38.もう1人の案内人
「急に現れるなって言ったでしょうが」
「まだ夕方ですし、部屋も明るいので驚かないかなと」
「そういう問題じゃ・・・まぁいいや」
神出鬼没のくぼちゃんに言っても無駄だと諦める。
「お土産を貰いに来ました」
なんだか図々しいな。
「おやき買ってきたよ。温めてくるから待ってて」
「わかりました」
電子レンジにおやきを入れて温める。
これで部屋戻ったらいなくなってる、なんてことは・・・ありえそうだ。あの子、急に消えたりするからな。
チン、と電子レンジが鳴った。温めたおやきを取り出して部屋へと戻る。
少し不安になりながら部屋のドアを開けた。ちゃんといるかなー?
「お土産をもらっていないので、まだ帰りませんよ」
まだ聞いてもないのに心を読むな心を。
部屋を出る時と変わらずベッドの上にくぼちゃんは座っていた。
「はい。熱いから気をつけて食べなよ」
「これがおやきですか。では、いただきます」
あちちと言いながら、くぼちゃんはおやきを頬張る。
「美味しい?」
「美味しいですね。あと100個はいけます」
100個って・・・。どんな胃袋してるんだよ。
くぼちゃんはあっという間におやきを平らげてしまう。
「チョコもあるけど食べる?」
「チョコレートですか!」
急にテンションが上がるくぼちゃん。
「チョコ好きなの?」
「大好きですね。チョコレートさえあれば他には何もいりません」
どんだけ好きなの。それなら食べたおやき返してもらおうか。
私もチョコは好きだけど、チョコしか食べれない生活は嫌だな。
「普通のチョコ味の他に、いちごとかりんご味もあるけどどれがいい?」
「全部いただきましょう」
こらこら、少しは遠慮しなさい。
「まぁいいけどさ」
チョコを食べたくぼちゃんは、頬っぺたが落ちそうになっていた。
いやいや! 本当に落ちそうになってるけど! その頬っぺどうなってんの!?
「これは今まで食べた中で一番美味しいかもしれません」
「それは良かったね」
「りんご味もっとくださいな」
私の分無くなるんだけど・・・。
自分のを1つだけ確保して、あとはくぼちゃんにあげる。
「ありがとうございます」
お礼を言うとすぐにチョコを口に入れた。
「お礼に何か1つ、答えられる範囲で教えてあげましょう」
ほう。珍しいこともあるもんだ。
でも1つかぁ・・・。何を聞こう。
くぼちゃんが言っていた、恋について勉強してもらうってことは、誰かと恋をするってことだよな。
誰と恋をするか聞いてみる?
でもなぁ、これは時間経てば分かるだろうしなぁ・・・。
じゃあ、地区予選の結果?
・・・県大会に行けるって分かってしまったら、練習を疎かにしそうだ。
他には・・・。くぼちゃんは何者? とか?
案内人と言われて終わりそうだ。
うーん・・・。どうしようかしら。
そういえば、案内人ってくぼちゃん1人だけなのかな?
それとも何人かいて、色々な人の所に現れてるとか・・・。
「案内人ってくぼちゃん1人だけなの?」
結局、この質問にした。
「誰と恋するかは聞かなくていいのですか?」
質問を質問で返すな。
「それは時間が経てば分かるんでしょ? それに誰か分かったら、私はその人のこと避けちゃいそうだから」
「確かにはしもとさんならその可能性がありますね」
「だからそれはいいかな」
「分かりました。案内人ですが・・・ボクとは別にもう1人います」
そうなのか。思ったより驚かなかった。
そうなると、私以外の誰かに案内をしてるってことになるのか。
「ですが、もう1人はまだこちらには来ていません」
「こちらって?」
「こちらの世界です」
世界・・・。なんだか壮大な話になってきたぞ。
「もう1人はまだ別の世界にいるってこと?」
「それは答えられませんが、まだその人には案内が必要ないので、こちらには来てないということです」
もう1人いることは教えてくれたが、詳細は教えてくれないらしい。
「そうなんだ。じゃあその人に必要になったら現れるんだ」
「そうです」
「くぼちゃんは、私以外の人には案内しないんでしょ?」
「ボクは、はしもとさんの案内人ですからね」
質問したのはいいものの、また新たな疑問が生まれてしまった。
「そっか。教えてくれてありがとう」
「このチョコレートをまた貰えるのであれば、他にも質問に答えますよ」
え? そうなの? また軽井沢行かなきゃいけないのか・・・。
いや、待てよ・・・。ネットで買えるじゃん。
「現地調達のみです」
「うげっ」
また心を読まれた。
「次いつ行けるか分からないよ」
「それは残念ですね」
ガクッとくぼちゃんがうなだれる。本当に残念そうじゃん。
「では、お土産もいただきましたし、この辺でボクは失礼します」
「次いつ現れるの?」
「ふふふ、それは秘密ですよはしもとさん」
「前にも言ったけど、夜中とかお風呂中に急に現れるのだけはやめてね」
もう一度、念を押しておく。
「分かりました。それでは」
窓から飛んでいくのかと思ったけど、普通に部屋のドアから出ていく。私は玄関まで見送ることにした。
「てか、どうやって家に入ったの?」
「それはちょちょいのちょいと」
「あんたいつか捕まるよ」
普通に犯罪なんだよなぁ。
「それは大丈夫なのでご心配なく」
「はいはい。じゃあまたね」
「大会頑張ってください。では、さようならー」
ブーンと手を広げながら走り去っていく。
「変な奴」
それにしても、くぼちゃんの他にも案内人いるとはな。
一体、誰の元に現れるのだろう。私の知ってる人かな?
少し気になるけど、時間が経ったらまた聞いてみるか。




