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頂の景色  作者: からげんき
第二章 高い壁を越えて
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第四話 羊飼いの少女

「あの、大丈夫ですか?」



透き通った声が聞こえて目が覚めた。


「うーん、」


まぶしい太陽の光に耐えきれず手で太陽を隠しながら起き上がる。


昨日はあれから草原の上で寝転がって星を見ていた。いつの間にか寝てしまっていたらしい。


声をかけてくれた女の子は僕の隣でしゃがんでいた。金色のきれいな長い髪をしている。胸には大事そうに本を抱えている。ちょっぴり困っているようで眉毛を八の字にしてエメラルド色のきれいな目で心配そうにこちらを見ている。



「うわっ!」


俺は驚いてはね起きた。


「キャッ!」


女の子も驚いてしりもちをつく。


森の上に町のような光は確かにあったけれども昨日は人と一度も会わなかったので驚いてしまった。


「いや、そのごめん。驚かすつもりはなかったんだ。」


俺は女の子に謝りながら手を差し出す。こんな事したら悪いだろうか、でもしりもちをつかせてしまったし。


「いいえ、こちらこそびっくりさせてしまってごめんなさい。」


 女の子は笑ってそう言うと本を拾ってから差し出された手を握って立ち上がった。その後一瞬目があったけれども気まずい沈黙が走った。女の子は少し困っているようだ。困っている様子はかわいいけれどこの間はダメだと思った。こちらから何か話さねば。


 こういうときはなんて言えばいいだろうか、天気の話をすればいいのか?いや、外で眠っていた不審者がいきなり天気の話をするのもおかしい。そうだ、まず自分は怪しい人ではないと証明しないと。


「お、俺は細麦歩です。細麦歩。よろしくお願いします。」


 いきなりの自己紹介に女の子はなんだかぽかんとしている。しまった、逆にいきなり自分の名前を言うのはもっと不審者っぽかったか?失敗してしまった。即座に逃げよう。



 ぐうううううう


 俺のおなかの音が鳴った。そういえば昨日から何も食べていないんだっけ。


「えっと、もう君の前からはいなくなろうと思うんだけど、何か地面から生えているものとかで食べられるもの知りませんか?お金を持ってなくて、あっ、それだけ聞いたらどっかに行きます。」


「なんだかおもしろい。あなた悪い人じゃなさそう!でも変な人!」


 よかった不審者に思われていなかった。いや、本当に不審者に思われていないんだろうか、変な人認定されたし。



「おなかが減っているのなら私の家でごはんを食べていってよ。困ったことはお互い様でしょ。」


 なんて人間ができているんだろうか。こんな不審者に声をかけてしかも助けてくれるなんて。でも、怪しい人について行ってしまわないか結構心配だ。



「じゃあついてきて。それと私の名前はパンジー・アルプライトよ。よろしくね。」



 丘を登り集落のほうに向かっているとパンジーはこちらに話しかけてきた。


「やっぱり町はそういう服が流行っているのね!お父さんも町に行くときはそういう格好をしていくし、やっぱり町の服はおしゃれでいいわ!田舎の服とは違って何だろう…びしっとしてる感じするわ!びしっと!服だけじゃなくて街のこともっと聞きたい!」


 パンジーはヒーローの決めポーズのようなジェスチャーをしながら言った。おそらくびしっとを表現しているのだろう。しぐさがかわいいなと思いながらこちらも会話に答える。


「ごめん。町にはいったことがないんだ。俺は町の出身じゃないんだよ。俺は別世界から来たんだ。」



「何言ってんの?」


 パンジーの目が点になった。しかしすぐにまた目を輝かせて聞いてきた。


「じゃあそっちの世界のことを聞かせてよ!それからどうしてこっちに来たかも!」


 それから俺は現実世界のことやここに来た経緯を話した。そしてその後は初めは町の様子の質問。そして、食べ物のこと。それからなぜか学校のことを特に興味ありげに聞いてきた。



「その大学?ってのの試験ってどれくらい難しいの?」


 恐る恐るといった感じで質問してきた。


「めちゃくちゃ大変だったよ。一年間ずっと毎日勉強漬けだった。あれは苦痛だったな。思い出したくない。」


「そうなんだ。」


 パンジーは手に持っている本を後ろに隠した。もしかしてこの子も学生だったりしたのだろうか。だとしたらビビらせるようなことを言ってしまった気がする。他の話題に変えよう。


それからはまたこちらの世界の色々なことに答えていった。



「いいなぁ、私もそっちに行ってみたい。そっちに連れて行ってよ。」


 うっとりした表情で空を見上げながらパンジーは言った。おそらく現実世界がいかに素敵か妄想を膨らませながらそう言ったに違いない。


「ごめん、俺も帰り方がよくわかっていないんだ。だから連れて行ってあげられない。」


 少しの間沈黙があった。そして少し静かにパンジーは口を開いた。


「そっか、わかんないんだ。残念。」



 草原の丘を登っていくと周りに雲もようなもこもこした動物が増え始めた。また、スライムみたいな空想の生物、もしかしてケセランパサランか?と思ったが毛がすごく伸びた羊だった。いろいろなところで草を食んだりボケっと突っ立ったりしている。そしてその周りを二匹のイヌがうろついている。どうやら牧羊犬のようだ。



「はぁすごい。放牧されてる羊だ。初めてこんな光景を見たな。」


「そうなの、あなたの世界では羊飼いが全然いないのね。ちなみにこの羊たちは私の家の羊なのよ。」


 恥ずかしいから見ないでというので俺はパンジーから眼をそむけた。

 

 その後パンジーは鳥のさえずりのような口笛を奏で始める。それがどうやら指示だったようで、のんびりしていた二匹の牧羊犬が走り出してバラバラになった羊を一か所にまとめて町のほうに誘導していった。


 誘導する動きに無駄はなかった。一匹もはぐれ刺すことなく素早く大勢の羊を移動させる術は見ていてとても気持ちがよかった。人間同士で会話ができるとしてもなかなかここまで他人を動かすことはできない。いや、そんなことができる人なんて今まで見たことがない。



「スゲェ。」


 感嘆する俺を横目で見てパンジーは言う。


「私ね、小さいころからずっと家の手伝いをしてきたの。お前はこの家の仕事を継ぐから羊の管理はできないといけないって言われてたから。だから将来はね、私も家業を継いで羊を育てて羊毛を売ったりチーズを作ったりして生活するの。だからね、私は一生この地で生活していくの。」


 パンジーは笑顔だったが俺の話を聞いていた時よりも少し遠くを見ているような気がした。



 それから俺はパンジーの家に着く前までにまた現実世界のことを質問攻めされた。また、こちらの街の様子の様子は聞けたには聞けたが、得た情報は「なんかすごい大きい!」「家がたくさんある!」ということだけだった。


「ついたわ!ここが私の家よ!」


三角屋根が建物の両側に大きく出っ張っている。壁は木材が使われているのがわかるが柱や壁の強度を高めるための斜め材である筋違い以外は漆喰で白く塗られている。漆喰の白色と黒っぽい木材のコントラストが美しい。そしてどの窓の下にも花が飾ってある。


「お父さん!ちょっと来て!」


「どうした、パンジーそんなに慌てて。おや?君は誰かな?」


「お邪魔します。」


 俺はお辞儀をして入っていくと父親らしき人物が出てきた。ブロンズをオールバックにしたガタイの良い男性がこちらを見て立っていた。立派な口ひげもついている。


「紹介するねパパ。こちらは細麦歩さん!えっと、異世界から来たそうよ。」


「どういうことだ?異世界から?」


 パンジーの父はいぶかしげな顔をしてこちらを見つめてくる。なかなか迫力がある。緊張しているとパンジーが慌てて口を開く。


「あ、あ、あのね!それで影沿いの森の近くで倒れてるところを見つけてね!それで何も食べてないみたいなの!昨日から。だから家でごはん食べていかないかってなって。いいでしょ?ごはんならうちにあるじゃない?」


「わかった。落ち着きなさい。」


 パンジーのお父さんは慌てるパンジーをなだめ、その後かしこまって自己紹介をした。


「ようこそいらっしゃった。私の名前はダリル・アルプライトだ。詳しいことは食卓で聞くとしよう。」




「どうぞ、召し上がってくれ。すまない。保存食しか無くてね。」


 俺の前にはパンとジャム、ポトフ、穴の開いたチーズが出された。


「いただきます。」


 あまりにおなかが減っていたのですごい勢いで食べる。ジャムは今まで食べたことのない味だったが甘さの中にさわやかな酸味が効いていておいしい。

 ポトフは塩とハーブだろうか。シンプルで温かいまさに家庭の味だ。入っている肉は少し硬いがかむとじわっとスープと肉汁が合わさったものが出て非常においしい。

 チーズはまさにチーズというニオイが強烈に香っている。それでいてクリーミーさもありとてもおいしかった。



 ダリルさんはこちらのタイミングを見計らって話しかける。


「それで、異世界から来たというのは本当だろうか。」


「はい。本当です。」



 それから現実世界のこと、それからここに来た経緯を話した。


「そうか。それで君はあの山に行きたいというのか。」


「はい。そうです。あの山への生き方をよければ教えていただけませんか?」


 あの月夜の中でも堂々と輝く天高くそびえる槍のような山体はやはり日中も美しく存在感を放っていた。そしてその姿は一層その頂のあこがれをかき立たせ、山頂からの絶景を妄想させた。



「あの山の名はオーディンと呼ぶのだが」


そしてダリルさんはそこで一呼吸おいて言い放った。


「ダメだ。あの山に登ることはあきらめてくれ。」


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