王太子の来村Ⅱ 5
尋問と聞いて怖じ気づいていたセリナだったが、知っていることを話すように言われただけだった。最初にシルネとエルナが話をし、話が終わると国王軍の兵士に護衛されながら退室していった。
セリナの番が回ってきて、途中であんまり関係ないブローチを拾った話なんかもしてしまったが、彼らは王太子も含めて途中で遮らせることはなく、最後まで話をさせた。セリナの話が終わると、出るように言われた。
「あの、わたし、帰っていいんですか?」
「いや、若様の部屋に行って、カートン家の先生方と一緒にいるように。」
「…え、若様のところでいいんですか?てっきり、シルネ達と一緒にいるのかと。」
「彼女たちといれば、お前は喧嘩をするだろう。」
「……。」
フォーリに言われ、セリナは黙り込んだ。頭を下げて退室する。とりあえず、若様の部屋に向かった。セリナがさすがに入れないで部屋の前でうろうろしていると、扉が開いてさっきのニピ族が出てきた。
「やはり、いましたね。どうぞ、お入り下さい。」
セリナは言われて仕方なく、入った。本当は入りづらい。初めて言葉を交わす宮廷医もいるし、その護衛もいるし、何より両親が疑いをかけられているのだ。
おずおずと入っていくと、二人の医師がにっこりして迎えてくれた。
「セリナ、大丈夫かい?」
ベリー医師が聞いてくる。
「はい…。あの、若様は大丈夫なんですか?」
「…うん、大丈夫だよ。それより、君の方は大丈夫?」
セリナは頷いた。
「…でも、父さんが犯人なんて信じられない。だって、父さんは……。」
言いながらジリナに言われたことを思い出した。
オルなら、若様を攫って崖っぷちに連れて行くことができる。村中の誰よりも山と森のことを知っている。元々、海辺に近い所に住んでいた人々が多く、植林などしたことがなくて、木の管理や栽培がとても苦手な人々の中で、オルは木の管理が上手かった。
リカンナに言われたことを思い出した。自分達の両親が元々はこの村の出身ではなく、よそからやってきたのだと。ジリナがお金を払ってでも、この村出身だということにして貰ったのだと。
全てつじつまが合っている。だが、そうなら、そうだったのなら、全ては嘘だったのか。
「父さん、わたし達のこと、家族だと思ってなかったのかな。ずっと、嘘だったんだ。演技だったのかな。…なんで、父さんが?もしかして、母さんもそうなの?二人とも騙していたの?」
「フォーリからは、少ししか聞いていないけれど、おそらく君のお母さんは違うと思うよ。だけど、長年連れ添っている夫だから、異変に気がついていたんじゃないかな?」
「母さんは違う…?」
セリナはよく分からなかった。若様の事は好きだ。でも、まさか、その若様を狙ったのが父親だったなんて、誰が想像するだろう。育ての父だったとしても、育ててくれた。
「君のお母さんの協力があったと思うよ。だから、捕らえられた。」
ベリー医師の言葉にセリナは、弾かれたように顔を上げた。
「なんで、母さんがそんなことをするのよ…!だって!」
「君の命も若様と一緒に奪おうとしたからだと思うよ。」
ベリー医師の言葉は強くて、セリナは息を呑んだ。興奮していても思わず黙ってしまう。頭に丸太や石が転がり落ちてきたことがよみがえってきた。あの時の恐怖は時々、夢にみるほどだ。セリナは今も思い出して身震いした。
「分かるだろう。あの時、君も一緒にいて、死ぬかもしれなかった。毒を振ってあったパンだって、君も食べる可能性があった。」
現実を見せつけられて、セリナの両目に涙が盛り上がった。
「君のお母さんは怒ったんだ。だから、夫を捕らえることに協力した。」
「…でも、なんで?」
「それは、私達にも分からない。ただ、全てが嘘だったわけではないと思うよ。それは、とても難しいことだから。」
セリナはうつむいた。涙が靴の先に落ちていく。
「かけなさい。悲しいときは思いっきり泣くといい。」
今まで黙っていた同じカートン家の宮廷医が言って、促されて長椅子に座った。
「君も大変なことになってしまったな。」
ベリー医師が頭を撫でてくれた。そんな子供みたいなこと、と普段なら絶対に抗議するけれど、今はかえってそれが安心できた。セリナは膝に顔をうずめて泣いた。




