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  作者: 紫堂文緒(旧・中村文音)
10/13

たか

 その次のとき、鷹はどうしても避けるわけにはいかないと思いつめて、辛い胸の裡を聞いてもらうことにしました。


「どういう因果かわかりませんが…」


 鷹は言葉を選びながら、努めて静かに話し始めたのでした。



「俺はこのような身の上になりました。

 もう飛ぶことはおろか、身じろぎひとつできません。

 

 初めのうちは戸惑い、焦りながら、何度も、動こう、飛ぼうとしました。

 繰り返し繰り返し心を奮い立たせ、あきらめなかった。


 そのうち次第に怒りが湧いてきました。

 何に対しての怒りだったのか、自分にか、運命にか。

 …怒りを身の内に閉じ込めたまま身動き一つ出来ないのは辛いものでした。


 …けれど、ついに悟りました。

 もう再び、二度と俺が飛ぶことはないのだ、と。

 あの自由な日々は決して戻ってはこないのだ、と。


 ……絶望が静かに訪れました。

 泣くことができたら、どんなに楽だったことでしょう。


 …本当に辛い時って、泣くこともできないんですね…。


 そのうち、俺は空っぽになりました。


 ……お月さん、俺、本当に今もここにいるんでしょうか。

 本当は、もう、どこにもいないんじゃないでしょうか。

 

 …もう、なんとも思えないんです。

 苦しいとか辛いとかすら、思わないんです…」




「…おまえさん、疲れ切ってしまったんじゃのう…。

 可哀そうに。


 しばらくはそのままでいいんじゃよ。

 何も考えず、ゆっくり休むことじゃ。


 考えてもどうしようもないことは、考えん方がいいんじゃ。


 何も考えず、自分から悩まず、休めるだけ休みなさい。


 おまえさんは、確かにここにおるでのう。


 安心なされ。


 だって、今、わしと話をしておるじゃろう。


 飛べなくてもいいんじゃ。

 動けなくてもかまわないんじゃ。


 おまえさんは本当は、ちっとも変ってはおらんのじゃから」



 ちっとも変っていない、という月の言葉の意味は鷹にはわかりませんでしたが、そう言ってもらうと、その心に言いようのない安らかさがゆっくりと広がっていくのがわかりました。

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