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異世界の契約がガバガバすぎるので、現代知識で国家を回します  作者: 鱈場蟹


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第7話:嘘で回していた世界

王城の奥。


誰もいないはずの回廊を、男は一人で歩いていた。


足音は静かだ。


だが、その存在は軽くない。


扉の前で止まる。


重い木の扉。


刻まれた紋章。


ゆっくりと開ける。


中は暗い。


光は、窓からわずかに差し込むだけ。


「……来たか」


低い声。


先にいたのは、あの貴族だった。


第6話で、カズマに言葉を投げた男。


「遅かったな」


「調整が必要でしたので」


淡々と返す。


男は机の上の紙を指でなぞる。


そこには、びっしりと記録が書かれていた。


契約。


税。


そして――人の名前。


「どうだ」


貴族が聞く。


「面白いでしょう」


男は笑った。


静かに。


「……ここまでやるとは思いませんでした」


その男の名は、リオネル。


表向きは、ただの記録係。


だが実際は違う。


この国の“裏側”を支えていた存在だ。


「記録の鎖、分散、石板……」


リオネルは紙をめくる。


「理想的だ」


「完璧に近い」


一拍。


「だからこそ――危険だ」


貴族が椅子にもたれかかる。


「やはりか」


「はい」


リオネルは頷いた。


「“嘘が許されない世界”になります」


静寂。


その言葉は、重かった。


「それの何が問題だ」


貴族が問う。


試すような声。


リオネルは少しだけ考えてから答える。


「では逆に聞きます」


視線を上げる。


「今のこの国、なぜ回っていると思いますか?」


沈黙。


貴族は答えない。


だが、分かっている顔だ。


リオネルは続ける。


「誓いがあるから?」


首を振る。


「違う」


「王が正しいから?」


また首を振る。


「それも違う」


一歩、前に出る。


「“誤魔化せるから”です」


空気が止まる。


「税が五割になっている村がある」


「本来は四割だ」


「だが、その一割が――」


紙を指で叩く。


「不作の村を支えている」


貴族の目が細くなる。


「……続けろ」


リオネルは頷いた。


「徴税官は、確かに不正をしています」


「ですが同時に――」


一拍。


「調整もしている」


沈黙。


「取れるところから多く取り」


「取れないところは見逃す」


「その結果」


ゆっくりと言う。


「全体としては、崩れていない」


「では契約は?」


貴族が問う。


「嘘ばかりだろう」


「ええ」


リオネルはあっさり肯定した。


「ですが」


紙をめくる。


「嘘があるから成立している契約もある」


「払えないと分かっていても、貸す」


「なぜか」


「関係を維持するためです」


沈黙。


「完全な契約なら」


「その場で破綻する」


「だが曖昧だから続く」



リオネルは静かに笑った。


「この国は」


「“正しくないことで回っている”んです」


重い沈黙が落ちる。


「……ならば」


貴族が低く言う。


「カズマのやり方は間違いか?」


リオネルは少しだけ考えた。


そして、首を振る。


「いいえ」


「正しいです」


即答だった。


だが――


「正しすぎる」


空気が張る。


「余白がない」


「逃げ場がない」


一拍。


「だから壊れる」


貴族が目を細める。


「証拠はあるのか」


リオネルは、別の紙を差し出した。


そこには、数字が並んでいる。


「これは、最近の取引数です」


「カズマの仕組み導入後――」


指でなぞる。


「減っています」


沈黙。


「なぜだ」


「怖いからです」


即答。


「失敗したら終わる」


「信用が下がる」


「記録に残る」


一拍。


「だから、誰も動かなくなる」



「……それでは」


貴族が言う。


「停滞するな」


「はい」


リオネルは頷く。


「ゆっくりと死にます」


静寂。


「ではどうする」


貴族が問う。


「壊すか?」


リオネルは首を振った。


「いいえ」


「壊しません」


一歩前に出る。


「“残します”」


「ただし――」


少しだけ笑う。


「調整します」


「具体的には?」


「簡単です」


リオネルは指を立てる。


「例外を作る」


沈黙。


「全てを記録しない」


「全てを評価しない」


「“見逃し”を残す」


「……それでは」


貴族が言う。


「意味がないのでは?」


「あります」


リオネルは即答した。


「“選べる”からです」


一拍。


「厳密にやるか」


「緩くやるか」


「状況に応じて変える」


「つまり」


貴族がまとめる。


「二つの世界を作ると?」


「はい」


リオネルは頷く。


「表はカズマの世界」


「裏は、これまでの世界」


沈黙。


「そして――」


視線を鋭くする。


「繋ぐのは、私です」


その言葉に、空気が変わった。


「……なるほどな」


貴族が小さく笑う。


「だからお前が必要か」


「ええ」


リオネルも笑う。


「彼は“正しさ”を作る」


「私は“現実”を守る」


しばらくの沈黙の後。


貴族が立ち上がる。


「では任せる」


短く言う。


「ただし」


視線が鋭くなる。


「失敗は許さん」


リオネルは軽く頭を下げた。


「もちろんです」


部屋を出る。


回廊を歩く。


その足取りは、変わらず静かだ。


だが――


その目は、少しだけ楽しそうだった。


「……面白いですね」


小さく呟く。


「理想と現実」


「どちらが勝つか」


一拍。


「いえ――」


少しだけ笑う。


「どちらも必要か」


その頃。


記録庫。


風が吹く。


紙が揺れる。


だが、その裏で。


誰かが、別の仕組みを動かしている。


カズマはまだ、それを知らない。


“正しさだけでは、世界は回らない”


それを知る者が、

静かに、盤面に入ってきた。

次回もお楽しみに!もし面白かったら、評価やブクマしていただけると励みになります!

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