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ジリナとオル 2

 ジリナはベブフフの現当主の弟の子を身ごもり、追い出された。本当は妊娠していたが、妊娠はしていないと言い張った。カートン家で診察を受けたら、一発でばれたと思うが、家の恥をさらしたくないという意向で、ジリナは追い出されただけだった。

 本当はベブフフの領地に行くつもりなどなかった。首府のサプリュを離れるつもりもなかったのだ。

 一時、宿屋で住み込みで働きながら、どうするか考えていた。王宮で働いていた頃、すぐに出なくてはならなくなった経験から、ジリナはいつも、貴重品を身につけ、いつでも旅立てる用意をするのが習慣になっていた。

 宿屋でのお使いに出て帰る途中、オルと出会った。彼はジリナを殺そうとした。動きでニピ族だと直感した。でも、自分が知っているニピ族と少し違う。ニピ族は普通、殺しは請け負わない。つまり、暗殺家業は行わない。自分が選んだ主を守るためなら、時に暗殺という手段を選ぶこともあるが、そうでない限りはお金を貰って暗殺をすることはないのである。

 王宮にいたため、そういうことを知っていたジリナは、この追っ手は何者なのか、考えた。ベブフフなのか。でも、坊ちゃまのおかげで殺されはしなかった。何かの拍子に殺しまでしたとばれたら体裁が悪いため、案外大貴族はそういうことに慎重である。

 だとしたら、もう一つしかない。王宮の秘密の方だ。それなら、ニピ族の謎の追っ手を差し向けられても、理解できる。

 ジリナは走った。どうしよう。迷っているうちに、働いている宿屋の側まで戻ってきてしまう。ちょうど人通りの少ない小路だ。

 捕まる…!そう思ったとき、男の後ろから誰かが跳びだしてきて、男の頭を角材で思いっきり殴った。近くで家の補修作業が行われており、そこの材料だ。

 男が頭を抑えてうずくまる。

『こっちだ…!』

 ジリナの手をつかんで若い男が走り出した。ベブフフの坊ちゃんだった。二番目の坊ちゃんは人が良かった。ジリナのことを忘れられず、探し出したようだ。

『一緒に逃げよう。』

『ですが、坊ちゃま…。そういうわけにはいきません。』

『分かってる。ずっとは逃げられないことくらい。だから、君を目の届く所まで送るんだ。途中まで送らせてくれ。両親には君のことを忘れるために、領地まで視察に行くと言ってある。』

 そして、ベブフフの領内に着いたのだ。ベブフフ領内の本拠地のシュリツで坊ちゃんと別れた。ヒーズの屋敷で働けるように手を回してくれたらしい。

 気持ちはありがたいが、そんな所で働いていたらすぐに見つかってしまうだろう。とりあえず、坊ちゃんの見張りがいるからヒーズまでは行くが、そこから先は考えよう。ジリナはそう決めた。

 だが、ヒーズまで行くまでの乗合馬車を待っている時、ジリナは坊ちゃんの見張り達に(おそ)われそうになった。どうやら両親の方が一枚上手で、息子が忘れられないなら殺してしまえということになったらしい。あるいは兄の手か。

 ジリナは街の中を逃げ回り、追っ手を()いた。だが、最初の追っ手のオルに見つかった。両側が家の壁の狭い小道だ。長屋住宅がずっと続いている。その一つの世帯の窓辺に植木鉢が置いてある。

 ジリナは狭い小道の隙間を狙って走って逃げるように、走った。相手は楽々とジリナの胴を抱えようとしてきた。だが、それは作戦だった。植木鉢を両手でつかむと思いっきり男の頭に打ち付けた。この間、坊ちゃんに殴られた辺りを。

 二人は一緒に道路に倒れ込んだ。ジリナは逃げようとしたが、男が足首をつかんでくるので、逃げられない。頭から血を流し、ぼたぼた地面に垂らしている。

 男は地面にうずくまって(うめ)いた。気を失うでもなく呻いているので、ジリナは怖くなって男の手をなんとかほどいて逃げた。

 次の日、ジリナは昨日の男がどうなったか知るべく、恐る恐る宿屋から出て、昨日の場所に行ってみた。当たり前だがそこにはいなかった。人々の噂話から、昨日の男は近くの宿屋に運ばれ、カートン家の医者が来て治療したらしい。食堂も兼ねている宿屋がほとんどなので、客のふりをして話を聞いた。実際に食事をすれば問題ない。

 ジリナはどうやらそれ以上の話はないと判断し、食事を終えてそこを出た。

 どうやって、これから生きていこう。そんなことを考えながら歩いていたら、急に気分が悪くなって具合が悪くなってきた。とうとう、側溝に吐いてしまった。親切な人達にカートン家の診療所に連れて行って貰った。

 妊娠しているからつわりのせいだと言われた。身寄りがないことも分かると、しばらくカートン家で世話になることになった。

 この時は心からほっとした。しばらくは食べていける。普通の病気の人達がいる場所とは別の、訳ありの人達が集められている屋敷に連れて行かれ、しばらく寝起きしていた。

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