノリが弱気になったところを見計らって、ようやくルーリが発言する。

「お二方、心配なさらずとも、ご主人様は寛大なる御方ゆえ、許して下さると思いますぞ」

ネクロもここぞとばかりに畳み掛ける。

「ルーリ…マヤリィ様とミノリは既にそういう仲でいらっしゃるの?…私、お邪魔してしまったかしら」

シャドーレが心配そうに聞く。

「いや、そういう仲なんかじゃないって。あくまでもミノリが一人で突っ走ってご主人様を追いかけてただけだから気にするな」

ルーリは笑って答える。

「ちょっと、ルーリ!ミノリのご主人様への愛は本物なのよ!今だって、ご主人様を愛していることに変わりはない!…でも、ご主人様と配下が結ばれるなんてこと、あるわけないわよね…」

確かに、ミノリはご主人様を愛している。しかし、自分でも分かっている通り、主と配下が結ばれることは有り得ない。許されない。

あれ?ルーリもマヤリィの配下なのでは…?

「そこまで分かっておられるなら、ミノリ殿はシャドーレ殿と結ばれるべきと存じます」

珍しく積極的なネクロ。結婚を前提としたお付き合いだと思っている。

「こんなに喜ばしいことはなかなかありませんぞ。…ねぇ、ルーリ殿?」

「勿論。うちの可愛いミノリが幸せになるんだ。私もすごく嬉しいよ」

ルーリには結婚という概念はないが、主への叶わぬ重い…もとい想いを持ち続けるよりもシャドーレと結ばれる方がミノリにとってもご主人様にとっても、そして自分にとっても良いはずだ。

いつからかルーリはミノリのことを可愛い妹として見るようになっていた。

ネクロにとってもミノリは愛すべき存在であり、怖い魔力の持ち主であり、大切な仲間だ。

「ありがとう…!」

ミノリはルーリとネクロの優しい言葉を聞いて、涙目になる。

一方、シャドーレは黙り込む。

ご主人様に申し訳ない気がする。流転の國の中でもトップクラスの実力を持つミノリが、私のような者と交際するなんて許されるのかしら。

彼女の自分を卑下する悪い癖は都にいた頃の名残りか。

…それでも、ミノリを愛している。

弱気になっているシャドーレだが、お互いの気持ちを確かめ合った今、ご報告に行かないことこそ失礼だということも分かっている。

「本当に良いのかしら…」

自信のないシャドーレに対し、

「ミノリは本気で貴女とお付き合いしたいと思っているから、ご主人様にも皆にもこのことを知って頂きたいの。それに、ミノリ達が付き合うことになってもご主人様への忠誠が変わることは絶対にないわ。そうでしょ?…だから、ご報告に行きましょう、シャドーレ」

ミノリが言う。その瞳は輝いている。

「……分かったわ、ミノリ。ご主人様の御前で改めて忠誠をお誓いするとともに、貴女との交際を許して下さるようお願いしに行くわ」

シャドーレも覚悟を決める。ミノリを本気で愛しているから。

…ところで、ダークからの手紙はどうなった?

もはや誰も覚えていない。

「あまり心配するなよ?絶対大丈夫だから」

「良い報告を待っておりますぞ」

そう言って、ルーリとネクロは部屋を後にした。今日の女子会はここで終了だ。


そして、二人は玉座の間へと向かうのだった。

身長156cmのミノリと190cmのシャドーレ。

桜色の都で出逢い、流転の國で再会した二人は、ようやく結ばれます。


…で、恋文はどうするんだ??

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