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イセリー ルート


イセリーの部屋に戻ることにした。別に私が行く必要はないだろうし、エルゼルには崖を見るように頼んでおこう。

彼が去り、イセリーと二人になったが、なんだか後ろから視線を感じ、後ろをみる。

イセリーがこちらをいつもより目を細目ながら見ているのだ。

どうしてこんなに機嫌がが悪いのかしら。なんだか気まずいわね。


そういえば侍女になったばかりのとき、イセリーは私を冷ややかな眼差しでで見ていたのを思い出した。

――――――――


(はあ……なんでこの私が人間につかえないといけないのかしら!!)


女神からそのまま人間となったとき、腹も立ちつつ人に溶け込みながら生きていた私。

人間の換算では6才くらいだったろうか、王女の話相手として城にやってきた。

アスライラとイセリー、どちらの相手もしたような気もする。

アスライラは私からみてアウトで、アウトドア派だった。

イセリーはあの頃から変わらずインドアである。


いつだったろうか、この世界の立場で自分から王女に話しかけるのはだめだとなんとなく察した私は黙っていたわけだがしかし。

イセリーは無言でじっとガンを飛ばしてくるので、さすがに無視できなかった。


『あの……?』


私がぽかりとしていると―――


『どっちの侍女になるの?』

『もちろんイセリー様です』


アスライラよりマシだったし。なんて余計なことは黙っておいたが、少しだけ機嫌良さそうにしたのは面白かった。


イセリーは無造作に積み上がった書物、古い時代の紙<スクロール>のコピーを取り込んだタブレッティオを指でスクロールしている。


なんだか私といるときには投げやりというか、何処と無くくたびれている。


というかいつになく熱心に調べものをしているが、いったいどうしたのだろうか。


プルテノについての文献のようだ。


「どうしてこんなにプルテノについて調べていらっしゃるんです?」


たずねるとイセリーは半屍のようになっている。


「明日の外交では惑星プルテノから王族が来るらしい」

「プルテノですか」


「おそらく第二王女アディーラか、第二王子のベルディスが来ると思う」


プルテノが一度滅びたとき、王族が散り散りになり次代女王ディアーナはテラネスに不時着し、ベルディスは記憶喪失になりタイムスリップして海賊をやっていたらしい。


王女達の叔父にあたるディストアは行方不明で、伝説上の死国にいるとか、第二王女は記憶喪失になりテラネスで保護されたのちに魔法学園にいったり、第一王子は宇宙テロレストになっているとか中々に濃いわ。


つまり外交の為にプルテノの事を学んでいたわけね。

アスライラは文献とか読まないだろうから、イセリーの株もあがるわね。


あわよくばプルテノの王子をロウラクし、女王に君臨する確率をもっと上げれば――――


それにしてもイセリーの周りには男の影がない。できればそこだけはアスライラを見習ってもらいたい。


でもどうせ星はいつか滅ぼすのだし、先のことを考える必要はないわね。




――当日になり私は外交するイセリーを天井裏から眺める。

天井裏にいろとは言われていないが、事前に外交を見て賓客の姿を監視しろ。と言われたのだから、立ち入りが許されない私がこっそり外交の様子を観察、それって天井裏にいるしかないんだからやっぱり遠回しに天井裏にスタンバイしていろ。って意味じゃない?


―――プルテノから第二王子のベルディスとその従者が来た。

事前の調べでは第一王女ディアーナと第一王子アディールは伴侶のいるテラネスにいったからアディーラかベルディスが来るはずだとイセリーが言っていた。

ちなみにプルテノの時期後継者は第二王子ベルディスとアディール王子の双子の妹で第二王女のアディーラかでモメているらしいが―――


「ここからみえますは、我がカレプレン自慢の海です」


イセリーが国の案内を始めた。

たしかベルディスは海賊船長をやっていたらしいから、海を見せるのはピッタリだと思う。


「……とても良い眺めですね妻にも見せてやりたかったのですが、あいにく前日に体調を崩してしまいまして」



妻がいたなんて彼女は言っていなかったけど、調べてあるはずよね。プルテノの王子は狙っていないということかしら。


なんて考えながら、私はベルディス王子よりその隣にいる従者の男に意識を奪われる。物静かな雰囲気にそこはかとない闇を感じて、なんとなく雰囲気が好みだわ。


なんてぼんやりしていると、視線を感じる。

イセリーがこちらをキッと見ているのに気がついた。


私が天井裏にいることに気がつかれたのはまあいい。

一応は侍女なのだから、いつでも見張ってないとだ。

ここにいることが気に入らないのかしら。

ああ……もしかしたら彼を狙っている?

―――まさかそんなわけないわ。

よほど目がいいとかでないと、こんなに離れたところから、私が彼に軽く興味を持った様子や、視線に気がつくはずがないのだから。


本を読みまくりで頭がよくても、知識だけでは役に立たない。

本から得たデータをどう扱うか、プレゼン力が要る。


イセリーの手持ちカードは、いまのところ海しかないわね。

おまけにコミュ力マイナス53万の彼女、このピンチにどう出るのかしら。


何かアドバイスジェスチャーしようにも遠くからでは見えない。

応援するしかできないけど、まあ頑張れ。


―――そういえばベルディス王子は海賊をやっていたという話だけど。

見つけたお宝とか、人魚を捕まえたとかそんなエピソードないのかしらね。

まあ本当に海賊やっていたとは限らない。ただの噂かもしれないわ。


「ベルディス王子は海の旅をなさっていたという伝説がおありですね」

「そうですか伝説というほどではないですが、お恥ずかしながら記憶を無くし海賊なるものをやっていたのに間違いはありません」


「まあ……」

「海賊の船長になり、あるとき人魚が浜辺にうちあがっていたんです」


まさかその人魚がマーメイドプリンセスで、いまの奥さんとか言わないわよね。


「人魚はただのマーメイドでプリンスではなかったんですが」

「はあ」


―――人魚は男なのね。


「彼とは妻をとりあった事もありますが、今では気のいい友人です」


やっぱりプルテノ星の王族濃いわ。


「……


―――いきなり声が聴こえなくなった。

どうやら魔電池が切れたよう。

私は屋根裏から移動し、電池を交換にいく。


廊下を歩いていると、なんだか視線を感じた。


「すみません」


私は後ろから声をかけられ、なんだろうと思い振り向く。


「なにか?」


それはベルディス王子の従者で、一輪の銀の薔薇を手に持っていた。


「……貴女を一目見たときから、美しい方がいると。思わず心をさらわれました」


「まあ……」


彼は薔薇を差し出し、私がそれを受け取ると去っていった。


名前、聞いていなかったわ。


「……なっ!?」


背後から誰かに口をふさがれ、城内の隅にある壁際に連れてこられた。



「誰!? なにするのよ!」

「私よ」


どこの人拐いかと思えば、イセリーだった。


「貴女がいつまでも戻ってこないから、迎えにきてあげたのよ」


だけど―――今、すこしだけ違和感があったような。


「すみません」

「心配になるから、わたくしの傍をはなれないでちょうだい」


いつになくベタベタ甘えている。一言で言えば、きもちわるっ。

一体どうしたのかしら、なんだかやはりなにかが変だ。ちょっとカマをかけてやろう。


「……先程アスライラ様が通りかかられて、イセリー様の陰口をいっていました。ぶりっ子女とか」

「なにそれ、失礼しちゃうわね~」


―――やっぱりこいつ、イセリーじゃないわ。

私といるときはこんな口調をしないし、他人がいるときはもっとフワフワとした話し方をしている。

どちらかと言えばこれはアスライラのような喋り方だ。


「お前、誰よ」


私は距離をとって目の前の人間へ問いかける。


「……」


すると目の前の人間は指を鳴らし、周りから煙のようなものが立ち込めた。煙が晴れるとそこには黒髪の眼鏡をかけた地味な男がいた。姿を真似るのをやめたのか。


「よくぞ見抜いたものだな」

「当然ね、私が何年彼女の侍女をやっていると思っているのよ」


「たいして好意的ではないと、想定していたが驚いた」

「あながち間違ってはいないけれど」


べつに好意的ではないわけだし。


「イセリーはいきなり私に心配したとかいうタイプじゃないわ。というか演技下手すぎ、女同士なのにイセリーが私を好きみたいな発言は冗談でも止めてもらえる?」

「殆ど見抜いたようだが、お前の言葉はひとつだけ間違っているな」

「なにがよ?」

「さて、それは自分で知れ」


といって眼鏡の男は姿を消してしまう。あの男を捕まえるのは骨が折れそうだ。

しかたがない。電池を補充しすぐに定位置へ戻ることにしよう。


私が戻ると、既に二人はいなくなっていた。

使用人が食器を片付けている。


「ふーなんとか終わったわね~」


使用人達も気を抜いていることから、外交は長引かず終わったようだ。

特に政敵から妨害もされていないようでひと安心する。

私は本来の定位置である部屋へ戻ることにした。


宰相室と大臣室の近くを通った。以前抱いた疑問を思い起こせば、大臣を取りまとめるのが宰相で、それは王の次に偉い。


大臣は何人かいるものなのだから同時にいるというのは別におかしくないし、少なくとも宰相と大臣は合わせて二人以上ということになって、学園の役職とは大分違うわよね。


でも彼等にはここ10数年一度もかすり程度も会ったことがない。

ほんとうにいるのかしら――――ああ、でもこの国の偉い役職につけるといえば女しかいない。

私は男が宰相や大臣だと思っていたから気がつかなかっただけで会ってはいたのかもしれないわ。



「……失礼します」

「どうぞ~」


彼女がフワフワしているということは、部屋にはエルゼル以外の誰かがいるということだ。


「あら、貴女が……はじめましてよね。私はシェアトナ。宰相をやっているわ」

「……ハキサレーラ=ザーマーアでございます。挨拶が遅れましたこと、その他ご無礼をお許しください」


「あら、気にしなくていいのよ」


――驚いたわ考えていたらいきなり宰相本人ががいるんだもの。


「では私はこれで……」


宰相シェアトナが部屋を出て、はりつめていた空気が溶け、イセリーが一息ついた。


とりあえず宰相はやはり会ったことがないようだ。他の大臣はあまり興味がないが宰相だけは絶対敵にしたくない。


「私お邪魔をしたようですね」

「……いいや。君がこなかったら奴は絶対居座る気だったに違いないし、無駄話しかしてこないから、むしろもっと早く来てくれたらよかったくらい」


この口ぶりから察するに、宰相とは長いつき合いのよう。

だが私は幼いころから侍女をしている。なのに今まで一度も会ったことがないなんて、どう考えても変だ。


◆宰相との関係をたずねようかしら?


→【聞く】

【興味ない】


「宰相とは旧知でいらっしゃるんですか?」

「そうだけど……知らなかった?ああ……あいつは9割り方、王座の間か部屋に引きこもってるヤバい奴だから、それは無理もないか」


どうヤバいのかは聞かないほうがいいわね。


ともかくあの宰相はアスライラとはまた違う意味で苦手なタイプ。


「……そういえば宰相が明日は王族限定の重要なイベントがある。と言っていたんだけど、君は何かそこらの人間から聞いていない?」


は?王族限定の重要なイベント?なにそれ。


「いいえ、特に何も」

「まあ、それは当日でいいか」


といって読みかけの本から栞を抜き、ページをめくりはじめた。


「この後私は何をしたらよろしいのでしょう?」

「……いつもの通り適当に座っていて」


―――いつもの通りってまるで私がいつも適当と言いたいのかしら。

動かないんじゃなくてアナタが部屋で本ばかり読んでいるから何もできないだけなんだからね!


「……なにそれツンデレのつもり?」

「ぎくっ!!?」


――ああ、いきなり声をかけられて驚いた。

別にこっちを見て言ったわけじゃないし読んでいる本の内容がたまたま私の心の声とリンクしたのね。


◆なんだかお菓子が食べたい気分だわ。


【メイドに持ってこさせる】

→【取りにいく】


メイドはここに呼んでもいいが、メイドが来たら彼女が本を読むのに邪魔になるだろう。


「私お茶を用意するようメイドに言ってきます」


まあお茶というよりお菓子を食べたいからだけど。


「あら?」


――部屋を出ると嫌な奴を発見した。


「……」

「貴女、私のところに来ないの?」


アスライラがニヤニヤして私を小馬鹿にしている。


「ええせっかくのお誘い、申し訳ありませんが……」

「ああ、やっぱり嫌いな奴とは顔も合わせたくないわよね」


その通りよ、よくわかっているじゃない。とは言えないので穏便にすませよう。


「いいえ、私にはもう主がいますから」

「……ふーん。アイツのどこがいいの?」


引き下がると思ったらやけにつっかかってくるわねこいつ。

どこがいいって、誰だろうとアンタよりマシってくらいしか理由は浮かばないわ。


◆イセリーの好きなところってなによ


→【見た目】

【知性が】


知性なんて言ったら、こいつバカにしているのかとキレられるだろう。


「彼女の綺麗に波打つ髪は可憐です」

「え……貴女そういう趣味でもあるの?」


いつも微動だにしないアスライラがドン引きしている。ある意味勝ったと言えるのに負けたきがするわ。


「もちろんアスライラ王女のサラサラの髪も憧れますが……」


ほんとこいつサラサラストレートで髪綺麗でムカつくわ!!


「ねえ給料、アイツの倍あげるから―――」

「なにをなさっているの姉上?」


アスライラが何かを言おうとしたタイミングで、イセリーが部屋から出てきた。


「あら万年引きこもりのお前が部屋を出るなんて珍しいわね」

「ご冗談を、私だってたまには出ます。ハキサレーラをいじめるのはやめていただけますか?」


「いじめるなんて人聞きの悪い。むしろ可愛がってあげに来たんじゃない」

「ハキサレーラ、お菓子はまだ?」

「はい、ただいま!」


―――なんとか異動できた。


「せっかくいいところだったのに邪魔するなんて……」

「邪魔なんてしていませんけど」


「お前、あのまま押していれば奪える筈だったのにわざと妨害したな」

「実力……というより彼女が長年近くにいた結果ですよ」


「愛に時間は関係ないと言うし、仲の悪い男をなんだかんだで好きになるのが世の常、王道よ」

「……は?姉上のどこが王道?色物の間違いじゃないですか」

「そんなこと言ったらお前も当て馬の幼馴染タイプでしょ」


お菓子とお茶を持って戻ってきたら二人はまだ言い争いをしていた。

お菓子をとられないようにさっさと部屋に入る。

長くなりそうだし、こっそり一つつまみ食いしておこう。


なんだかんだで決着がつかなかったのか、アスライラが部屋に来て、三人でお茶会をすることになった。


――――なんなのよ最悪だわ。


「楽しそうですね、私も参加させて頂いてよろしいですか?」


泣きっ面に蜂蜜ならどれだけマシだっただろう。アスライラのみならまだしも、苦手な人が追加というダブルパンチを食らってしまった。


「私用事を思い出したわ、では宰相殿、これにて私は失礼します~」


しかしアスライラは宰相が怖いのか逃げる。


「あら王女様、私などに遠慮なさらなくもていいのに……」


相殺者のおかげで嫌な奴が1人減ってよかったが、彼女も早く帰ってくれないものだろうか。

嫌がらせをされたわけではないが、やはり腹の探れない何考えているかわからない人間は苦手である。


◆宰相がこちらをみている


→【愛想笑いしてお菓子をすすめつつ宰相に媚をうる】

【目をそらす】


「今日のお菓子はいつもより美味しいです。きっとシェアトナ宰相がいらっしゃるからでしょうね」

「あら、そんなことはないわ。おだてても何も出ないわよ」


芝居を見抜いたようにお決まりの台詞を微笑で返し、宰相は立ち上がる。

部屋を出ようとして扉を開く前に止まり、こちらを振り返った。


「そうそう、明日は王族の伝統儀式の日です」

「伝統儀式?」

「詳しくは当日お話いたします」


なんなのか気になるが、ようやく静かになったのでお菓子を食べる。


「なにそのチョコ、薔薇の形なら珍しくないけど、百合は滅多にみないよね?」


彼女は私が食べたチョコをめずらしがってたずねた。


「これは中にリキュールが入っているみたいです」

「へえ、チョコはあまり好きじゃないからヴォンヴォン食べたことないけど、酔わないの?」


そういえば私は兄や弟に比べるとそこそこ酒に強い。

ヴォッカでもそうそう酔わないし、女神だったときも酒は飲んでいた。

だが魂は同じでも今と肉体は違うのだし、たまたまで関係ないだろう。


「一般的にお菓子に入っている程度では酔わないと思いますよ」


ヴァウンドケーキでもよく使われている気がするけど子供でも普通に食べて問題ないようだし。

あれは熱してあるからアルコウルが飛んでいるからという事かしら。

でもチョコに入れるお酒は規制されていないのだから任意よね。


「まあお菓子に入ってても酔わないね」

「王女はお酒を飲まれますか?」


アスライラは酒をガブ飲みしても死なないだろうが堅実そうな彼女はあまり酒を飲まなそうだ。


「大体飲まないね。ヴドゥ酒はヴドゥからして酸っぱいから大嫌いだし、麦酒は臭い。まあ、ヴィスキーとかなら格好いいかな」


それはわかるが想像と実際の味はちがう。

私はヤオヨルズの辛酒を美味しそうだと思って飲んでみたら甘くなくて全然飲めなかったことを思いだした。


私の神時代の幼馴染であるカマルナクスがヤオヨルズとゴルダーンの混類神でヤオヨルズの甘酒をもらったこともあるが、あれは甘い米の酒だった。


ゴルダーンでは大酒飲みのオッサン神がよく酒を飲み散らかして川に落ちてナィルまでいったりグァンズィス川に流されてガンガガガーン神に拾われたり。


「ぼーっとしてなに考えてるの?」

「いえ、とりあえずカクティルはとっても美味しいですよ」


酒に酔わないからといって不味いものを飲みたくないし、やはりジュースが一番だろう。


なんてくだらない会話をしていたら、あっというまに夕日が出て、帰る時間となった。


「今日はもう帰るだろうから、明日一緒にカクティルを飲まない?」

「……明日は大切な儀式があるのでは?」


「ああ、儀式の内容にもよるけど……儀式の後に禁酒等の誓約がなかったら」

「私は問題ありませんが」


ある意味で知的好奇心の強い人なのはいつもと変わらないが、身というより政治的に危険が無い事限定で思い立ったら即行動するタイプらしい。

こういうところは幼い頃に、私と彼女とアスライラの三人で仲良く無邪気に遊んでいたときを思い出す。


『……できた!!』

『私も!!』

『……なんかぐちゃぐちゃして汚い』


三人で花の冠を作っていると、私やアスライラが綺麗なそれを仕上げたが、一人だけうまくいかなかったイセリーはむくれていた。


『これあげます』


と言って私は頭に花冠をのせる。


『……いらない』

『いらないなら私が貰うわ』

『やっぱだめ!』


――――あいつらも昔はいい子だったわね。


「お帰りハキサレーラ」


朝昼シフトのマレクロンが私を出迎えた。


「ただいまお兄様、リグナントはまだみたいね?」

「勤務時間はハキサレーラとそう変わらないだろうし、寄り道でもしなければすぐ帰って来るさ」


外出するとすぐに家に帰りたがるリグナントに限って寄り道はないだろう。

特に本も読まないタイプだろうし、あるとすれば買い食いだろうか?


「ただいま」

「おかえり」

「一緒に帰ろうと思っていたのに、私より帰りが遅いのね?」


まあ一緒に帰る気などはじめからないのだが。


「すぐ後ろの馬車にいたけど、声をかけようとして第2王女を訪ねたらたらもう帰ってていなかったし」


リグナントのほうは一緒に帰る気があったようだ。


◆なんだか気になる。


→【王女とどんな会話したのよ】

【リグナントはなぜ私と帰りたかったのか】


彼女とどんな会話したのか気になる。


「王女、何か私のこと言っていなかった?」

「特になにも。姉はいらっしゃいますか?って聞いただけだし、ほぼ初対面だからさっさと移動した」


まあ相手は王女だからいくら礼儀知らずのリグナントでも、ちゃんとしないといけないことはわかっているわよね。


「二人とも、そろそろ夕食ができる時間だよ」

「あら本当だわ」


時計はちょうど6時を差していた。私たちは椅子に座り、料理が運ばれてくるのを待つ。


「それにしても、姉さんはどうして第2王女の侍女をやっているの?」

「ああ、それは僕も気になっていたよ。なぜ長女のでなく、次女の侍女なんだい?」


マレクロンはわざとボケたのか、はたまた素なのかわからない。


「……さあ?私が決めたわけじゃあないもの、わからないわ」

「でも侍従を選ぶのは王女側だし、家の身分からして姉さんがアスライラ王女の侍女をやるのが常じゃない?」

「ああ、アスライラ王女の侍女はたしか侯爵家の人らしいね」


あの眼鏡女は侯爵家の人間なのか、知らなかったわ。


「まあそんな話どうでもいいか」


たしかに知らなくても知ってても困らないくらいにどうでもいい話。


―――夕食をすませ、部屋に戻ると窓棚に花が置かれていた。

使用人のだれかが部屋に入ったなら報告がある筈だ。

物取りなら窓ガラスが割れて瓶を倒されていてもおかしくはない。


近づいてその花をよく見ると、ゴルダーンにしか咲いていない神花だった。

それはつまり、地上に神が降りて来ているということになるのだろうか。


「ごきげんよう」

「ごきげんようハキサレーラ様」


門を抜け城に入り、すれ違う貴族の女達と軽い挨拶をしながら部屋へ向かう。


今日は儀式があるとか言っていたが、きっと神官たちと離れの神殿にでもいるはずだ。

なら私が部屋にいっても居ないだろうし、今日は帰ったほうがいいのだろうか?


→【帰らない】

【帰る】


いや、確認も無しに職務放棄はよくないわ。試しにこれからどうしていればいいかをたずねに行くことにしよう。


私は扉をノックしたが、返事がない。よし、いないなら帰ろう―――?

すばやく扉が開き、私はわけもわからないまま連れ込まれた。


「……なっなによこれは!?」


目隠しをされて、誰がやったのかもわからない。

一瞬で私はふかふかのクッションのある場に座っていた。

ひとまず意識が途切れたわけではないので、ここはイセリーの部屋なのだろう。


「静かにね」


そう言われ、指を唇に当てられる。


「お前、人拐いね!?」


もしかしてイセリーも拐われてしまったのだろうか。


「いまからここに王女様が来るから、大人しくいい子で待ってるんだよ?」


そう言われてすぐに、扉を開閉する音がする。

男は部屋を出たようだが、城内で犯行に及ぶとは随分と肝の座っている罪人。


◆奴の目的はなんなのだろう。


【もしかして儀式ってこれ?】

→【興味ない】


◆逃げようかしら。


→【逃げない】

【逃げる】


手足は自由なので逃げようとは思ったが、下手な抵抗をして彼女を傷つけられたら―――


◆イセリーが傷ついたら?


【私の立場が危うい】

→【心配】


誰かがすぐに部屋に入ってきた。


「ハキサレーラ」


この声は王女だ。彼女は後ろから目隠しを外す。


「王女これはいったいどういうことですか?」


◆色々聞きたいことがある。


→【とにかく無事でよかった】

【説明を求める】


「怪我はないんですか?」

「え?」


心配したら意外そうな顔をされた。


「あの、さっきの男は別に人拐いとかじゃなく儀式を執り行う為の人間なんだけど」

「そうだったんですか?」


私ったら人拐いとか騒いで……最悪だわ恥ずかしさで昇天するわ。


「でも……心配してくれてありがとう」

「あの、ところで何故私がここに?」


ここはイセリーの部屋の彼女が眠るときに使うベッドではないだろうか。


「16になったら年に一回添い寝イベントをやらないといけないとか決まりがあるって……」

「そうなんですか、じゃあ私はお邪魔ですよね」

「一時間で終わるから添い寝してくれない?」

「ええ!?なんで私と添い寝なんですか?」


そんなふざけたイベントに付き合っている暇はない。

いや暇ではあるがいい年した大人が添い寝とか、誰も見ていなくてもなんだか嫌。

――――まあ、アスライラよりマシか。


「添い寝役の人数も性別も誓約はないって宰相が言っていた」

「わかりました私に拒否権はないですから」


落ち着くのよ私、相手は人間の小娘なのだから。優しく広い心で、そうまるで大地の母神のように迷える人間を眠りに誘うべく絵本でも読んであげよう。


イセリーは反対側を向いてこちらを振りかえらない。

別に異性と添い寝しているわけじゃないんだから、こんなに気を使わなくても普通のパジャマパーティーのように恋バナでもすればいいのに。


◆この際本気で眠ろうかしら


【寝る】

→【寝ない】


一度寝ると後が辛いので起きていることにした。


「お酒をお持ちしました」


なんで頼んでいないのに持ってきたのかしら。

ボトルをテーブルの上にのせ、使用人は去っていく。


「昨日から飲む予定だったし、ちょうどいいから飲まない?」


◆さて、この酒を飲むべきかやめるべきか。


→【飲む】

【飲まない】


「そうですね」


でも毒とかが入っていたらどうしよう。

あたりを見渡すと窓の外に生きたネズミのような生き物がいたので、酒をかけてみた。

すぐに死なないのできっと問題ないだろう。


「毒がないならオススメのを持ってきて」

「はい」


◆でも後から来る毒もあるし油断はできない。


→【飲ませる】

【飲ませない】


そんなことをいちいち気にしてたら何も口にできないわ。

まず私が自分のグラスの酒を飲み、味に問題ないことを確かめる。


「どうぞ」


別のグラスを彼女へ手渡す。それを飲みながら、すぐに眠くなったのか寝息を立てる。

つまらないので私は飲み干してから隣で眠りについた。


――――なんだか息苦しい。私にまとわりついてくるうっとうしい誰か。

なんだかちょっと彼女にしてはごついような気がする。


「……!?」


隣で寝ているのは誰だろう。癖のある長い金髪、まるで天使のような寝顔の美男。

悲鳴をあげそうになるがなんとか堪える。

私は男を引き剥がし、寝台から出た。


「……おはよ」


シャツのボタンを乱雑にとめた青年は気だるげに起き上がり、目を擦る。


「王女はいったいどこに!?」

「イセリー王女なら僕が来たときにはいなかったよ」


彼女どこにいったのかしら、というかなぜこの男はここにいるのよ。


「貴方誰、何者!?」

「僕はイスルフィル、第2王子だよ」

「王子!?」


―――ウソルが第3王子なら第2がいてもおかしくないわね。

それにこいつはイセリーに似ている。


「ちなみにアイツとは双子なんだ」

「たしかに似ていらっしゃいます」


「儀式の終了をお知らせに参りました」


宰相が一人で部屋に来た。


「あの……」

「あら、お久しぶりですね王子」


宰相はいるはずのない彼がここにいた事にまったく動じない。


「ねえ麗しい人。これからは僕のことをイスルと呼んで?」


【イスルフィルの手をとらない】

→【イスルの手をとる】


「ではイスル王子とお呼びします」

「連れないな……」


王女は外にいったと宰相がいうので私は部屋を出て、イセリーを探しにいく。

彼女が外出するとしたら、人があまり入らない花畑に繋がる裏の庭園だろう。

そう思いながら、私は薔薇のアーチをくぐりながら歩く。


「ハキサレーラ!」


後ろから聞き覚えのある声がして、私は振り向く。


「……コンハー!?」


こいつとはアスライラの下僕になって婚約破棄から一度も会っていなかった気がする。

なぜ今こんなところにいるのだろう。

よりによって彼女を探さなくてはいけないこの忙しいときに。


「君と話がしたくて、追いかけてきたんだ」


コンハーはゆっくり歩いて私に近づく。こういう場面ではもっと必死にかけよるべきじゃないだろうか。

ほんと女心がわかっていないわこの男。


「……私いま忙しいのよ、後にして」


本当なら話も聞かずに突っぱねてボコボコにしてやりたいところだけど、無駄ないいわけくらいは聞いてやる。

人がいないとはいえ騒ぎが起きたら困るから我慢しよう。


「なら話を聞いてくれるまで君を追いかける」

「話ってなに?」


私はコンハーが去るまで花園へ向かいたくない。曲なりにも思い出の場所だからだ。

もうしかたないから言わせて適当に流そう。


「王女に権力で釣られたのは本当だ!でも長子のみ妻となる女性に家督を譲る。という決まりがあって僕はそれを最近まで知らなくて、君との婚約を一方的に解消してしまったんだ!!」

「……そんな理由が?」


いや、家の義務と権力の板挟み、そんなダブルの理由あったと知ってもだからどうしろと言うのだ。

どのみちあの日の婚約破棄がなくても、私達は結婚できなかった立場なんじゃない。


「だから君の夫には僕の弟のサーヴァーをどうだろう?」


こいつ、どれだけ浅ましくて分厚い面の皮をしているのかしら。

怒や悲しみを通り越してあきれてしまうわ。


「お断りよ!なんなの、そのとってつけたような扱いは!」


私にも、弟には会ったことないがその彼にも失礼だ。


「僕の家は君の家と同等たる公爵家なのだし、断る理由はないと思うよ?」


私の本来の目的を見失うところだった。女神に戻り、この男を星ごと滅ぼすのだと。


「もうお前なんて見たくないわ、消えて―――それと、お前の弟と結婚もしないわ!」

「そんな……せっかくの機会なのに、君の家と繋がりが完全に絶たれたら困るよ」


コンハーは短刀を抜き、こちらへ向けてきた。


私の得意な武器は弓、この至近距離では使えない。

―――――どうしたらいいのだろう。


「……」


コンハーが私の首に刃物を当てようとしたとき、青年が奴の後ろから頭を本の角で殴り付けた。


「お前、なにやってるの?」


彼は地に伏せたコンハーを冷酷な瞳で見下ろす。


「イスル……」


イスルフィルが私の元へ駆け寄った。


「怪我してない?」

「ええ、貴方のおかげで助かったわ」


「……誰だ君は!?部外者は邪魔をしないでくれ!」


起き上がったコンハーは殴られたことより、目的の中断に腹をたてている。


「は?お前が目障りだ失せろ屑」


イスルフィルは出会ったときの雰囲気から一変、奴を口汚く罵る。裏表があるのは、やはりイセリーの兄妹といったところだろう。


「……くそっ!」


コンハーは短刀を拾おうとするが、見当たらずに腹を立てる。


「お前の武器ってこれ?」


むき出しの短刀をちらつかせるとコンハーは驚く。

あいつは気絶していたからともかく私も気がつかなかったわ、いつのまに拾ったのだろう。


「お前の家はどうでもいいけど、彼女の意思を無視して、そんなに人として成り下がるまで大事?」

「もちろん家を守るのが大事だ。貴族なんだから当たり前だろう」


コンハーは私の意思はどうでもよく自分の家を強めることしか考えていない。



“こいつのような不穏分子は潰すべきだ”


―――なにかしら今の声。まあそれはいまはどうでもいいわね。


「お前、公爵家ならガツガツする必要ないじゃないか、なにそんなに必死になってるんだよ。

この国の王でも目指してる?」


イスルフィルが煽る。


「黙れ!!」


コンハーが素手で殴りかかろうとしたのを彼は避けた。

そして後ろにまわると、背を蹴り、二度コンハーを地面に倒す。


「お前、もうどうしようもないね。原型がわからなくなるまで顔を痛め付けたら、他力本願で家を守るとかのしあがるとか馬鹿な事を考えられなくなるかな?」


◆イスルフィルが今からやることを


→【止める】

【止めない】


「待って、いくらなんでも……」

「この男は君に害を及ぼそうとした。なのに……なんでとめるの?」


彼が奴を殺したら、よく似た顔のイセリー印象が悪くなる。

それに、彼の手を汚させたくないと思った。


「貴方の手を汚す必要はありません」

「そうか、こんなときまで人の心配をしてくれるなんて君は女神様のように優しいね」


さっきまで無機質だったイスルフィルは、天使のような無邪気な笑顔を浮かべる。


さて、このGUESS野郎をどうするべきか――――そうだわ、こんなときこそ彼の出番ね。


「エルゼル!」

「お呼びですか?」

「この男を連行して」

「了解しました」


エルゼルはコンハーを羽交い締めにし、立ち去らせる。


「どこにいくの?」


イスルフィルが花畑へ向かおうとする私にたずねる。


「ちょっとそこまで、王女を探しに……」

「……そうなんだ。まだ気がつかないんだね」

「え?」


何が言いたいのかしらこの男。


「どうして起きたら君の隣に僕がいたと思う?」

「……私をからかうため?」

「君が部屋を出て、王女を探しに行く場所がここだとわかったのはなんでだと思う?」


―――まさか。


「貴方、私のストーカー!?」

「違うよ。しかたないからヒントをあげる。あいつの双子なんて嘘。最初からこの国に二番目に生まれた人間は僕一人しかいない」


二番目に生まれたのがイセリーだから、それはつまりイスルフィルは偽物ということ?

偽物が現れたのはこれがはじめてではないし、もっと警戒すべきだったかしら。

でも僕が二番目といっているということはイセリーが偽物?


「……薔薇も百合も見た目は違うけど、カテゴリーは花だよね」


『薔薇の形のチョコはあったけど百合の形は……』



丁度昨日そんな会話をした。


「―――貴方はイセリー王女?」

「うん、やっとわかったんだ」

「……なぜそんな格好を!?」

「もう自分を偽るのが嫌になった」


イスルフィルは私の手をとり、隠し通路から部屋へ入る。



「……王子に生まれた僕はずっと女装して、王女のフリをして来た」

「はい」

「王家の決まりで上から二番目までは王女でないとダメというのがあったけど、まあ男に生まれたから仕方なくね。命かかってたし」

「なぜ男ばかり生まれたとかそういうのは後で話す」

「…はあ」


「この王家には僕もいれて五人子供がいて、男ばかり生まれたから」

「……全員、それって?」

「アスライラも男だよ」

「ええええええ!!?」


「アスライラ、僕、ウソルの他が異星に留学している四男、そいつは異国の男装王女と結婚したらしい。

あとは問題を起こして死神界の監獄に投獄された六男がいて、そいつは監守の死神といい感じらしいよ。

生まれたときに行方知れずになった五男はまったくわからないけど」

「……はあ」


この星はやはり面子が濃い。ただでさえ個性のある王族がゴロゴロしているのに。


「あの、なぜ男に戻られたんです?」

「君が好きだから」

「は?」


好きと言われて悪い気はしないが、いきなりなにを言い出すんだろう。


「それとも君は王女がいいの?」


【百合の姫君がいい】

→【薔薇の貴公子がいい】


「……王子様のほうが好きです」

「なら王位はあいつに譲ろうかな」


――――そうだ。イセリーが王位を継がないとアスライラが次の女王になるんだったわ。


夕方になり、私は門へ向かう。


「ハキサレーラ嬢」

「シェアトナ宰相?」

「少しお話でもしない?」

「……はい」


「王位争い、政敵に勝ちたくはない?」

「……え?」

「見ての通り、私ならその力がある」

「そうですね……」


◆宰相の提案をどうしようかしら?


→【受けない】

【受ける】


どう考えても受けたら不正を働いたことがバレてしまうパターンだわ。


「ありがたいお話ですが、そのような事をしては王女のプライドが傷つくと思われます」

「貴女ならそう答えると思っていたわ」

「は、はあ……」


「ついでに聞いてもいいかしら、私のことはお嫌い?」


→【嫌いではない】

【そんなに好きじゃない】


悪い人ではないし、嫌いではないわね。なんて本人に、しかも宰相には言えまい。


「もちろん」

とだけ言っておく。


「では最後にもうひとついい?イスルフィル王子、イセリー王女、彼等をどう思う?」


【愛してる】

【大嫌い】

【好きよ】


宰相は微笑んで去っていった。なによ、まるで私の心を読んだみたいな―――

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