第二十四話|作者の遺——?※!▲#@
羽玥は、遠い親戚の葬式に出席した。
親戚?正直、名前すら思い出せない。
祭壇に飾られた見知らぬ白黒写真を見つめながら、彼女はわずかに眉をひそめた。
血縁は家系図の線を結ぶことはできても、悲しみまでは結びつけてくれない。
彼女はその場に立ち尽くし、どこか儀式に迷い込んだ傍観者のようだった。
親戚たちが跪き、すすり泣き、ひそひそと話す様子を見ながら、胸に浮かんだのは悲痛ではなく、妙に現実味のない疑問ばかりだった。
――人が死んだら、どうして黒を着るの?
――どうして泣かなきゃいけないの?
――もし私が死んだら……どんなふうになるんだろう?
帰宅しても、創作の神様は姿を見せなかった。
彼女は原稿用紙を引き寄せ、ペン先で紙を軽く叩く。
もし私が死んだら——
みんな、ピンク色を着てお葬式に来てほしい。
跪かなくていい、泣かなくていい、私が嫌いなお経も流さなくていいし、あのうるさいラッパもいらない。
好きな曲を流して、甘いお菓子をたくさん並べて、できれば誰か笑ってくれたら嬉しい。
もし泣いたら罰として百字、「羽玥が大好き」って書くこと。サボり禁止——
ペン先が止まり、インクがじわりと滲む。
「……ちょっと子どもっぽいかな。」
小さく笑って、つぶやく。
「でも、これが私だよね。」
その瞬間、原稿がひょいと奪われた。
「何書いてるの?怪しすぎ。」
振り向けば、筱月が立っていた。
紙を一読し、表情がすっと変わる。
次の瞬間——ビリッ。
紙は真っ二つに裂かれ、丸められてゴミ箱へ放り込まれた。
彼女は羽玥の後ろ首を軽く掴む。
「変なこと書かないで。」
言葉は柔らかいのに、逃がさない響きがある。
その時、曉雨が駆け寄り、羽玥の胸に顔を埋めた。
「どうして……遺書なんて……?」
声が震えている。
羽玥ははっとし、慌てて曉雨の頭を撫でた。
「違うよ、遺書じゃない。ただのネタ切れで、ちょっと遊んでただけ。」
曉雨は鼻をすすりながら顔を上げる。
「でも……ダメ。」
筱月はため息をつき、羽玥の額を軽く弾いた。
「私たちが歩けなくなるまで、生きるんだからね。」
羽玥は苦笑しながら、二人の手を握る。
「うん、書かないよ。」
それは軽い冗談のはずだった。
けれど二人は本気で赤くなった目をして、彼女の手を離さなかった。
彼女たちの世界では、悲観はすぐに取り上げられ、破られて、丸められて捨てられる。
残るのは、笑い声と温もり。
そして——ずっと一緒にいるという約束だけ。
——作者の遺——?※!▲#@(ドタバタ版)
午後の陽光が書斎に差し込む。
羽玥はキーボードの前で唸っていた。
「タイトル……どうしよう。」
ふと思いつき、にやりと笑う。
カタカタと打ち込んだ文字。
「作者の遺書」
自分で笑った、その瞬間——
背後の空気が凍る。
「……へぇ?」
甘くて危険な声。
次の瞬間、筱月が手首をがっしり掴み、椅子から引き離す。
「何書いてるの?」
耳元で囁く声が、やけに近い。
「じょ、冗談だよ!」
「冗談?」
彼女は羽玥の耳たぶを軽く噛んだ。
「行くつもりなの?」
「行かない!書き直す!」
その時——
「遅いよ〜!」
曉雨がぴょんと現れ、キーボードを連打。
——送信完了。
「タイトルは変更できません」
「曉雨ーーー!!」
曉雨は満面の笑み。
「送信押しちゃった♪」
筱月はくすりと笑い、羽玥を抱き寄せる。
「じゃあ今夜は“遺言”も書こうか?誰がスイーツを相続するのか、とか。」
「何も相続しない!」
三人の笑い声が部屋いっぱいに広がる。
そしてその奇妙で甘いタイトルは、そのまま物語の冒頭に刻まれた。




