二話 人形
お待たせしすぎました。ごめんなさい。
今まではpcで文字を入力していて、今作からはスマホで文字を入力しています。多少の違和感があるかもしれません。
ドアの開閉による大音が響き、ご主人サマの足音がドシドシと近づいてパタッと何かが置かれた音がしたと思ったら次は掛布団代わりに使っている茶色のぼろ布が取り外される。あたし一人分ギリギリ埋まるくらいの小さな正方形のクッションの上でうつ伏せで気持ちよく眠っているあたしをご主人サマは無慈悲にも大きな指で背中(お尻の時もある)をグイグイ押して起こしてくる。ちなみに仰向けの場合は胸部を何度も指でなぞって来る。早朝早々セクハラ行為だ。これがご主人サマ流のあたしの起こし方だ。実際問題これをされる前にあたしが起きればいいだけ話なのだがこの行為はご主人サマにとってのお楽しみの一つであり、これを奪うと目に見えて不機嫌になる。
ご主人サマが部屋を出ていくのをドアの開け閉めの音で確認して目をこすりながら重い瞼を少し開け、身長十二センチの小さく、軽すぎる体を起こした。
ご主人サマに捕まって既に一ヶ月以上。あたしがアクを飼っていた日数を軽く越えている。年齢も十三歳から十四歳に成長したが変化なし。成長したことと言えば滑舌の悪いご主人サマの言語をある程度聞き取れるようになったぐらい。
この屈辱なペット生活も一ヶ月経てば少しは慣れる。怒らせると恐ろしいご主人サマだが、所詮は子供、簡単に騙せる。あたしはこの一ヶ月、ご主人サマにとっての『良い子』を演じてきた。もともとこういうのは致命的に下手くそだったがご主人サマという強大で巨大かつ、恐怖で脅威かつ、強烈な存在があたしの向上心を引き上げ、今では人並みの演技力を身に付けた。
立ち上がってキャミソールの肩紐の乱れを直す。子供の人形より大きく、大人の人形より小さいあたしが身に着けているのは当然子供の人形から剥いだキャミソールとパンツ。連れてこられた当初、ボロ布で下着無しだったあたしにとっては凄く有り難い代物だ。やっぱりあたしも年頃の乙女。ボロ布だけという野生の生き物みたいな格好には抵抗があるのだ。願わくばパジャマも欲しいところだがそれは望み薄。なぜならご主人サマの歪んだ趣味趣向に合わないから。
反面、追い剥ぎされ、スッポンポンの子供の人形が玩具箱に何体も眠っていると思うと少し罪悪感を抱く。まあ、所詮あれらはあたしと違って魂のない人形だ。悲しむ事は疎か突然動いて復讐しになんてまず来ない。それが出来そうなやつもあたしのことなんて既に忘れているだろう。今頃ソイツはあたしの身体で人間生活を謳歌しているはずだから。
水槽のガラス越しにある目覚まし時計を確認。七時前だ。辺りを確認して、白い小皿を見つけると、体は自然とそこへ向かって歩き出した。
縁に大きくシオリと黒の油性ペンで下手に書かれたその皿には水が入っていて両手で水を汲み、それを顔にぶつける。簡単な話、洗顔。
これは夢だと何度も何度も自分に言い聞かせながら顔を両手で擦っていたのも数日だけ。今は現状を受け入れて諦観した自分がいる。水面には寝癖だらけの髪に暗い目をした自分の顔が思いっきり映っていた。今のあたしだった。
「最悪…全然可愛くない」
伸びた前髪はここにいる期間を物語っていた。
かつての飛師 栞は一体どこに行ったんだろうか。名前、体もろとも奪われてペット同然の生活。早く『彼女』から体を奪い返して元の大きさに戻らないとこれからずっと嘆き続ける未来になる。それも現時点では不可能も同然だった。
その後、水面に向かってありったけの愚痴を溢し、スッキリしたと同時に自分に嫌気が差してき始めて立ち上がる。下らないことだがこれをしないと理性が保てない。ストレスが爆発してご主人サマに罵声をぶつけてお仕置きされるのを防ぐためだ。しかし実際のところこれだけじゃ足りなくなってきている。ペット同然の生活は思った以上にあたしの精神を蝕んでいる。
そろそろ他の解消方法でも探そうかな…。
床に敷かれた可愛い柄のシートを力なく踏みしめ、ある場所へ向かう。
ご主人サマが来ないことを祈り、小人二人分は入れそうな透明のプラスチックの丸い容器の中に足を踏み入れる。容器の中はトイレットペーパーが多めに敷き詰められていた。
初日のやらかしにより、この水槽にも無事トイレが実装された。が、周りに遮るものがありません。丸見えです。屈辱です。恥ずかしいです。
ご主人サマに文句を言ったら『そんなのあったら取りにくいし面倒くさい、毎日取り替える身にもなってください』と返され、何も返せなかった。完全にペット扱いだ。毎日楽しそうにやってるくせに。しかし、生理現象は抑えられるものじゃない。他の小さくされた奴らは完全な人形だったり、人形と人間の半々だったりで、この面倒なイベントを回避出来たのに、どういうわけか、あたしだけ人間のまま。小さくした奴はどういう基準でやったのだろうか?
用を足し終えて、容器から出た丁度その時、再びドアが開く大音。アレに遭遇する。
『おはようですぅ、シオリちゃん。もう洗顔とトイレはバッチリですねぇ。やっぱりミキの教え方が上手だったんですねぇ。はい、エサとミルクですよぉ』
天上から聞こえるご主人サマの霧芽 ミキの喧しい声であたしの眠気は完全に吹き飛んだ。
「ミキ、おはよう」
挨拶は返しておく。そういえばご主人サマもあたしに合わせて、一人称に自分の名前を使い出した。あたしは未だにこの一人称に抵抗を覚えるのに、ご主人サマはもう普通に使いこなしている。順応力が高すぎる。
ミキは洗顔用の小皿を取り除くとエサが入った大きな皿とミルクの入った小皿を陳列した。今日のエサは千切ったパン屑とあたしが両手で掴めるほどの大きさに切られた卵焼き。
食べたくなくても飲みたくなくても、お腹は空くし、喉も乾く。背に腹は代えられない。渋々、卵焼きを両手で掴み、思いっきり囓った。
『かわいーですぅシオリちゃん』
「ありがとう、ミキ。シオリ、嬉しいよ」
慣れた一人称を使いつつ、ご主人サマに作り笑顔を向ける。
水槽の向こう側から巨人はあたしの食事をじーっと観察している。改めて気持ち悪い。
ミキは洗面用の小皿とトイレ用の容器を持って部屋を出ていった。基本、トイレの入れ替えやエサなどの小皿の配膳は全部ミキ一人でやっている。あたしを飼っているのはコイツの姉の霧芽 ミカではなく、妹のミキ。これぐらいの世話は当然だろう。結構面倒な作業のはずだけど、ミキはなぜか楽しそうにやっていて、一度もミキは疎かにしたことがない。逆にそれが不気味で癪に障る。『シオリちゃんはミキがいないと生きていけないんですから』と思われている気がして想像以上に屈辱だった。珍しい生き物を飼いたかったミキからしてみればあたしという存在は棚からぼた餅的な幸運。そんな珍しい生き物であるあたしを飼うということをミキは楽しんでいるのだ。あたしは全っ然楽しくないけど。
ちなみにミキが思っているあたしのプロフィールがこちら。
・名前 シオリ
・性別 メス
・年齢 五歳
・種族 よーせい
『りふれっしゅの時間ですよぉ』
朝食を平らげたころにミキが告げる。
ミキはあたしを捕まえてそのまま部屋の外に連行。お風呂場に着くと洗口液をあたしに与える。歯磨きができないあたしへの配慮だった。液を口に含んでしばらくちゃくちゃして吐き出すとミキは問答無用であたしが身に付けているものを全て剥ぎ取り、お湯の入った洗面器に入れる。そしてシャンプーをあたしの頭に垂らすのだ。
『シオリちゃん、また寝癖がひどいですぅ。ちゃんと洗いなさい』
シャンプーとリンスも用意してくれるのはまあ、感謝してる。おかげでフケとかも出てないし。
ただ問題が一つ。
今はだいぶ慣れているが霧目家で使っているそれらの匂いが小人のあたしにはきつい。数時間この匂いに付き合っていかなければならないのだ。
事情を説明してもっと無臭に近いモノをねだってみたことがあったが『よーせい専用のシャンプーなんてありません』と全く取り合ってくれなかった。
ミキは風呂場の隣り合わせの更衣室でだらしなくうつ伏せに寝転がって両手で頬杖をついてあたしを楽しそうにじっくりと観察している。ちなみにあたしの浴槽、もとい洗面器はミキのすぐ手に届く範囲に置かれているため、仮にあたしが隙をみて逃げ出しても五秒以内に捕まる(実践済み)。
晩のお風呂の時と違い、あたしだけが全裸をコイツに晒しているから恥ずかしいったらありゃしない。ちなみにこのお風呂はミキの気分次第で長くなったり短くなったりする。無論あたしの任意では決められない。
お風呂が終わってもまだ『りふれっしゅ』は終わらない。
更衣室で簡単に体を乾かし、麻製のハンカチに全身を包まれて再び水槽(監獄)の部屋に連行。
そのまま水槽(監獄)に戻されるなんてことは当然なく、部屋中央にある丸テーブルにあたしを置き、ドライヤーであたしの髪と体を乾燥。さすがにドライヤーの強風で吹き飛ばされるほど小さくはないが、油断してると尻餅をつくくらいには強い。そして、ハンカチは簡単に飛んでいって仕舞うため、飛ばないように両手でしっかりと持つ。
一度だけ飛ばされて全裸になったことがあって、その時は咄嗟に両手を使って大事な部分を隠すがそこはお色気を知らないご主人サマ。あたしが全裸になろうが全く気にしない。あたしと違ってペットなんかに欲情しないのだ。
決してあたしが女としての魅力がないわけではない。
『はい、おしまい』
キャミソールとパンツとともに水槽に入れられて一連の行程は雑に終了。
『じゃあミキは学校にいかなきゃいけませんから良い子にしてなさい』
バタバタと大音を立てながらミキは部屋を出ていった。
ご主人サマの来襲はドアの大音に始まり、大音に終わる。
「はぁー、やっといなくなったよ、あの暴君」
一息着いて下着を身につける。
そしてクッションの下に隠していた、ミカから拝借した水色の無地のドレスは着る。
繰り返しになるがあたしも年頃の乙女、幾ら誰も居なかろうと下着姿で昼間には抵抗があるのだ。ボロ布纏うだけじゃ可愛くないし。
それをミカに相談するとくれたのが正方形のクッションとこのドレス。クッションは寝床に使えるし、ドレスを隠すにはうってつけ。
隠さなければいけない理由は単純、ミキに脱がされて没収されてしまうから。
ご主人サマはあたしを使っての洋服の着せ替えにはすぐに飽きてしまったらしい。
『シオリちゃんはお人形じゃなくてよーせいなんだから服は自分で着なさい』
ミキから始めた遊びなのになぜか叱られ、服の着脱は自分でするようになった。与えられる衣装も下着だけ。ミキは着せ替え人形としての『シオリ』には興味がない。ミキにとっては着せ替え遊びよりもエサを与えたり、トイレを変えたり、体を洗ったりしている方が楽しいのだろう。
アクの着せ替えを毎日やっても飽きなかったあたしとはエラい違いだ。もっともアクは小人でも感触を味わえるくらい胸があったし、一々リアクションしてくれるから苛めたくなる。ま、この楽しさはお色気を知らないミキには分からないだろう。あのアクの感触は今でも覚えてる人差し指と中指でサクランボよりも小さく、しかし柔らかい胸をグリグリしたり、桃よりも遥かに小さくて可愛いお尻を撫で撫でと…あ〜思い出すだけでヨダレが……いけないいけない!? なに妄想してんのよ、あたし。
ミキが欲しかったのは可愛い人形ではなく、世話が出来るペットだった。
『えっ、何相談って。本当の身長は十一センチあるかも怪しいのに十二センチと自称するのに疲れたこと?』
「ち〜が〜う!? 約十二センチだもん。切り上げよ」
その日の夜、ミキの姉であるミカに相談を持ちかけてみた。そしておちょくられた。
ミキがとっくに寝静まった午後十時頃、スタンドの灯り一つだけついた暗い部屋で人形用のブラシで毎回髪を梳かしてもらっていた。やはり寝癖が気になるのとミキによる『りふれっしゅ』を阻止したいため。
寝癖が消えれば朝から服を脱がされ、風呂場へ連行されることもないだろう。ミキの手間が一つ減り、あたしは恥ずかしい思いをしなくて済むし、ミカはあたしの髪を梳かしたかったって言ってたし良いことだらけ。もっと早くミカに言ってればよかった。どうせ見せる相手も居ないし、このサイズでは面倒だからって放棄してた自分を呪いたい。
『切り上げ? いや、切り下げでしょ。十二分の一にされてんでしょ。仮に十二センチだったらあんたの身長は百四十四センチだけど、あり得ないし。もっと小さいでしょ。実際は百三十――』
「言わないで!? とにかく十二センチなの!? 小数点切り上げよ! そもそも相談内容は別よ」
強引に話題を切り替える。これ以上は触れられたくない。
そしてミキのあたしの扱いについて話したところ。
『いや、それは単純にシオリちゃんにお色気要素がないだけだから。裸見ても可愛いとしか思わないし。色気ない小人のシオリちゃんを着せ替えするくらいなら市販の人形を着せ替えしていた方がいいとミキは思っているかもね。おまけにあっちはスタイル抜群だし。そもそもミキは人形じゃなくてペットが欲しかったんだし。綺麗に着飾っている人形のシオリちゃんよりも泥だらけの野生のシオリちゃんの方がミキは好きなんじゃない。まあ、あたしはその反対だけど…』
酷い言われよう。更に凹む。
「…あたしだって男子にモテテたし、色気あるし…」
なんか扱いに納得できないから悪足掻きに小声で自己アピール。しかし、地獄耳のミカには聞こえていたようであたしの頭を指で撫でながら慰めてきた。
『よしよし、『カワイイ野生のペットの女の子』じゃなくて『綺麗なオトナの女性のお人形』として見られたかったのね。でももっと現実をみようか…。あんたは一部のロリコンにモテただけ。そいつらはあんたのお色気じゃなくてロリ体型、ツルペタボディに惹かれてるだけだから。あたしは『可愛いお人形』としてシオリちゃんを見ているからこんな洋服を与えてるわけ』
うぅ…年下にそんな扱いされるあたしって……。
ちなみに今の服装は『不思議の国のアリス』(ミカは好きらしい)のアリスが着ているようなエプロンドレス。ミカのいう『女の子』の可愛い洋服だ。ミキはあたしをペット扱いしているのでこういう洒落た服は着させれもらえないが、幸いミカはあたしを一応小人(人形)扱いしてくれるのでこの時だけこういう格好ができる。ミカの前ではあたしも『小人の女の子』になれるのだ。
「最初はミキと一緒であたしをペット扱いしていたくせに」
『あれはミキに合わせたの。あたしが特殊なフェチを持ってることはミキに知られていないし』
そのフェチというのはこうやって人形を着せ替えたりして愛でること。無論、こうやって人形の髪をとかすのも大好きだ。一見普通だがミカの場合は度を越している。ミカは大量の人形と人形の洋服を隠し持っていてミキが眠った後に人形を一体取り出して長時間愛でているらしい。ミカにとってほぼ人形サイズで動いたり喋ったりするあたしは刺激的な存在だったことは想像が容易だ。
◇ ◇ ◇
ミカには学校でシオリを見かけても関わるなとあたしは警告している。
『いやシオリちゃんは今ここにいるじゃん』
何言ってんだコイツ、と言わんばかりにミカは首を傾げたのでとりあえず事情を説明。
『ということは今、人間と小人のシオリちゃんがそれぞれ存在しているわけか。そして人間のシオリちゃんの中身はシオリちゃんを小さくした奴が入っていると....。なんとなく解った』
非科学的な話だがとりあえず納得してくれたみたい。まあ、あたしの存在そのものが非科学的だから案外受け入れやすかったのかも。
「うん、そう。もしそうとも知らずにミカが『彼女』をみて動揺したり、詰め寄ったりすると最悪、ミカまで小さくされてしまう」
あたしの体を乗っ取った『彼女』はきっと普通に日常を過ごしてるはず。ミカと『彼女』が学校で鉢合わせする可能性が高い。
『さすがに詰め寄ったりはしないけど動揺はするかも。小さくされるのは嫌だし…まあ気を付ける。忠告ありがと』
一応は聞いてくれて安心。唯一の良心を失う訳にはいかない。
そして案の定、学校で『彼女』を見かけたという。
『傍目でみた感じ全然イメージ変わってたよ』
「どんなだった」
『シオリちゃんと違って人当たりの良さそうな印象。シオリちゃんが一部のマニア向けならあれは万人向けっといったところかな。男女問わず色んな人と楽しそうに話していたし』
「悪意のある比較どうも」
どうせあたしは陰キャですよーだ。
『そう拗ねないでって。あたしはあんな人畜無害よりあんたのほうが可愛げがあって好きだから。こっちはコンパクトサイズだし』
嬉しいけどコンパクトは余計だ。
◇ ◇ ◇
『それで、何時アクション起こすの?』
「えっ、アクション?」
雑談中、前振りもなくミカは聞いてきた。
『そう、アクション。ここしばらくなんにも悪さをしていないし、お仕置きもされていないみたいだし』
「問題児みたいに言わないで。シオリは良い子だもん」
『自分で言ってて恥ずかしくない、それ…』
生憎、その程度で恥じらうくらいのプライドはとっくに捨てましたので。
『別に脱出するなら止めないよ。見つけたら捕獲するけど』
「いや、しないし。シオリは今の生活に満足(妥協)してるし。脱出したあとどうすんのって話だよ。シオリは無計画にそんな事しないよ」
『計画があればするんだ』
「あればの話。今は全くないといっても過言じゃない。シオリは満足(妥協)している」
あえて二回強調した。
『まあ、この状況で脱出なんて無謀なことシオリちゃんがするわけないよね。もし出来ても寒空の下で凍え死ぬ展開が待ってるだけだもんね』
「当然」
お互い笑った。
『さてお人形さんはそろそろおネムの時間かぁ』
からかうように言う。
寝る時間、遠回しに服を脱げということ。
こうやってあたしが洒落た服を着ているのはミキには内緒。バレたらお仕置き決定だ。
『いやぁ、相変わらずいい脱ぎっぷりだねぇ。シオリちゃん自ら裸体を晒すなんてぇ』
「からかわないで。脱がされるのが嫌なだけ」
女同士だから問題ないし、それに裸じゃない。ちゃんと下着を着ている。ミカのおちょくりに特に気にせずそこらに置いていたボロ布を纏う。
「そういえば寒空で思い出したけど、暖房を入れてくれない? 小さくなったせいか余計に冷える気がするの」
『はいはい、大事なペットの世話はミキの役目で管理はあたしの役目だもんねぇ…はぁ、電気代が高く付きそうだ…』
ミカが両手で手皿を作り、あたしはそれに抵抗せずに乗る。握られるのは嫌だが手皿は悪くない。ずっと乗っていても飽きない。以前、あたしの誕生日にミカの手皿に乗って家の中を見せてもっらったのは遊園地のアトラクションみたいで楽しかった。
『このまま寝室に連れていこうか』
「ミカの胸元で寝させてくれるなら考えてもいいよ。柔らかくて寝心地良さそう」
そのデカイ胸が本当に羨ましい。
『また今度ね。まだ宿題が終わってなくてまだ起きてないとだから』
「ちぇーっ、仕方ないか」
ミカの手皿はそのまま真っ直ぐ水槽の中へ。
あたしが降りたのを確認したミカは電気スタンドを消して暖房のリモコンを押すと静かにドアを開けて部屋を出た。あたしもこんな真っ暗では特にすることもないのでクッションを手触りで見つけて上り、すぐ横になった。数分後暖房が効いてきたのを体感して安堵し、そのまま眠った。この体たらくじゃ脱出なんて夢のまた夢。明日は作業しなきゃ。
そして寝癖は直った。しかし、ミキは『りふれっしゅ』をやめてくれなかった。寝癖は全く関係なかった。ミカがあたしの髪を梳かすのを楽しんでいるようにミキもあたしの『りふれっしゅ』を楽しんでいるのだ。相変わらず匂いのきついシャンプーで髪を洗われて強風ドライヤーを浴びせられる日常とはおさらば出来なかった。
作業というのは一言で表すと部屋漁り。体が動きたくてウズウズしていた。この獄中生活で唯一の娯楽といっても過言ではないからだ。
トイレ用のプラスチックの容器にベッド用のクッションを乗せて、ジャンプすると監獄の縁に手が届く。
縁とミキの机の上がほぼ同じ高さで飛び移れる距離だ。無論ミキやミカが家にいる間は実行不可能だから二人が学校に行っている時間帯限定だけど。バレたら大問題だがミキやミカが帰ってくる時間を把握しているあたしには杞憂の問題。親切に目覚まし時計も置いてくれているしね。
やることは勿論脱出手段の模索。
ここでの暮らしに不満はあるが不備はない…しかし一生をここで過ごすか、と言われたら『いいえ』と即答する。アクに会えないまま、ミキに潰されて死ぬ気は毛頭ない。そんなシナリオ願い下げだ。来ることのない助けを待つよりも自分で脱出する方が現実的だ。
問題はどうやって脱出するか、だが…それは既に考えている。単純にこの部屋の窓から。方法はレジ袋でパラシュート…だが肝心のレジ袋はまだ調達出来ていないし、それでパラシュート出来るのかも疑問。試そうにもポリ袋すらない。調達できないならミカの机で見つけたミシン糸で窓から…でも途中で千切れそう…これは最後の手段かな。タコ糸みたいな丈夫な糸があればいいんだけど…実際あたしが飼ってた子達はこれで部屋を脱走していたし。
部屋の窓に行くこと自体は簡単でミキの机で見つけた三十センチの物差しを机の右端から窓の足場に架けるだけ。そこを落ちないように慎重に渡る。あたしはこれを日課としていて最初はガタガタ震えながら渡っていたが今は大分慣れて早足で渡れる。何度か物差しと一緒に落下したことはあったけど、床が絨毯なので痛くはない。それに机の引き出しの取っ手を掴んで登れてリカバリーも出来る(物差しは知らない)。これがもし亜来と同じ八センチくらいの大きさだったら引き出しの取っ手から取っ手まで手が届かずに無理だっただろう。今の大きさに感謝しつつ、机から窓へ早足で渡った。
あたしの身長と同じくらいある小型の植木鉢二つの間に入って外を覗く。そして大きなタメ息をわざとらしく吐く。相も変わらず全然知らない風景が見えるだけだった。
当たり前だが小人でも家の二階の窓からなら俯瞰が出来る。連れて来られて約一月。あたしはまだこの家の住所も知らないのだ。ミカやミキに聞いても教えてくれない。行き先が思い付かない、この場所が何処だか分からない…これじゃあ脱出しても全く意味がない。冬が近づいて暖房の入ってない家の中でさえ寒いのに外だとどうなるか。仮に脱出出来ても行き先が分からず、寒空の下をを彷徨って凍え死ぬことくらい容易に想像出来る。脱出は早くても春頃になりそうだ。
せめて知っている人を見かけないか、今日も張り込んでいるが成果無し。そもそも人通りが少ない。時計の短い針が十二に近づくまで見ていたが今日も結局進展はなかった。
午後も床に降りて部屋を漁ってみたが進展はなく、結局今日も徒労に終わったが、猫になった気分で巨大な部屋を散策するのはアスレチック感覚で楽しく、いい運動にもなってストレス解消にもなるのでいいことづくめだった。
それから数日後の土曜日。
今日と明日は一日中ミキが家にいる日だ。しかし、ミキの休日はあたしの厄日。
残念なことに休日は早朝の『りふれっしゅ』が完了してもミキはあたしを放してくれない。
あたしを片手で掴んだまま部屋を出て向かったのは一階のリビング。ミキは真っ黒いソファーに座り、空いている方の手でリモコンを操作し、テレビを点灯。その他色々弄くって番組が再生されると両手であたしの体をガッチリと固定する。勿論動けないし、視線も固定される。
視線は当然テレビ画面。あたしからしたら映画のスクリーンどころか建物程の巨大テレビ。
これから夕方近くまでテレビ番組を大画面で強制的に見せられるのを拷問と言わずなんというか。しかもあたしは下着姿のままミキに捕まった状態だ。
『シオリちゃんみたいなおバカなよーせいを教育するにはこれがいーとおもうんです』
思うな!!!!と全力で叫びたい所だが必死で堪えた。
しかも見せられるのはニュースでも教育番組でもなく、ミキが撮り溜めしていた対象年齢低めの少女向けアニメ。あたしもミキと同じくらいの年齢の頃に似たようなモノを見ていた記憶があるがあって別に嫌いではないけどずっと見ていたいわけでもなく…っていうか、これを見せてあたしにどういう教育をするつもりなんだろうか。未だに解らない。ただ単に自分が見たいだけだろうっていう結論が最有力候補だ。
その証拠にミキは幼稚園児のようにハシャギまではしないものの目をキラキラ光らせ、あたしなんか眼中にないくらい楽しそうに見ている。
無論、逃げようとすればお仕置き。こいつはこの時、あたしのことを観ていないようでしっかりと観ているのだ。ちょっとでも体を動かせば二つの大きな目玉があたしを見下ろすのだ。
あたし流のこの時間の潰しかたは目線はテレビに向け、頭の中で妄想。もしくは寝落ち。だからかアニメの内容は一切頭に入ってない。幸い『ちゃんと観ているかテストします』とは言ってこないし、ただあたしを目の届く範囲に置いておきたいだけだと思う。子供は特に理由もなく、玩具を手元に置いておきたいものだと痛感している。という訳で今日もいつも通りアクで妄想…。アク、あれからどうなったんだろう。誰かに拾われたのかなぁ…それともポシェットで暮らしているのかなぁ…アクなら外に出なくてもずっとあの中で暮らしていけるし…ミキがあの後アクにどういう仕打ちをしたのかは分からない。沢山痛め付けられたのは間違いない。当人が公言しているんだから。亜来はミキに反抗的し、罵ったんだから…と妄想の『も』の字も始まっていない時、突然ミキがテレビを消した。
『あっ、そういえばもうすぐお出掛けの時間でした』
「へ!?」
テーブルの上にあたしを置くとミキはその場で部屋着を脱ぎ散らかしタンスを漁り始める。
あれ? ミキが出かけるってことはこれからあたしは自由ってことじゃ…やった! ラッキー。昨日は全然眠れなかったんだよね。っていうか、コイツの教育が待っているせいで前日はまともに眠れない。
これからぐっすり眠れると思うと心が踊る。今、コイツはあたしのことをそっちのけで着替えをしている。しかしここで逃げても待っているのはお仕置き。あたしはテーブルの上に突っ立ってミキの着替えを無心で見守る。逃走準備はこれからじっくりしていって春頃に実行すれば良いのだ。まだ十一月、時間はたっぷりあるのだから。はぁ…目の前で着替えているのがコイツじゃなくアクだったらいいのに。巨人のアクの着替えシーンなんてご褒美以外の何物でもない。小人のアクを着せ替えするのも興奮するけど小人目線で眺めるアクの着替えにはそれ以上の興奮と迫力が有るに違いない。小人のアクを沢山触って弄って匂いを嗅いで感触を味わっているあたしだから解るけど女のあたしですら羨ましいと思ったもん。体型は細めで身長は若干高め、無駄な贅肉がなくて胸も大きめな方で……あたしが思う理想的な体。おまけに可愛くて苛めがいがあって良い子だし。願うならもう一度あの感触を気が済むまで……っとダメダメダメ。なに変なこと考えているのよあたし!? このペット生活に毒されてしまったか? あたしとアクはそういうエッチな関係なんて目指していないし、せめて抱きついてキスするぐらいだし……ここは目の保養にミキを見守るとしよう。
そう言えばコイツに見つかって捕まった時、パンツを覗いてキレられたっけ。本当に理不尽だった。今ではあたしの目の前で普通に裸になるくらいなのに。それにあたしもコイツのパンツや裸を見ても別に邪な気持ちにならない。なぁにが『うーん、ウサギさんパンツとネコさんパンツどっちがいいかなぁ』だよ!! そういうのはアクのような可愛らしい子が嫌々ながらも履くのが最高なのよ! お前見たいなクソガキはなに履いてもおんなじよ!
『むっ、なんかワルクチいわれたような…』
「な、何も言ってないよ…ミキちゃんお着替えまだかなぁ…アハハハハ…」
エスパーかお前は。
『じゃあシオリちゃんはどっちがいいと思います?』
知るか。あたしに聞くな。
「うーんとウサギさんの方が好きだからシオリはウサギさんがいいなぁ。きっとミキにも似合うとおもうし」
ネコにとって今のあたしは獲物でしかないし。ウサギは知らない。
『ふーん、じゃあ今日はネコさんにします』
何故あたしに聞いた? 意味ないじゃん。さっさと着替えてあたしを部屋に置いて出かけてしまえ。あたしは一秒でも早く寝たいのよ!
『よし終わりましたぁ。お着替えカンリョーですぅ』
「終わったの。じゃあシオリ、お留守番ちゃんとするからお部屋に帰して」
『なに寝ぼけてるんですかぁ? シオリちゃんも一緒に』
「はいっ!?」
ナニヲイッテイルンダコイツハ…。
『だーかーらシオリちゃんもいっしょにおでかけですぅ』
「…………」
理解不能思考停止……。
「えっ、えーっと…どこへ連れていく気なの?」
『リリちゃんの家ですぅ。宿題一緒にするんですぅ』
友達の家で勉強会か…。勿論あたしは経験したことない。
「それだけだとシオリが連れていかれる理由が解らないんだけど」
『見せ物ですぅ』
「み、見せ物!?」
恐怖で全身に鳥肌が立った。
そのリリ、とやらにあたしを晒すつもりか、コイツは。
つまり、危険物体がもう一体…。これからそいつにも弄ばれる……?
『ミキたちが宿題している間、シオリちゃんには踊ってもらいます。その方が面白くて集中できますし』
玩具扱いする気満々である。
そういえばこいつがあたしを飼った目的は珍しいペットが欲しかったのと見せびらかしたいからだった。
「わ、わ〜い、楽しみだなぁ。ミキとお出掛けなんて初めてだし」
拳を思いっきり握って精一杯の演技、手慣れたものだ。勿論、内心キレている。
そんなあたしの事情をご主人サマが察してくれるなんて展開には当然なるはずがなく....。
『そんなに喜んでくれるなんてシオリちゃんは良い子ですぅ。ご褒美にシオリちゃんの大好きなウサギさんのパンツを着せてあげますぅ〜』
と大はしゃぎ。しかもなんかとんでもないことをほざき始めてるし。
「いや、それは着せるものじゃなくて履かせるものってきゃぁ!? いきなり掴まないで!?」
『いい加減慣れなさい』
無理言うな!!
『久しぶりにミキが着せ替えしてあげるんだから感謝しなさい、シオリちゃん』
「そんなのシオリ、自分でできるからぁ!?」
『ミキがやってあげたい気分なんですぅ。フッフッフーン』
鼻歌を歌いながら追い剥ぎするご主人サマ。されている身からすれば狂気でしかない。ミキはあっという間に全て脱がしてさっきあたしが選んだウサギのパンツを取り出し、器用にあたしの体に纏わせた。丁度あたしの胴体にウサギの柄が来るように調整している。まるで初めてとは思えない。
『ふふーん、この日のためにお人形で一杯練習したんだからスゴいでしょ?』
「スゴいね〜ミキは…」
そのズレまくった努力の方向性にある意味感服。もっとやるべきことが沢山あったろうに…。
締めに苺がついたクリップで後ろを留めて完成。
『わぁ〜すご〜い、かわい〜。やっぱミキってすご〜い』
キャラを忘れるくらいミキは出来映えに喜んでいる。
「あ、ありがと…」
一応お礼を言うが多分耳に届いてない。
なお、あたしの知るかぎり巨大なパンツを纏ったモノは可愛いとは言わない。テーブルに置いてある鏡に写っているのは、珍妙な衣装を纏った珍妙な生き物。正直似合っているとも可愛いとも思えない。滑稽や無様とは言えるが。しかもコレ以外何も身に着けてないので、もし何かの拍子でクリップが外れるとコレがずり落ちてあたしは見ず知らずの女子小学生に裸体を晒すという嫌なイベントが始まる。
「あの…ミキさん、この格好可愛いけどせめて下着だけは履かせてくれませんか。クリップが外れると全部脱げちゃう」
『かわいくなくなるからダメ。野生っぽくなくなるからダメ。諦めなさい』
二重に否定された。こいつにとっての可愛さやら野生やらの基準っていったい…。
さてあたしのような人形サイズの小人を屋外に出すとき、巨人は何処にあたしを収納するのか。胸ポケット…? いやいや今日のミキの服には付いてない。ていうか、あったとしても入りたくない。ウチのご主人サマのガサツさを舐めてはいけない。間違いなくミンチにされる。
あたしだってアクにやりたくても怖くてできなかったんだもん。別にアクは死なないけど、絶対怒るし…はぁ、どうせこんなことになるなら一度やっておけば良かったなぁ。もっとこう…紐か何かでアクを縛りつけてケータイのストラップにしたり、リボンで髪と一緒に縛り着けたり…うん、なんかただアクを縛り付けたいだけな気がしてきた…っと話を戻して今、あたしが収納されているのはお弁当箱。そう、あたしにとって因縁深いあのお弁当箱だ。空腹でこの弁当箱の中に入ったおかずに目が眩んだあたしはご主人サマに捕まり、更に眠っている間にお漏らししてしまい、お弁当箱をダメにしてご主人サマにキレられたりと録な思い出がないこのお弁当箱は現在あたし専用の収納箱(される側)になった。あたしが横になってギリギリ足を伸ばせるか、伸ばせないかぐらいの縦長いプラスチック製の容器に柔らかいシートを敷いて、綿を多めに積めた収納箱は寝床としては十分、ガサツなご主人サマの衝撃も綿を纏うことで軽減してくれる優れもの。そして蓋には酸欠にならないためにちょっとだけ切り取られている。相変わらず揺れて酔いそうだし、足音が五月蝿いがこの中にいる間はご主人サマの大顔を見なくてすむのもポイント。その分、開けられた瞬間に見る巨大なお顔はトラウマものだが。これから巨人二体に遊ばれる地獄イベントが待っている。しかも一体は初お披露目。きっとご主人サマレベルの残虐な性格の持ち主に違いない。どんな扱いをされるものか…。しかしそんな恐怖心以上に睡魔があたしを襲う。昨日寝てないせいか、物凄く…揺れも足音も気にならないくらい。あれ、あたしってこんなに図太かったっけ…このまま寝過ごして地獄イベントを回避出来たらいいのに…。
■ ■ ■
『さあ、オープンですぅ!!! あれ、シオリちゃん眠ってますぅ!?』
同級生のリリの家に着いて早速弁当箱の中を開けたが中のシオリは腹立つぐらいにぐっすりと眠っている。
用意した台本と違うモノを見せられてミキのワクワクがイライラに変わった。
『なんだ…女の子のお人形じゃない。ビックリしたぁ』
『いえ、リリちゃん、ちゃんと生きてますよ。触ってみてください』
リリは恐る恐るシオリの足に触れてみる。
『あれ、なんかあったくて柔らかい。しかもちょっと動いた!? ウソっ、小人!? 可愛い! 服はダサいけど…』
『むぅ…ミキの自信作がダサいって言われてましたぁ…。八つ当たりにこの間抜けなお寝坊さんを起こそうかなぁ』
眠っている姿も可愛いのだが、今ミキが見たいのはリリと会って、怖がっているシオリだった。
このシンデレラはなんで暢気に寝てるの?
これからお城で大事な舞踏会だというときに馬車の中で暢気に眠っているシンデレラを見せられたようなモノだった。
折角カボチャの馬車になってあげたのに。
『いや、ちょっと待ってミキちゃん。面白いからこのまま寝かせておこうよ。いいこと思い付いちゃった』
リリは悪い笑顔をしていた。何かイタズラする気だ。
『えっ、聞かせて聞かせて……………………………うん、うん、それ面白そう!!』
シオリをドールハウスのベッドで寝かせて驚かしてやろうっていう甘いイタズラだった。
面白くない。
それでは可愛いシオリは見られない。
台本通りに動かない、間抜けなシンデレラにはキツくお仕置きをしないと。
■ ■ ■
眠ってたはずなのに眠れた気がしない。
弄られた感触があるせいか。眠っている間に何したんだか…。なんか周りが静かだ。ご主人サマの喧しい声も聞こえないし、触られている感じもない。違和感はそれだけじゃなかった。収納されていたお弁当箱の独特な臭いではなく、甘い…苺の香りがして床が柔らかい。場所を移されたのかな…あと…気のせいか……見られている感じがする…。
このまま眠っていてもいいけどご主人サマに後々何されるかわかったもんじゃない。
そして、恐る恐る眼を開き…………あたしは大きな悲鳴を上げ、咄嗟にソレを蹴り飛ばした。
数秒後、大きな足音と共に壁がパカッと開いて二体の巨人と目が合い、あたしはまた大声で悲鳴を上げたと同時にあたしの居る場所がドールハウスだと理解した。
『あっ、やっと起きましたか、お寝坊さん。男の子とのお昼寝はさぞ楽しかったでしょう。プププ…』
あたしが蹴飛ばした人形はベッドの上であたしを覆い被さっていた。頭の左右に人形の両手が着いて、少しでも顔を上げれば人形の顔に当たるぐらいの至近距離だった。今までで感じた一番の恐怖だった。コイツらは人形があたしを押し倒している構図にしたのだろう。しかもよりにも寄って男の人形を使って……悪趣味だ。
『わあ、蹴り飛ばしたんだぁ。お転婆だぁ』
巨人は何故か感嘆していた。
『あ〜あ、他人様のモノに。これはオシオキが必要ですね』
ミキは嗤っているようでその眼は何故か怒っていた。
『ミキちゃん!? シオリちゃん、怯えてる、涙目になってる!』
『いや、これ考えたのリリちゃんですよね』
『私が考えたのはドールハウスに入れて驚かせようってだけ。お人形はミキちゃんでしょ』
『ふん、お寝坊さんにはいいクスリですぅ。お昼寝の時間はおしまいですよ、シオリちゃん。今からはオモチャになる時間です』
動悸が治まらないあたしにミキの巨大な両手がゆっくりと迫る。
『いやぁっ、あたしに触らないで!?』
迫ってくる手に我慢できず、あたしは目に入った階段に向けて飛び出すように駆け出していた。
開けたドールハウスの中に逃げ場はない。どこにいようともあたしの姿は巨人達に丸見えだからだ。だからこのままじっとしているのが正解なのは解っていたのに、一連の出来事のせいで今のあたしは正常な判断が出来なかった。しかも人形サイズに合わせて作られたドールハウスはあたしにとって大きめなのと体を急に動かしたせいもあって上手く制御出来ず、階段で躓いてしまい、下まで転がり落ちてしまった。
『あーあ、大人しくしていれば怪我することも無かったのに。ほんとうにおバカなんですから』
ミキの嘲笑が中に響き渡っていた。
体中があちこち痛いが何処かが折れているとかそういうのはないのは幸いだった。慌てて体を起こして奥に逃げようとした途端、周りが大きく揺れて、あたしはバランスを崩して前へ転んでしまい、何かを押し倒した。
『ちょっと揺らしただけなのに…あぁ、そうかぁ。小さなシオリちゃんにとっては地震みたいなものかぁ』
あたしの醜態は巨人共の前に晒されている。すぐに捕まるかと思いきや、何故か巨人共はあたしを見ているだけだった。
『気づいてたの!? その子がいるってこと』
『なるほどこのために下へ降りたんですかぁ。これがメスのキューカクってやつですか。侮っていました』
何を言ってるんだ?
…あたしはただ転ん……えっ、なんかあたし、人形の上に四つん這いなんだけど…しかもピンクのドレスを着た女の人形に…。
『えっ、女の子が大好きなの? この子』
『そうです。メスの癖にメスが大好きな困ったヨーセイなんです。目を覚まさせるために男の子の人形と恋愛させようとガッサクしたのですが逆効果でした』
『ウチの子と恋愛させようとしたの? この子、私のお気に入りで恋人も居るんだけど。今押し倒されている女の子のお人形がそうなんだけど』
『まあまあ細かいことはいいじゃないですか。シオリちゃんの目を覚まさせるまででいいですから』
ミキはあたしを片手で掴んで、もう片方の手に男の人形を掴んだ。嫌がらせのように向かい合わせて。
『というわけだからこのコと恋人になりなさい。シオリちゃん』
嫌だ。絶対に嫌だ。
『あれ、大きさが違うね。シオリちゃんが思ったよりも小さい。これじゃあ親子だ』
『本当ですね…シオリちゃん試しにそのお人形をパパって呼んでみて』
二体の巨人に挟まれたテーブルに置いてある皿の上にはスナック菓子でも食べたらしく、小さな食べかすが転がっていて臭いもまだ残っていた。そんな最悪な舞台にあたしは人形の二の腕にすがり付く形で立っていた。十二センチ(自称)のあたしと二十センチ近くの人形。巨人共はコレとあたしを恋人設定にしようとしていたが、身長差のせいで諦めて急遽、親子設定にされた。
それだとさっき、あたしは父親に押し倒されるという笑えない展開になるのだが、コイツらはまるで気にしない。
勿論、吐き気がするほど嫌だが、巨人共には逆らえない。
「…パパ……」
拒否したらお仕置き。理不尽。
『きゃぁ、カワイー。これは変更ですねぇ。パパに恋する娘に変えますぅ』
なんだ、そのファンタジーは?
ミキは更に続ける。
『うーん、でもそれだけだとオリジナリティがないですねぇ。実は親子じゃなくてシオリちゃんは遊ぶお金が欲しくて仕方なくパパって呼んでいて、このお人形は可愛いシオリちゃんに一杯お金を渡してパパって呼ばせてるっていう設定にしましょうか?』
ファンタジーから生々しい現実に引き戻された。
この小学生女子は相変わらずだった。
『な、なんかすごいリアルだね。見え方が変わっちゃうよ』
リリと呼ばれた巨人は普通に引いていた。そりゃそうだ。思いっ切り犯罪だ。むしろこれが普通の反応である。
『ゲンジツミ?があっていいですからねぇ。シオリちゃんにはお似合いですし。お姉ちゃんが言ってました。最近そういうイケない遊びが流行ってるって』
案の定あの女だった。またしても変なことを妹に吹き込みやがって。
『ふ、普通にお願い。ウチのコまでも汚さないで』
『シオリだってそんな設定嫌だよ!」
あたしが汚れてるみたいに言うな。
『…しょうがないですねぇ。このままの設定にします』
あたしとリリの抗議によりミキは渋々折れた。あんな滅茶苦茶な設定にされたらあたしのメンタルも保たない。
『じゃ、じゃあまずお着替えしようか。こんな変な格好じゃなくて子供っぽい服に、いやもっと大人っぽくして普通の恋愛らしくしようか』
リリはあたしの服装に話題を変えた。やっぱり普通はこの服装は変に思うらしい。あたしもこんな格好を好きでしているわけではないので、大歓迎だ…と思いかけたが、あたしが着ているのはこのパンツだけでそれが脱がされるということは……ヤバい、逃げなきゃ。
しかし、逃げようと足を動かす前にリリの左手に捕まった。怯えているあたしにリリは人差し指で頭を撫でた。
『近くで見るとめっちゃ可愛いね』
「あっ、ありがと…」
反射的に応対してしまった。
『照れてる顔も可愛い。年はいくつ?』
十四歳と答えようとした矢先、ミキの鋭い視線に阻止され、渋々五歳と答えた。
『へぇ~年下なんだぁ。脱がせていい?』
年下と認識した相手を脈絡なく脱がそうとしてくる小学生女子。マジで怖いです。まだこいつはマトモだと思っていたのに…。答えは当然拒否。あたしは首を大きく横に振った。
『えっ、嫌なの? もっといいお洋服着させてあげようと思ったのに。ソレが大好きなんだねぇ』
首を大きく縦に振る。
正直、あたしも脱げるならすぐに脱ぎたかった。
しかし、今のあたしはコレ以外何も身に着けていない。コレを剥がされると全てを曝け出してしまう。
『よかったねミキちゃん。シオリちゃん、大好きだって』
別に好きではない。むしろ大嫌いである。
『ふーん。大好きなんだねぇ。でもほんとうはリリちゃんに裸を見られたくないだけですよ。よーせいの癖に何を恥ずかしがっているのやら』
当然バレていた。
気の所為かもしれないけど、さっきからミキが怒っているように見える。まあそこまで解っているならミキも賛成しないはず。
『別に脱がせてもいいですよ。それはそれで面白そうですし、そこのクリップを外せば脱げますよ』
余計なことを言いやがって。
やっぱりこいつ普通に怒っている。
『じゃあお言葉に甘えて』
リリもノリノリである。
大きな指がクリップを外そうとしていた。それを外されると全てが終わりだ。
「やめて!! コレを脱がされたら裸になるの!! あたし、裸になりたくないの!!」
必死の懇願。しかし二体の巨人は動じない。
『って言ってるけど、どうすればいい?』
『無視していいですよ』
巨人達は笑っていた。
「さっきからなんなのよ!! あたしのこと虐めてそんなに楽しいの? いい加減放せ、クソガキが!!」
人間、危機が迫るとボロが出てしまう。
なにかが弾けたように抑えていたものが口から吐き出されて、全身で暴れて抵抗した。が、リンは握った手を緩めず、むしろもっとキツく握られ、強引に押さえつけらえた。
『うわぁ、この子、とってもお口が悪いねぇ』
『そうそう、これがほんとうのシオリちゃん。こんな悪い子だから遠慮しなくていいんですよ』
こいつらが怖かった。
あたしが何をしても動じずに対応するこいつらがとても怖かった。今すぐここから逃げ出したかった。
抵抗虚しくリリに全てを剥がされたあたし。初対面に小学生女子に全てを見られてしまった。必死の抵抗がむしろ逆効果だった。あそこで抵抗なく脱がされていたらすぐに服を着用できていた。しかし、無駄に抵抗したせいでリリの興味が着せ替えからあたしにシフトしてしまった。
『妖精って体の成長早いんだぁ。小さいから? シオリちゃん、五歳の体じゃないもん。年は五歳だけど、体は十歳ぐらいかなぁ。近所のお姉ちゃんと同じくらいかな。恥じらいも覚え始めてるみたいだし』
いや、十四歳…。
リリはあたしをテーブルに置いた。ようやく解放されて両手で体を覆いながら剥がされたパンツを探したが、パンツは既にリリの手に移っていた。最悪。
返してって叫んだが巨人達には聞こえていなかった。代わりになるものを探したがお手拭き用の汚れたウェットティッシュしかない。仕方ない、裸よりかはマシだ。少し大きめに二枚千切って、胸部と腰部に落ちないよう巻きつけてキツめに結んだ。まるでビキニだ。湿ってる上にお菓子の臭いがするけど背に腹は代えられない。
『って、これパンツじゃん。ミキちゃん、シオリちゃんに自分のパンツ着せてたの?』
『えっへん、スゴいでしょ』
『いや、引いてるんだけど…』
『えっカワイーじゃないですか。カワイーシオリちゃんにカワイーうさちゃんですよぉ。二つ合わさればもっとカワイーに決まっているじゃないですかぁ』
『お人形のドレス着せてれば普通に可愛いのに』
『ダメダメ。シオリちゃんはペットなんです。お人形じゃなくてペットなんですぅ。リリちゃんはネコちゃんにドレス着せるんですかぁ。着せないですよねぇ』
『分かった分かったからぁ。そう興奮しなくていいから。でもミキちゃんがそんなこだわりを持っているなんて』
『こだわり…?かどうか知らないけど…リリちゃん、いいですかぁ、よぉ〜く考えてみてくださいよぉ。シオリちゃんに着せ替え人形としてジュヨーがあると思いますか。お店に売っているお人形と比べて短足でおっぱいも小さいんですよぉ。こんなん普通のお人形を着せ替えした方が楽しいに決まってますぅ。シオリちゃんは野生のよーせいらしく裸でいいんですよ』
『いや、充分こだわ…ってシオリちゃん、どこ行くの?』
「きゃぁ!?」
足を動かした瞬間に真上から銀のフォークが降ってきて、驚きのあまり尻餅。
逃亡失敗。
二人が談笑している隙にテーブルから降りて何処かに隠れようとしていたが見逃してはくれなかった。
『そんな格好でどこに行くんですか? お着替え、まだ終わってないでしょう? 早く戻りなさい』
ミキがいつになく低い声で言い、見下している。
『逃げようとしたの? どうして? 別にイジメようってわけでもないのに』
リリがフォークの三又をあたしに向けた時、あたしは奇声を上げた。
我慢の限界を迎え、理性が飛んでいた。
あたしは立ち上がり、無我夢中に走りだした。しかし…。
『はいっと』
「っ!?」
ミキが置いた消しゴムに足を引っ掛け、開いたノートの上に向かって思いっきり転んだ。ミキはクスリと笑い…。
『ほうら。遊んでないで早くお皿の上に戻りなさい。ご主人サマの命令ですよぉ』
鉛筆の先端でお尻を突っつき、立つように促してきた。あたしは素早く立ち上がり、お皿とは別方向に再び走りだす。
『あら、まだ続けるんだ。可愛いね』
リリが呆れて笑う。
「きゃっ!?」
進行方向に教科書という壁を置かれ、思いっきり激突してまた尻餅。
『諦めたらどうですかぁ? もう何しようとオシオキは決定しているんですからぁ』
笑うミキを睨み、咄嗟に手前に置いてあったフォークを持ち上げ、三又をミキに向けた。
「はぁ、はぁ、お前のペット扱いなんてもう嫌よ。散々あたしを馬鹿にして…」
息は荒れ、視界は涙で潤んで、足はガクガクでほぼ満身創痍。こんなの悪足掻きにもならないことは解っている。その後にどうなるのかも。
しかし、今まで溜まっていた鬱憤が爆発したあたしは制御不能の暴れる動物になっていた。
『まさか他所様のお家でそんな事言われるなんて思いもしませんでしたよ』
ミキは全然怖がっていなかった。
むしろあたしを捕まえようと右手を伸ばす。
「刺すよ!!!」
『刺せば。そんな度胸なんてない癖に』
あたしの全身がガックガクに震えていることが分かっているからこそのミキの挑発だった。刺したらどうなるかを全身に沁みるほど理解しているからこそくる震えは僅かに残る理性の現れなのかもしれない、が。
『ミキのペットはシオリちゃんだけです。あんな意地汚いドブネズミなんていりません。シオリちゃんはおバカだから飼うのに丁度いいんですぅ。これから一生お世話してあげますからね』
同時にアクをドブネズミと蔑み、あたしを見下し嗤っているミキが脳裏に浮かんでしまった。
怒りと屈辱が混ざったよく分からない感情に赴くまま、フォークを思いっきり前に突き出した。
我に返ったとき、全てが終わっていた。
ミキの右手の中指に刺さったフォークから血が流れてテーブルに零れ落ちていた。
刺してしまった。
快感はほんの一瞬だった。一瞬にして全身を覆うほどの恐怖に塗り替えられてしまった。熱くもないのに全身から汗が出て呼吸は異常なくらいに荒れていた。
フォークから手を離し、恐る恐る見上げると…。
「ひぃ!?」
ミキは何も喋らず、ただあたしを見下ろしていた。
口元は緩んでいて、あたしを見下すその目は嗤っていた。なに、コイツ、不気味にも程がある。
ミキは指に刺さったフォークを何事もなかったように抜き、あたしを捕まえると巨大な顔に近付けた。
『他所様のお家でこんなことしたのですから。オシオキの覚悟も出来てるんですよね?』
一体、なんなんだ、コイツ。
血が流れようがお構いなしのコイツに戦慄して口を開けなかった。ミキはあたしをテーブルに置き、眼前に血のついたフォークを思い切り置いた。
バシッと凄い物音に気圧され尻餅をついてしまい、しかも……。
『あ~あ、まだまだ『きょーいく』がひつよーですねぇ』
下半身がやけに生暖かく、濡れている感触がする。
やだ最悪、絶対に下を向きたくない。
『あっリリちゃん、テーブル…それとフォークを汚してごめんなさい。ミキのペットがご迷惑をお掛けしました』
突然の出来事に固まっていたリリだったが、ミキに呼ばれてようやく我に返った。
『み、ミキちゃん、だ、大丈夫なの? 血が出てるよ』
『いやいや、カワイーペットに噛まれただけじゃないですかぁ。お詫びにこのかわいーペットにはイロイロなことをさせますからね』
『とりあえずその傷を消毒して絆創膏貼るから付いてきて』
『うん、分かりました』
ミキとリリはあたしに目も留めずに部屋を出ていった。どうせ何も出来ないと思われたんだろう。
ここでようやく体に巻きつけたティッシュの胸部の部分がなくなっていることに気付き慌てて両手で隠す。ミキの右手に掴まれたせいか、あたしの体の至る所にミキの血が付いていた。こんなに血が出ていたのに何もリアクションしないって本当に七歳なのか、あの巨人は。
周りを見ると立ててある教科書の近くにティッシュが落ちていた。ぶつかった反動で落ちたみたいだ。幸いなことに腰部のティッシュは無事だったものの漏らしたせいで濡れていたので仕方なく腰部のティッシュを剥いだ。
そしてこの羞恥があたしに動く気力を無理矢理引き戻し、テーブルに置き放しのミキのパンツの元に駆け、全身を隠すように中へ潜り込んだ。
あれだけ嫌がったご主人サマのパンツに縋ってしまうあたし。ただでさえズタボロのプライドを短時間で更に圧し折られてしまい、あたしは巨人達がこの部屋に返ってくるまでパンツの中で只々号泣していた。
そしてミキとリリが帰ってきて、テーブルの片付けを行った。言い方を変えるとあたしの粗相の後始末だった。リリがテーブルの汚れを濡れた布巾で拭いて、その間、汚れの原因のあたしはミキに綺麗なウェットティッシュで全身を拭かれ、再びうさぎパンツを着させられてやらかしたあたしへのお仕置きが開始された。
巨大なドーナツ、クッキーが積み上げられた光景。
子供なら一度は想像するお菓子の世界。
小人のあたしなら割と簡単に叶えられる夢だ。巨人達が買ってきたお菓子をあたしの周囲に適当に積み重ねるだけで達成できてしまうからだ。
しかし現実は非情で…。
『シオリちゃん。ミキはドーナツが欲しいです』
残念ながらそれらのお菓子は小人のあたし用ではなく、巨人共のオヤツだった。
大きな皿の上に積み上げられた色んなお菓子。その中からドーナツを両手で掴んだあたしだったが、思った以上に軽く、力を入れすぎてしまい反動で尻餅をついた。
『シオリちゃんってほんとうに可愛いよね……性格以外は』
『こらぁ、遊んでいないで早く運びなさい』
ミキに急かされ、慌てて立ち上がり、ドーナツを再び掴んだ。重さ自体は軽いものの、真ん中の空洞にすっぽり入れるくらいドーナツは大きかった。それを運ぶことによってあたしの両手は勿論、着ているうさぎパンツまで砂糖やチョコが沢山付着してしまう。
ミキが勉強しているノートの上にたどり着き、ドーナツを掲げると巨大な手がドーナツを持ち去り、巨大な口に噛みつかれ、消えていった。
いずれあたしもあのドーナツみたいな結末になるのか……と悲観したのも束の間。
『じゃあ、私はプレーンのクッキー三枚お願いしようかな』
背後から注文の声が響いた。
『なに、ぼけーっとしてるんですか。リリちゃんが頼んでいますよ。早く行きなさい』
「きゃっ!?」
鉛筆で突かれ、また尻餅をついた。
こいつ、まるであたしを奴隷みたいに...。
『あんなことを仕出かしておいてよくそんな顔出来ますねぇ。逆に感心ですぅ』
「……」
反論できない。
ミキはあたしの服の留め具のクリップを掴み、強引にあたしを立たせた。このクリップは取っ手にも使われるのか。次に悪い事したらクリップに紐を付けられて吊るされそう。
仕方なくクッキーの皿に向かった。
『ありがとう。一枚ずつでよかったのに。シオリちゃんって意外と力持ちなんだね』
リリに頭を撫でられた。なんか嬉しい。
クッキーも思った以上に軽く、三枚持ちもギリギリなんとかなった。おかげで全身粉まみれだが。
『ミキはチョコクッキー五枚欲しいです。五枚一気にお願いしますね』
こいつ…ハードルを上げやがって。
休む暇も与えないつもりか?
それにしてもこんな恥ずかしい格好でお菓子の配膳係。バニーガールのつもりなんだろうか。だとしたら色々間違っている。兎要素はパンツの柄だけだし、うさ耳なんて当然ない。傍から見れば大きなうさぎパンツで体を包んだ小人の女の子が大きなお菓子を運んでいる、という変な光景だ。
しかもお菓子が入ったお皿は巨人共が手を伸ばせば簡単に届く距離にあって、あたしが介入する必要なんてない。要はただの嫌がらせ。さすがのあたしもアクにこんなことやらせたことはない。
しかもこれ、ミキとリリまでの距離も何回も往復する羽目になるよ。まるでシャトルラン。なんで小人になってまで体育の授業を受けなきゃならないのよ。巨人にとって手を伸ばす程度の距離でも小人のあたしは数メートルの距離なのよ!? お菓子を持った状態でだよ!? これは地獄よ!! あたし、シャトルラン苦手ですぐにリタイアするのに…。
『チョコクッキーまだですかぁ?』
「痛っ!? 分かったから突かないでよ!」
ミキが鉛筆で急かしてきた。いや、わざわざ手を伸ばしてまで突いてくる暇があるなら自分で取ってよ。
勉強会が終わると同時に配膳係から解放された。
体力も底をつき、ヘトヘトになっていたあたしはすぐその場に仰向けに倒れた。行儀なんて気にする余裕もなかった。
うさぎパンツは汗やらチョコやら砂糖やらでベトベトでよく分からない異臭を放っていた。あたしにとって鼻がおかしくなりそうなレベルだが、巨人達にとって気にしないレベルの臭いらしく、特に言及はしてなかった。
『ご苦労さまですぅ』
ミキはあたしの側に小皿を置いた。いつも牛乳が入っている小皿だった。持ってきてたみたいだ。
少し体を起こして中を見るとオレンジ色の液体が入っていた。匂いからしてオレンジジュースだ。
喉がカラカラに渇いていたあたしは飛び上がり、手で掬い、飲んだ。
めっちゃ美味しい。底が付いた体力が段々戻っていくのを全身で感じる。
体が濡れようがジュースが溢れようが気にもせず、ひたすらジュースを手で掬い、ガブガブ飲んだ。
『もぉ、行儀が悪いんですから。でも動物らしくてカワイーですねぇ』
『う、うん…可愛いは可愛いんだけどね…。私が求めてるモノとは違うというか、なんというか…』
ミキは微笑み、リリは引いていた。
そんな巨人共の感想なんか露知らず、あたしはただひたすら動物のように飲み続けていた。
なにはともあれこれでようやく解放される…。
ジュースを飲み干し、安心して一息つこうとした瞬間、何者かの手に捕まった。
『さてシオリちゃんで遊ぶ時間だよ』
あたしを捕まえたのはリリだった。
「あっ、遊ぶって?」
『勉強が終わったら遊ぶ時間だよ。常識だよねぇ、ミキちゃん?』
非常識Bがなんか言ってる。
『勿論です。そんな当たり前のことも知らないんですか、シオリちゃんは』
非常識Aが予想通り同調してきた。
これまでの経緯を見るとあたしが最も非常識な行動をしている気もするが…そもそもあたしの存在そのものが非常識だし別にいいでしょ。
そういえばミキとリリが部屋から帰ってきた時、二人は色んな物を持ってきていた。汚れを拭き取る布巾やウェットティッシュ。それとドーナツやクッキー等のお菓子類。そして…片手で運べる大きさのボックス。中身は大体想像出来るし、結局その通りだった。
『じゃあまずお着替えからだね。シオリちゃん』
リリにピンを簡単に外され、うさぎパンツは真下に落ちてしまった。今日だけで何回脱がされてるんだ、あたしは。
『そんな嫌な顔しないで。これから何十回もお着替えする予定なんだからもっと喜んでよ』
さり気なくとんでもないことをリリは言った。
「喜べるわけないよ。着せ替え人形にする気?」
『そうだけど何か不満?』
「不満しかないよ!」
『はいはい、まずは汚れた体を拭こうね。我儘なシオリちゃん』
チョコや砂糖で汚れた体をウェットティッシュで拭いてくれるのはまあ嬉しい…。
ただ、今日が初対面のはずのリリにすら軽くあしらわれるようになってしまった。あたしの尊厳は一体どこに行ってしまったのだろうか。
っていうか、どいつもこいつもあたしで着せ替えしようとしやがる。あたしの周りには着せ替えが大好きなヤツが多すぎだ。あたしが可愛いという証明にはなるが人形扱いにはなんかイラッとくる。
一人例外はいるけど、そいつはそいつでヤバい趣味嗜好を持ってるし…。
『ふぇ? どうしたのですか、シオリちゃん?』
「なにも」
とぼけているが、このサイコパスこそが全ての元凶である。可愛い見た目でエグいことを平気でやるこのサイコパスがあたしの悩みの九割を占めている。
『お着替え完了っと子供用があってよかったぁ。普通のお人形の洋服じゃあシオリちゃんには大きすぎるんだもん。どう、こういうシオリちゃんも中々可愛いでしょ?』
ハーフパンツにランニングシャツ、まるで夏場の小学生男子の服装だった。胸の膨らみがないあたしの当てつけなのか? しかも今は夏じゃなくて冬間近なのに。まあ、ズボンを着せてくれたことは感謝。久しぶりというか、小さくなって初めて短パンを履いた気がする。ミカはドレスやワンピースしか着せてくないからね。どっちも可愛くて好きなんだけどたまにはこういうのも着たくなる。
『認めたくないけど似合ってますねぇ。なんかその格好面白い。本当にメスなんですかぁ?』
もっともあたしを笑っているこいつはそれ以前の問題で服すら与えてくれない。ペットに服を着せない、厄介な主義の持ち主だ。それでいて自分のパンツをペットに着させるという奇妙な性癖も持っている。
『なんか言いました、シオリちゃん?』
慌てて首を大きく横に振る。
やっぱりこいつ、エスパーだろ。
『そういえばシオリちゃん、髪が長くなりましたねぇ。ミキがハサミで切ってあげないと』
「それだけはやめて」
間違いなく、髪以外も切られる。ヘタをすれば首を切られ、あたしの命も終わる。
『嫌ならしょうがないですね。あぁ、そうかぁ。髪が短いとメスに見えなくなりますからね。シオリちゃんのメスっぽさを奪うわけにはいきませんからね』
切られずには済みそうだが、代わりに極上の嫌味が返ってきた。いい加減、メス扱いをやめろ。あたしは可憐な乙女だ。どんだけあたしを動物扱いすれば気が済むんだ。
ちなみにあたしはアクとは違って髪を触れることに抵抗があるわけでも、短い髪が嫌なわけでもない。ただこいつに髪を弄られるのが嫌なだけだ。実際、長い髪が鬱陶しくなっていたし、近々ミカにでも頼んでみようかな。
『次はミキの番ですね!』
慣れた手つきであたしを捕まえるミキ。
「ミ、ミキもシオリで着せ替えするの?」
『ミキがそんなことすると思いますか?』
絶対にしない。
「じゃ、じゃあ何をする気!?」
『きょーいく』
「教育って……いやぁああああああ!!!!!」
突然真上に思いっきり投げられて、天井スレスレまで飛ばされ急降下。すごい速さで落下していたあたしをミキは軽々とキャッチした。
「殺す気か!!!」
心臓が飛び出てもおかしくないほどの数秒間だった。もしミキのキャッチが失敗していれば確実に死んでいた。
『情けないですねぇ。これぐらいで大袈裟に叫ぶなんてぇ』
「あたしにとっては命綱無しバンジーやらされたようなもんだよ!!! もうちょっと丁寧に扱ってよ!!!」
怒りの余り一人称を忘れるくらい大声で怒鳴った。
しかし小さいあたしがいくら怒ったところで全く迫力がないらしく巨人共は相手にしないどころか...
『これぐらいですか?』
と今度はミキの左手から右手に向かって軽く横に投げられた。
「あたしはお手玉じゃない!! きゃっ」
今度は逆方向に投げられ、左手でキャッチされた。
『シオリちゃん、よーせいなのにお手玉を知ってるんですねぇ。そんなに大好きなんですねぇ。じゃあミキが沢山遊んであげますよ』
相変わらずよく分からない理論。
「好きじゃないってわぁ!? ひぃ!? きゃぁ!?」
こいつ……絶対に許さない……。
左から右、右から左へ何度も何度も投げられて解放されたころには視界がぐるぐるしていて、まともに動けなかった。一度もキャッチが失敗しなかったのが幸いだった。
『エッヘン、ミキはお手玉が得意なんです』
五月蝿い、黙れ。
うぅ…気分が悪い…吐きそう…イキっているこいつの顔面に吐いてやりたいが、今はまだ我慢しなきゃ…。
『次は私の番だね』
リリに捕まって服を剥がされている気がする。最初にランニングシャツを剥がされ、次はハーフパンツってところかな。
もう吐いてもいいかなぁ、今なら服を汚す心配もないし…我慢の限界だし。
『……もう吐いてもいいよ。吐きたいんだよね』
えっ、と一瞬気が緩んだ隙に、溜まっていたモノが口から一気に放出された。
『あらら、また汚しちゃってぇ…』
『今のはミキちゃんが悪いよぉ…。あんな遊びをしたらこうなるのも普通だよ。むしろ褒めてあげなきゃ』
リリに頭をポンポンされている。
『服を汚さないようにずっと我慢してたんだね。偉い偉い』
リリ…。
『お口は悪いけど良い子だねぇ。よしよし』
指で背中をスリスリ感触がした。凄く気持ちいい。ずっとこのままリリの手のひらにいたいと思うくらい気持ちが良かった。まるで赤ん坊になった気分だ。
『あっ、シオリちゃんまた眠りましたねぇ』
『このまま眠らせておこうよ。一杯遊んだんだから。見て、この嬉しそうな寝顔。赤ちゃんみたいで可愛いでしょ』
『…そうですねぇ。今日はちょっとやりすぎましたし、これぐらいは許してやりましょう』
リリの膝の上であたしはうつ伏せでぐったりしていた。リリの手が頭から赤いドレスを伝って足の裏までなぞる。幸い、リリによる着せ替えはこのドレスだけで終了した。このなぞりは何処かのイジワルな巨人みたいにあたしを起こすための嫌がらせでやってるわけじゃなくて、あくまであたしが気持ちよくなれるように優しく何度もなぞってくれている。リリの体温がスカートの上からでも伝ってくるのも嬉しい。体温ってこんなに暖かかったっけ。リリにも散々酷いことされたはずなのに不思議と許せてしまう。リリにならいくら触られてもいい、飼われてもいいかもと揺らいでしまうくらい心地良かった。
『なんでリリちゃんにそんなに懐いてるんですか? ミキにだってそんな顔しないですよ』
イジワルな巨人は不服のようだ。
『ミキちゃんがいつもイジメてるからじゃない? もっと優しくしてあげないとダメだよ』
そうだそうだ。
『それはきょーいくですぅ。優しくするとすぐに調子に乗るのがシオリちゃんなんですぅ』
『そうなの? シオリちゃん』
「一度も優しくされたことないし。シオリはこんなにか弱い女の子なのにミキは酷いことばかりするの」
ここぞとばかりに反撃。ずっとやられっぱなしのあたしの細やかな復讐。
『ミキちゃん、さすがに酷すぎじゃない!?』
「そうだそうだ…あっ」
やばっ、つい口に出してしまった。
『…あとで覚えておいてくださいね、シオリちゃん』
ミキの視線が冷たい。
どうせ今までの所業からして帰ったら地獄行き決定だし、どうでもいい。
今はこの天国を思う存分味わいたい。
……そして帰宅後。無情にも地獄が始まった。
ガシャン。
無情にも扉は閉じられた。
住処が大きな水槽から、持ち運びできるコンパクトな鉄檻に変えられてしまった。
「なんでケージに入れるのよ!! あたしはハムスターじゃない!!!」
鉄格子をガタガタ揺らして威嚇し、ミキに不満を訴える。
しかし、肝心のミキには全然効果がなかった。
『五月蝿いですねぇ。今日したことをちっぱいに手を当てて考えれば分かるでしょ』
「ちっぱい言うな!! オシオキなら充分受けたじゃない!! やり過ぎよ!!」
『お漏らし、嘔吐、他所様への暴言、ご主人への反抗、他所様のお人形への暴力行為、他所様のテーブル汚し。シオリちゃんってかわいー顔してとんでもないことをする悪い子だったんですね』
ミキは淡々と今日のあたしのやらかしを述べた。一部仕向けたのはミキとはいえ、やらかしは事実なだけに反論できない。
「…シオリ、悪くないもん、ペットの粗相は飼い主の責にっきゃっ!? 何すんのよ!!」
突然、檻を揺らされてその場で転んでしまった。
ミキのセリフを言っただけなのに。
『なんかムカつくことをほざいてたのでつい…』
「……」
安直な開き直りが癪に障ったらしい。
『ふーん、こんなドレス隠し持っていたんですかぁ。やっぱり悪い子ですねぇ。シオリちゃんには全然似合わないです。今のお洋服の方が断然お似合いです』
あたしのドレスは水槽を漁るミキによって簡単にバレてしまった。
「ふざけんな!! これはお洋服じゃなくてミキのパンツでしょ。返して!! それはシオリのモノなの!!」
『駄目です、没収ですぅ。シオリちゃんはお人形じゃなくてミキのカワイーペットですぅ。あんまり文句言ってるとそのパンツも没収しますよーだ』
「…」
こいつ…そんなんだからあたしに懐かれないのよ。
『クッションは要らないですね。大きくて邪魔だし』
寝床も没収。とってもよく眠れたのに。
『トイレはそれを使うんですよ』
ミキが指差したのは石けんを置くのに使われる赤いプラスチックの容器にトイレットペーパーが積まれたもの。ランクダウン…なんか使いたくない。
『飲み物はそれです』
ミキが指したのはハムスター用の給水機。容器には牛乳がしっかり入っている。
『寝る場所は……その辺の床にでも寝ればいいんじゃないですか』
新聞紙だけが敷かれた床。恐らく寝心地は最悪。
「そもそもシオリは妖精なんでしょ!!」
流石に扱いが酷すぎる。
『羽のないよーせいがほざきますねぇ。そこがイヤなら虫かごになるけどいいんですかぁ? 次から虫かごに入れてリリちゃんの家に連れて行く予定だから手間が省けますね』
「今より酷くなってるじゃない!! しかもまた連れて行く気!?」
虫かごだけは嫌だ。そうなったらいよいよ虫けら扱いだ。持ち運びしやすいからって理由だけでそこに入れられるのは嫌だ。思いっきり嫌そうな顔をしてミキを睨んだが、ミキは逆に嬉しそうに話し始めた。
『嬉しいですよね? あんなにリリちゃんに懐いていたんですから。週末には毎回リリちゃんの家に行きますからね。リリちゃんも快くオーケーしてくれましたし。勿論、シオリちゃんはお菓子係兼オモチャ係ですぅ。週末までにもっと体力つけておいてくださいね。途中でバテたらオシオキです』
さらりととんでもないことを言われた。
週末に毎回? しかもまたお菓子の配膳やらせるつもり? バテたらお仕置きだから体を鍛えろ? ふざけんな!! なんであたしがそこまでしなきゃならないの?
「…ガキの皮を被った悪魔め」
わざと聴こえるように吐き捨てた。
しかし、ミキは怒るどころかニヤニヤしている。
『……ミキは気付いちゃったんですよね』
「はぁ? どゆこと?」
ミキは続ける。
『ミキに怯えて従順になってるシオリちゃんより、ミキに反抗的な態度を取ってるシオリちゃんのほうが好きだって。あっ、これは返しますね。その方が面白そうですし』
ミキは没収したドレスを檻越しに入れた。
『これからもどんどんミキに反抗してくださいね。従順なシオリちゃんなんてペットにする価値もありませんから』
「じゃあキャミソールとパンツも返して」
『お漏らしする悪い子に必要ですか? それ』
「必要!! シオリだって女の子なんだから!」
『いやいや、メスネコやメスハムスターだってそんなのつけないじゃないですかぁ』
それらと一緒にするな。
「シオリは妖精でしょ。妖精は洋服も下着も着ているの! だから返して!!」
『ミキの見たアニメのよーせいは服なんて着ていませんでしたよ。裸に羽が生えた小さくてかわいー生き物でしたよ。いい加減、人間のフリをするのを辞めなさい。あんまりうるさいとドレスもミキのパンツも没収しますよ』
「……」
ボキャブラリーはあたしの方が豊富なはずなのに口論でミキに勝てなかった。というか、勝てる気がしない。
黙ったあたしを確認したミキはこれから晩御飯だからと言って、部屋を出ていった。
「なんなのよ、アイツは」
返されたドレスを着ながら愚痴をこぼす。
人間のフリをやめろって? あたしはそもそも人間なんですけど! お前こそあたしを妖精扱いするのやめろよ。羽がない時点で気付けよって感じ。でも、ドレスをくれたってことはミキの前でドレスを着ていても脱がされる心配はない、と捉えてもいいのかな。お風呂の時以外は。ただ反対に下着は没収されてしまい、ノーパンで過ごすことが決定したけど。あくまでミキにとっての野生のシオリらしさを残すことに変なこだわりを感じる。
今日はもう疲れた。今日の出来事は早く寝て忘れたい。もう思い出したくもない。
ミキのパンツの中へ潜った。パンツ一枚で敷布団と掛け布団、両方満たせるって案外便利かも。いや、でもこれはパンツ、しかも嫌いなやつの。な~んにも興奮しないただの布切れ。これがアクのパンツならうつ伏せで鼻をくんくんさせて、アクの匂いをたっぷりと堪能して気持ちよく眠れるのに。そしてあたしの身体はアクの匂いで一杯…フフフ、いつか絶対あたしのアクを見つけ出すんだから。この程度の事で挫けて溜まるもんですか、と心に誓いながらあたしは眠りについた。
しかし、あたしは忘れていた。この家にはもう一人、厄介な巨人がいたことを。
読んでくれてありがとうございます。
三話も連続で投稿していますのでよければ。




