37.自然教室 3日目
昨日は歩き疲れたこともあってか、ベッドに入ってからすぐに寝てしまった。
ちなみに夕食は、願いが通じたのかすき焼き懐石だった。
3日目となる自然教室は、今日で最終日となる。
10時にホテルを出て駅へ移動。そこからはグループで自由行動だ。
花恋ちゃんからはどこに行くのか聞いてないが、まあ大丈夫だろう。お土産をちゃんと選べるならどこでもいいや。
15時に帰りの新幹線に乗ることになっている。地元に着くのは17時過ぎになりそうだ。
私は真っ直ぐ家には帰らず、美桜ちゃんにお土産を渡しに行く予定。
次の日に部活で渡せるんだけど、美桜ちゃんは私に会いたくてしょうがないだろうからね。
本当は家に泊まりたいけど、さすがにその日は帰らないと母親に怒られる。明日は泊まろうっと。久しぶりにあのベッドで寝れる。
そんなことを考えながらホテルを出る準備をしていると、花恋ちゃんが慌てながら部屋に入ってきた。
「さくらちゃん! もう10時になるよ!」
どうやらのんびりと準備しすぎたようだ。急いで部屋を出た。
駅に到着してから改めて集合時間についての説明があった。遅れた人は置いていくらしい。
「二階堂さん。集合時間ギリギリになってから、勝手な行動しないでね」
置いていかれるのだけはごめんだ。
「それなら大丈夫ですわ! 宮下の車に乗れば問題ありませんわ!」
「ダメだよ咲蘭ちゃん。新幹線代も親が払ってるんだから」
確かにそうだ。
「あら、そうなんですの? それなら新幹線に乗った方がいいですわね」
納得してもらえたようだ。
「花恋ちゃん。最初はどこ行くの?」
「白糸の滝行くよ」
「え?」
私の聞き間違いかな? 今白糸の滝って聞こえたような・・・。
確かにいい場所だったけど、2日連続で行くの? 嘘でしょ?
「嘘だよ」
なんだよ嘘かよ。花恋ちゃんも冗談言うんだな。
「じゃあ白糸の滝行こっか!」
私は少し意地悪をしてみた。
「私も行きますわー!」
「さ、さくらちゃん! 咲蘭ちゃんも! 嘘だから!」
「ちょっとからかっただけ。それでどこ行くの?」
「もう!!!」
花恋ちゃんが最初に嘘ついたんでしょ・・・。
「チョコレートのお店に行こうと思ってるよ。工場も兼ねてるらしくて面白そうだなって」
自然教室関係ないような。チョコレート好きだから行きたいけどさ。
「お土産にも良さそうだね。美桜ちゃんに買ってこうかな」
「出来たての商品とかあるみたいだよ」
それは美味しそうだ。
「チョコレート食べに行きますの?」
「そうだよ。咲蘭ちゃんもチョコ好きでしょ」
「好きですわー!」
最初に行くのはそのチョコレートのお店で決まりだな。
駅から歩くこと15分。チョコレートのお店に到着。
店内に入るとチョコレートのいい香りが漂っていた。
「わー! 可愛い!」
女性にとても人気がありそうな店だな。
味はもちろんのこと、包装など見た目もとても可愛らしい。
さらにイートインでは、ソフトクリームが食べられるらしい。
チョコレートのお店のチョコソフトクリームとか、絶対美味しいに決まってる。是非ともいただきたい。
「花恋ちゃん。イートインでソフトクリーム食べれるらしいから、チョコ買ったら食べようよ」
「食べるー!」
店内を見て回ると、ガラス越しにチョコレートを製造している様子も見れた。
こういった製造過程を見れる店は、あまり見掛けないからおもしろいな。
ところで、二階堂さんが一旦店を出てから、戻ってこないけどどうしたんだろ。そのうち戻ってくるだろうし、まぁいっか。
さてさて、美桜ちゃんにはどのチョコレート買ってあげようかなぁ。
この店で人気なのは、小さなボールみたいなチョコレートらしい。
色々な味が入ってるやつにしようかな。その方が楽しめるよね。
その人気商品を美桜ちゃんに買っていくことにした。
「二階堂さん全然来ないけどどうする?」
「どこ行っちゃったんだろうね? 電話も繋がらないし」
私達はイートインスペースで二階堂さんを待っていた。
「とりあえず先にソフトクリーム食べちゃお」
「そうだね。さくらちゃんはどれにするの?」
「チョコレートかな」
きっと濃厚で美味しいはず。
「私はチョコバニラにしようかな」
「わたくしはチョコとバニラ両方ですわ」
いつの間に戻ってきたんだ。
「どこ行ってたの?」
「宮下に電話して、チョコレート全種類3個ずつ買わせてましたわ」
宮下さん、めっちゃこき使われてる・・・。しかも全種類って。
「商品全部買い占めてなくて安心したよ」
「あら。買えますけどさすがにそこまでしませんわ」
買えるんかい!
「咲蘭ちゃん、お腹壊すからソフトクリームはどっちか1つにしときなよ」
「分かりましたわ」
チョコレート味のソフトクリームは、予想通りとても濃厚で美味しかった。
甘さもちょうど良かった。お風呂上がりに食べたら格別に美味しいだろうな。
ソフトクリームを食べ終え、次の場所へ移動することに。
「次はどこに行くの?」
「お土産をゆっくり選びたいから、旧軽井沢銀座通りかな! お昼もどこか入って食べよ」
おやきとキーホルダーは、そこで買うことになりそうだ。家には適当に漬物とかでいいや。
GWということもあり、旧軽井沢銀座通りはとても賑わっていた。
多くの人が行き交うメインストリートは、緩やかな上り坂となっている。
「人多いね」
「GWだし、普段よりも多いかもね」
どっかに入ってお昼を食べるのもいいけど、ゆっくり食べ歩きするのも悪くなさそうだ。
「お昼どうしよっか?」
「食べ歩きとかでもいいんじゃない?」
「それもいいね! そうしよっか!」
ということで、食べ歩きしながら見て回ることにした。
老舗の甘味処や美味しそうなパン屋など色々な店がある。
二階堂さんはあれもこれもいいですわーと興奮気味のご様子。またたくさん買いそうだなぁ・・・。
私はおやきが売られている店を中心に見て回る。
今見ている漬物のお店では、野沢菜のおやきが人気。そのおやきは店内でも食べられるらしい。
ちょっと食べてみようかな。それで美味しかったらお土産に買って帰ろう。
私は野沢菜のおやきを注文した。
「熱いから気を付けてね」
店員から手渡されたおやきは確かに熱そう。
一緒にどうぞと、お茶ももらうことができた。
おやきを半分に割ると、中には野沢菜がたっぷり詰まっている。熱いうちにいただくことにした。
さすが漬物屋ということもあり、野沢菜もとても美味しい。味噌との相性も抜群だ。
おやきはこれでいいか。もう一種類あるし、両方買っていこう。
とりあえず、美桜ちゃんの家族分買うことにした。
・・・あ、くぼちゃんのお土産。忘れるところだった。
野沢菜のおやきをもう1つ買っておくか。
あとは、私用に買ったチョコを分けてあげればいいや。
そのあとも、花恋ちゃん達と色々な店を回ったりして楽しんだ。
キーホルダーを探していた私は、雑貨屋の前で足を止める。
「キーホルダーにネームプレートをいれることができます」
そう書かれた看板が目に入ったからだ。
ネームプレートか・・・。美桜ちゃんがいかにも喜びそうだな。
私はその雑貨屋に入ることにした。
店内は広く、なんでも揃いそうなぐらい商品が並んでいる。
どんなキーホルダーにしようかな・・・。
あまり派手すぎるのアレだし、シンプルな物がいいよね。
装飾が少ないキーホルダーを選んでレジへと持っていく。
「あの、ネームプレートいれたいんですけど」
「じゃあ、この紙にいれたい文字と字体を決めてね」
文字どうしようかな・・・。
少しだけ悩んだ末、名前のイニシャルに決める。紙にM&Sと書いた。
「字体は筆記体でお願いします」
「少し待っててね」
店員は慣れた手つきで作業を進めていく。
5分程待つと、出来上がったキーホルダーを渡された。
「ありがとうね。片方は彼氏さんの名前かい?」
か、彼氏!?
「ち、違います。お世話になってる先輩にお土産で」
「そうなんだねぇ。その先輩に喜んでもらえるといいねぇ」
「は、はい。あの、ありがとうございました」
「今度はその先輩とおいでねぇ」
なんだか勘違いされてしまったようだ。
あの感じだと、先輩も男だと思われてるだろうな。
出来上がったキーホルダーは、シンプルながらもネームが入ったことにより、オシャレな感じを醸し出していた。
「喜んでくれるといいな」
キーホルダーを買ってからぶらぶらと歩いていると、メインストリートも終わりに差し掛かる。
「そろそろ駅に戻ろっか」
気付けば集合時間が近付いていた。
「二階堂さんは何も買わなかったの?」
「買いましたわよ。全部宮下に持ち帰らせましたわ」
そ、そうですか。宮下さん。お疲れ様です。
それにしてもかなりの大荷物になった。
美桜ちゃんや美桜ちゃんの両親、自分用にももちろん買っている。
家族へのお土産は、おやきを買った店で漬物を買っておいた。
私にも使用人がいたら、持って帰ってくれるんだろうなぁ。
そんな有り得もしないことを妄想しながら駅へと向かった。
「楽しかったね」
「うん。意外と」
次いつ来るかは分からないけど、また来れたら来たい。
集合時間には余裕を持って到着することができた。
少し名残惜しい気持ちを胸に新幹線に乗る。
最初はそれほど楽しみにしていなかった自然教室も、振り返ってみればとても充実していて楽しかった。
花恋ちゃんはもちろん、一応二階堂さんとも仲良く?なれたような気がする。
「長野か」
いい所だったな。
帰りの新幹線では疲れていたこともあり、寝て過ごした。
新幹線を降りた後、途中まで花恋ちゃん達と一緒だったが、地元に着く頃には1人になっていた。
「帰ってきたー」
なんだかんだ楽しかったな。
地元に着く前に美桜ちゃんに連絡をしておいた。
既読はついたが返信がなかったので、そのまま美桜ちゃんの家の方向へ歩く。
駅を出てから数分、前の方から手を振りながら誰かが走って近付いてくる。美桜ちゃんだ。
「桜ちゃーーーん!」
わざわざ迎えに来てくれたらしい。
私は荷物で両手が塞がっているので、頷いて反応した。
「おかえり!!!」
そう言って、美桜ちゃんは私を抱きしめた。
両手を塞がってるのをいいことに・・・。まぁ、寂しかったんだろうな。
「ただいま」
「楽しかった?」
「まぁ、楽しかったかな」
「そっかそっか! なら良かった!」
そろそろ離れてくれないかしら。他の人からの視線がですね・・・。
「美桜ちゃん。そろそろ離れてくれなきゃお土産あげないよ」
「あっ、ごめんね」
私はおやきやらジャムやら、買ったお土産を美桜ちゃんに渡す。
「こんなにいっぱい!?」
「美桜ちゃんの両親にはお世話になってるしね」
あとはキーホルダーなんだけど・・・。
なんだか渡すのが恥ずかしい。
「あ、あと・・・」
「なぁに?」
「これ、キーホルダー」
プレゼント用に包んでもらったキーホルダーを美桜ちゃんに渡す。
「わぁ! ありがとう! 開けてもいい?」
「い、いいけど」
美桜ちゃんが早速包みを開ける。
「M&S・・・」
恥ずかしくなった私は俯いて顔を隠す。
「ふふっ」
「なんで笑ってるの」
「いや、桜ちゃんが私のこと考えながら、これを買ってくれたと思うと嬉しくて」
「べ、別に。お願いされたから買っただけだし」
そんなに嬉しそうにされるとさらに恥ずかしくなる。喜んでもらえて嬉しいけど。
「桜ちゃんも同じやつ?」
「そうだよ」
「そっか。大事にするね!」
「う、うん。じゃあ、私帰るから」
恥ずかしいから一刻も早くこの場を立ち去りたい。
「荷物、桜ちゃんの家まで持っていくの手伝うよ」
「え? いや、悪いからいいよ」
「疲れてるでしょ? ほら、片方の荷物貸して」
無理矢理荷物を奪われてしまった。
「じゃあ、お願いします」
「はーい。自然教室のこともっと詳しく聞かせてよ! まずは1日目から!」
「えぇ・・・」
仕方ないなぁ。聞かせてあげようじゃないか。
「荷物ありがとうね」
「ううん! お土産たくさんありがと!」
「明日の部活のあと、泊まりに行くね」
待っててね! ふかふかのベッド!
「わかった! 部活頑張ろうね!」
「うん。じゃあバイバイ」
「バイバーイ!」
私は美桜ちゃんに見送られながら帰宅した。
「ただいまー」
・・・・・・。
返事がない。
なんだよ。誰もいないのかよ。
お土産を冷蔵庫に入れて、自分の部屋に向かう。
「あー、疲れた」
──ガチャ
ドアを開けると同時に部屋の中から声がした。
「おかえりなさい」
くぼちゃんが私のベッドの上にちょこんと座っていた。




