第十六話|こんな時もある|作者からのエール
夕暮れは薄いヴェールのように、カーテンの隙間から差し込み、部屋をほろ酔いのような橙色に染めていた。
**曉雨**はベッドの真ん中で丸くなっている。
まるで洞穴に身を隠す小動物のように、毛布を頭まで引き上げ、かろうじて呼吸できる隙間だけを残して。
病気なわけでもない。
寝不足なわけでもない。
ただ、急に——世界と向き合いたくなくなっただけ。
一日中、彼女はそうして横になっていた。
自分の鼓動と、止まらない思考が絡み合うのを聞きながら。
「私って、ほんとダメかも。」
「何もちゃんとできない。」
「……また、誰かを失望させたかな。」
そんな言葉が、波のように何度も押し寄せる。
逃げたい。
また夢の中に沈みたい。
そこには問い詰める声も、自分自身もいないから。
目を閉じ、もう一度闇へ落ちようとした、その瞬間——
毛布ごと、体がふわりと持ち上げられた。
温かく、揺るがない腕に包まれる。
「怠け猫。」
耳元で、やわらかく、それでいて拒めない声。
**筱月**だ。
「もう一日寝てるよ。」
毛布がするりと剥がれ、肩まで滑り落ちる。
夕風がひやりと頬を撫でた。
その次の瞬間、温かい吐息が耳に触れる。
「起きて。」
唇がほとんど耳先に触れそうな距離。
「起きないと……噛むよ?」
からかうようで、甘くて、少しだけ危険な響き。
曉雨は小さく震える。
逃げようとしても、腕はさらに強くなる。
「……やめてよ。」
かすれた声。
「ふざけてない。」
筱月の声が静かにやわらぐ。
顎を髪の上に乗せ、ぎゅっと抱き締める。
「あなたはダメなんかじゃない。迷惑でもない。ただ、疲れただけ。」
その言葉が、胸の奥にゆっくり落ちる。
曉雨は何も言えないまま、そっと腕に触れる。
自分を抱きしめるその腕を、逆に握り返す。
霧のような自己否定の中で、
この人だけは、いつも迷わず手を伸ばしてくれる。
夕陽が沈み、部屋は暗くなっていく。
けれど、誰も灯りをつけなかった。
光は、天井からだけ来るものじゃない。
胸の中に、ちゃんと灯っているから。




