王太子の来村Ⅱ 6
その頃、オルは事情を話すように言われていた。
「困ったものだ。話す気がないようだな。」
「殿下、拷問したとしても話さないでしょう。」
ポウトが王太子タルナスに言う。
「ぎゃあ!」
そのオルが悲鳴を上げた。タルナスやポウトを無視し、ジリナの前で平気でオルを痛めつけている者がいた。
フォーリである。今は左手の小指の関節を折ったのだ。
「このままでは、何も話さなくてもフォーリが殺してしまいます。」
タルナスは考え込んだ。主を傷つけた者をニピ族は決して許さない。最初、フォーリは自分を選んでくれたが、今はもうグイニスが仕えるべき主人なのだ。
そもそも、ニピ族同士には掟があり、このような事態が珍しいものだ。
「しかし、フォーリを止めたところで止まるのか?」
タルナスの当然の疑問にポウトは黙った。
「…それは、ですが。」
「フォーリだって何も証拠を得られぬまま、殺すことはしないだろう。任せるしかあるまい。」
タルナスはそう結論を出し、ポウトを伴って退室することにした。ジリナの縄を解き、シルネ達と一緒に監禁しておくことにする。国王軍の兵士に命を出し、ポウトを伴って部屋を出た。
ポウトがフォーリにタルナスの意向を伝えたが、聞くかどうか分からないな、とタルナスは思った。もう、フォーリはタルナスの護衛ではないのだ。フォーリの行動と目を見る限り、言うことを聞きそうにない。
部屋を出て扉が閉まり、廊下の角を曲がった瞬間、オルの激しい悲鳴が響き渡った。少し、フォーリに任せた決断を後悔したタルナスだった。
激しい悲鳴を上げて一息ついたオルに、フォーリは淡々と言った。
「さて。これで、誰もいなくなった。ようやく聞きたいことを聞けるな。お前も心置きなく話せるはずだ。」
「……く、くく。なぜ、分かった?」
オルは脂汗を流しながら、自分の状況が笑えて笑いながら聞き返した。
「何をだ?」
「いろいろだ。私自身、今秋まで自分自身の事を忘れていたのだ。」
「お前の妻や娘の話から、推測した。最初の毒味係の時は、まったく手がかりがなかった。だが、次の若様を攫って崖に置き去りにした時、あの時から手がかりを得た。実際の所、お前がニピ族かもしれないという手がかりは、若様のご指摘だ。
あの時、お前はいくつか手がかりを残した。まず、村人しか知らぬ道を知っていたこと。そして、村人さえも知らないような獣道を知っていたこと。つまり、普段から山林にいて仕事をしている者が犯人を手引きしたか、もしくは犯人だということになる。」
「なるほど。確かにあの時点でかなり、絞られるはずだ。そんなことは私も予想していた。だが、なぜ、数人の山林に詳しい村人を全員、取り調べなかった?そうすれば、もっと早くに調べがついたかもしれないのだぞ。」
脂汗を額に浮かべながら、不遜な笑みを浮かべてオルが言う。
「お前もそれができない理由を知っているはずだ。分かっていたから、お前は余裕で隠れることもせずに時を覗っていた。もし、村人達を取り調べれば、すぐに領主に連絡が行き、若様のお立場がいよいよ悪くなる。確証がない時点で、うかつに動けないことをお前はよく知っていたはずだ。」
フォーリの言葉にオルが笑った。
「その通り。だから、私はセリナが王子と仲良くなるのを待った。案の定、セリナは王子と仲良くなり、近づくことができるようになったからな。王子は崖の下に転落して死ぬはずだったが、まさか、セリナが気づいて助けるとは思わなかった。だが、それが逆にお前の信用を得ることになり、計画を立てやすくなった。お前のおかげだな。」
フォーリの眉根が寄り、無言で近づいてきた。さすがのオルも身構えた。
「余計なことを言うと、指がどんどん使い物にならなくなると言ったはずだ。」
「ぐあぁぁ!」
オルは悲鳴を上げた。左手の中指の第一関節を折られた。ご丁寧に利き手の指から折っている。オルは荒い息と共に涙と鼻水を啜った。
「さて、それで、お前の仲間は商人の他に何人だ?仲間ではないか。お前はただ、使われている駒にすぎないようだからな。」
「フン、それはお前も同じだろう。」
「では、質問を変えよう。あの毒はどうやって精製した?」
「フフフ、ハハハア。」
あの毒の精製には自信があった。そう簡単に分かるものか。以前から不思議ではあった。なぜ、自分にはこんな知識があるのか。村人が猪などを狩る時、弓矢に塗る用の毒を作っており、さらに純度を高めておいたのだ。狩りの時には水に溶いて鏃に塗りつけるが、あの若様には特別に、最高に純度を高めたものを乾燥させ、粉末にした。
セリナをはじめ子供達が寝静まってから、セリナが王子用に分けておいたパンに振りかけておいた。自分が吸わないように細心の注意を払った。
「お前はよほど、あの毒には自信があるとみえる。」




