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流転の國 vol.1 〜突如として世界を統べる大魔術師になった主人公と、忠実で最強な配下達の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第四十一話 『鑑定』

バイオに『鑑定』を使わなければならない…。

配下達との約束とはいえ、ご主人様は憂鬱です。

「ここよ、バイオ」

その日、ランジュから聞いていた通りご主人様が現れ、バイオは自分の部屋を与えられた。

「これ、鍵ね。今日からはここが貴女の部屋よ。内装は好きなように変えて頂戴」

「…ここが、私の部屋…」

バイオは広く綺麗な部屋を見て、入口で立ちすくんでいる。

「ご主人様、私のような者がこんなに綺麗なお部屋で過ごさせて頂くなど、畏れ多いことにございます…!」

実際、皆の自室と同じ広さ、同じ設備なので、バイオの立場からすると有り得ないくらい好待遇だ。

「私が決めたことだから、貴女は黙って従いなさい。ここからは訓練所も近いし、ちょうどいいと思ってね」

マヤリィはそう言って微笑み、

「…というわけで、今日はここでゆっくり過ごして頂戴。貴女もずっと魔術訓練に明け暮れて、疲れているでしょうから」

「有り難きお言葉にございます、ご主人様」

バイオは跪き、頭を下げる。

「私は…罪人ですのに…」

「いつ何をもって罪が許されるかなんて、私には分からないわ。今の貴女は私の配下。そのこともしっかり頭に入れておくのよ」

「はっ。ご主人様の御為に力を尽くすことが出来るよう、これからも訓練に励んで参ります」

「よろしい。期待しているわ」

「はっ」

マヤリィはバイオの言葉に笑顔で頷く。

しかし、

(ごめんね、バイオ。念の為『鑑定』を使わせてもらうわ)

皆に約束した。バイオには定期的に『鑑定』を使い、本当にこの國に従って生きるつもりなのかどうかを確認すると。

結果、バイオの言葉に嘘偽りはなかった。

マヤリィは複雑な気持ちを抱えて、部屋を後にした。

(皆との約束とはいえ『鑑定』を使うのは気分の良いものではないわね…)

マヤリィはバイオの心に偽りがないことに安堵しつつ、これから先も定期的に彼女を疑わなければならないことを思うと、憂鬱だった。

そう思いながら歩いていると、気付けば潮風の吹くカフェテラスまで来ていた。

「マヤリィ様…!」

そこにはルーリの姿。

珍しく一人でコーヒーを飲んでいるようだ。

「ルーリ…!隣、いいかしら」

「勿論でございます、ご主人様♪」

とても主の言葉とは思えない台詞で、マヤリィはルーリの隣に座る。

「…そうでございましたか。皆を安心させる為とはいえ、仲間に『鑑定』を使うのは確かに心苦しいことにございますね」

ルーリに『鑑定』のことを伝えると、そんな言葉が返ってきた。彼女はバイオのことを既に「仲間」 だと認識している。

しかし、実はルーリはまだバイオに直接会ったことがない。先日の桜色の都絡みの一件では、マヤリィの指示でずっと玉座の間にいた為、顔も知らない。元天使にして桜色の都の元予言者にして流転の國を戦に駆り立てようとした罪人だということは聞いている。しかし、彼女の壮絶な過去を聞くと、いても立ってもいられずマヤリィと一緒に、彼女に代わって都の男どもに天誅を下した。ランジュの言う通り、ルーリは優しく慈悲深い一面を持っている。流転の國の誰よりも仲間思いである。

「バイオはどのような者なのでしょうか?実は、まだ一度も会ったことがないのです」

「そういえば、そうだったわね。さすがに玉座の間に呼ぶわけにもいかないから、会議にも参加させなかったし。…それにしても、見知らぬ彼女の為に、貴女はあんなに身体を張ったのね」

マヤリィはルーリの優しさを十分すぎるほど知っているが、バイオが流転の國の罪人であることを知っていてなお、彼女の為に惜しみなく力を使ったことに感心する。正直な話、あの計画はルーリの力がなければ不可能だった。

「正義の為に悪魔(わたし)の力を使うことは難しいですが、女性を強姦する愚かな男どもを同じように痛い目に遭わせるなら、私の魔力が最適なのではないかと思いまして。…しかし、先日はやりすぎたかもしれません。申し訳ございませんでした、マヤリィ様」

確かにあの日のルーリは紛れもなく悪魔だった。普段は人間と変わらない姿をしているルーリが人間でないことを証明してみせたようなものだ。あの姿を見たら、流転の國の仲間であっても恐れ慄くかもしれない。

しかし、マヤリィは首を横に振る。

「いいえ、全ては仲間の為だもの。貴女の魔力の使い方は間違っていないわ。…ありがとう、ルーリ。私にとって貴女は、強く優しく美しい女神。そして愛する人」

そう言ってマヤリィは微笑む。 主の顔をしていたかと思えば、一瞬で恋人の顔になる。

「マヤリィ様、私も貴女様を愛しております!未来永劫、この気持ちは変わりません…!貴女様の魔力が計り知れないほど強大であることは存じ上げておりますが、それでも、私はマヤリィ様を守って差し上げたい…!私のこの力は、貴女様の為にあるのです」

ルーリの言葉が終わるか終わらないかのうちに、マヤリィは頬を寄せ、彼女にキスをする。

白く美しいルーリの肌が紅潮し、魅惑の風が二人を包む。

「大好きです…マヤリィ様…!」

潮風の吹くカフェテラスに美しい百合の花が咲く。

甘く熱く蕩けそうなキスを交わす二人。

気付けば、マヤリィの憂鬱はどこかへ消えていた。

普段は人間と変わらない姿をしているルーリですが、魅惑魔法以外の悪魔の力を発動させようとすると、その姿形も「悪魔」と呼ぶに相応しい禍々しいものに変わります。

第一形態→人間と何ら変わりない美女

第二形態→恋せずにはいられないフェロモンを放つ蠱惑的な夢魔

第三形態→強敵からご主人様を守る為に魔力を発動する恐ろしい悪魔

ご主人様は第三形態のルーリを目にしても、特に驚くことはなかった様子。

マヤリィ「ルーリったら、まだそんなところに魔力を隠し持っていたのね♪」

皆が恐れ慄くこと必至の悪魔の姿も、ご主人様から見れば愛しくて頼もしい恋人に変わりないのでした。

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