あの手この手
「撤退したのか・・・」
やけにあっさりと撤退に踏み切ったな。形勢が悪いとみると迷うことなく退く。数で上回る時ほど簡単には選択できないであろう撤退と言う選択をした敵軍の指揮官が恐ろしい。
「被害を確認しろ。修繕が必要なところがあったら報告してくれ」
兵士達が指示にしたがい投石被害にあった壁などを点検し始める。
「次はどうでるか・・・か?」
「相手の指揮官がこの前のような男ならやりやすいんだが、この手際のよさを考えると色々とやってきそうだな・・・」
「そうだな・・・正攻法で落とせないとなればあの手この手で落とそうと考えるだろうのが常だろう」
「ああ。なんせこっちは数が少ないからな・・・常にすべての場所を把握し対応することはできない」
数の前には、どうしても不利になる。
「そろそろ我らの出番も近いと言う事だな」
「おそらくはそうなるだろうな・・・。皆は、今のうちに休める者は休み食べる時間があればしっかりと食事をすませておいてくれ」
『ガスターンも英気を養い休んでいてくれ・・・今日は飛びっぱなしだっただろう』
『この程度と言いたいところだが、さすがに羽根を休めたいな。夜は十分に目も届かないから朝まで休ませてもらう事にしよう』
そうだな・・・鳥は夜に目が利かないから夜の行動は苦手なんだろう。夜・・・夜襲も警戒しないといけないか・・・
「これから日が暮れる。交代で見回りを行うから各隊は交代で警戒にあたってくれ」
夜襲に備え、赤隊や緑隊で交代して夜の番を行うことにした。
メグミを中心に炊き出しを行い。現状をシェルターで不安に過ごす女子供に伝える。誰も犠牲になっていない事と人族が一時撤退したことを伝えると皆ほっとしていた。
子供たちに甘い物を差し入れ、女たちに不自由がないか確認する。シェルター内は広く部屋も多い。風呂やトイレも数多く作ってあるから衛生面の心配もない。食料は大量に冷凍保管されているから数ヶ月でも耐えることができるだろう。
「タクミも少し休んだら?」
炊き出ししているメグミが心配して声をかけてくれる。
「そうだな・・・少し横になっておくよ」
まだ戦いは始まったばかりだ。指揮官が疲労して動けなくなっても意味はない。ほとんど眠れないだろうが横になり目を閉じる。すると横になってすぐに
『タクミ・・・聞こえるかい?』
『ホクトか・・・どうした・・・』
『人族の斥候が増えたようだ。北側や西側にも斥候が来ている』
『やはり、街の攻めどこを探っているのか・・・』
『そうみたいだね。一応見つけたら処分するようにしておくけど・・・少しは洩れるかもしれない』
『無理はするなよ・・・相手の指揮官はただ物じゃないみたいだからな』
『タクミこそ気をつけてくれないとメグミが心配するよ』
『ああ。今はちゃんと言うとおりに休んでいるよ』
『昼の戦いを見てたよ・・・きっとこれからが正念場になるんだろうね』
『そうだな。何をしてくるかわからん相手だしなホクト達にも負担をかけるな・・・』
『それはかまわないよ。それじゃあ僕達は、これまでどおりの対応でいいね?』
『ああ。同じように頼むよ・・・』
ホクトとの念話を終える。うつらうつらと舟をこぎながら何か良い方法はないかと考えていると
カーンカーンと鐘の音が響き渡る。敵襲を知らせる鐘は・・・3つ。1つは北、2つは東、3つは南、4つは東と決めてある・・・。南からの敵襲か・・・
寝台から飛び起きそのまま南に走る。南門に到着する頃には、敵兵は闇にまぎれて門まで迫っていた。すでに堀に入り門まで泳ぐ姿もあるようだ。
「あいつら火種を持っているぞ」
泳ぐ男の頭には、おそらく火種になる物が乗せられているのだろう。平泳ぎのように堀を泳いで門へ近づくのが見える。門を守る兵士達が弓で泳ぐ兵士を狙う・・・。鉱石を使って作った城壁は簡単には燃えないが・・・木材も使っている以上まったく燃えないわけではない。
「東と西にも現れたようです。東は、赤隊が、西は緑隊が抑えているとのことです」
兵士が報告する。
「カイルはいるか?」
「ここにいるにゃ~」
すぐ後ろから声がする。
「ここは、俺に任せてくれて良い。その代わりに北側の城壁付近を警戒してくれ、門はないが侵入を試みるやつがいるかもしれない」
「わかったにゃ」
夜目が利く黒隊数人が北へ向かう。カイル達は、昼よりも夜の活動の方が得意だからな。
人族の夜襲は、人数こそ多くないが、全員が黒い鎧や服を着ており、灯りがないと姿がなかなか見えない。・・・かと言って灯りをともせば弓の格好の的になってしまう。
「報告します。新たに敵の攻撃を確認。門の周辺以外にも松明を投げ込む敵兵がいるようです」
火計か・・・確かに夜襲と組み合わせても有効な手段だな
『ミール聞こ得るか?』
『タクミ様!?・・・聞こえております』
『水の眷属の力を借りたい。敵は火計を用いているから城壁などに燃え移った火を消火してほしい。できるか?』
『消火だけでなく、投げ込む者も排除できますがいかがします』
『なら、第一優先は消火とし、余裕があれば投げ込む者を殲滅してくれ。必要があればサラと連携して魚人族にも力を借りるつもりだ』
『心得ました。タクミ様もお怪我などされぬように』
これで城壁への火計は効果をなくすだろう。人族の夜襲攻撃は、数時間おきに続きそれに対応すべく休みなく撃退を続ける。明け方になりようやく周囲が見えるようになると夜襲攻撃は終わりを迎えた。
ほとんど眠ることができずに朝を迎え、疲労のピークを迎えようとしたとき、再び東門前に人族の軍が終結する。
「これからが本番ってことか・・・」
ほとんど休む事なく東門へ向かう。向かった先で敵兵を確認すると人族は兵士を集中しているようだ。前例に盾兵が並びこちらの弓や魔法に備え、2列目以降には、弓兵や魔法兵が続いている。
「みんな疲れているところ悪いが、ここから気合を入れていくぞ!」
うおおお!と獣人たちの声があがる。疲れはあっても士気は高い。
整列した兵士達がゆっくりと前進を開始する。徐々に東門と敵兵の距離が縮まり、弓の射程の中に入る。
「弓隊射撃開始!」
ドワーフによって門の上に多数設置された固定弓から矢が放たれる。固定弓は狙いがつけやすく連射しやついように工夫された逸品だ。矢は次々と放物線を描き、人族の兵士に降り注ぐ。
大きな盾を構えた敵兵がその矢を防ぐ・・・盾兵を飛び越えた矢が何人かの兵士を倒すが、数が多く効果を見てとれない。次第に距離は接近し、向こう側の兵士からも矢や魔法が放たれるようになる。結界をはれば、こちらからの攻撃もできなくなるためどうしても打ち合いになるしかない。高い位置から放つ地の利を得たミクス側と数にものを言わせて攻撃する人族の間では、一進一退の攻防が始まる。
「報告!数名の者が敵の矢で怪我をおっております」
「怪我した者は、後方へ下がらせ治療を受けるように指示しろ。アリヒアやメグミ達が治療をしてくれるからな。ついでに少し休んで回復したら戻ってこい」
獣人たちが装備する鎧などの効果もあって矢傷をおっても致命傷になるものはすくないだろう。
両方の陣営の上空を矢が次々と飛び交うが、ついに敵兵は、犠牲をだしながらも東門手前の堀まで到達する。工兵と思われる兵士達が、盾兵に守られながら木材で作った簡易な橋をかけようと必死に作業を開始する。この堀には、水の流れがあるため木材を多数浮かべても下流へ流れて行ってしまうので固定に手間取っている。チャンスとばかりにこちらからは矢を次々と狙い放ち、人族を倒していく。錘をつけたロープが次々と門へ投げ入れられ、門の壁と敵兵の間にピーンと張ったロープが結ばれる。複数のロープを伝って敵兵が街への侵入を試みる・・・
少し離れた場所では土砂や石を大量に堀に投げ捨て道を切り開こうとしている兵士が見えた。
「次々と色々考えるものだな・・・」
弓で敵兵を倒しながら敵兵の作業を妨害する。ロープは、剣で切り、渡ってきていた兵士が途中で堀に落下する。土砂や石を多少いれても深さがある堀を埋めるには、膨大な時間が必要だ。明らかにミクス側が優勢なのだが、5倍以上もいる人数差が戦場を膠着させている。
「報告します。西門におよそ100名くらいの敵兵が確認されました。軽装の兵士のようです」
ここで、反対側の門への攻撃か・・・。東門から西門に移動しても時間がかかる上、ここで人数を割けば膠着している東門もどうなるかわからない。
『ホクト!西側に何かあったのか?』
『タクミ・・・少し困っている。西門付近で熊族と思われる獣人と対峙している』
『熊族?』
『事情はわからないけど人族に命令されているようだ。倒しても良いものか攻撃を戸惑っている』
事情はわからないが、何か理由があるのかもしれない。
『できれば、獣人たちは攻めたくないな・・・』
『熊族に睨まれていて人族の一団を西門に近づけてしまったから。西門が不安だよ』
『わかった西門は何とかするから熊族を牽制してくれ・・・交渉できるようならいいんだが・・・』
『わかったよ。色々と工夫してみる』
突如乱入した熊族については、ホクトに任せ西門に来たと言う人族に対応しなくてはならない。やはり俺が向かう方が良いか?
「タクミ!西門は、私とミールで対応するから。タクミはここで指揮をとって!」
「2人じゃ危ないだろ・・・カイル達黒隊も連れて行ってくれ。カイル頼む!」
「承知したにゃ」
メグミ達を向かわせた西門に心配はあるが、東門もここで引くわけにもいかない。怒涛の攻撃を繰り返す人族の本体に対応しなければ突破される可能性もある。実際、兵士の指揮を執る指揮官も堅実な用兵を繰り返しており、士気を維持したままこちらの隙をうかがっているように見える。
「猫の手も借りたいってところか・・・」




