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僕と彼女に運命が訪れた。

そして…フィリップが王国へ来てから半年。

ナインとニェットにランクCの内示が下り、

モリガンの髪が、肩まで伸び、正面から見たら、以前と変わらない容姿になった、ある日…


フィリップをはじめとする『パイライト』の5人は、ツァウベラッドに乗って王国の森を走っていた。


「前方に人型モンスター8。」

フィリップの『ツァウベラッド・ブラウⅡ』の後ろに乗ったナインが告げる。

「オーク5、ゴブリン3、うちチーフ、メイジ、ハンター1ずつ。」

「よし…みんな、いつも通りいくぞ!!」

フィリップの号令に皆から返事をする。

フィリップの『ブラウⅡ』がナインを降ろすために一旦停車し、モリガンとニェットの『ロートⅡ』と、オヤジの『ドヴェルグ』が先行する。

後からナインを降ろした『ブラウⅡ』が追いつき、フィリップがオヤジに、ニェットがモリガンに【バリア】の呪文をかける。

敵がフィリップの魔法の効果範囲に入るまで、10、9、8、…相手の移動速度まで計算に入れて、『ブラウⅡ』をツァウバーフォームに変形させる。

…5、4…詠唱開始。…1…0!!


【エリアパラライズ】!!


「BU!?」「GUE!?」

8体のオークやゴブリン達の動きが封じられ、そして…


ヒュン!トスっ!!「BU!!」

はるか遠くから一本の矢が飛来し、オークハンターの左腕を貫く。

これで奴らの最長リーチの攻撃手段は封じられた。

矢が飛んで来た先の、木の上には、弓をつがえたナインが潜んでいた。

「お前らは………狩られる側だぜぇ…!!」


オークの一群に向かって駆けて行く『ロートⅡ』。

モリガンは右手をグリップから離し、アクセル操作は右腹のペダルに切り替え、『アイテムストレージ』からハルバードを取り出す。そして…

後ろに乗っていたニェットが、モリガンの腹に回していた両腕と、ツァウベラッドに跨る両脚の力を緩め、疾走する『ロートⅡ』から離れ、フワリと後方に舞う。

ニェットが離脱した『ロートⅡ』の横に平行に、モリガンはハルバードを構え、


「えーーーーーーい!!」

勢いを緩めずにオークを刺し貫き、走り去る。


一方、『ロートⅡ』から飛び降りたニェットは、仰向けに、後ろに向かって落下していたが…後方へ向けていた両掌に魔力を込め、

【ボム】!!

詠唱短縮の近距離魔法の爆風で、落下の勢いを殺し、同時に仰向けの姿勢を前に向き直り、両足を曲げて着地、そのまま低い姿勢でオークの一群に駆け寄る。

『ロートⅡ』の突進に引っ掻き回されたゴブリン達に、腰の剣を抜いて、【ファイア】!!【アイス】!!ギルドマスター直伝の詠唱短縮近距離呪文の連打!!

その間もフィリップの弱体魔法と強化魔法、ナインの矢が、文字通り矢の様に次々と飛んでくる。


「どぉぉぉぉぉぉおおおっせい!!」

『ドヴェルグ』を降りたオヤジが、バトルアックスをオークメイジへ振り降ろし、


「やーーーーーーっ!!」

同じく『ロートⅡ』を降りたモリガンがハルバードでオークに足払いをかける。


勝敗は…既に決していた。


     ※     ※     ※


1時間後、王国冒険者ギルド、『酒場』…


戦闘を終え、戻って来たフィリップ達は、真ん中のテーブルに、一人、座る人物と、それを取り囲むように見つめるギルドの冒険者たちを見た。

「ありゃ…まだ始まってなかったの!?」

そこにいたアルバートにフィリップが声をかけると、アルバートは、

「ギルマスに来客だ。今、対応中。」

と、言った。


「でも…本当によろしいんでしょうか…」

王国のギルドで受付嬢をしている、ハーフエルフの少女が、フィリップにおずおずと訊ねて来た。

「なに、言ってるんだい!ここはこれから、もっと人がいっぱいになるんだろう!?だったらあたし一人じゃあ全然足りないよ。」

『酒場』を切り盛りしている、ドワーフの女性…通称、『おかみさん』が言った。

「すいません…もうちょっとだけ、待ってて下さいね…」

フィリップがそう言って、テーブルの向かいの席に座ると、その人物は、コクリと頷いた。そして…

「おい、お前…」

側で見ていたナインの袖を引っ張って、無理やり隣に座らせる。

「お前も一緒に来い。」

「何で俺が…」

師匠の無茶振りに抗議するナイン。だったが…

こうでもしなければ間が持たないのは、彼も理解していた。

「これ…いち冒険者がする事じゃ無ぇだろう…」

アルバートが横から口を挟んだが、フィリップは小声で、

「しょうがないだろ、今までだってそうして来たんだから…」

「おーおー、ランクBは違うねぇ…」

「茶化すな!!」

それから、向かいに座っている人物の遠慮がちな視線に気づき、

「し…失礼しました。」

と、姿勢を正す。


『酒場』の新しい従業員の雇用。ハーフエルフの受付嬢の母親を、雇おうと言う事になったのだ。

今日は形式的な最終面接、フィリップ達が帰って来る頃には終わっている…はずだったが、最終決定権者であるギルドマスターがいないのだ…


「あ…あのー…家事は一通り出来る…という事ですよね…」

フィリップがそう話を切りだずと、

「は…はい…」

自信なさそうに、目の前に座っている女性は答えた。

ハーフエルフの受付嬢の母親、と言う事は、エルフなのだろう。だが…


彼女は、頭にすっぽりとフードをかぶっていた。顔が見えないくらいに、目深に…

やはり彼女も、ハーフエルフを産んだ事で、社会から迫害を受けているのだろうか…娘とともに母親も働き口が出来れば、彼女達の生活も楽になるだろう…


「フードを…取って頂けますか…!?」

フィリップが、そう促した。

その方が、これからギルドマスターへの印象も良くなるだろうから。


「………っ!!」

その女性はビクッと身体を振るわせたが、しばし後に、意を決して、フードを後ろに除けた。


「………!!」

遠巻きに見つめていたモリガンが、その時、自分の胸に当てた手をギュっ…と握りしめ、

「お姉さま……」

隣りにいたニェットだけが、彼女の異変に気づいた。


フードの下から出て来た顔は………人間で言うと40代くらいに見える、エルフの女性。

かつては美しかったその容貌も、今ではあちこちに、皺が刻まれている。


なおも自信なさげに目を背けるエルフの女性。

いつの間にか、『毒矢使い』を始めとする、冒険者のハーフエルフ達も集まって来た。


「…俺達のおふくろが生きてたら、今頃こんな感じだったのかな………」

ナインはボソっと言った。

エルフの女性がビクッと震えて、ナインを見つめる。

そしてフィリップは言った。


「………やんちゃな連中揃いだけど…こいつら全員のおふくろさんになって頂けますか!?」


「…話は聞いてたよ…」

いつの間にか『酒場』に現れたギルドマスターが言った。

「採用…って事でいいんだね!?あなたが望むなら、宿泊スペースの世話…人前に出ない仕事にしてもらってもいいですよ…」


「ありがとうございます……」


ギルドの酒場内に、わっと歓声が上がった。

「よかったね…お母さん…」

受付嬢が、母親の肩にそっと手を置いた


「それでフィリップ君、」

マスター言った。

「今の来客なんだけど…君を名指しでクエストをオファーしに来たんだよ…」


「僕に…!?」

『パイライト』じゃなく、フィリップ個人に…!?

「一体内容は何ですか!?」


「依頼者は、あの伯爵だ。」

「え………!?」

「内容は、『我が娘モリガンを、我が屋敷に連れて来い。』という物だよ。」


「フィリップ、モリガン…お前ら、ツァウベラッドに乗って、共和国へ逃げろ!俺達が、時間稼ぎをしてやる!」

アルバートが言ったが、フィリップは、


「いや…逃げる訳にはいかない。モリガンを連れて、伯爵邸に行って来る。」

ツァウベラッド・ロートⅡ《ツヴァイ》


モリガン搭乗の『ツァウベラッド・ロート』を、ドワーフの技術力で改良したもの。


モリガンは乗機を『ろーとちゃん』と呼んで可愛がっていたが、度重なるランスチャージの衝撃が蓄積されており、王国に着いた途端に動かなくなった。


ロートⅡはランスチャージに耐えうる様に各部構造が強化され、また『アクセルロック』に代わり、機体側面に、内側に押し込む形のサブアクセルペダルが搭載された。


ランスチャージに特化した機能が追加されたが、後ろにニェットを乗せて走る様になったため、王国ではランスチャージの機会は減った。

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