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今日から僕らは歩み始める3

「おやおや、これはこれはこれはこれは」

「お久しぶりです、波伊庭殿」

「殿なんて呼び方はやめてくださいよ、特級隊士鍵宮殿」


 白いコンクリートで固められた両壁と道で、一人の男と一人の女が遭遇した。

 それが意図的であったかどうかは、1人には永劫分からない。


「波伊庭殿がここに来られるなんて珍しいこともあるものですね」


 最速で特級へと上り詰めた女隊士、鍵宮ミラは目の前の男、次期波伊庭家当主こと波伊庭 すぐるの言葉に耳を貸すことなく「殿」を付ける。

 それは彼女なりの尊敬の表れであり、警戒の表れである。


「なぁに、流石に報告しないといけないことがあったからね」

「報告、ですか」


「やれやれだよ」と言わんばかりの顔をする男の顔を見て少し力を抜く。

 波伊庭家が対異界隊に牙を向く、宣戦布告をしに来た訳では無さそうだ。

 最も、波伊庭家の中には今すぐにでもそうしたいと思っている輩もいるだろう。


「うんそうだよ報告報告ーーーー前当主が死んだってね」

「っ!?」


 目の前の男のヘラヘラとしたニヤケ顔が、不気味な笑みへと変わり、異様な威圧感が体をつきぬけた。

 言葉に反応した体が、咄嗟に背中の槍型武器へと手を伸ばし、腰を深く降ろして戦闘態勢を取っていた。


「もーっ! そんなに警戒しないでよ〜」

「あ、あなたが現当主なのですか?」

「あー、うん。そりゃ僕になるでしょ」


 波伊庭家の当主の交代は数年前から囁かれていたことではあった。

 元は代々対異界隊に仕えていた波伊庭家だが、例の異端児、波伊庭審が死んだことで関係は悪化、今後どうなっていくかは目の前の男次第だと言われていた。


 実力は前当主を優に超え、弟であった波伊庭審と同格の天才と言われている。

 しかし男の性格上、前線で実力を見せることが少なく、未知数の部分が多い。


「前当主殿の死因はなんだったのでしょう?」

「病死とも言えるし、他殺とも言えるし、自殺とも言えるね。自業自得さ」


 どうやら私に今教える気は無いらしい。総督からの正式な発表を待つしかないだろう。


「鍵宮殿にとってもこれは悪いことじゃないと思うよ? こびり付いたカビがようやく剥がれ落ちたんだから」

「……何が言いたいのかは分かりませんが、何かあれば協力はしましょう」

「うんうん、頼りにしているよ」


 手をヒラヒラと振って総督室へと歩いていった。


「ふぅ」


 ようやく緊張感から解放され強ばった肩の力を抜く。


『こびり付いたカビがようやく剥がれ落ちた』という言葉が頭の中に染み付いた。


「こっちのカビはまだまだ落ちそうにないですからね」


 あの男が殺したのか、勝手に死んでいったのかは知るところではない。

 それでも、前当主の死にあの男が関わっていることだけは確実だ。


 波伊庭傑は……クーデターを起こす気だ。


 対異界隊にではなくーーーーダリアに。


「機が来る前に、私も力をつけなければ」


 一人の隊士として上り詰められるのは恐らくここまで。これ以上は自身の実力を上げ、功績を元に人望を高めていくしかない。


「呪羽家の生き残りも、まだ生きているのでしょうか」


 あの戦争で自分よりも師匠に近い戦場で戦い、爪痕を残して消えていった少年のことを思い出す。


 師匠の最期を看取った後、突如特級隊士へと襲いかかり異形の力を使い殺害。

 怒号を上げ、修羅を彷彿とさせる赤い瞳を上級の隊士へと向けて、戦場を駆け回っていた。


 結局、特級隊士の複数殺害と異形の逃走支援の罪状と見つけ次第その場で死刑という重荷を負って逃亡した。


 今ならば、彼が何に怒りを顕にし、何のために戦っていたかが理解できる。

 今すぐにでも私も同じことをしたい気持ちではあるが、特級を同時に相手取り、その上総督を討つのは不可能だ。


 謎の組織、ダリアがどこまで根を伸ばしているかが分からない以上、明確な機が来るまで手出しはできない。


 その機が来た時、筆頭に立つのは兄弟子の呪羽凱なのか、それとも波伊庭傑なのかは分からない。


「もし生きているならば、どこまで強くなっているのか楽しみです」



「生きてるよ、弱いけどな」



 〇



 全校生徒を調べ終えてから三日が経ったが召喚者は見つからなかった。

 本格的に、事前に阻止することができなかった時のことを考えるべきを考えるべきだと思い、【呪羽】の奪取から始めることにした。

 理由としては確実に戦力アップできることだ。対異界隊の本部が近いことも理由だ。


 この地域に配属されている中に上級の隊士はいない。上級の隊士がいたら俺はこの地域にいない。

 その理由は本部が近いからだ。

 上級の隊士はいわくつきの場所などに配属され、本部にいることは少ない。また、異形は本部があるような場所に現れない。

 灯台下暗しというわけですよ。


「本部も基本的に対異形用の対策しかしてないし、忍び込むのはたいして難しくないだろ」


 本部の構造も把握してる。たぶん、たぶん、たぶん、問題はない。


 こうして甘い気持ちで俺は奪取作戦を決行した。


「どっかの研究所にしか見えないよな」


 量子加速物理研究所と書いた看板に、白いコンクリートで無理固められた建物は異物感はなく、この世界の一部となって溶け込んでいた。

 正門から堂々と入る。


 隊士用の通用門はここじゃないがそっちを通るとばれる。


「ふっはっは! 俺は世紀の天才科学者のろ、いや今日の俺は灰羽凱だ!!」


 白衣をバサッとなんかやって堂々と正門から入った。

 表は研究所として活動している。設備に似合わぬ貧相な活動しかしていないが、研究者が訪れてくることもある。

 だから俺は白い白衣を着て、研究者に扮装している。


 「おい、そこのお前! どこの研究所のものだ?」


 ドコノケンキュウジョノモノ???


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