第三話 光を求めて
夕日が終わって、世界が赤く染まる時間も終わった。
海沿いの都市に向かおうとしていたが、崖沿いの森の中で何か柔らかくまるでオーロラのようなものが輝いているものを見つけた。
森の奥にもその規模は小さいながらも明かりがぽつぽつと存在しているのが見える。海岸沿いの都市よりも近そうだし光の正体も気になるので俺は林のほうに向かうことにした。当然ながら現実世界ではこんなことは起きえない。そこには何が待っているのだろう。
俺は地面に落ちていた傘くらいのサイズの流木を持ち振り回しながら進んでいった。気分は探検隊だ。
しかし、森に入ってゆくと木々が頭を覆いかぶさって光が届いてこない。
さらに夕方ということもあり想像していたより暗くなってしまった。かろうじて前方の緑色の光は見えるがほぼ真っ暗で足元は見えない。
だんだん不安になってきた。このまま進んでもいいのだろうか。このままだと森を抜けることができずに遭難してしまう可能性もある。そうなったらこの世界で成功どころではない。そんな終わり方はまっぴらごめんだ。やっぱりあきらめて海沿いに引き返そうか?あちらのほうが安全じゃないか。
「ワオーン」
どおおおおおおおおん。
遠吠えとともに地面が大きく揺れる。
「なんだ!あぶねぇ!」
地震が落ち着き自分の思考も落ち着いてきた。なぜ気が付かなかったのだろう。バカな俺を呪った。ここは異世界で危険な肉食動物がいない日本の野山とはわけが違う。つまりさっきの声の主や天変地異やら猛獣やゴブリンやら危険であふれた世界である可能性も十分ある。となるとやはり、ここは海岸に帰るべきなのだ。やはり帰ろう。
夕日が沈み完全に真っ暗になった。暗闇の中靴の裏で道なのかそれとも脇道か確認しながら進んでゆく。道沿いに歩いているなら今までと同様ふみ後のおかげで地面が固いが、道を外れてしまったのなら草木が生い茂りふみ後も少なくなるので地面が柔らかくなりさらに低木もしげる。
さらにだんだんと上り坂にもなってきた。
息が切れる。
足が重い。
暗くて足元が見えないので段差で何回もつまずいて転んだしまう。
このまま森の中に入っていくのは無謀じゃないか。本当にそう思い始めていた。ここでやめにして戻ろう。俺はよくここまで頑張った。
しかし、俺は海岸に向かわずに森の奥に進んでいった。真っ暗で引くこともできないということもあるが、何よりここで引いたらダメだ。ここで引いたらせっかく見たあの景色も無駄になってしまうような気がする。
道の森の奥に入っていくのは怖くて仕方ない。坂もつらくて息も上がるここはイヤだろう?辛いだろう。引き返そう。
安全な場所でしっかり今後この世界でどうするか作戦でもたてよう。命が大事だ。成功する方法なんていくらでもある。しかしこのまま進むのは成功する方法ではない。心の中の弱い俺がごもっともなことをささやいて引き返させようとする。でも逃げちゃだめだ。足も震えている。
怖さを紛らわすために好きだった歌を歌う。こういう時こそ思いっきり明るい歌を思いっきり歌おう。
こんな状況で明るい歌詞を聞いてもというより歌ってみてもだからどうしたという感じだ。
どれだけ辛くても進み続けることに意味があるとか、努力はかなうとか、輝く未来とか、開けない夜はないとか、愛とか、恋とか。
どれも今俺が直面しているこの知らない土地での困難に比べたら薄っぺらい戯言でしかない。本当に大変な経験などしたことがないのに良くも偉そうにそんな歌詞が書けるものだ。そんなことが書けるのは大変な思いをしたからではなく運が良くて成功したからとかほかの人とたまたま違うことができたとかそういうことなのだろう。
イラついてきたので歌うのもやめた。大変なことが起こると卑屈になる自分にもムカつく。とても静かになった。
俺はしばらく何も言わずびくびくしながら闇夜を歩いた。何も悪いことが起こらないことを願った。
光がだんだん近くなってゆく。だんだんほっとしてきた。
自然と歩くペースも早くなってゆく。
それと同時に希望も見えてくる。
どうしてあんなに卑屈になる必要があったのかと思う。光を信じて進めばよかっただけなのに。多分極限状態だったのだ。今日はめちゃくちゃなことがおきすぎたから精神的に参ってしまったのだろう。
しかしこの困難ももうすぐ終わる。俺は気が付いたらその優しいが強烈な光に向かって走っていた。
その光はスライムとキノコが放ったものだった。スライムは直径三十センチあるその体から水色の光を発生させてぷよぷよとはねていた。それが数えるだけで10匹以上はいる。空中にはホタルがたくさん飛んでおり黄緑色の優しい光を放つ。さらに地面や木、岩から生えるキノコは赤色の光を放っている。
「よかった。ここにきて、本当に良かった。」
心からそう思った。
あんなに引き返したかった。
けど引き返さず済んだからこの光景を見ることができた。
進み続けてよかった。
どれだけ辛くても進み続けてよかった。
進み続けたからこそこの結果が得られたんだ。途中であきらめてはいけない。進み続けることに意味がある。その先に望むことはあった。
さっきイライラした歌詞と同じことを考えている自分がいた。誤っておこう。さっきはムカつくとか思ってしまってごめんなさい。きっとあの歌詞を書いた人もこんな奇想天外な体験でなかったとしてもきっと辛く苦しい期間を乗り越えてここまで来たのだろう。
あの売れっ子女優や成功者なんかもそうなのだろうか。
楽な方、将来が安定している方に逃げずに、自分の夢を追い求めてもがいて、もがいて、そうやって俺たちとは違う景色が見える場所にたどり着いたのだろうか。
今まではどこか成功者になりたいといわれても怖くて安全な方を選んできた。できるだけいい高校に行って、できるだけいい大学に行って、就職をして、そうやってとても普通で未来がわかり切った世の中そういうもんだというレールの上を進んできた。
でもここでは暗闇に向かって進んだ。どんな危険があるか、道があるのかわからないような真っ暗で先が何も見えない道を進んだ。あの真っ暗闇の中常に引き返したかった。怖くて泣きだしそうだった。それでも進んだ。たまたまこの景色を見たのではなく自分の意思でこの恐怖を乗り越えることを選んだ結果ここにたどり着いたのだ。
ここに来るまでずっと考えていた。
成功者と自分の人生。
何がこんなにも違うのだろう。
俺も同じように義務教育を受けて、高校に入り必死に受験勉強をし、大学に入り論文を書いて大学を卒業したのに。
その期間の間どんな違いがあったのだろう。
俺はこんな存在になる可能性が一パーセントでもあったのだろうか?人生のどこかで違うことをしていたら俺はそちら側に立っていた可能性はあっただろうか?
23歳の春違うことをした。
広告を見て変な気分になった。
あの時ドアを覗いた。
マスターに引き留められたタイミングで帰らなかった。
望遠鏡をのぞいた。
暗闇の中歩いた。
結果日常が変わった。
普通の生活をしていたら目にすることのない景色を見た。
俺にもできるんだ!乗り越えてゆけるんだ!
「しゃあああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
俺は大きな声で叫んだ。
俺は光るキノコを1個とってたいまつ代わりにして森を進んだ。ヒカルスライムたちが多くいた場所は森の端っこだったらしくすぐ森を出た。
森を出るとそこは草原だった。やっと頭を覆いかぶさる木々がなくなった。空を見上げると、プラネタリウムで見るような満天の星が見える。現実世界で見るそれとは比べ物にならないくらいの数の星空が見える。
まるで星が降ってくるようだ。草をかさかさと鳴らしながらときおり吹くかぜも心地いい。
しばらく星空を見ていると、目が慣れてきたのか山の輪郭が徐々にはっきりとしてきた。その中でもひときわ大きくナイフのようにとがった山は星の明るいとは言えない光をかすかに反射させ静かに堂々と鎮座していた。
次はあそこからの景色が見たい。
そしてあそこからまた次の絶景を探したい。
この世界に降り立って1日もたたずに3つの絶景を見ている。おそらくまだまだたくさんの絶景が待っているはずだ。俺はそれらを全部見たい。この世界のすべてを探検したい。
「次に行くのはお前だ!待ってろ!」
俺はこれから上る山に指差し宣戦布告する。
山はここに来いと言っているかのように星明かりでその黒くごつごつした山肌を輝かせていた。




