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王太子の来村Ⅱ 2

 セリナは監禁されている部屋に、縛られたジリナもやってきたので(おどろ)いた。

「母さん、なんでそんなことになってんの?」

「…まあ、ちょっと面倒なことになってね。」

「面倒って?」

 ジリナはため息をついた。

「シルネとエルナがね、王太子殿下のお食事をつまみ食いし、泡吹いて倒れたんだよ。」

 セリナは目をしばたたかせた。

「えー!?それで、二人とも大丈夫だったの、毒だったんでしょ?」

「まあ、二人とも無事さ。命に別状はないよ。」

 ジリナの歯切れが悪い。セリナもその母の考えが読めるような気がした。

(なんだろう、この後味の悪さ。なんか、若様の時と違う。…もしかして。)

「もしかして、殺すつもりはなかった?」

 セリナが一人で考えた答えを口にすると、ジリナが驚いたようにセリナを見つめた。

「おや、お前もそう思ったんだね。実はカートン家の先生方も妙なお顔をなさっていてね。どうやら、若様の時とは違って、猛毒ではなかったらしい。それでも、王太子殿下を狙ったものかもしれないっていうので、大騒ぎさ。王太子殿下にここから出て帰るよう、ご領主様は息巻いているし、殿下付きの護衛達もそう進言しているし、さすがに殿下もそれは無視できないとみえて、帰らざるを得ないようだが。」

「だが…?」

「殿下は若様を一人、放って置いてはいけないから連れて行くと言われている。誰を狙ったものかは分からないし、ここから出て行かせることが狙いかも知れないと仰っていてね。」

 その意見にはセリナも賛成だった。

「確かにその可能性も大ありよね。王太子様って結構、頭が切れる方なのね。」

 セリナの発言にジリナが呆れたような表情をした。

「こんな時にそんなことを言うもんじゃないよ。本当に首を切られたらどうするんだい。…でも、ま、お前の意見にはわたしも賛成だけどね。実際にかなりの切れ者だから、こんな所まで従弟の様子を確認に来れるんだ。普通の王子だったら、父親の言うことに押されておしまいだよ。あのフォーリ殿が一目置いているんだから、相当な切れ者だよ。」

「それで、フォーリさんはなんて言ってるの?やっぱり、一緒に行くって?」

 ジリナはため息をついた。

「それが、何かをしに行っていて、姿が見えない。ちょっと、後手後手になってる感じがあるからね、なんか嫌な予感がするんだよ。慌てて出発させることに意味があるんじゃないかというような気もするんだ。」

 ジリナの考えにセリナも頷いた。

「確かに。母さんの言うとおり、何か()に落ちないのよね。それに、フォーリさんがいないっていうのも気にかかるし。だって、前に襲われたときもフォーリさんがいない時を狙ってだった。明らかにこっちの動きを知っている人が何かしているのよ。

 どうにかして、ここから抜け出すことを考えなくちゃ。」

「抜け出してどうするんだい?」

「助けに行くのよ。きっと若様を狙ってるんだわ。本当なら、王太子殿下が少し具合が悪くなれば、ばらばらにできるとかそういう考えがあったんだと思うけど、そうもできなくなったんなら、どんな手を使うか分からないわよ。」

 セリナは監禁されていたが、手を縛られているわけではなかったので、ジリナの縄をほどき始めた。

「けっこう、固いわ。しかも、なんかややこしいわね。」

「当たり前だよ。国王軍が使う特殊な縛り方で、罪人を逃がさないためのものだ。簡単にはほどけないね。」

 それから、しばらく経ったがなかなかほどけなかった。

「早くしないと、時間がなくなるよ。」

「もー、分かってるよ、母さん。指も爪も痛いんだもん。」

 そこに複数の足音がして、二人は身構えた。セリナは慌ててほどこうとしていたのを隠すために、ジリナから離れて両手を後ろに回した。

 意外な人物達の姿に、母娘は顔を見合わせた。

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